第484回:世界のモーターショーもたじたじ!?
見どころいっぱいの“家電ショー”「CES 2017」
2017.01.13
マッキナ あらモーダ!
まるで“ラスベガスモーターショー”
世界最大級のエレクトロニクス&家電ショー「CES 2017」が、2017年1月5日から8日まで米国ラスベガスで開催された。50周年にあたる今年は、昨年の「CES 2016」比で1割も多い57の国と地域から出展者が集った。
前回は「Apple Watch」に対抗するスマートウオッチが話題の中心だったが、今回は人工知能(AI)とビッグデータの活用、そしてIoT家電がキーワードとなった。身近なガジェットとしては、Bluetooth対応のワイヤレスイヤホン/ヘッドホンが主なトレンドであった。
それに加えて今回顕著だったのが、ずばり、自動車メーカーの出展である。9つもの大手自動車メーカーが参加。特に北ホールは、彼らの舞台となった。そのため欧米メディアの中には、“ラスベガスモーターショー”という言葉を用いて報道するところまで現れた。
具体的には、昨年も見られたフォルクスワーゲン、アウディ、メルセデス・ベンツ、BMW、フォード、FCA、トヨタに加え、今回は日産とホンダが初出展を果たした。
メルセデス・ベンツは、2016年9月にハノーヴァー商用車ショーで公開したEV「ヴィジョン バン」を米国初公開した。コネクティビティーを活用した、配送ルートの効率化を提案。車両をドローンの基地にするのは、後述するリンスピードが昨年発表したコンセプトカーと同様のアイデアといえる。
さまざまなコラボで未来を模索
対して、BMWの目玉となるのは、ダッシュボードの新提案だ。「HoloActive Touch(ホロアクティブ タッチ)」は、すでに「7シリーズ」で実用化されている「ジェスチャー・コントロール」技術の延長で、スイッチ類に触れることなく、指先のジェスチャーだけでさまざまな機能の制御が可能になる。参考までにいうと、BMWはIBMと提携。運転補助の分野で人工知能「ワトソン」の使用を視野に入れている。
一方アウディは、NVIDIAとともに自動運転のデモを行った。運転席に誰もいない車両に乗るこの企画はかなり好評で、同乗試乗は会期早々、予約で埋まってしまった。
フォルクスワーゲンは、アマゾンの人工知能音声アシスタント「Alexa」とのコラボレーションを展開。家庭用機器と車両のシームレスな連携をアピールした。ただし、昨年の展示で見られた、家電とのネットワークを示したLGの技術と重複する部分がある。LGとは今後も関係を続けるのか関係者から明確な返答は得られなかった。
だが、これからの自動車業界におけるコラボレーションは、数年前のトヨタとテスラの提携解消でわかるように、かつてのベータ/VHS連合のような“最後まで命運を共にするもの”ではなく、短期的成果もしくは開発チームのフィーリングによって、より柔軟に変化していくのはたしかだろう。実際今回も、BMWやホンダをはじめ、各社そろってオープンソースでの研究を積極的に提唱していた。
ヒトとクルマの新たな関係
欧州メーカーが昨年と比べて個別技術のアピールに重きをおいたのに対して、日本のトヨタとホンダは、モーターショーばりのコンセプトモデルで注目を集めていた。
開幕直前にトランプ次期大統領の発言で揺れたトヨタは、コンセプトカー「Concept-愛i(コンセプト・アイ)」を世界初公開した。同車に関しては、ニュース記事に詳しいので、そちらを参照されたい。
ホンダはコンセプトカー「NeuV(ニューヴィー)」を展示した。ソフトバンクのグループ企業が開発したAI技術「感情エンジン」を搭載。ドライバーや同乗者の感情を読み取ると同時に、機械自らが感情を疑似的に生成する機能で、新たな自動車と人との関係を探る。
会場では、ムード険悪になったカップルをNeuVが察知し、花のプレゼントを提案するといったケースがディスプレイで紹介されていた。カップルの話に限らず、「例えばドライバーが何らかの理由で怒って運転が荒くなった場合、現在のエコ運転システムの発展形として、クルマのほうが人の感情を和らげるような働きかけをするといった反応も、今後の研究課題のひとつです」とスタッフは教えてくれた。
筆者などは、毎日自動車のご機嫌をうかがうようになってしまうと思うが、そうした気の弱い人間に、NeuVはどう反応するのだろうか。
主要自動車メーカーがCESでフィーバー状態になる前から、ここ数年地道に出展してきたのは、ジュネーブモーターショーの常連であるスイスのリンスピードだ。同社は今回、ハードロックホテル・ラスベガスに自動運転コンセプトEV「オアシス」を展示した。こちらは一歩進んだカーシェアの提案だ。朝夕は通勤に使用。同じクルマを日中は運送会社などがデリバリーに用いることを想定している。そのため後方に荷室スペースが確保されている。展示車には、それをイメージさせるべく、ピザの箱がいくつも載せられていた。
同様の提案は、前述のホンダNeuVにもいくらか見受けられるが、ピザ、花……日中のさまざまな残り香漂うクルマに乗っては、今日は何を運んだのか想像しながら帰宅するのも、なかなか楽しいかもしれない。
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ニッポンのレトロに存在感
そうした自動車メーカーが技術バトルを繰り返すすぐ脇では、携帯カバーをはじめ、クルマとまったく関係ないグッズのメーカーも軒を連ねていた。まさに、このあたりがCESの面白さである。
その中でひとつ、奇妙なブースがあった。マイアーケードという名のその会社、ラインナップしているものといえば、1980年代の任天堂製ゲーム機や、同時期のゲームセンター用機器をほうふつとさせるマシンである。ディスプレイの中に映っているのも、『スペースインベーダー』や横スクロールの『スーパーマリオブラザーズ』を想起させるものだ。
これが意外に人気で、一般来場者お断りのCESにもかかわらず、次から次へと人が集まっては、ゲームに興じていた。スタッフによると、ユーザーは当時を懐かしむ年齢層と同様、それを「クール」とみる若者たちも多く開拓できているという。
アナログレコードプレーヤー、カセットテープ……と、ここのところ家電における回帰志向のニュースが相次ぐ。それらに少々“ステマくささ”を感じていたボクだが、マイアーケードの盛況ぶりを見ると、「実は、みんなIoTや人工知能、自動運転なんてものよりも、憩いを求めているんじゃないか」と思えてきてしまう。
それに、日本発の工業製品が海外においてレトロのテーマで扱われたのは、初の快挙ではあるまいか。日本車も、いつかどこかの国でレトロのお手本と取り上げられる日がきたら、痛快だと思う。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/編集=関 顕也)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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