MINIジョンクーパーワークス フルライン試乗会【試乗記】
吊るしでイケる! 2011.10.10 試乗記 MINIジョンクーパーワークス/ジョンクーパーワークス クラブマン/ジョンクーパーワークス コンバーチブル……481万204円/483万5000円/484万1000円
もっともホットなMINI、「ジョンクーパーワークス」シリーズにサーキットでイッキ乗り。3モデルそれぞれの走りをリポートする。
血統書付きの最強モデル
“BMW世代”のMINIのモデルラインナップは、標準型ハッチバックの「MINI」、ロングボディの「MINIクラブマン」、オープンモデル「MINIコンバーチブル」、SUVテイストの4ドアモデル「クロスオーバー」、そしてフランクフルトショーで発表され、このたび日本でも受注が始まった2シーター「クーペ」の5種類。
そのそれぞれが、「ONE」「クーパー」「クーパーS」「ジョンクーパーワークス(JCW)」などパフォーマンス別のグレード名でモデル体系を構成している(現在クロスオーバーにはJCWモデルがラインナップされていないが、それも後に追加される予定とのこと)。今回、そのなかで最もスポーティーなJCWだけを集めた試乗会が富士スピードウェイで開催された。
そもそも、ジョンクーパーワークスとは何なのか?
簡単に言ってしまえば、シリーズ最強のハイパワーバージョンである。そのルーツは遠く1960年代、BMWのいちブランドとなる前のミニ(正確にはモーリス・ミニ マイナー)にまで遡る。これをレース用にチューニングしてモンテカルロラリーに参戦。1965年、1966年(ゴール後に補助ライトのレギュレーション違反で失格。幻の66年と呼ばれた)、1967年と実質三連覇を果たしたマシンこそが、「ミニ クーパーS」だったわけである。
このマシンを作り上げたのは、1950年代にF1シーンを席巻し、1959年と1960年2度のワールドチャンピオンに輝いたエンジニア、ジョン・クーパーその人(ドライバーはジャック・ブラバム)だ。
つまり、MINIの高性能モデルが「クーパー」「クーパーS」と呼ばれるのは、ジョン・クーパーがミニをチューンナップしたことに端を発しており、その最強モデルに至っては、チューナーの名前そのものが冠されることになったのである。
三車三様のよさがある
いま日本で乗れるJCWのボディーバリエーションは、冒頭でも述べたとおり、ハッチバックとロングボディーのクラブマン、そしてコンバーチブルの3つ。サーキットにおける走りの性能という点では当然ハッチバックが際立つものと思われたが、それぞれの個性が発揮された興味深い内容となった。
ハッチバックを基本と考えた場合、簡単に言うとクラブマンはリアの慣性重量が大きく、コンバーチブルはボディーのねじれ剛性が低い。しかしそれが、そのまま走りの評価につながるかというと、違うのである。
ボディーの上半分がない、いわゆるバスタブのような形で走るコンバーチブルは、確かに剛性が低い。ブレーキングでボディーに最大荷重がかかると、リアタイヤの接地性が低くなるのだが、それを足まわりやブッシュのチューニングで上手にバランスさせているから、予想以上にしっかりと、そして軽快にコーナリングしてくれる。JCWのハイパワーエンジンを搭載していていも、シャシーが負ける気配がない。クローズドボディーより限界は低くとも、剛性バランスが取れていれば、ドライバーはそれを「気持ちいい」と感じることができるのだ。
かたやクラブマンは、その慣性重量を使って、ニュートラルステア感覚でドライブすることができる。なおかつハッチバック比で80mm長いホイールベースが、リアのスライドをマイルドに伝えてくれる。1200kgのハッチバックに比べて60kg重たい分だけ、身のこなしはスローでブレーキも早く音を上げたが、ボディーバランスは良好なのだ。もちろんDSC(スタビリティコントロール機能)をオンにしていれば、終始アンダーステアで安定して走ることもできる。
むしろ、一番しっかり運転すべきなのは、ハッチバックかもしれない。ボディー剛性が高い分だけ限界も高くなるため、ドライバーへの要求も高くなる。ちなみにJCWシリーズには、内輪の空転を抑えるEDLC(電子制御式ディファレンシャル)が標準装備されているが、コンバーチブルやクラブマンでは踏み込めない一歩先の領域へ飛び込んだとき、もう少しだけフロントタイヤのグリップか、L.S.D.の強い効きが欲しくなる。前述のふたつに比べてリアタイヤがきっちりと接地している分だけ、フロントタイヤへの要求が高くなってしまうのだ。
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速さだけじゃない
最終コーナーを立ち上がり重視でクリアし、1コーナーに向けてのブレーキング直前で目視したメーターは214km/h(車両はハッチバック)。国内最長の1.5kmにもおよぶストレートでこの数値だから、メーカーが主張する238km/hの最高速は一体どこのサーキットを使ったのか疑問だが、それにしても211psの1.6リッターターボとしては“上出来以上”の速さを持っている。1200kgの軽さも効いてはいるが、それは3リッターNAエンジン並の加速力だ。日本国内では6MTのギア比をもう少し低く設定してもよいかと思うが、燃費も考えれば、これが妥当なレシオなのだろう。
しかもその魅力は、ピークスピードの追求だけにとどまらない。小排気量エンジンのパワーをターボで稼ごうとすると、どうしてもブースト圧が高めになり、高回転で一気にパワーが炸裂(さくれつ)しがち。要するにピーキーで運転しにくい特性になりやすいのだが、JCWはアナウンス通り低回転(1850rpm)からピークトルクを発生し、これを高回転(6000rpm)までフラットに持続してくれるから、とても運転しやすいのだ。
たとえばコーナー立ち上がり(クリッピングポイント)からアクセルを踏み始めても、すぐに有効なトルクが立ち上がるから、脱出加速への移行が速い。かつそれをアクセルでコントロールできるため、必要以上に前輪を空転させないで走ることができる。
また100Rのような高速コーナーでは、アクセルコントロールで極端なトルク変動が起こらないから、車両姿勢を調整しやすい。街中で優れたドライバビリティーを持つエンジンは、サーキットでも十分に通用するのである。
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“わかってる”味付け
もうひとつ感心したのはブレーキだ。フロントには対向4ピストンの専用キャリパーがおさめられているが、このタッチが非常にソリッドで頼もしい。ノーマルのサスペンションとタイヤ(ダンロップもしくはコンチネンタル)の組み合わせでは、非常にバランスが取れている。全開でアタックすると4周目以降はフェードの兆候も見られたが、逆に言えばノーマルでそこまで走れることを高く評価したい。
それでも“スポーティーな走り”に的を絞った場合、どれが一番なのかと問われれば、やはりハッチバックに軍配が上がる。いまどき“吊(つ)るし”で、これだけ思い切り荷重をかけてサーキットを走り回れるクルマはなかなか見あたらない。当日はDSCのスイッチをオフにして走ったが、じつはヨーモーメント(スピン方向の挙動)が出ると、このDSCは最後の最後で微妙に介入してくる。本来クルマはそのヨーモーメントを使って旋回するものであり、それはBMWも重々承知しているはず。だからこそドライバーに悟らせない程度に制御を働かせているのだろう。それは、かなり入念に考えられたセッティングだった。
本音を言えば現状でも十分にウェルバランスなのだから、これを完全解除できる方がありがたいが、不特定多数が乗る人気車種ならばそれも致し方ない。「ポルシェ911」でさえ、スタビリティコントロールの完全解除は、「GT3」などの特殊モデルくらいしかできないようになっている。
ならばニュートラルな旋回性能はやや諦めて、フロントのグリップを大切にしながら走るのが、このJCWをうまく走らせるコツになる。タイヤのグリップをやや高めるか、L.S.D.の制御をさらに緻密にしたいといったのは、それが理由である。
突っ込み過ぎず、クルマと対話しながら大人っぽく走る。そうすると、ドライバーとJCWとの間に、より一層の一体感が生まれてくる。
(文=山田弘樹/写真=荒川正幸)
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山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。