第11回:デトロイトに告ぐ
2017.02.27 バイパーほったの ヘビの毒にやられまして![]() |
トランプ大統領の「日本人はもっとアメリカのクルマを買うべし!」という発言以降、にわかにこの国で盛り上がっているアメ車論争。日本がヘンなのか? いやいやアメ車が悪いのか? 17年落ちの「ダッジ・バイパー」オーナーが、熱い思いをぶちまける。
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きっかけは大統領
この原稿を書き始めたのは2017年2月20日のこと。この時、わが家の駐車場にバイパーの姿はなかった。皆さまご存じの通り、東京・代官山のポディウムカフェに展示されていたのだ。ホントは19日に返ってくる予定だったのだが、どうしたわけか24日まで延長となったのである。
電話口でスタッフさんは恐縮していたが、いやいや。あのヘッポコで少しでも皆さまの目を楽しませられるのなら、記者としても喜ばしいかぎりである。唯一の問題はこの連載で、当たり前だが、手元にクルマがないので写真が撮れていない。
かような事情により、今回はバイパーの出番はナシ。そこでバイパーなしでもできるお話をと思い、ここのところ記者がつれづれに考えていることを開陳することにした。タイミング的にも今じゃないと旬を逃すネタだし、ちょうどいい。いつもと毛色の違う回になってしまうけど、ご容赦ください。
そんなわけで今回は、このごろ都に流行(はや)りたる、夜討ちでも強盗でもなくて「アメ車争議」のお話である。某国大統領の「日本人は全然アメリカのクルマを買ってくれないデース。オカシーネ!」という発言に端を発する喧喧囂囂(けんけんごうごう)についてだ。「その通り!」「いや、おかしくなんかねえよ!」という双方の主張により、さまざまなメディアが大いに盛り上がった。
例えば、英国BBCは日本の狭い路地や駐車場に「キャデラック・エスカレード」で突撃するというお笑い番組みたいな動画を披露し、「アメ車は日本の市場にマッチしていない」と主張。ニューヨークタイムズも日本でのインタビュー取材などを通して、似たような指摘をしていた。
一方で、トランプさんの意見に同調する声もあり、排気量を基準にした自動車税や車重を基準にした自動車重量税が、“デカくて重い”アメ車(これも「いつの時代の話よ?」と思うんだけど)を売れなくしているという意見もちらほら。かと思えば、先日は某動画サイトで動画を閲覧していたら(ムフフなのじゃないですよ)「最近のアメ車の維持費は日本車とそんなに変わらないのに、売れないのはなぜ?」という趣旨のコラムがスクロールで出てきて「えっ」と思った。いやいや、アメ車がこんなに注目されたのって久々じゃないの?
そんなアメ車、ホントに欲しいか?
しかし、いちオーナーとして「こんな風にアメ車がみんなの話題の中心になるなんて、うれしいなあ」なんてこそばゆい感情に赤面したり、身をもだえさせたり……といったことはない。記者はいたって素面(しらふ)で、それは恐らく、日本全国のアメ車オーナーも同じだと思う。
なぜシラけているかと言うと、ネットやTVや新聞をにぎわすこれらの主張は、いちいちごもっともだけれど核心に触れていないような、そんな気がするからだ。確かに取り上げられる個々の事実は間違っていない。でも、例えば維持費が安くて取り回しのしやすい軽自動車みたいなアメ車が出てきたとして、みんなソレ買うか? ドイツ車が売れているのって、そういう理由だっけ? もっと言っちゃうと、今のアメ車ってそんなに日本で乗りづらい? BBCのリポーターが本気であの動画を作っていたとしたら、それはそれで日本市場の捉え方がゆがんでいると思う。
非関税障壁うんぬんについては、基本的に記者は「そんなに影響ないんじゃないの?」派である。もちろん「日本が開かれた市場だから」なんてヌルい寝言を言うつもりはないzzZ。それはひとえに、単に、アメ車がフツー化したからだ。
例えばキャデラックの主力車種「CTS」は、2003年のデビュー当初から3リッタークラスのV6モデルがメインだった。燃費も税金も、同時期の「クラウン」や「フーガ」あたりとどっこいだったはずで、それは今も変わらない。また、ここ最近はフォードが「フォーカス」「フィエスタ」を復活させ、シボレーが「ソニック」を導入するなど、各社“日本に適したコンパクトカー”の取り扱いを推し進めていた。いずれも、日欧のそれと比べて過度に乗りづらかった印象はない。
確かに、ラインナップの右ハンドル化が遅れていたり(個人的には、これも「そんな大問題かね?」と思うんだけど)、インフォテインメント関係の操作に違和感があったりと、大きな課題が残されているのは事実だ。しかし製品そのものにおける問題はその程度。アメ車だけが日本市場にマッチしていないというのは、正直、誇張が過ぎるんじゃありません?
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“売れてない”の中身をほじくり返す
この調子でガンガン突き詰めていこう。
そもそもアメ車ってそんなに売れていないか? 日本輸入車組合(JAIA)の統計を見ると、2016年のフランス車の登録台数は全ブランド合計で1万5850台、同じくイタリア車は1万2760台。われらがアメ車は1万3546台なので、ドイツ勢の突き抜けっぷりを別にすると、騒ぎ立てるほど売れていないわけではない。
ここ10年の推移を見ても(下図参照)、リーマンショックやフォードの日本撤退による乱高下はあるものの、世間のイメージほど販売が落ち込んでるわけではない。
■日本におけるアメ車の年間登録台数の変遷
※テスラは地域ごとの販売台数を発表していないので、割愛でございます。
しかし、この点については実は記者はすごく不安に思っている。詳しくは次のページで紹介するが、ブランドごとに見るとシボレー、キャデラック、クライスラーのいずれもが右肩下がりだからだ。これらに対して、堅調を維持していたはずのフォードが日本撤退を決めるというのが、なんとも皮肉で泣けてくる。
みんな仲良く青色吐息ななか、じゃあどこが日本でのアメ車の販売台数を下支えしているのかといえば、それが実はジープなのだ。
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人気を博すアメ車の特徴
ジープは、リーマンショックの翌年には登録台数1010台とどん底を見たが、その後は「マジで?」という勢いで急回復。2016年の登録台数は9392台なので、単純計算だと7年で約9倍である。
■日本における主要なアメ車ブランドの年間登録台数の変遷
※グラフ中のフォードにはリンカーンの台数を含む。だって個別の統計がないんですもの。
さらに興味深いのが、鈴木真人氏も試乗記で触れている通り、その販売を支えているのが古典的ジープの「ラングラー」だということ。2016年の販売台数は3500台を超えており、新車効果の追い風があったはずの小型SUV「レネゲード」(約3100台)をも上回って見せたという。ホンマかいな。
そんなことを書いていたら、ふと「なんか似たような話を聞いたことがあるな」と思い出した。JAIA合同試乗会(2013年、2015年)でフォードの広報さんに話を聞いたときのこと。「好調を支えているのはどのクルマ?」と尋ねたら「エクスプローラーです」と即答されたのだ。エクスプローラーといえば、アメリカのSUV市場でベストセラーに君臨し続ける、まさにブルーオーバルを象徴するクルマだった。さらに言うなら全長5m、全幅2mのデカブツであり、“日本市場にマッチしたクルマ”とは到底言えないシロモノだったはずだ。
買ってほしけりゃ金を出せ
トランプさんやデトロイト・スリーの首脳陣が日本市場での販売について不満を言うとき、彼らが意識しているのは横に並んでいるフランスやイタリア、イギリスではなく、最低でもドイツ。欲を言えば日本メーカーにさえ食い込みたいといったところだろう。
しかし、ハッキリ言って現時点での(ジープを除く)アメ車の現状は、「そんなこと言ってる場合じゃねえだろ!」と嘆きたくなるありさまである。特に製品ラインナップについてはジリ貧と言わざるを得ない。「コルベット」の“役付きモデル”やキャデラックの「V」シリーズ、そして「カマロ」などを積極的に入れてくれるGMジャパンの姿勢には、個人としては感謝感涙、本当に頭が下がるが、いかにファンを熱狂させるとはいえ、それらが稼ぐ台数はタカが知れている。ダッジの取り扱いをやめてしまったクライスラーも同じだ。
10年前はここまでの焼け野原ではなかった。コンパクトカーがあり、ステーションワゴンがあり、ミニバンもクロスオーバーもあった。リーマンショックが、こつこつ積み重ねてきたインポーターの取り組みを土台から破壊し、この国に振り分けられるリソースを根こそぎ持っていってしまった。
日本市場を批判するデトロイト・スリーにぜひ言いたいのは、そうした現状を放置したまま、労なく台数を期待するという態度はどうなんよ? という言葉に尽きる。自分たちの製品を買ってほしいと本気で思うなら、投資をしろ。手間を惜しむな。インポーターの声に耳を傾けろ。
一方で、よくちまたで聞く「ドイツ車を見習うべし」という意見については、恐縮だが記者は反対である。「チェロキー」に「アストロ」「H3」「PTクルーザー」そして私も大好きだった「300C」&「チャージャー」の兄弟と、日本でよく売れたアメ車はどれもアメ車らしいアメ車か、アメリカへの憧憬(しょうけい)を喚起させるモデルだった。先述のラングラーやエクスプローラーの例を見ると、その好みは今も変わっていないはずだ。
謙虚と不惑を同時進行で、というのは、随分むちゃな要望ですね。ええ、自分でもそう思いますよ。でも、ドイツ勢が今も伸びている本当の理由は、それができているからでしょう。デトロイト・スリーにはドイツ勢のクルマではなく、姿勢を見習ってほしいのです。
まあ乗ってみてくださいよ
……とまあ、延々とアメ車の現状にまつわる愚痴を垂れ流しておいて申し訳ない。最後の最後にちゃぶ台返しをしてしまうと、日本の輸入車市場の規模は、しょせん三十数万台。恐縮だが、デトロイト・スリーが本腰を上げるなんてことは未来永劫(えいごう)ないと思う。
トランプさんの発言にしたって、外交における駆け引きのカードとして言ってみただけで、趣旨が的外れであろうと、それで集中砲火を浴びようと、どーでもよかったご様子である。過日の日米首脳会談の後にはもう、「日本車はスバラシーネ!」とご満悦。手首にモーター入ってんじゃないの? というくらいの手のひらの返しっぷりに、むしろ感心してしまった。
そんなわけで、ちまたで盛り上がっているアメ車にまつわる侃侃諤諤(かんかんがくがく)は、とうにはしごを外されているのだ。残念だけど、日本における現状はそうやすやす変わることはないでしょう。
それでも、4000文字もかけてこんなむなしい原稿をしたためたのは、記者が私的に「アメ車ってもうちょっと認知されていい」と思っているから。読者諸兄姉におかれてはぜひ、一度近所のディーラーに見に行ってほしい。そして、できれば「天下一品」のラーメンばりにドロッドロの、アメ車濃度の濃いやつに乗ってきていただきたい。何人かに1人くらいは「あれ……これ、アリなんじゃないの?」と刺さる人がいるはずだ。
逆に、もちろんモーレツな拒否反応を示す人もいるでしょう。そういった方は遠慮なく、Facebookなりツィッターなりで「このウソつき野郎!」とwebCGほったをののしってください。ワタクシ基本Mなので、そういうのウエルカムです。
(webCG ほった)

堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。