第1回:スポーツカーにはストーリーが必要だ!
「ジャガーFタイプ」の魅力を考える
2017.02.16
「ジャガーFタイプ」の魅力を知る
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ジャガーと聞いて想像するのは、優雅なラグジュアリーサルーンだろうか。それとも、2シーターのピュアスポーツカーだろうか。現代における“ジャガーネス”の源泉ともいえる「Fタイプ」に試乗し、その魅力を考える当連載。今回はジャガースポーツの金字塔ともいえる1960~70年代の「Eタイプ」に思いをはせながら、Fタイプを走らせた。
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もはやスーパースポーツの領域
“ファイヤーサンド”と名付けられた派手なボディーカラーをまとったFタイプのドアを開けて、いかにもスポーツカーらしくグッと締まったタイトな運転席に着く。センターコンソールにあるエンジンスタートボタンを押すと、5リッターV8スーパーチャージドユニットは、ワンッと高らかに吼(ほ)えて目を覚ました。Fタイプ Rの最高出力は実に550ps。もはやスポーツカーというよりスーパースポーツと呼ぶべきただならぬ“気”を周囲に発している。
今回試乗するFタイプは、正確には「Fタイプ R AWD クーペ」という名の四輪駆動モデルである。長いノーズの下に収まるスーパーチャージャー付き5リッターV8エンジンのピークパワーは上述のとおり550ps(405kW)/6500rpm。トルクにしても69.3kgm(680Nm)/3500rpmと、途方もない力を秘めている。
このビビッドな外観に比べれば、Fタイプのインテリアは至ってオーソドックスである。ドライバーの目の前には中心に円形のパッドを持つ3本スポークのステアリングホイールがあり、その奥には2眼式のアナログメーターが並ぶ。そしてシフトセレクターは、あのジャガーではおなじみのダイヤル型セレクターではなく、より標準的なガングリップタイプである。スポーツカーの王道ともいうべき骨太なコックピットである。
かつて筆者は英国ゲイドンにあるジャガーのテストコースでEタイプに試乗させてもらったことがある。そこには3.8リッター直6エンジンを搭載する「シリーズ1」と、5.3リッターV12の「シリーズ3」が用意されていた。
Fタイプ Rのステアリングを握りながら、なんとなくその時のことを考えていた。なるほど、確かにFタイプには、Eタイプに似ているところがある。例えばエンジンなら、こんな感じだ。
伝統がそこかしこに息づく
Fタイプ Rの5リッターV8は、いかにもスーパーチャージャーが付くエンジンらしく、低回転域から太いトルクを、スロットル操作に即座に反応して生み出す。その部分はEタイプの中でも、特に5.3リッターV12ユニットを搭載するシリーズ3的といえそうだ。
もっとも、それは低速域における線の太さが似ているという話にすぎない。あの粛々と、しかし濃密に回るV12ユニットの魅力をV8と同じと論じてしまったら、それは暴論というものであろう。そして絶対的な動力性能については、両者比べるべくもない。もちろんFタイプの圧勝である。
FタイプのAWDシステムは通常、約90%の駆動力を後輪に振り分けて後輪駆動に近いスタンスを取るが、路面の状況に応じて自在に前輪へ駆動力を振り分け、5リッターV8が秘めたパワーを容赦なく路面にたたきつける。Fタイプ Rのスロットルペダルを深々と踏み込める環境など、公道にはそうあるものではない。
一方、ステアリングを切り込んだ時にノーズがすっと気持ちよく内側に向く感じや、スポーツカーの生命線ともいえるフットワークの軽さそのものは、多分にシリーズ1を思い出させるところがある。
それに加えて、おやっと思わされるのが、Fタイプの電動ステアリングのフィールだ。粘度の高いオイルに漬かった歯車を回すかのような、あの妙にネトっとしたEタイプの(いや、クラシックジャガーに共通するフィールと言うべきだろう)感触がエレキで再現されているのには、あらためて感心させられる。
また、試乗したFタイプ Rにはオプションのジャガー・カーボンセラミック・ブレーキシステムが装着されていたが、これが(パッドもローターも冷え切っているであろう)街中でもとてもよく利き、制動のコントロールも非常にしやすいことが印象に残った。余談だが、レーシングカーとして初めてディスクブレーキを装着したのは1950年代の「ジャガーCタイプ」だった。その“秘密兵器”のおかげで、1953年のルマン24時間レースで大勝利を収めた、なんていうマニアックなエピソードを思い出してしまった。
スポーツカーには、思いをはせるストーリーが必要だ。世にスポーツカーはあまたあれど、ジャガーほど明確なスタイルのあるスポーツカーメーカーはそんなに多くないだろう。スタイルがあるスポーツカーなら、飛ばさなくたって楽しい。Fタイプというスポーツカーは、ジャガーというストーリーを知れば知るほど、雄弁に語りかけてくるクルマなのだ。
(文=webCG 竹下元太郎/写真=峰 昌宏、竹下元太郎)
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竹下 元太郎
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