スバル・インプレッサG4 2.0i-S EyeSight(4WD/CVT)
お手ごろセダンよ永遠なれ 2017.03.21 試乗記 新型「スバル・インプレッサ」のセダンモデル「G4」に試乗。販売の主力となっているハッチバックモデルではなく、あえてマイナーなセダンを選ぶ理由はあるのか? 2リッターエンジン+18インチアルミホイールの上級グレードで検証した。主力はハッチバックだが……
率直にいって、新型インプレッサのセダン(G4)は、先代より明らかにカッコよくなったと思う。
デザインの好き嫌いはともかくとして、伝統的にエンジニアリング優先の社風が強かったスバルとしては、新しいインプレッサはこれまで以上にカッコよさを意識したクルマである。先代より全高を低く、全幅を広くしたプロポーションは、明確に“デザインのため”と開発責任者の阿部一博氏は断言しているし、デザイナーが使える“余白”を意図的に多く残したパッケージでもあるという。
ハッチバックに対するセダンづくりの手法は、この新型インプレッサでもこれまでと変わっていない。車体前半部はハッチバックと共通で、165mm増というハッチバックとの全長差も先代同様。室内レイアウトもハッチバックと基本的に変わりなく、居住空間はルーフ形状による後席ヘッドルームの差しかない(セダンのほうが後席天井が少しだけ低い)。
インプレッサの歴史を振り返ってみると、1992年にデビューした初代はそもそもセダン(とステーションワゴン)だった。2007年に世に出ることになる3代目から、時代の流れに合わせてハッチバック一本の商品企画に転換せんとするも、市場からの根強い要望で、開発途中にセダンを追加した経緯をもつ。それ以後、先代の4代目と今回の5代目は、ハッチバックを主力としつつも、セダンを並行開発している。
今のインプレッサはハッチバックが主力だが、新型のカッコよさ向上の度合いは、ハッチバックよりセダンのほうが大きいと個人的には感じられる。より張り出したショルダーラインや横長テールランプといった新型インプレッサのデザイン的特徴が、セダンとなじんでいるからかもしれない。
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セダンの「G4」は現行かぎり?
そんな個人的な感想を前出の阿部氏にお伝えしたら、氏は“わが意を得たり”という顔をした。個々のエンジニアやデザイナーがどう思っているかはともかく、少なくとも阿部氏自身は“今回のG4のデザインには意識して力を入れた”そうである。
ここまでに現在のインプレッサの主力はハッチバックと何度か書いたが、それは本当である。インプレッサ全体におけるセダンの比率は着実に下降傾向にあり、先代の例でいえば、グローバル販売でハッチバックの「スポーツ」がインプレッサ全体の7~8割を占めたという。つまり、セダンは全体の2~3割にとどまっている。
意外だったのは、その比率に地域差はあまりなく、スバルの生命線である北米市場でも、その構図と比率は他地域とほぼ同じということである。3代目でのセダン廃止に抵抗した市場にはたしか北米も含まれていたはずだし、アメリカ人はなんだかんだいってもハッチバックよりセダンが好き……というイメージがあったが、今やそうでもないらしい。
……といった新型インプレッサG4にまつわる裏話を教えてくれた阿部氏は最後にこう付け加えた。
「G4の販売比率が1割になったら、さすがにインプレッサのセダンはつくれなくなると思います。この世代でセダンをなくさないためにも、G4には売れてほしいんですよ」
こうしたお話を聞くに、インプレッサにかぎらずセダン離れは世界的な潮流であり、セダン好きにとってみれば、それはけっこう深刻なレベルにあるのかもしれない。そう考えると、新型インプレッサG4がやけにありがたい存在に見えてきたりもする。
コーナリングに見る新世代シャシーの実力
新型G4の基本的な乗り味は、当たり前だがハッチバックに酷似する。いわれてみれば、走行中の静粛性やリアグリップのしっかり感などはハッチバックにまさる気はする。といって“だからセダンを買うべし”と断言できるほどの差があるわけではない。
それにしても、この新型インプレッサで初登場したスバル渾身の「スバルグローバルプラットフォーム(SGP)」は、基本フィジカル能力がいかにも高そうだ。多少の路面凹凸でも上屋はピタリとフラットに安定しているのに、足もとはたっぷりとストロークしている。コーナー途中で大きめの路面不整に蹴り上げられても、その衝撃をなにごともなく吸収して、走行ラインはどっしりと安定したままだ。
ステアリングの利きもとにかく正確かつ強力。敏感すぎず鈍感すぎず、切ったら切った分だけ、フロントノーズがピタリと動く。コーナーの入り口で、ちょっとオーバースピードかな、あるいは切り遅れたかな……と思っても、そのままステアリングをスルッと切り増すだけで、シレッと曲がっていってしまう。
もっとも、そこには余分なエンジントルクを巧妙にリアタイヤに配分する4WDの効果もあるのだろうが、いずれにしても、2リッター自然吸気程度では、SGPの能力のほうがまだまだ、はるかに上をいっている感じ。
それに静粛性もちょっと驚きくらいの領域にある。高速で風切り音が少し入ってくるだけで、そのほかの音はほとんど気にならない。そこには、特定の回転域でうるさくなったりせず、全域でスムーズな水平対向エンジンもひと役買っているんだろう。
あえて指摘できるツッコミどころとしては、低速で18インチタイヤのアタリが少しだけコツコツと硬めなことくらいか。こういうところは、どんなクルマでも、ある程度リアルな市場でもまれながら熟成していく部分だ。
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クルマ全体に統一感がある
アツいユーザーが多いスバルゆえに、変速機がCVTであることに賛否が分かれるのはいつものことだ。ただ、2009年の先代「レガシィ」で新世代変速機にCVTを選んだ時点で、彼らは“CVTと心中する”と覚悟を決めている。
そういうこともあって、スバルのCVTは今も年を追うごとに着実に進化・熟成していて、今回もさすがの具合の良さである。わずかなアクセル操作への微妙な加減速の“ツキ”はたいしたもので、特にCVTが不得手な減速側のレスポンスが絶妙なことに感心する。燃費優先の「I」モードを選んでも、右足ひとつで微妙な加減速が決めやすい。
新型インプレッサを現実の交通環境でじっくりと味わえたのは今回が初めてなのだが、水平対向とCVT、そしてアイサイトに新しいSGP……という組み合わせが、ひとつの世界観で統一されているのには ちょっとした感銘を受けた。
パワートレインは旧来の走りオタクが期待する刺激にはとぼしいが、スバル得意の「アイサイト」で交通量の多い高速道路を半自動運転させると、その美点が際立つ。前走車のせいで強い減速が必要となっても、ダウンシフトもシームレスで、そうしてエンジン回転があがっても、水平対向は耳ざわりな雑音や無粋な振動をまるで発しないのだ。
この新型インプレッサでCVTのネガをあまり感じなかったのは、変速機そのもののデキのよさもあるが、フラット姿勢に強力なステアリングを組み合わせたSGPが、荷重変化をことさら意識せずともリニアに動いてくれたからでもある。
SGPのようにステアリングだけで自在に曲げられるタイプには、ほんのわずかでもリアの信頼感が高いセダンのほうが、より親和性が高い。こういう上品なパワートレインなら、エンジン音にわざわざ耳を傾けるより、少しでも静かなセダンのほうがうれしい。細かな味わいを気にしないなら、ハッチバックもセダンも大差ないのは前にも書いたとおり。ただ、新型インプレッサの世界観を、それこそ心のヒダの部分までしゃぶり尽くしたいなら、セダンのG4にわずかではあるけど分があるかな……とは思う。
というか、インプレッサG4には手ごろなセダンの牙城を守るためにも、ぜひとも売れていただきたい。
(文=佐野弘宗/写真=宮門秀行/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
スバル・インプレッサG4 2.0i-S EyeSight
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4625×1775×1455mm
ホイールベース:2670mm
車重:1400kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター水平対向4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:154ps(113kW)/6000rpm
最大トルク:20.0kgm(196Nm)/4000rpm
タイヤ:(前)225/40R18 88W/(後)225/40R18 88W(ヨコハマ・アドバンスポーツV105)
燃費:15.8km/リッター(JC08モード)
価格:259万2000円/テスト車=275万4000円
オプション装備:ブラックレザーセレクション<本革シート[フロントシートヒーター付き]>(10万8000円)/アドバンスドセイフティパッケージ<スバルリアビークルディテクション[後側方警戒支援システム]+ハイビームアシスト>(5万4000円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:2484km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:324.9km
使用燃料:31.2リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:10.4km/リッター(満タン法)/11.0km/リッター(車載燃費計計測値)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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