ディーノ246GT
奇跡の曲線美を持つミドシップGT 2017.03.29 スーパーカークロニクル スーパーカーブームには数々の伝説がついてまわった。「ディーノ」をフェラーリと呼ばないワケもそのひとつ。そしてディーノと「ヨーロッパ」の一体どちらがナンバーワンハンドリングマシンなのか? ということも、ボクらにとっては重大な関心事だった。フェラーリではなく「ディーノ」
今でも“直線番長”などといって、単に高出力のエンジンを積んだ高価なクルマを揶揄(やゆ)することがある。300km/hが夢のような存在だった1970、80年代となれば、そういった超お金持ちご用達マシンへの、庶民派ドライバーの対抗意識はさらに強く、圧倒的な数値(=馬力)をねじふせるツールとして、ドライバーのウデとマシンのハンドリング性能の掛け合わせは、とても有効に機能したものだ。漫画『サーキットの狼』の基本コンセプトもまさにそこにある。
その際たる例が、主人公の駆る「ロータス・ヨーロッパ」だったわけだが、ライバルの駆る「ディーノ246GT」(1969~1974)もまた、そのヨーロッパと1、2を争うハンドリングマシンであった。
フェラーリであって、フェラーリでない。事実、実車を見てもらえば、かの有名な跳ね馬のエンブレムは、オーナーが好んで付けたもの以外、見当たらないはずだ。
その奇妙な現象は、さまざまな“言い伝え”と絡んで、おとぎ話のように子供たちの好奇心を刺激した。ひとつ確実であるのは、ディーノという名前が、フェラーリ社の創始者エンツォの息子で、父の会社のエンジニアとして働きながら、志半ばで病に倒れたアルフレードの、幼い頃の愛称(アルフレード→アルフレッディーノ→ディーノ)であるということのみ。
アルフレードがエンジニアとしてフェラーリ社で担当していたのは、12気筒ではないレーシングマシンの開発であったという。その後、非12気筒のF2用V6レーシングエンジンは「ディーノユニット」と呼ばれ、サーキットシーンを席巻した。
そんな背景があって、V6エンジンをミドに積む“フェラーリ”(ちなみに、フェラーリの量産車としては初のミドシップ)を、特別にディーノ246GT(2.4リッター6気筒のグランドツアラー)と呼んだわけだが、いわく「V12を積まないクルマはフェラーリじゃない」という説から、いわく「父の息子に対する屈折した愛情表現」という説まで、その解釈は実にさまざまである。そこがまたオトナの世界を垣間見るようで、子供心に興奮したのかも知れない。
ことの真相は、ファミリーに由来のある名称を使って単に別ブランド化を試みた、というあたりだろうが、それじゃツマラナイ。
その正体はより快適なハンドリングGT
どこにもフェラーリのエンブレムが見当たらないのだけれども、どこから見てもディーノという名前のフェラーリにしか見えない。それはひとえに、ピニンファリーナによるスタイリングの力によるものだと言っていい。ピニンファリーナの最高傑作はなに? という質問をしたならば、多くのフェラーリ好きがディーノの名前を挙げることだろう。
50、60年代スポーツカーのふくよかな美しさに、市販スポーツカー用としては当時最新のテクノロジーであったミドシップパッケージを融合させた奇跡のフォルム。ディーノや、ほぼ同時期に誕生した「ランボルギーニ・ミウラ」以降のミドシップスーパーカーが、ウエッジシェイプを基本とした新しいスタイルに変貌していくさまを見ると、いかにこの2台の曲線美が突出していたかがわかろうというもの。もっとも、ミウラはミドカーの風味をあえて薄めてFRを気取っていたから、真に美しいミドシップロードカーはディーノということでいいのかもしれない。
漫画では、ロータス・ヨーロッパと世界で1、2を争うハンドリングマシンだと描かれていた。確かに乗ってみれば、ヨーロッパとよく似た動き、つまりミドシップカーに特有の、コマに乗って芯(=ハンドル)を回しているような感覚がある。安心して踏んでいける感覚は、程よいトルク感と相まって、ヨーロッパでは味わえない次元のものだ。けれども、ヨーロッパに比べてはるかにコンフォートなことも事実で、そのぶんリアルスポーツカーとしてのポテンシャルはヨーロッパに一歩譲る。
ヨーロッパも、それ以前のロータスに比べれば、かなりGT風味を増していたものだが、246GTは良質なハンドリング性能のみならず、その名の通り、GTとしての機能も十分に果たせるレベルにあった。ちなみに、デタッチャブルルーフ(タルガトップ)を備えたモデル「GTS」も存在する。アメリカ市場で人気を博した。
もう少しだけマニアックな話をしておくと、246GTとなる以前に、スタイリングはそのままにやや小振りな総アルミボディーパネルをもつ、2リッターの「206GT」というディーノもあった。たった150台しか生産されなかった、貴重なディーノである。
(文=西川 淳/写真=高橋信宏/取材協力=池沢早人師・サーキットの狼ミュージアム/編集=竹下元太郎)
※初出『webCG Premium』(GALAPAGOS向けコンテンツ)2011年夏号(2011年6月30日ダウンロード販売開始)。再公開に当たり一部加筆・修正しました。
車両データ
ディーノ246GT
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4235×1700×1135mm
ホイールベース:2340mm
車重:1080kg(乾燥重量)
駆動方式:MR
エンジン:2.4リッターV6 DOHC 12バルブ
トランスミッション:5段MT
最高出力:195ps/7600rpm
最大トルク:22.9kgm/5500rpm
タイヤ:(前)205/70VR14/(後)205/70VR14

西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。
-
第6回:ランチア・ストラトス 2017.3.30 「ストラトス」の鮮烈なスタイリングは、いまなお見る者から言葉を奪うほどのインパクトがある。しかしこのデザインは、見せるためのものではなく、ラリーを戦うために研ぎ澄まされたものであることを忘れてはならない。
-
第5回:フェラーリF40 2017.3.30 1970年代から80年代にかけて隆盛を誇ったスーパーカーの時代は、サーキットと高速道路を最高のレベルで疾駆(しっく)するスーパースポーツカーの出現によって終わる。その最終章を飾るのが、この「フェラーリF40」である。
-
第4回:ポルシェ911カレラRS 2.7 2017.3.30 本来、「ポルシェ911」をスーパーカーの仲間に入れるべきではないだろう。しかしブームの真っただ中、「ロータス・ヨーロッパ」の宿敵として描かれた「ナナサンカレラ」だけは別だ。グループ4のホモロゲーションモデルの実力は、40年以上たった今もなお鮮烈だ。
-
第3回:ロータス・ヨーロッパ スペシャル 2017.3.29 スーパーカーとは何だろうか。排気量と価格で判断したら、「ロータス・ヨーロッパ」をそう呼ぶのはためらわれる。しかしヨーロッパはまちがいなくスーパーだった。この軽やかさ! レースとの絆は、同時代のフェラーリよりも濃いかもしれない。
-
第1回:ランボルギーニ・カウンタックLP500S“ウルフ・カウンタック” 2017.3.29 スーパーカーブームの主役は「カウンタック」。そのまた頂点に君臨したのが、当時「LP500S」と呼ばれたこの“ウルフ・カウンタック”である。現オーナーの元でオリジナル状態に戻された“赤いオオカミ”が、三十余年のときを超えて、いま再び咆哮する!
-
NEW
ベントレー・コンチネンタルGTアズール(4WD/8AT)【試乗記】
2026.1.19試乗記ベントレーのラグジュアリークーペ「コンチネンタルGT」のなかでも、ウェルビーイングにこだわったという「アズール」に試乗。控えめ(?)な680PSのハイブリッドがかなえる走りは、快適で満ち足りていて、ラグジュアリーカーの本分を感じさせるものだった。 -
NEW
第327回:髪もクルマもナイスファイト!
2026.1.19カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。日産の新型「ルークス」で夜の首都高に出撃した。しっかりしたシャシーとターボエンジンのパワフルな走りに感心していると、前方にスーパーカーの姿を発見。今夜の獲物は「フェラーリ・ローマ」だ! -
NEW
日本で売れるクルマはあるのか!? 最新の“アメリカ産ニホンシャ”を清水草一が検証する!
2026.1.19デイリーコラムアメリカからの外圧による制度変更で、北米生産モデルの国内導入を決めたトヨタ。同様に、今後日本での販売が期待できる「海外生産の日本車」には、どんなものがあるだろうか? 清水草一が検証してみた。 -
フェラーリ12チリンドリ(後編)
2026.1.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「フェラーリ12チリンドリ」に試乗。前編では伝家の宝刀であるV12エンジンを絶賛した山野。後編ではコンビを組むシャシーの印象を余すところなく聞いてみた。 -
BYDシールAWD(4WD)【試乗記】
2026.1.17試乗記BYDのBEVサルーン「シール」の機能アップデートモデルが登場。強化のポイント自体はそれほど多くないが、4WDモデルの「シールAWD」は新たに電子制御式の可変ダンパーを装備したというから見逃せない。さまざまなシーンでの乗り心地をチェックした。 -
新生ノートンがいよいよ始動! 名門の復活を担う次世代モーターサイクルの姿に迫る
2026.1.16デイリーコラム英国のモーターサイクル史にあまたの逸話を残してきた名門、ノートンが、いよいよ再始動! その数奇な歴史を振り返るとともに、ミラノで発表された4台の次世代モデルを通して、彼らが思い描く未来像に迫った。












