第496回:さらばいとしい紙製免許証!
これがイタリアの運転免許更新法だ
2017.04.07
マッキナ あらモーダ!
更新手続きは「長き道のり」
イタリアでは、普通運転免許は10年に1度更新される(50歳まで。以後70歳までは5年ごとに、71歳以上は3年ごとに更新)。
1997年にイタリア国内で初の免許を取得したボクに、先日2度目の更新時期がやってきた。そこで今回は、イタリアにおける運転免許の更新についてお話ししよう。
具体的な方法は、以下の通りである。
まずは郵便局で、道路運輸局への申請料10.2ユーロ(約1200円)と印紙代16ユーロ(約1900円)を払い込み、領収書をもらってくる。ここまでで、郵便局の長い列に並んでもうフラフラになるのだが、次のミッションがある。
市内にあるイタリア自動車クラブ(ACI)もしくは保健所に赴き、健康診断の予約をする。これがまた大変だ。窓口には昼休みがあるし、夕方は早く閉じてしまう。ACIの場合、午前しか開いていない日もある。アポイントが取れる日も1カ月先だったりする。鉄道の健康保険組合や消防署の登録医も一般人の免許更新用健診を受け付けているが、探すこと自体かなり困難だ。
健診の日は、更新前の免許証と公的な本人証明書、健康保険証、写真2枚、そして郵便局でもらっておいた前述の領収書を提出する。検診の費用も含め、更新にかかる総額は70ユーロ(約8400円)前後である。
ただし、イタリア人ドライバー全員がこんな面倒くさいことをやっているのかというと、そうではない。ありがたいことに、「プラティケ・アウト」といわれるクルマ専門の行政手続き所でも更新手続きができるのだ。ボクは今回こちらで済ませることにした。
プラティケ・アウトは民間の事務所だ。イタリアに住み始めた当初、日本の代書屋さんのようなものかと想像していたが、実際の業務はかなり広範囲にわたる。免許更新のほか、車両の名義書き換え、外国で購入したクルマの登録など、さまざまな自動車関連の手続きを代行する。
ボクがお世話になったのは、在住3年目の1998年に初めてクルマを個人から買ったときである。前オーナーから告げられた日に行くと、公証人がいて、2人で売買手続き書にサインをしたのを覚えている。
“救いの神”の代書屋さん
その同じプラティケ・アウトに19年ぶりに出向くことになった。
2017年3月上旬のある日、顔を出してみると、すぐにお姉さんが対応してくれた。免許更新の費用は、税込み100ユーロ(約1万2000円)という。
ドットーレ(医師)は、プラティケ・アウトに週2回やってくるらしい。ただし次に空きがあるのは、およそ10日後の夜だという。「必要書類は?」と聞けば、「以前の免許証と証明写真1枚」という。前述の“自力手配”に比べて、あまりにも楽だ。
そして当日。必要書類を持参して、再びプラティケ・アウトに赴いた。指定は夜の6時だったが、10分早めに到着すると、ボクが1番だった。受付ではスタッフのおじさんから、まずはサインを求められた。渡された水性ボールペンで署名する。
ところがどうだ。単なる受付票かと思ったら、それをスキャナーにかけてしまうではないか。ああ、もっとていねいにサインすればよかった。
持参した写真も同様に、おじさんがスキャナーにかける。彼がチェックしているディスプレイをチラ見すると、ボクのサインと写真が、すでにキャプチャーされてフォーム内におさまっている。道理で写真の寸法を指定されなかったわけだ。日本のパスポート写真におけるサイズと余白指定のクソ真面目さが笑えてくる。なお、書類作成ソフトは専用だが、作業をするパソコンやスキャナーは一般家庭用のものと何ら変わらない。
次に、例の100ユーロの支払い。「現金もしくはデビットカードで」と言うので、後者で払う。新しい免許証は書留で家に届けてもらうこともできるが、ボクは留守がちだし、別途郵送料金がかかるので、引き取りにくることにした。そして、スキャン後の写真がパチンパチンとステープラー留めされた、健康状態自己申告書を持って医師を待った。
イタリアの事務も変わったもんだ!?
この日、免許更新に訪れたのは、最終的にボクも含め3人だった。
医師は15分遅れでやってきた。年の頃は50歳前後で、バイクかビッグスクーターに乗ってきた風のいでたちである。後述する健診証明書によれば、例の消防署登録医だった。
1番のボクが呼ばれるままに入った小部屋には、視力表があった。イタリアの視力表は、ABCDといったアルファベットを読み取る方式である。
「はい、片目を隠して」と医師が指示する。といっても、日本の健康診断のような“しゃもじ”があるわけではない。自分の手で隠す。
次は問診。質問はふたつ。「持病は?」「服用している薬は?」だけだった。
それが終わると、先ほどの健康状態自己申告書の「はい」「いいえ」欄を埋めて、申告に誤りがない旨を宣誓するサインを記すよう指示された。検診はこれで終わり。
最後に医師は、健診を受けた旨の証明書を渡してくれた。これにより、万が一古い免許証の期限が切れた際も、60日間は運転できるという。
健診の所要時間は、およそ3分。受け付けのおじさんも、「今日はこれで終わりだよ」と言った。医師はプロゆえ、短い時間でも動作や言動からボクの健康状態を観察していたのであろうが、なんとも素早くて拍子抜けしてしまった。
「免許できましたよ」の電話も意外に早かった。健診からわずか5日後の朝だった。週末を考えなければ、実質2営業日で発行されたことになる。
ちなみに先日、日曜午後にアマゾンで頼んだプリンターのトナーが翌日午前に“爆速”で届いた。日本の人からすれば「それのどこが爆速なんだよ」と思われるかもしれないが、欧州の中でもとにかくスローなことで知られるイタリアにおいても、今ではさまざまなサービスの時間が短縮されている。
早速徒歩でプラティケ・アウトに出向くと、受領サインもすることなく渡してくれた。またまたあっけなかった。
昔の免許証も味わい深い
ところで今回の免許更新、ボク個人にとって、もうひとつ“イベント”があった。
「紙の免許との別れ」である。
日本では信じられないだろうが、これまでボクが使ってきたイタリアの免許証は、古い欧州連合書式に沿ったものとはいえ、ピンク色をした紙製であった。昭和ではない。1997年の発行ですよ。
一方、今回ボクが更新で受け取った免許証は、1999年に導入され2013年に一部改変が行われたもので、クレジットカードサイズのプラスチック製である。
新しい免許証は、財布の中でかさばらないのが大変うれしい。
しかし、古い免許証のほうが数倍「味」があったのもたしかだ。「運転可能な車両」欄に、普通車と一緒に三輪トラックのかわいいイラストも描かれていたのには、初めて手にしたとき「ああイタリアの免許だぜ」とうれしく感じたものだ。
引っ越してもデータベースの書き換えで済むのだろう、新しいプラスチック製免許証に住所は記されていない。その点、古い紙製免許証には、引っ越して市役所に転居届を出すたびに送られてくる「新住所が記載されたステッカー」が貼りつけてある。前回の更新後はさらに、自宅に郵送されてきた更新済みを示すステッカーも貼られている。
写真は、上下2点で金属のびょう留めである。20年前、「せっかくだから、日本のコテコテ証明写真風でなく、イタリアらしい写真を」と、スピード写真機で斜に構えて撮ったのを思い出した。
マイヒストリーが凝縮されている。ちょっとしたアルバムだ。加えて、アグレッシブなドライバーの多いイタリアだけに、20年間無事故・無違反でやってこられた「お守り」のような気さえしてきた。
古い紙製免許証は、新しい免許証を受領したあと処分するのが決まりだ。ただし、プラティケ・アウトのお姉さんによると、多くのイタリア人ドライバーはそっと引き出しの奥にしまっているらしい。
古いモノと昔話をこよなく愛するイタリア人らしい。その気持ち、痛いほどわかるボクであった。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/編集=関 顕也)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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