第13回:バイパー、取材を受ける
2017.04.14 バイパーほったの ヘビの毒にやられまして![]() |
webCGほったが、男性ファッション誌の紙面に登場!? ギョーカイ激震の大事件はなぜ未然に防げなかったのか? 今回は、この珍事の経緯を紹介するとともに、そこで考えさせられた「ゆとり世代的自動車メディア論」について開陳させていただく。
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天変地異の前触れか!?
まずは読者諸兄姉の皆さまに御礼をば。いつもfacebookやメールなどでメッセージをたまわり、誠にありがとうございます。中には貴重なアドバイスも多々見られ、本当に助かっております。いやホント。
例えば前回などは、「やり方がワカリマセン!」と書いたランバーサポートのしぼませ方について、F氏、およびさるバイパーオーナーの方よりその方法をご教授いただいた。おかげで、パッツンパッツンにふくらんだ硬いシートともめでたくオサラバ。ご両人のお名前は伏せさせていただくので、心当たりの方は自己責任で記者からの感謝をキャッチしてください。ビビビビビビ……。
このほかにも、雨漏りの回を公開した折には、「カバーライトは通気性がいいから、ぬれたボディーにかぶせても無問題」「ただし縫い目が弱いので、たたむときは気をつけるべし」とアドバイスをたまわり、最近では「特殊なサイズのタイヤだけど、ちょっと引っ張ってもいいなら○○という銘柄がある」と、わがバイパーに装着可能なタイヤも紹介していただいた。
本当に感謝、感謝である。第2回でも書いたけど、本連載は皆さまの激励と助言でやっていけているようなものです。あらためまして、御礼申し上げます。
さてさて。謝辞が長くなってしまったが、ここからが今回の本題である。
時は2017年2月18日の午後1時4分。
上述のように他力本願・自転車操業のスタンスで連載を続ける記者のもとに、あるメールが届いた。差出人は、いつもお世話になっている某敏腕ライター氏である。
記者は首をかしげた。氏とのコミュニケーションは、「私(webCGほった)からお仕事をお願いする→お仕事可否の返事が来る→スケジュールのご相談……」という流れが基本で、最初に氏から連絡が来るというのは前例のないことだったからだ。これはいかな用向きなりや? いぶかりつつ開いたメールの内容は、ワタクシ個人はもちろん、webCG編集部を、ひいてはギョーカイ全体を激震させるものであった。
なんと取材の申し入れだったのである。それも、男性ファッション誌『UOMO』の。
男性ファッション誌『UOMO』の!
イケてる男子、デキる男子諸君に告ぐ
おそらく今、記者の風体を知る業界関係者は皆、PCの前でひっくり返っていることだろう。あるいは、あまりのことに携帯端末を握りつぶしているか。
心臓の弱い御仁などは病院に担ぎ込まれているやもしれぬ。なむなむ。
一方、わがルックスを知らぬ読者諸兄姉は「何を大げさな」とお笑いのことと思われるが、これは大げさでもなんでもない。むしろ控えめな表現である。
なにせ記者のエクステリアデザインは、ジャニタレというよりは塚地武雅氏演じる山下 清画伯に限りなく近く、着るものについてもEDWINのジーンズ以外、特になんのこだわりもナシ。“おしゃれ偏差値は幼児と同等”と評したら、幼児からクレームが来るレベルである。
そんな男が、天下の集英社が発行するメンズファッション誌に取材されたのだ。もはやこれは美に対する冒瀆(ぼうとく)であり、記者は今、読者からのクレームでUOMOが廃刊になりはしないかと心中穏やかならぬ日々を過ごしているのだ。
なんでかような事態に陥ったかというと、皆さんお察しの通り、バイパーなんてけったいなクルマのオーナーだったから。当該号のUOMOにて「ドライビング至上主義の、クルマ選び」という特集が組まれ、記者が紙面の端を汚すことになったのだ。
……それにしても、UOMOが「ドライビング至上主義の、クルマ選び」である。読者の多数を占めるであろう、世のイケてる男、デキる男へ向けて「運転の楽しさでクルマを選ぼうぜ」と号しているのである。
これって実はスゴいことではないかい? だって、ちまたではつい最近まで「クルマにこだわるなんてダサいオタクがすることさ」なんて主張がまかり通っていたではないか。それが今や、自動車媒体ではない、意識の高い男子諸君へ向けたファッション誌が「ドライビングでクルマを選べ」と訴えているのである。
記者は不覚にも、目頭がアツくなった。
「やれやれ、ようやく時代が俺に追いついてきたか」
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「カッコいいクルマ選び」が理解できん
冗談はさておき、せっかく取材してくれたクルーの皆さまには誠に申し訳ないのだが、実はワタクシ、オシャレだとかライフスタイルだとかを気にしてクルマを選んだことが、ない。「このクルマに乗っていたら、まわりからどんな風に思われるのかしらん?」とか意識したことがないのだ。
などと書くと、「ケッ。格好つけやがって」とか言われそうだが、マジである。だいたい、上述のあれこれについておもんぱかる人間が、エコとクレバーが好まれるこのご時勢にダッジ・バイパーなんて買うわけないでしょ! 実際、記者の奥多摩ドライブに同行した大学の同期などは、オーナー(すなわち私だ)に面と向かって「これでは女の子にはモテない」と断じて見せた。無論、世の健全なる淑女だけではない。わが相棒は親や親戚からも大不評で、母などは帰郷するたびに記者を犯罪者呼ばわりである。
そんな時、皆が異口同音に言うのがコレだ。
「だいたいさ、似合ってないよ?」
……まあ、この程度の打撃で足元がふらつくようなワタクシではない。“幸せの黄色いトライアンフ”こと「サンダーバードスポーツ」を買ったときも、「アンタ鏡見たことある?」「土偶が(バイクに)しがみついてるみたい」と散々だったが、そもそも記者は生まれついての三枚目。見てくれなんぞ気にしていたら、欲しいものはゼッタイ買えない。寅さんも毒ヘビも、似合わないことは百も承知で買ったのだ。
それにしてもである。なんで記者はクルマ選びでここまで見場や世間体に無頓着なのか。今までは気にしたこともなかったが、今回の取材を機にちょっと考えさせられた。
結論から言うと、たぶん「クルマでカッコをつける」という行為にまったくピンときていないからだろう。そしてその理由は、前ページで触れた「クルマ(だけでなく、恐らくはスーツや腕時計なども含む)にこだわるなんてダサいオタクがすることさ」という主張がはびこる中で育ったからだ。
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血の通ったお話にはかなわない
1981年生まれの記者は、世にいう“失われた世代”の最末期の産物だそうな。不景気のおかげで節約と貯金が板に付き、だからまあ、消費で見えを張るという行為にシラけているのである。遊び方や情報収集の仕方は違うけど、こうした考え方は後に続くゆとり世代とそう大差ないと思う。
で、最近読んだ『若者はなぜモノを買わないのか』(堀 好伸著)なる本によると、そういう若者(記者はすっかり中年だが)を消費に導くのは、ネットで得られる情報を超越したリアルな体験であり、広告のような“お仕着せ”ではない形での情報の提供なんだとか。
同著が調査対象としていたのは、26歳以下の、記者よりずーっと若い方々であるが、この点についてはよわい35のワタクシも「そうだよなあ」と納得してしまった。
べつに購買につながったりはしないけど、記者もお笑い番組『アメトーーク!』でバイク芸人が披露するエピソードに爆笑し、あらためて「バイクはいいものだ」と実感してしまうからだ(他の回は見ないけど「バイク芸人」の回だけは見る)。もし当該番組で「自動車ヲタク芸人」の回とかあったら、やっぱり「ジドーシャはいいものだ」と涙することだろう。
前回紹介した竹中直人氏の至言も同じで、どんなマーケティングも血の通った人の言葉にはかなわない。あと、犬と猫にも。
で、翻って思ふ。
読者諸兄姉の皆さま。『webCG』は、そういう情報を皆さまのもとにお届けできてますでしょうか? ……いや犬猫の方じゃなくて。
「モノより思い出」なんて言われるようになって久しい、今の時代にふさわしい「モノ」の記事って、なんなんでしょうね。
某公園駐車場にて、バイパーを撮影する男性ファッション誌のクルーを横目に、ふとそんなことを考えた初春の武蔵野でありました。
(webCG ほった)
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堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。