日産ノートe-POWER NISMO(FF)
まだやれることがある 2017.04.19 試乗記 日産のコンパクトカー「ノート」のハイブリッドモデルをベースにNISMOが独自の改良を施したスポーツグレード「ノートe-POWER NISMO」。先進のシリーズハイブリッドシステムと、専用チューニングの足まわりが織り成す走りを試す。快適で運転しやすい
直接的にはもっぱら電気モーターでもって動くのに、“コンセント”はついていない。遠出をしたときでも最寄りの給電所の在りかを意識しながらソワソワ走る必要はなくて、エネルギー源の補給はもっぱら給油。ガソリン(レギュラーでOK)。つまり運用に関しては、内燃機関車のときと同じ感覚でいける。それでいて、アタリマエだが動力機関のフィーリングは(ほぼ)EVそのもの。
ハイブリッド車にしてはこのノート、動力機関がエラい運転しやすい。どれとはいわないけれど、比べたら、誇張でなく天国と地獄。「電気モーターは発進の瞬間から最大トルクを……」とかはよくいわれることだけれど、乗っていて感心するのはその快適さ。および、アクセルペダルの操作に対する反応の緻密さ。精度の高さ。日本のガソリンエンジン(+CVT)車や「電気的CVT」車の平均値と比べたら、ケタがひとつ違うぐらいの感じでイイ。そういう次第でこれ、「いったいどこがハイブリッドなんだよ!?」といいたくもなる。
例えばの話、日本一運転がキレイな人を助手席に乗せて走るとする。運転手がどういう運転をしているかを一瞬で見抜いてしまう人。運転のていねいさやスキルのレベルが即全バレしちゃうコワい人。そういうときでも、少なくとも速度の管理に関しては、このノートならヘンに緊張はしなくて済む。
“止まる瞬間”の制御に脱帽
日産がいうところのワンペダルドライブ。アクセルペダルの踏み込みを戻すと、その戻しかたに応じてスッと減速Gが発生する。いわゆる回生ブレーキ。回生ブレーキだけで停止までいける。エコモードでいうと、その強さは最大でも0.3G……まではいっていない感じ。コンマ3G弱。例えば街なかをフツーに走っているときにコンマ3Gでブレーキをかけたら、助手席や後席でスマホをいじっていた人は「なにがあった!?」とハッとする。あとはそう、圧雪路の平均的なμ(ミュー=摩擦係数)が0.3程度といわれている。つまり、0.3Gあたりが圧雪路のグリップ上限。それを超えないあたりに回生ブレーキの利きの上限を設定してあるのかもしれない。
ワンペダルドライブで停止まで。これは、簡単にいうとすごく気持ちいい。運転しやすい。快適。エンジンブレーキ(ではないけれど)がきっちりキレイに利いてくれるのもいいし、停止の瞬間というか直前の踏力……ではなかった制動Gの抜きの制御もうまい。快適。フットブレーキ(というか、摩擦ブレーキ)を使って同じぐらいスーッ→ピタッとキレイに止まろうと思うと、これはちょっとではなく苦労する。というか、ムリ。最後の抜きのところがキレイにできない。悔しい。
なお、ワンペダルドライブで停止しているとき、つまりブレーキペダルを踏まないで停止しているときは、駆動モーターがちょっとだけトルクを出している。つまり、N=ニュートラルのときみたいにクルマがスルッと動いてしまわないように。日産広報に電話してきいてみたところ、「ちょっとの坂なら大丈夫」なぐらいはその“ブレーキ”、利いてくれるという。実際乗った感じもそのとおり。
ブレーキ操作の基本というかお約束は、ペダルにかける踏力。踏力で制動Gをコントロールする、あるいは、ちゃんとそうできるようにクルマがしつけられていること。ワンペダルドライブの場合は、このお約束を拡張する必要がある。全面書き換えの必要まではないとしても。ハッとしてアクセルペダルを全戻し……だけでは制動Gが足りない状況で、運転手がブレーキペダルを踏むことを忘れていた。そんなことにはならないとは思いますが。
走行モードは「エコ」一択
クルマを直接動かす仕事にはまったく参加していないけれど、e-POWERのノートにも内燃機関は搭載されている。発電専用エンジン(あとはヒーターの熱源?)。エンジンフードを開けると、フツーの内燃機関車の場合ならトランスミッションがあるところに駆動用電気モーター……は見えなくて、その上にあるインバーターやらなにやらが見える。今回ひとつオッと思ったことに、e-POWERの内燃機関は揺れない。フツーの内燃機関車だと駆動反力を受けてビクッとかユサッとか動くのがわかるような状況で、そのビクッやユサッが出ない。ドライバーの入力によるビクッやユサッが出ないのと、あとは路面入力によるユサユサも気にならない(「そういえば、気にならなかったな」といま気がついた)。
とにかく、クルマの前のほうで重たい物体(パワートレイン)が車体と別モードで揺れ動くことによる不快さ、というのがない。よって当然、快適さアップ。駆動状況と関係なく内燃機関が始動したり、その回転数や音が変化したりすることが気にならなくはないけれど(主に極低速域)、内燃機関がビクッとならないことの快適さと差し引きしたら、プラスマイナスでいうと間違いなくプラスのほう。大きく。重たい臓物が安定しているということは、フツーに考えてダンパーの作動状況的にも有利といえる。
運転中はほとんどエコモードで走った。ノーマルモードとSモードは、試してみて即NG。「こりゃ使えない!!」で封印。忌避。ノーマルもSも、アクセルペダルにカルくサワった程度でドッピューン!! と元気よく、というか元気よすぎに加速するようになっている。穏やかに走らせるのが非常に難しい。それと、ノーマルはアクセルオフの操作に対して減速Gがほとんど出ない。コースティング(空走)制御が常時オンになっている感じで、正直ちょっとコワかった。ちょっとではなくコワかった、といったほうがいいかもしれない。
電動パワープラントに秘められた可能性
ということで、ほぼずっとエコモード。穏やかに走れてワンペダルドライブが快適にできるのはいいとして、明らかに力を出すのをシブっている感じがある。実用上それで不足はなかったけれど、試しにベチャッと床まで踏んでみたら、「ええ!? 私にそんなことをさせるんですかあ!?」という感じでイヤそ~にダッシュを開始(しかもシブめ)。エコモードだからそれで当然といわれるかもしれないけれど、穏やかに走らせることが容易であることとひたすら穏やかにしか走れないことはイコールではない。アクセルペダルの操作に応じて、穏やかにも元気よくも。その中間もふくめて全体のつながりをキレイに。わざわざスイッチでモード切り替えなんかやらなくても自由自在。電気パワーならそれができるはずで……というか、そこを突き詰めなくてなんのための電モ駆動。もし仮に筆者がe-POWERの動力機関のドライバビリティーのチューニングの担当者だったとしたら、ポルシェの自然吸気フラット6のレスポンス=過渡応答特性を再現することを目指す。願ってもないチャンス到来ということで、狂喜する。
アクセルペダル(だけではないけれど)の操作に対する、クルマ側の反応の精度や緻密さがアップすると、運転手の操作の精度も自然とアップする。運転がキレイになる。と当然、同乗者の快適さもアップ。その実感は、現状のe-POWERでもしっかりある。それだけに、惜しい。でも幸いなことにというか、電気パワーなら制御プログラムの書き換えだけで済む。内燃機関が逆立ちしてもかなわないレベルのチューニングの自由度がある。むしろ問題は、エコとノーマルとスポーツのモード切り替えが商品力上ゼヒとも必要という考えかたのほうかもしれない。
百点満点とはいえないが……
ノートe-POWERの、今回はNISMO仕様。ということで、乗り心地は簡単にいうとカタめにしてある。引き締まった感じ、といっても間違いではないけれど、路面によってはフワつくときもある。あと、芯のあるキツいカタさやゴトつきを感じることも。素性のいいダンパーを使ってチューニングも見事にバッチリ決まって会心のデキ……とは必ずしもいえないかもしれないけれど、日本車の水準に照らせば全然悪くないほうだと思う。舗装がキレイで路面のいいところでちゃんとピシッとする、あるいはピタッとなるのは、これはリッパに加点要素。車体剛性を補強するための部材が追加されていることも効いている。素ノーマルの現行型ノートを運転したのは何年も前のことだけれど、車体の骨格に関して明らかにナンかやってある感じがする。
乗り心地関係で一番のプラス要素はシート。オプションのレカロがついていて、乗り降りはわずらわしいしこんなに派手な張り出しは不要だけれど、乗員の体重を受け止めながらその姿勢を保持するものとしての性能はやはりというか、優れている。というか、座っただけでけっこううれしい。いいものに触れている実感がすごくある。それと、シート単体だけでなく取り付けの剛性も高いと感じた。クルマと自分の間のアイマイ要素がバッサリなくなる感じは、やはりイイ。
ステアリングの制御に物申す
電動パワステは専用チューニング。手応えアップ方向。ということでNISMO気分アップ……なのだけど、ハンドルの扱いやすさがピカイチというわけではない。もっとも、このへんに関してはパワステうんぬんというよりはサスペンションというかタイヤの接地性によるところがすごく大きい。電動パワステはそのままでも、タイヤの接地性(ダンパーのよしあしの影響がモロに出る)や車高の設定がちゃんとすると、舵感は別モノになる。それとおそらく(というかきっと)、車体がしっかりすることでも変わる。
ホイールベースが長めであることもあってか、直進性はまあまあ。曲がりというかライントレース性は、特別ヒドくはないかもしれないけれど、すごくイイのを期待しているとガッカリする。コーナー手前で速度を合わせて(適切なところまで落として)、あとは思ったとおりハンドルをきっていけば思ったとおりに曲がっていける。そういうものにはあまり、必ずしも、なっていない。
速度を落として、ハンドルをきり始める。手応えがカルくなることもあって、ついきりすぎてしまいそうになる。クルマのハナ先がビュッと急激に内側を向きそうになる感じもある。で、手を止める……ところまではいかないけれど、ハンドルを動かす手というか腕の筋肉にブレーキをかける。するとクルマの向きの変わりかたが足りなくなるので(ロールが戻ってしまう感じもある)、腕の筋肉にかけたブレーキをゆるめる。とまた手応えがカルくてきりすぎそうになって……(以下、繰り返し)。上限コンマ3Gぐらいの旋回だと、そういうことになる。
モーター直結型パワートレインの恩恵
少なくともワンオブ運転のうまい人。運転なんかしてなくても、運転手やクルマのことがたいがい全部わかっちゃう人。実は今回の試乗中、ほんとにそのテの人が横に乗っていたときがあった。筆者がクネクネの山道をコンマ3G上限ぐらいで走っていたときにその人いわく、「手が迷っていますね」。はい、おっしゃるとおり。クルマのせい、だけではないにしても。
旋回Gの上限をもっと高くして、それとハンドル操作も思い切ってエイヤっぽくやってやる。一人のときに、気がねなく。というか、あくまで検証目的で。と、それなりにうまくいく。「サーキット走行も視野に入れて……」なアシっぽい。でもあくまで「それなり」で、というのは旋回のライン(実際には速度の分布やGの管理)の優先度がグッと下がってしまうので。
ただしというかe-POWER NISMO、例えばキツい上り勾配のタイトコーナーのなかでGをそろえるための速度の管理なんかはすごくやりやすい。電気モーター。それと、アタリマエとはいえトランスミッションがない。ということは、上のギアでは力が足りなくて落とした途端にイヤなショックが出て……というのがない。もちろん、ギアチェンジに伴う駆動トルク切れも。
という感じで、なかなかに興味深い体験をさせていただきました。
(文=森 慶太/写真=郡大二郎/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
日産ノートe-POWER NISMO
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4165×1695×1535mm
ホイールベース:2600mm
車重:1250kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直3 DOHC 12バルブ
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:79ps(58kW)/5400rpm
エンジン最大トルク:103Nm(10.5kgm)/3600-5200rpm
モーター最高出力:109ps(80kW)/3008-10000rpm
モーター最大トルク: 254Nm(25.9kgm)/0-3008rpm
タイヤ:(前)195/55R16 87V/(後)195/55R16 87V(ヨコハマDNA S.drive)
燃費:--km/リッター(JC08モード)
価格:245万8080円/テスト車=328万6459円
オプション装備:ボディーカラー<ブリリアントホワイトパール>(3万7800円)/LEDヘッドランプ<ロービーム、オートレベライザー付き、プロジェクタータイプ、LEDポジションランプ付き>(7万5600円)/日産オリジナルナビ取り付けパッケージ<ステアリングスイッチ、リア2スピーカー、GPSアンテナ、TVアンテナ、TVアンテナ用ハーネス>(2万7000円)/インテリジェントアラウンドビューモニター<移動物検知機能付き>+スマート・ルームミラー<インテリジェントアラウンドビューモニター表示機能付き>+踏み間違い衝突防止アシスト+フロント&バックソナー+ヒーター付きドアミラー(9万7200円)/NISMO専用チューニングRECARO製スポーツシート<前席>(27万円)/ヒーター付きドアミラー+PTC素子ヒーター+リアヒーターダクト+高濃度不凍液(2万4840円) ※以下、販売店オプション ETCユニット 日産オリジナルナビ連動モデル MM516D-W、MM316D-W用(2万5920円)/日産オリジナルナビ取り付けパッケージ付き車用MM516D-W(21万8667円)/デュアルカーペット<ブラック>e-POWER車用/e-POWER寒冷地仕様車用(2万4300円)/マルチラゲッジボード(2万7052円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:4645km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:510.9km
使用燃料:27.0リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:18.9km/リッター(満タン法)/14.0km/リッター(車載燃費計計測値)
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