第146回:日欧カーチェイス映画と癒やし系作品をチョイス
G.W.に観たいクルマ映画DVD
2017.05.02
読んでますカー、観てますカー
あのニュークスがドイツでカーバトル
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』が公開されてからもう2年が過ぎようとしている。いまだ熱が冷めやらず、今もV8ポーズを決めてイモータン・ジョー様に忠誠を誓うウォーボーイズも多いことだろう。あの映画でマックスとフュリオサに匹敵する強い印象を残したのがニュークスだった。白塗りメイクの雑魚キャラだと思っていたら結構いいヤツで、最後には勇気ある行動で感動を呼んだ。
ニュークス役だったニコラス・ホルトは、『アウトバーン』では卓越した運転テクニックを持つ男ケイシーを演じている。彼はアメリカで自動車泥棒をしていたが、ヘマをしてドイツに逃げてきている。マフィアのボスのもとに身を寄せ、ドラッグ取引の集金で小銭を稼ぐ毎日だ。彼はクラブで会ったジュリエット(フェリシティ・ジョーンズ)と恋に落ち、カタギになることを決める。しかし、彼女が病に冒されていることを知り、ドラッグを積んだトラックを襲って治療の金を作ろうと考えた。
襲撃は失敗に終わり、ケイシーはとらわれてしまう。スキを見て見張りを倒し、停めてあった「ジャガーXFR」で逃げ出したが、3台のクルマに追われることになった。「ボルボV70」「メルセデス・ベンツMクラス」「ポルシェ・カイエン」である。タイヤを撃たれて横転してしまうと、「メルセデス・ベンツSLS AMG」を拝借して逃走。逃げても逃げても追いつかれるので、次々にクルマを乗り換えて走り続けるしかない。
「アストンマーティン・ラピード」「シトロエンC5ブレーク」と乗り継ぎ、最後は「ジャガーFタイプ」だ。アウトバーンをいろいろなクルマで駆け抜けるのを楽しむための映画で、クラッシュ炎上シーンも盛りだくさん。典型的なB級映画なのに、悪役のキャストが不自然なほど豪華である。アンソニー・ホプキンス、ベン・キングズレーという2人のアカデミー賞俳優が喜々として演じている。
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渡瀬恒彦が熱演した日本のアクション映画
残念ながら、日本では公道でのカーチェイス撮影はほぼ不可能になっている。でも、かつては日本にだって派手なカーアクション映画があった。1976年公開の『暴走パニック 大激突』を紹介したい。この3月に亡くなった渡瀬恒彦が主演した作品で、追悼の意味で取り上げることにした。
渡瀬の演じる山中高志は、相棒の関 光男(小林稔侍)と銀行強盗をしている。金を稼いでブラジルに移住するのが夢だ。名古屋から大津、京都へと移動しながら、神出鬼没の犯行を繰り返す。銀行強盗はスピードが命というのが彼らの犯罪哲学で、数百万円を手にしたら警察が到着する前にクルマで逃げる。富士銀行、住友銀行など、今は存在しない銀行が登場するのが懐かしい。
神戸では第一勧業銀行を襲撃するが、致命的なミスを犯す。逃げ遅れた関がトラックにはねられて死亡したのだ。山中は「日産スカイライン2000GT」で逃げ出したが、パトカーに追跡される。ここからカーチェイスが始まるのかと思ったら、あっさり乗り捨ててしまった。物語は始まったばかりなのだ。
ヒロインは杉本美樹。『温泉みみず芸者』や『徳川セックス禁止令 色情大名』で知られる女優だから、お色気シーンもふんだんにある。ミニスカポリスまで登場するのだ。
タイトルはいささか盛り過ぎのように感じられるかもしれないが、実は作品の内容を正確に説明している。「トヨペット・クラウン ハードトップ」で逃走する山中をパトカーが追い、関の兄が乗るトラックも3輪走行で激走する。パトカーにぶつけられた一般市民も加わって、「MHK」の放送車が生中継を始めた。ラスト30分はタクシーやら暴走族やらも参加してカオス状態になる。
公道でのむちゃな撮影は『マッドマックス』の第1作を思い起こさせる。警察とのバトルを生中継するところは『バニシング・ポイント』的であり、男女の強盗という意味では『俺たちに明日はない』の要素もある。監督は深作欣二。日本が誇るべきアクション映画の金字塔的作品である。
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こんな教習所なら、ぜひもう一度通いたい
最後に癒やし系の作品を。『森山中教習所』はマンガ原作の作品で、主演はイケメン2人。野村周平と賀来賢人である。マンガとイケメンを組み合わせた映画は山ほど公開されていて、大体はアイドル女優を相手役に据えた恋愛ものだ。設定やストーリーが似通っていて見分けがつかないほどだが、これはちょっと肌合いが異なる。
ぐーたら大学生の清高(野村)は自転車に乗っていて「日産グロリア」にはねられる。運転していたのは、高校時代の同級生・轟木(賀来)。彼はヤクザの下っ端で、親分の運転手をしていた。無免許だったから事故を起こしたと考えた親分は彼を運転教習所に通わせることにし、なぜか清高も一緒に運転を習うことになる。
学校の校庭を改造して作った森山中教習所は、正式な自動車学校ではなかった。卒業しても免許は取得できず、自分で試験を受けなければならない。単なる練習コースなのだ。明らかに経営が成り立ちそうにない教習所で、彼らはひと夏の青春を過ごす。
リアリティーなどまるでないわけだが、この教習所はとても魅力的である。1台しかない教習車が「ホンダ・シティ カブリオレ」なのだ。AT仕様なのが残念だが、淡いブルーに塗られたボディーはきれいだ。内装もオリジナルのままで、千鳥格子のシートは良好な状態が保たれている。クルマ好きを養成するために、ぜひ実際の教習所でもちょっと古いクルマを教習車として取り入れたらいいと思う。
もっとうれしいのは、教官が麻生久美子であることだ。バツイチ子持ちというのは、『俳優 亀岡拓次』と同じ設定である。こんな教習所があれば、もう一度免許を取り直してみてもいい。
(鈴木真人)
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鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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