アウディA5スポーツバック2.0 TFSIクワトロ スポーツ(4WD/7AT)
あと100万円払えるのなら 2017.06.13 試乗記 美しいルーフラインを持つ4ドアクーペ「アウディA5スポーツバック」がフルモデルチェンジ。新たなデザイン、そして先進装備を数多く搭載した“2代目”の実力を検証する。まずは流麗なプロポーションに感心
奇数の名称が与えられたアウディの作品――。それは、古くからの偶数名称の基幹モデルに対して、それらとは一線を画した、既成概念にとらわれない新たなキャラクターを求めた存在。
「あれ? だったら自ら“♯型破る”とキャッチフレーズを掲げる、最新の『Q2』はどうなるの!?」という声も聞こえてきそう。実はこのブランド、昨今はニューモデルめじろ押しで“名前の取り合い”が激しく、もはや思い通りのネーミングが使えなくなりつつある……などという内部事情も聞こえてくるのだ。
そんな話題は別として、基本的には“奇数名称”のアウディ車が、新たな価値の創造を目指して開発されてきたのは間違いない事柄。
ということで、「2ドアクーペ」に、そこから派生した「カブリオレ」、そしてファストバックプロポーションの「4ドアクーペ」という3つのボディーで構成される「A5」シリーズも、やはり以前からのラインナップに新風を送り込むべく生み出された、アウディラインナップの中にあっては若いキャラクターの持ち主だ。
ここに取り上げるのは、そんなシリーズ中からアウディの流儀でスポーツバックなる愛称が与えられた、大型のハッチゲートを備えた4ドアモデル。そう、先に4ドアクーペと紹介したのは、“5ドアハッチ”とも言い換えることができるこのボディーのこと。
とはいえ、ルーフラインがなだらかな下降線を描きつつ、ほとんど段差のないテールエンドへと収斂(しゅうれん)されるさまは、やはりクーペそのもののシルエット。まずはそんな見事に流麗なプロポーションに、骨格のベースとなったA4セダンとは異なる価値が見いだせる。
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気になる後席の使い勝手は?
リアドアを持たず開口見切り線が少ないゆえ、サイドビューのすっきりとスリークな印象では2ドアクーペに分がある。一方で、後席乗降時の利便性、フロントドア長が抑えられたことで狭いスペースでの前席乗降性など、日常シーンでの実用性は明確に上回るのが、こちらスポーツバックの特徴でもある。
もっとも、いざ購入を検討という場面では、2ドアクーペと比べるのはまれで、むしろ気になるのは「A4セダン」でもあるはず。
ということで比較対象をそちらに移すと、やはり明らかな差を実感するのは主に後席の使い勝手だ。
フロントパッセンジャーの頭上部分を頂点に、そこから下降を続けるルーフラインを避けるため、リアドア開口部の天地寸法に制約を受けてしまうのは、こうしたプロポーションのボディーの宿命。加えて、全幅に対してキャビン幅が小さめで、それゆえにシート位置も車両センターに寄せられるため、セダンに比べれば乗降時にどうしても“アクロバティック”な姿勢を要求されるのがこちらスポーツバックでもある。
一方で、ボディーサイズの割にニースペースがタイトという印象を受けるものの、ヘッドスペースにはそれなりの余裕があり、ひとたび乗り込んでしまえば大人が長時間を過ごすことにさほどの無理はない。
いずれにしても、「そのパッケージングは“2+2シーター”に近く、頻繁に後席を使用する可能性があるならばオススメなのはA4セダン」という、予想通りの帰結となった。
ちなみに、やはりルーフラインの影響で高さ方向に制約はあるものの、ラゲッジスペースは意外なほどに使いやすいデザイン。水平に近い角度で設置されたテールゲートが大きく開くことで、ラゲッジフロア上に“荷物を真上から出し入れしやすい”というのがその理由だ。
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試乗車はオプション満載のゴージャス仕様
いまだディーゼルモデルの導入が実現せず、メルセデスやBMW、あるいは昨今のボルボなどのライバルブランドが築き上げた、輸入ディーゼル車のブームに加わることができないでいる日本でのアウディ。フルモデルチェンジを受けて販売が開始された新型A5シリーズも、残念ながらその例外ではない。
独立した車名が与えられるものの、事実上はシリーズの頂点に位置する3リッターのV型6気筒ターボガソリンエンジンを搭載する「S5」を別格と考えると、一部チューニングが異なるとはいえその他のモデルに積まれる心臓が、すべて2リッターの4気筒ターボガソリンエンジンに限定されるというのは、ちょっと寂しいところ。
海外での試乗機会を通じてその高い実力を知るゆえ、あらためてディーゼルモデルの導入も熱望しつつ、今回テストドライブしたのは、前述の2リッターエンジンの中にあっても“ハイパワー版”と位置付けられる、最高252psを発するエンジンを、7段DCTとの組み合わせで搭載した「2.0 TFSIクワトロ スポーツ」だ。
そんなグレード名からも明らかなように、4WDシャシーを用いるこのモデルは、スポーツシートやスポーツサスペンションなどを標準で採用した、シリーズ中でもスポーティーなキャラクターを強調する一台。
今回の個体は専用デザインのボディーキットやブラックのヘッドライニング、マトリクスLEDヘッドライトやLEDリアコンビネーションランプなどからなる「S lineパッケージ」、さらに「セーフティーパッケージ」や、前出スポーツサスペンションに代えての受注生産扱いとなる「ダンピングコントロール付きスポーツサスペンション」などもオプション装着したゴージャス仕様。
結果、そのトータル価格は811万5000円と、本体価格である686万円から跳ね上がることになっていた。
十分な動力性能を備えているが……
前述の4WDシャシーに加えて、多くのオプションを含めた大量の装備群を備えることを考えれば、1.6tそこそこという車両重量は「意外に軽い」と評するべきか。いずれにしても、そこに最高出力252psと、1600rpmにして370Nmの最大トルクを発する心臓を組み合わせるのだから、基本的な動力性能はそうしたスペックから察することができる通り、十二分な活発さだ。
ただし、そうした絶対的な加速力とは別にちょっと気になったのは、アクセル操作に対する期待値と、実際の加速がややリニアさに欠ける印象を受けたこと。“ドライブセレクト”によって選択する走行モードに関わらず、時に加速力が期待値に及ばず、だからとペダルを踏み増すと次の瞬間に思わぬ加速力が発生してしまう……と、極端にいえばそんな印象だ。
リニアさに欠ける、といえばステアリングフィールにも同様の傾向を感じないこともない。路面とのコンタクト感はやや希薄で、パワーアシスト感も少々人工的。こちらでも、「もうちょっとリニアリティーが高まってくれれば」と、そうした印象を受けることになってしまったのだ。
タイヤ転動時のゴロゴロ感が強めで、50km/h付近をピークとした空洞音も大きめ。巨大なテールゲートが“太鼓効果”をもたらすのか、時に路面の凹凸を拾ってのドラミング風低周波ノイズも耳に感じる……と、同じメカニカルコンポーネンツを用いるA4セダンに対して、なぜかノイズ面でもビハインドを感じてしまった、というのも正直なところ。
ひょっとして、このモデルとは“馬が合わなかった”のか……などと考えていると、先日、本国ドイツでテストドライブを経験したS5では、こまごまと述べてきた上記のようなネガは、まったく気にならなかったことを思い出した。
はるかに強力な心臓を積むので、より速いのは当然。それよりも走りの質感すべてが明確により上質で、かつリニアリティーに富んだものだったのだ。
う~ん、もしかして今回は“担当”を間違ってしまったか!?
「コレ」に800万円超を用意するなら、あと100万円を頑張ってS5を検討することをオススメします……。
(文=河村康彦/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
アウディA5スポーツバック2.0 TFSIクワトロ スポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4750×1845×1390mm
ホイールベース:2825mm
車重:1610kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:252ps(185kW)/5000-6000rpm
最大トルク:370Nm(37.7kgm)/1600-4500rpm
タイヤ:(前)245/40R18 93Y/(後)245/40R18 93Y(ピレリ・チントゥラートP7)
燃費:16.5km/リッター(JC08モード)
価格:686万円/テスト車=811万5000円
オプション装備:オプションカラー<マタドールレッド>(8万5000円)/セーフティーパッケージ<サイドアシスト+プレセンスリア+パークアシスト+サラウンドビューカメラ+コントロールコード+リアサイドエアバッグ>(21万円)/S lineパッケージ<S lineバンパー+ドアシルトリムS lineロゴ+S lineエクステリアロゴ+ヘッドライニングブラック+デコラティブパネルマット ブラッシュトアルミニウム+アルミホイール 5ツインスポークスターデザイン8.5J×18+スプリントクロス・レザーS lineロゴ+マトリックスLEDヘッドライト+LEDリアコンビネーションライト+ヘッドライトウオッシャー+コントロールコード>(44万円)/ダンピングコントロール付きスポーツサスペンション(14万円)/バーチャルコックピット(7万円)/Bang & Olufsen 3D アドバンストサラウンドシステム(17万円)/ヘッドアップディスプレイ(14万円)
テスト車の年式:2017年型
テスト車の走行距離:2987km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:290.0km
使用燃料:26.7リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:10.8km/リッター(満タン法)/10.6km/リッター(車載燃費計計測値)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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