第425回:「壊れない日本車」はこうして生まれる
「日産NV350キャラバン」の開発現場を取材
2017.07.13
エディターから一言
拡大 |
ビジネスユースはもちろん、レジャーや趣味のお供としても高い支持を集める日産のワンボックスカー「NV350キャラバン」。同車の開発を担う日産車体への取材を通し、世界中で支持される「壊れない日本車」の秘密を知った。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
ハイエースの牙城を崩すべく
日産キャブオーバーバンのNV350キャラバン(以下、NV350)がマイナーチェンジを受けた。エンジンやシャシー、車体構造などの走りにかかわる部分に変更はないが、メッキ面積を拡大したフロントグリル、アラウンドビューモニターやスマートルームミラー、オートエアコン、バックドアクロージャーなどが今回のマイチェンの目玉らしい。
つまり、唯一の宿敵である「トヨタ・ハイエース/レジアスエース」にゆずっていた部分で追いついて、もともと勝っていた部分はさらに引き離す……というのが、新しいNV350のねらいということだ。
国内同市場でかつて4割あった日産のシェアは、2004年に現行ハイエース/レジアスエースが登場してから1~2割に急落。2012年にNV350へフルチェンジしてからは25%前後にまでV字回復したものの、それ以上にはなかなか伸びず、“ハイエースの牙城”を打ちくだくまでにはなっていないのが現実である。冷静客観的にいって、NV350がハードウエアでハイエース/レジアスエースに負けている部分は皆無に近いのだが、これがブランド力というものだろう。
……といったことはともかく、今回のマイチェンに合わせて、日産は「NV350の開発現場を見てみませんか?」という取材会を開催した。その案内に応じて訪れたのは日産自動車……ではなく「日産車体株式会社」である。
自動車産業に詳しい人なら知っている人も多いはずだが、NV350を実際に設計開発して生産しているのは、日産自動車ではなく、日産車体である。
日本の自動車産業を支える“完成車メーカー”
大手自動車メーカーが、クルマの開発を丸ごと請け負う完成車メーカーを傘下・系列にもつケースは少なくない。中でも、日本で圧倒的に多くの完成車メーカーを抱えているのは、いうまでもなくトヨタである。
トヨタ系列の完成車メーカーには豊田自動織機、トヨタ車体、トヨタ自動車東日本(旧関東自動車工業)などがある。さらに「トヨタ専売商品を供給する」という意味でいえばダイハツや日野も同様だし、スポーツカーの「86/BRZ」のケースにかぎれば、スバルもほぼ同じ機能を果たした。
最初の3社とダイハツ/日野/スバルとのちがいは、意地悪にいえば“自前の販売網をもって、自社銘柄商品を売っているか否か”だけである。
日産もかつてはトヨタに次ぐ系列大国を形成していたが、20世紀末の“経営危機→ルノーとの資本提携”のおりに、ルノーから送り込まれたカルロス・ゴーン氏が、サプライヤーも含めて系列企業の大半を整理した。
そのときに「日産ディーゼル(現UDトラックス)」とは資本関係を解消した日産も、小型商用車を得意とする日産車体だけは手元に残して現在にいたる。当時の“日産ディーゼルを手放したゴーン氏が、なぜ日産車体は残したのか?”という疑問は、その後の日産が「NVシリーズ」と称して小型商用車に力を入れはじめたことで合点がいった。
大手傘下の完成車メーカーのなかには、商品企画部門やデザイン部門といった“商品開発のキックオフ機能”までをもつ場合もあるが、日産車体にそれらの機能はない。日産の企画やデザインを受け取って、それを商品として実際のカタチにして、それを生産して日産に卸す……までが日産車体の役割である。
かつてはあのスポーツカーも生産していた
日産車体と聞いて、条件反射的に「フェアレディ」を思い浮かべるスポーツカーマニアも多いかもしれない。1963年の2代目(SP310系)から4代目(Z32)が2000年に生産を終えるまで、フェアレディは一貫して日産車体の製品だったからだ。
しかし、先代(Z33)からは開発も生産もすべてが日産自動車に移された。現在はフェアレディも「スカイライン」や「フーガ/シーマ」「GT-R」などとともに、日産のひとつの部門が担当して、すべてを日産の栃木工場で生産している。このように日産と日産車体で分散していた乗用FR事業をひとつにまとめたのも、実はゴーン改革の一環だった。
というわけで、現在の日産車体はヘビーデューティーな商用車やSUV、ミニバンに特化した企業になった。そんな日産車体が現在手がける日産車には、NV350のほか、日本で販売されるものでは「エルグランド」「NV150AD/ウイングロード」「NV200」などがある。
さらに、かつて日本でも「サファリ」として知られた本格クロカン4WDの「パトロール」と、その兄弟車である「インフィニティQX80」や「日産アルマーダ」も日産車体。もっというと、マイクロバスの「シビリアン」や小型トラックの「アトラス」も日産車体系列の製品である。
やけに前置きが長くなってしまったが、今回見せていただいたのは、その日産車体におけるNV350の開発実験現場(のごく一部)である。
商用車の“命”である耐久性を徹底検証
最初に見せていただいた“ドア開閉耐久試験”では、自動化された特製のドア開閉マシンがNV350のスライドドアの開閉を繰り返していた。こうして実際に延々と開閉させながら、荷重センサー、ひずみセンサー、加速度センサーなどを使って、ドア機構や車体の劣化や変化を観察するのだという。これと同様のテストを、もちろんフロントドアやバックドアでも行っており、商品の耐久性を担保するわけだ。
NV350の具体的な耐久基準は最大の企業秘密だそうだが、「たとえば都市部での宅配ですと、一日の開閉回数が70回を超えることもあります。それで1~2年でダメになっては話にならないわけで……」という担当者の弁から推測すると、おそらくは“ウン十万回!”というレベルなのだろう。
続く“耐熱走行試験”は、最高気温55℃、最高湿度90%まで上げられる耐熱試験室で、シャシーローラーを使って実走行を模したテストである。同試験室では日射や走行風も再現可能で、主に過酷な条件下でのオーバーヒート対策などの開発と確認をおこなう。
また、“環境試験”に使われる巨大冷温庫(走行はできない)では“最高90℃、最低-40℃”という劣悪環境下での樹脂部品の劣化などを確認するという。
さらに実際のテスト走行での入力パターンを再現して、その振動をクルマに自動的に与え続ける“加振試験”は、車体の耐久性や強度(剛性ではない)を確認するためのものだ。ここでは最終的に車体がゆがんだり、スポット溶接が剝がれたり、あるいは車体の鉄板に亀裂が入ったり……までの耐久性と強度を試す。
ただ、実際の加振試験では先にサスペンションがオーバーヒートして音を上げるそうで、適度なインターバルを置きながらの作業になるそうだ(もちろん、サスペンションはサスペンションで、別メニューで試験する)。
■加振試験を受ける「日産NV350キャラバン」
“壊れない日本車”を作り上げる地道な作業
最後はテストコースに移動して走行試験をいくつか見せていただいたが、それもまた腕利きテスターが華麗なドリフト走行をかまして……といったものではない。そこにあったのは、石畳(≒加振)や左右で異なる波状路(車体をねじる)、急勾配(駆動系にキツい)……といった苛烈(かれつ)なメニューを黙々とこなしていくNV350の姿だった。
クルマの開発試験で、われわれマニアが心を躍らせるような類いのものは、じつはごく一部でしかない。その大半はこうした地道(だが、ユーザーの生命・財産を守るという意味で、操縦安定性や高速動力性能よりずっと重要な)耐久試験である。
この種の耐久試験では、日産車体も含めた日産の厳格さと過酷さは以前から定評がある。以前、パトロールの元開発担当氏にお会いする機会があったが、ヒゲ面が印象的だった彼も、現役当時「どこそこで不具合」という連絡があれば、即座にアフリカだろうがなんだろうが飛んでいって……という生活をしていたという。
「日本車は壊れない」という涙が出るほどありがたい神話は、実際にはこういう地道な努力の積み重ねから生まれたものである。
もちろん、今回は日本車神話を支える秘密のごくごく一部であり、より充実した日産の施設を借りての試験もたくさんおこなわれているそうだ。しかし、さすがは日産ブランドでもヘビーデューティー製品を得意とする日産車体だけに、こうした地道な試験が大得意なのだ……という話である。
ちなみに、NV350でももちろん操縦安定性などの試験も入念におこなわれているし、少なくともシャシー性能ではNV350は宿敵を確実に上回っていると思う。というわけで、“ハイエースのデザインで中身がNV350”が、キャブオーバーバンの個人的な理想像である……って、失礼しました!
(文=佐野弘宗/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
-
第875回:キモは氷上性能! ダンロップの新しいスタッドレスタイヤ「ウインターマックス アイスプロ」を試す 2026.7.1 違いは氷の上で表れる! ダンロップの新しいスタッドレスタイヤ「WINTER MAXX ICE-Pro(ウインターマックス アイスプロ)」に、冬の北海道で試乗。氷上性能を徹底的に追求したという新製品の、パフォーマンスの一端に触れた。
-
第874回:自動運転からワイパーまで! 自動車を支えるメガサプライヤー ボッシュのあくなき挑戦 2026.6.27 世界屈指のメガサプライヤー、ボッシュが開発中の新技術を披露! 市街地での高度な運転支援技術に、日本の方言にも対応した対話型AI、サーキット走行のノウハウを教えてくれるコーチング機能等々……興味深いその中身をリポートする。
-
第873回:ウエット路面に強み ミシュランの新タイヤ「パイロットスポーツ5エナジー」と「プライマシー5エナジー」を試す 2026.6.19 2026年1月29日に導入が発表されたミシュランの新製品「パイロットスポーツ5エナジー」と「プライマシー5エナジー」。これまでの特徴に加え、低燃費性能や耐摩耗性、ウエットグリップ性能のアップをうたう両モデルの走りを、クローズドコースで確かめた。
-
第872回:「フォレスター」がJNCAPで最高評価を獲得! “安全”に対するスバルの不断の取り組みに迫る 2026.6.6 相対速度100km/hの衝突後でも、普通にドアが開く!? 人気のSUV「スバル・フォレスター」が、日本の自動車アセスメントで最高評価を獲得した。安全なクルマづくりを第一とするスバルの取り組みを、群馬製作所で行われた衝突試験デモの様子とともにリポートする。
-
第871回:今年もグリーンヘルは熱かった! ニュルブルクリンク24時間レース観戦記 2026.5.27 “世界一過酷な草レース”として知られ、今年も波乱が巻き起こったニュルブルクリンク24時間レース。F1王者のフェルスタッペンも参戦するとあって、大いに盛り上がったその様子を、世界を飛び回るモータースポーツカメラマンが臨場感満点でリポートする。
-
NEW
北米産の800万円級SUV「トヨタ・ハイランダー」「日産ムラーノ」「ホンダ・パスポート」で一番“買い”なのはどれか?
2026.9.4デイリーコラム特例により国内導入されることになった北米生産のジャパニーズSUVは、3車種ともにサイズと価格帯が接近している。では、そのなかで最も“買い”なのは? それぞれの仕様を見比べてみた。 -
ホンダがコンセプトモデル「アキュラ・ネクセラ ビジョン」を発表 次世代デザインを読み解く
2026.9.3デイリーコラム本田技研工業の米国現地法人アメリカン・ホンダモーターが、アキュラブランドの次世代デザインを示すというコンセプトモデル「ネクセラ ビジョン」を初公開した。バタフライドアを採用するこのスポーツカーは、次世代アキュラの何を表現しているのか。 -
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(後編)
2026.9.3あの多田哲哉の自動車放談ワインディングロードで新型「BMW iX3」のステアリングを握った多田哲哉さんは、その走りに感心した様子。どんなところが優れているのか、トヨタのエンジニアの視点で語ってもらおう。 -
新型「三菱パジェロ」の外装・内装を写真でチェックする
2026.9.2画像・写真5年間のブランクを経て、三菱のフラッグシップSUV「パジェロ」がついに復活! 「グランドカリスマ -泰然自若-」をコンセプトにデザインされた本格クロスカントリーモデルは、どのような姿をしているのか? 内外装の詳細を、写真で紹介する。 -
復活の決め手はこっくりさん!? 新生「三菱パジェロ」誕生の経緯とその狙い
2026.9.2デイリーコラム5年間の沈黙を経て、ついに登場した新型「三菱パジェロ」。スリーダイヤモンドが誇る荒野のフラッグシップは、いかにして復活を遂げたのか? 開発の経緯や内外装デザインの詳細、パワートレインに見るクルマの“狙い”をリポートする。 -
第127回:新型BMW X5(後編) ―迷走するBMW 結局アナタは“ノイエクラッセ”でなにがしたかったの?―
2026.9.2カーデザイン曼荼羅その姿が明らかとなるや、賛否両論を巻き起こしている新型「BMW X5」。このクルマは既存のBMW製SUVとはなにがちがうのか? そもそもBMWは“ノイエクラッセ・デザイン”になにを託していたのか? カーデザインの識者と、迷走するBMWの明日を探った。
















































