アウディTT RSクーペ(4WD/7AT)
ただの高性能車じゃない 2017.07.25 試乗記 「アウディTTクーペ」のハイパフォーマンスバージョン「TT RSクーペ」がフルモデルチェンジ。最高出力400psの5気筒エンジンや新開発プラットフォームを得た新型は、どんな走りを見せるのか。市街地からワインディングロードまで、さまざまな道で試した。パワーも価格も最高の一台
ETC車載機の場所を聞いて、ドアを閉め、エンジンをかけようとしたら、始動ボタンが見当たらない。歩道に出たアウディのスタッフが環八通りのクルマを止めて、手招きをしている。アセる。いつものようにセンターフロアの上を探しても、ない。と思ったら、発見! 真っ赤なスターターボタンが小径ハンドルのスポーク右側に付いていた。フェラーリか。
TTクーペのトップガン、RSもフォルクスワーゲン グループのMQBプラットフォームベースの新型に生まれ変わった。TTシリーズが3世代目の現行型に切り替わったのは2014年。アウディのレース部門、アウディスポーツGmbHが手塩にかけた別格高性能モデルの登場は、それからまる3年待たされたことになる。
6年ぶりに刷新されたTT RSだが、2.5リッター5気筒ターボというスペックは受け継がれた。といっても、中身は新設計で、ブロックはアルミ化され、クランクシャフトからオイルポンプまで軽量化が施されて、エンジン単体で26kg軽くなった。
最高出力は340psから400psに向上している。そのほか、くわしい内容は既報のニュースをお読みいただくとして、新型RSが史上最強のTTであることは間違いない。価格も史上最高で、TT RSクーペは962万円。1000万円級のTTクーペに成長した。
タウンスピードでも楽しめる
いいクルマは、動きだした途端からいい。環八通りを走り始めて感じたTT RSのよさは、“軽さ”である。1490kgの車重はアルミスペースフレーム時代の先代より10kg軽くなったが、乗り心地や身のこなしは、もっと軽くなった印象だ。TT RSというよりも「TTライトウェイト」と名乗ったほうが、乗り味をよく表すと思う。
20バルブの5気筒エンジンも軽いが、4気筒のようにサラッと滑らかではなく、ちょっとイビツなビートがある。それがTT RSの“らしさ”のひとつといえる。乾いた排気音もいい。
ギアボックスはパドルシフト付きの7段Sトロニック。今回から、生産されるのはこの2ペダル変速機モデルのみになった。
TT RSのようなライトウェイト感覚があると、タウンスピードで普段使いしていても楽しいし、楽しめる。とはいえ、全力加速は禁断の蜜の味だ。フルスロットルでスタートダッシュを試みると、フルタイム四駆のクワトロなのに、一瞬、フロントが浮いたかと思うほどのロケット加速をみせる。それもそのはず、0-100km/hは3.7秒。ゼロヒャクが4秒をきるとスーパーカーだというのが個人的な認識で、4秒台前半の「ポルシェ718ケイマンS」や「BMW M2クーペ」に明確な差をつける。
ただ、試乗車はスロットルのオンオフで変速機からコツコツと音が出がちだった。同じパワーユニットを搭載する「RS 3」にはまだ乗ったことがないが、コンフォートよりも加速性能を取った結果としてこういうものなのか。試乗車だけの問題であれば幸いだ。
デートに使って問題なし
エンジン、変速機、磁性流体ダンパー、電動パワーステアリングなどの特性をひとまとめに変えられるアウディドライブセレクトは、コンフォート、オート、ダイナミックの3種類。スイッチはスタート&ストップボタンと対称のハンドルスポークに備わる。アウディで一番ドライブセレクト機能を使いやすいクルマである。エコモードはないが、今回の走り方をしても、燃費は約9km/リッターをマークした。
計器盤はアウディバーチャルコックピットにアップデートした。アナログ計器を全廃した高精細液晶の電子メーターだ。RSの新趣向はパワー/トルクメーターで、出力とトルクがリアルタイムに表示される。0~100のパーセンタイル表示なので、わかりやすい。
平たんな高速道路を7速トップの1800rpmで巡航していると、パワーは7%、トルクは22%。せいぜいそんなものである。400psのうち30psも使っていないのかと知って、愕然(がくぜん)とする。ある意味、宝の持ち腐れメーターである。
一方、両方のメーターに100を出すような運転は、あくまでサーキット限定にしたほうがいい。ただ、RSらしい使い方をしていても、決してモンスター的なアナーキーさは見せない。ダイナミックモードでもマグネティックライドの乗り心地は快適さを失わないし、エンジンや変速機が度過ぎてレーシングライクになるわけでもない。十分、デートカーになる。そのへんは、最近のアウディRSに共通のしつけである。
実用的なレーシングカー
撮影はたまたま新型「ゴルフGTI」と同じときに行った。GTIだってもちろんGTIだが、TT RSクーペをたっぷり味わった直後に乗ると、エッ、こんなに鈍重だっけ!? と感じ、TT RSは実用レーシングクーペだと思った。
TTクーペでふと忘れがちなのは、ボディーの実用性の高さである。後席は大人が座る用としては使えないが、物入れとしては広い。クーペといってもテールゲート付きで、しかもガバッと広い開口面積で開き、後席の背もたれを倒して床をフラットにすれば、荷車としても侮れない。ルーフが低いため、嵩(かさ)モノは無理だが、27インチのロードバイク(自転車)が寝かせて積める。ミドエンジンの718ケイマンや、テールゲートのないM2クーペにはできない芸当だ。
“乗り出し”だと1000万円を超す価格は、TTクーペ史においても冒険価格だと思うが、718ケイマンSより50psパワフルで速いのに、60万円以上安いという見方もできる。なにより、400psの四駆という濃厚なメカを感じさせない乗り味の軽さが、TT RSクーペの魅力だと思う。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=峰 昌宏/編集=関 顕也/取材協力=河口湖ステラシアター)
テスト車のデータ
アウディTT RSクーペ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4190×1830×1370mm
ホイールベース:2505mm
車重:1490kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.5リッター直5 DOHC 20バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:400ps(294kW)/5850-7000rpm
最大トルク:480Nm(48.9kgm)/1700-5850rpm
タイヤ:(前)255/30ZR20 92Y/(後)255/30ZR20 92Y(ピレリPゼロ)
燃費:11.7km/リッター(JC08モード)
価格:962万円/テスト車=1141万円
オプション装備:オプションカラー<マコウブルークリスタルエフェクト>(15万円)/アシスタンスパッケージアドバンスト<クルーズコントロール、アウディサイドアシスト、アウディアクティブレーンアシスト、リアビューカメラ、アウディホールドアシスト>(28万円)/アウディマトリクスOLEDリアライト(12万円)/7スポークローターデザイン マットチタニウム9J×20(24万円)/セラミックディスクブレーキ<フロント>(66万円)/Bang & Olufsenサウンドシステム(13万円)/ファインナッパレザーRSロゴ エクステンデッドレザーパッケージ(21万円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:1679km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:228km
使用燃料:26.3リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:8.7km/リッター(満タン法)/9.1km/リッター(車載燃費計計測値)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
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