アウディTT RSクーペ(4WD/7AT)/RS 3セダン(4WD/7AT)/RS Q3(4WD/7AT)/R8クーペV10パフォーマンス5.2 FSIクワトロSトロニック(4WD/7AT)
感服ときどき哀愁 2020.12.16 試乗記 アウディのモータースポーツ活動を担い、そこで得た知見をもとに特別なハイパフォーマンスモデルを開発するアウディスポーツ。彼らが手がけた3台のRSモデル「TT RS」「RS 3セダン」「RS Q3」と、スーパーカー「R8」を、富士スピードウェイで試した。こんなところにもコロナの影響が
アウディの各モデルにおいて、最もハイパフォーマンスなグレードとなるRSシリーズ。その“ほぼフルラインナップ”試乗会が、2020年のSUPER GT最終戦の翌々日に、富士スピードウェイで開催された。
ほぼフルラインナップ、なんて持って回った言い方をしたのは、SUPER GTの決勝日に発表された「RS 6アバント」「RS 7スポーツバック」そして「RS Q8」が用意されてはいなかったからだ。当然、アウディ ジャパンもこの日のために新型RSシリーズの導入を予定していたのだが、どうやらコロナ禍がそれを許さなかったようだ。
ということで、今回は既存のRSシリーズのみの試乗となったのだが、あらためてそのよさを確認できたので、これを皆さんにお伝えすることとしよう。
まず筆者がステアリングホイールを握ったのはTT RS。その心臓に2.5リッター直列5気筒直噴ターボ(400PS/480N・m)というユニークなエンジンを搭載する、アウディで一番コンパクトな4WDクーペである。
与えられた周回数は、アウト/インラップを含めて3周。冬場の国際コースだけに、先導車によって車速をコントロールされながらの走行となった。アウトラップの1コーナー、ブレーキングからステアリングをゆっくり切り込むと、TT RSのリアタイヤがスーッと流れて一瞬「おぉっ!」となった。
しかし、その瞬間にDSCがわずかに働いて姿勢を正す。その動きにアクセルを追従させると、4WDのトラクションを効かせながら、TT RSは何事もなかったかのようにコーナーを立ち上がっていった。カウンターを当てる必要すらなく、真っすぐに先導車である「RS 5スポーツバック」を追いかけ始めたのである。
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間口の広いコンパクトスポーツ
この回頭性のよさと、スタビリティーの高さの両立は、TT RSの大きな武器だ。タイヤが温まるほどにステアリングから伝わる接地感もダイレクトになり、ターンインがスパッと決まるようになる。ターン後の姿勢は弱アンダーステアであり、スロットルでさらに姿勢を安定させられるから、ハイスピードコーナーも安全にチャレンジすることができる。
セクター3のツイスティーなコーナーでは、4WDのトラクション性能が最大限に生きた。ブレーキングでしっかりとノーズを入れてしまえばこちらのもの。多少横Gが残っている状態でもアクセルを踏み込めば強いトラクションが生じ、狙い通りにクリッピングポイントをかすめることができる。これがすこぶる楽しく、登り勾配でも450PSのV6ターボを積むRS 5スポーツバックとの距離を縮めることができた。
しかし最終コーナーからの加速勝負では、先導役の鬱憤(うっぷん)を晴らすかのように速度を乗せるRS 5に引き離されてしまった。立ち上がり加速ではいい勝負をしたのだが、中間加速以降の差は圧倒的。そしてパナソニック看板を過ぎ、220km/hを超える頃にはスローダウンの無線が入った。
TT RSを一般道で試乗すると、その足まわりのスパルタンさをちょっとトゥーマッチに感じる。しかしこうした環境、こうした速度域で乗ってみると、その軽やかな身のこなしと極めて安定したシャシーのしつけに、納得がいった。
どうやら、「アウディTT」はこの世代でひとまず終わりを迎え、次世代のコンパクトクーペは「フォルクスワーゲンID.3」とプラットフォームを共用する電気自動車になるようだ。そう考えるとガソリン世代最後のハイパワーコンパクトクーペとして、TT RSを今選ぶのは悪くない。「ポルシェ718ケイマン」や「BMW M2クーペ」よりもはるかに穏やかで間口の広い操縦性は、多くのアマチュアドライバーにスポーツドライビングの楽しさを提供してくれるはずである。
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スポーツセダンの模範のような走り
この後に試乗したRS 3セダンとRS Q3は、TT RSとコンポーネンツを同じくしたセダンとSUVだ。よって基本的な車両特性は同じであり、純粋な運動性能だけにフォーカスすれば、クーペボディーであるTT RSが一番スポーティーに走れる。
しかしながら、RS 3セダンで言えば、「A3セダン」にこの直列5気筒とクワトロを組み合わせたパッケージング、そのトータルパフォーマンスの高さは、本当に素晴らしい。コンパクトなCセグメントセダンならではのスポーティネスを、大きく引き出すことに成功している。
まず感心するのは、その加速力によってクルマが軽く感じられることだ。そしてTT RSよりも若干ナローで腰高なボディーを支えるべく固められたサスペンションによって、コーナーではむしろTT RSよりもキビキビ感が際立つ。
ブレーキング時の踏ん張り感は力強く、切り込むほどによく曲がっていくステア特性も大人びている。125mm長いホイールベースはコーナーでの挙動を安定させてくれるし、ターンアウトではクワトロのトラクションがしっかりかかる。全体的なキャラクターは、完全な安定志向。しかしすべてのアベレージが非常に高いため、それを退屈に感じない。RS 3セダンは誠に玄人好みな一台である。
スポーツセダンのお手本のようなRS 3に乗ってしまうと、SUVのRS Q3は見劣りがするかと思ったのだが、こちらもフットワークのまとめ方が非常にうまかった。100Rのような高荷重コーナーでもロールが少なく車両は安定。タイトコーナーではしなやかにリアサスを伸ばしながらアンダーステアを相殺。冗談みたいだがとても気持ちよく、重心の高いSUVボディーで富士スピードウェイをハイスピードドライブできてしまうのである。
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ミドシップならではのパフォーマンスの高さ
ただ、サーキットレベルの荷重でこれほどのしなやかさとなる“足さばき”だと、オープンロードではかなり硬めな乗り味になるだろう。SUVとしてそれを許せるか、楽しめるか。それがRS Q3を気に入るか否かのひとつの分かれ目になる気がする。
またRS Q3に限らず残念なのは、今回のような全開率の高いシチュエーションだと、この直列5気筒のキャラクターがさほど鮮明に感じられないことだ。確かに、1気筒増えた分だけ2リッターTFSIよりもその出力特性はパワフルでトルクフルなのだが、高回転まで回しても個性が際立つことはない。むしろこのエンジンは、常用域のほうが、そのなんともいえない独特な吸排気サウンドを楽しむことができるだろう。
最後は、これもアウディスポーツの手になるスーパーカー、R8のインプレッションをお届けしよう。
R8はそのスタイリングも飛び切りゴージャスだけれど、なにより走りが美しかった。要となるのはドライサンプ化された5.2リッターのV10エンジン。そしてこれをミドシップすることによる重心の低さこそ、このスポーツカーにおける最大の美点である。
アウディ一族の中でも、とりわけ低い視界。ステアリングから伝わる、路面をなぞるような接地感。富士の難所であるAコーナーを鋭く切り込み、恐ろしいほどのコーナリングスピードでクリアしてしまう運動能力の高さに、本物のミドシップの実力を強烈に思い知らされた。
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ルックスはもちろん走りも美しい
一方、その進入速度とボディー剛性の高さに対し、ややフロントのサスペンション剛性が不足しており、ターンインでステアすると少しだけ挙動が乱れるのは残念なポイント。もっとも、バンプラバーやアームのブッシュを固めてしまえばロードユースでの快適な乗り心地も損なわれてしまうだろうから、ロードカーとしてはこれが正解なのかもしれない。むしろ、本気でサーキットを走れるモデルを欲すると、「GT4」や「LMS」(GT3)といった完全なクローズドコース専用車を選ばなければならないことのほうが残念だといえるだろう。
というわけで、“普通”のR8を走らせるにはちょっとした繊細さが要求される。ターンインを無事に終えた後も、雑になってはいけない。いくらクワトロがフロントを引っ張ってくれるとはいえ、コーナリングを終えないうちからラフにアクセルを踏み込めば、580N・mのトルクがさく裂して、DSCを効かせていてもリアを小刻みにスキッドさせるのである。
ただ、その緊張感はとても心地よく、V10エンジンの自然吸気サウンドに聞きほれながら集中して走っていると、先導車である「R8スパイダー」もその速度をじわじわと上げてランデブー。ホームストレートでは250km/hまでこちらを引っ張ってくれた。
挙動を乱さず、美しく走る。そこに集中することをこれほど楽しめるスポーツカーが、TT同様、将来的にはディスコンとなってしまうというのも、返す返す残念でならない。そしてたった3周とはいえ、その甘美な世界観を最後に味わえたことに感謝したい。
(文=山田弘樹/写真=田村 弥/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
アウディTT RSクーペ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4200×1830×1370mm
ホイールベース:2505mm
車重:1490kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.5リッター直5 DOHC 20バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:400PS(294kW)/5850-7000rpm
最大トルク:480N・m(48.9kgf・m)/1700-5850rpm
タイヤ:(前)255/30ZR20 92Y/(後)255/30ZR20 92Y(ピレリPゼロ)
燃費:--km/リッター
価格:1026万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2020年型
テスト車の走行距離:1445km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
アウディRS 3セダン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4480×1800×1380mm
ホイールベース:2630mm
車重:1600kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.5リッター直5 DOHC 20バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:400PS(294kW)/5850-7000rpm
最大トルク:480N・m(48.9kgf・m)/1700-5850rpm
タイヤ:(前)235/35R19 91Y/(後)235/35R19 91Y(ピレリPゼロ)
燃費:11.0km/リッター(JC08モード)
価格:869万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2020年型
テスト車の走行距離:278km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
アウディRS Q3
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4505×1855×1605mm
ホイールベース:2680mm
車重:1730kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.5リッター直5 DOHC 20バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:400PS(294kW)/5850-7000rpm
最大トルク:480N・m(48.9kgf・m)/1700-5850rpm
タイヤ:(前)255/35ZR21 98Y XL/(後)255/35ZR21 98Y XL(コンチネンタル・スポーツコンタクト6)
燃費:9.8km/リッター(WLTCモード)
価格:838万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2020年型
テスト車の走行距離:273km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
アウディR8クーペV10パフォーマンス5.2 FSIクワトロSトロニック
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4430×1940×1240mm
ホイールベース:2650mm
車重:1670kg
駆動方式:4WD
エンジン:5.2リッターV10 DOHC 40バルブ
トランスミッション:7段AT
最高出力:620PS(456kW)/8000rpm
最大トルク:580N・m(59.1kgf・m)/6600rpm
タイヤ:(前)245/30ZR20 90Y/(後)305/30ZR20 103Y(ミシュラン・パイロットスポーツ カップ2)
燃費:--km/リッター
価格:3031万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2020年型
テスト車の走行距離:778km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
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