第427回:オーストラリア大陸を北から南へ3000km!
世界最高峰のソーラーカーレースに挑む大学生に密着取材
2017.07.22
エディターから一言
世界最高峰のソーラーカーレースに参戦する大学生チームのテスト走行の様子を、webCG編集部員がリポート。気温35度の炎天下にも負けないほどの、若者たちの熱い気持ちに触れた。
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オーストラリア大陸を3000kmにわたって縦断
2017年7月15日、われわれ取材陣は栃木県那須塩原市にあるブリヂストン 栃木プルービンググラウンドを訪れた。ワールドソーラーチャレンジに参加する2チームのテスト走行を取材するためである。
ワールドソーラーチャレンジとは、南オーストラリア州政府観光局が主催し、ブリヂストン(BS)が冠スポンサーとなっている、世界最高峰のソーラーカーレースである。大学生を中心とした若手エンジニアによって競われる。1999年までは3年に1度、現在は2年に1度開催されており、今年で30周年を迎える。2017年大会は10月8日~15日にかけて行われ、26カ国から50チームがエントリーしている。
過酷なコース設定でも知られており、オーストラリアの北の端に近いダーウィンをスタートすると、南へ向かって大陸を縦断。ゴールのアデレードまで、ざっと3000kmの行程を一般のクルマに交じって走りぬける。インターネットを駆使して航空写真で確認すると、内陸部へと進むにつれて、コース周辺には原っぱと道路しか存在しなくなる。サービスエリアと書かれているところを拡大してみると、崩れ落ちそうな小屋がポツンと建っているだけだった。一体、何のサービスを受けられるのだろうか? それはともかく、レース中の宿泊は基本的に野営である。
参戦クラスは3つに分かれており、1人乗りで純粋なスピード勝負の「チャレンジャークラス」、2~8人乗車でスピードよりもエネルギー効率や実用性を問われる「クルーザークラス」、そして順位を競わず、参加することを楽しむ「アドベンチャークラス」がある。アドベンチャークラスには、過去の大会の参戦車両など、現在のレギュレーションには適合しないクルマが主に参加している。
国内での走行テストは最初で最後
今回テストに臨んだのは、工学院大学と名古屋工業大学の2チーム。いずれもチャレンジャークラスにエントリーしている。両チームともに2017年大会で使用するニューマシンのシェイクダウンを行うのだが、実はこれが国内での最終テストでもある。「え、テストってそんなもので大丈夫なの?」と思われるかもしれないが、もちろんこれには事情がある。
まず、コースである。今回のテストが行われる栃木プルービンググラウンドはBSのテストコースであり、最先端の開発現場だ。いかにサポートしている(BSは両チームにタイヤを供給している)チームとはいえ、そう頻繁にコースを明け渡すことはできない。少し語弊があるかもしれないが、“本業”をおろそかにしてまで支えることはできないのである。
次にオーストラリアまでの輸送の問題がある。さまざまな企業のサポートを受けているとはいえ、資金に余裕のあるはずのない学生チームだ。空輸などは夢のまた夢、ダーウィンまでの輸送は、当然“船積み”となる。現地での車検期間などもあるため、両チームとも8月半ばには車両を積み込まなければならないのである。
そのため今回のテストに臨むにあたり、両チームとも徹夜に近い状態で車両のセッティングを続けてきたという。「モーターが昨日届いたらしいよ」とか、「どう? 何とか走れそう?」とか、BSのスタッフとの会話の端々からも、ギリギリである様子が伝わってくる。
名工大チームにまさかのアクシデント
最初にテスト走行を行ったのは名古屋工業大チーム。現在は1年生23人、2年生7人で活動しており、ワールドソーラーチャレンジには2015年大会に続いて2度目の参戦となる。その前回大会は「無事完走」の目標を見事に達成、今大会では「上位入賞」を目標に掲げる。
ニューマシンの名前は「Horizon 17」。カタマラン(双胴船)型の車両で、空力にこだわって設計した結果、Cd値は0.1以下を実現している。学生たちに聞いてみると、マシンの仕上がりは上々とのことだ。
眺めていてどこか違和感があるなと思ったら、肝心のソーラーパネルが装着されていなかった。テストに間に合わなかったため、今日のところは大き目のバッテリーを積み込んで走行するのだとか。それでいいのか? 後日、塗装して車体を仕上げ、そのあとにソーラーパネルを貼るらしい。テストに合わせて、あわてて貼ったと思われるBSのスポンサーステッカーが生々しい。マシンは夏の日差しを受け、コースの外周路へと(バッテリーの力で)飛び出していく。
ソーラーカー部の副顧問を務める羽藤正秋(はとうまさあき)先生に、詳しく話を聞くことができた。羽藤先生は兵庫県の大学でも25年ほどソーラーカーレースに取り組んでこられた、斯界(しかい)の大ベテランである。このチームでの苦労を聞いてみると、国立大学ゆえの不便さがあるという。以前いた私立大学ではいつでも使いたいときに使えていた工具が、現在では「旋盤加工機を使う申請」「プレス機を使う申請」……と、ひとつ作業を行うだけでもひと苦労なのだとか。とはいえ、苦労といえるのはそんなもので、部員はみな積極的に活動しており、学内でのソーラーカー部の認知度も徐々に上がっているようだ。
と、ここでテスト中のHorizon 17のドライバーから無線で連絡が入る。「タイヤ、いっちゃいましたー!」。BSのスタッフがざわつき始める。なにせサプライヤーですから。ピットインした車両をチェックすると、確かに左前タイヤがパンクしているが、どうやらボディーとの干渉によるものだったようだ。タイヤに問題はなかったようで、BSの名誉は守られた。しかし、この日夕方までの取材時間のなかで、Horizon 17が再びコースに出ることはなかった。大丈夫なのか、名古屋工業大チーム!?
工学院大チームはリケジョがドライバー
一方の工学院大チームは、部員306人を数える大所帯。2度目の参戦となった2015年大会ではクルーザークラスに出場し、ぶっちぎりの1番でゴールしたのだが、エネルギー効率などを合算した総合ポイントが足りず、惜しくも2位となっている。2017年大会はチャレンジャークラスにくら替えしてきた。
リアのオーバーハングがとても長い、独特な形状を持つニューマシンの名前は「Wing」。流線形のボディーに沿わせるように、独立したソーラーパネルが装着されていて、高速走行時に風を受けて外れてしまうのではないかという感じがする。
聞けば、このソーラーパネルはボディーを通り抜ける空気の流れと同じ形に設計されていて、高速走行時にもパネルが波打ったりすることはないのだそうだ。実際、70~80km/hで走行するWing号の横をクルマで並走しながら撮影してみたが、パネルはびくともしておらず、危うい感じはまったくしなかった。
実はWing号のメインドライバーは女性である。彼女の名前は石川はるかさん。工学部機械工学科の3年生で、いわゆる“リケジョ”だ。なぜソーラーカー部に? と聞いてみると「入学してすぐに見かけて、これやってみたいって思った」そうだ。“ビビビときた”というやつである。その直感が正しかったことは、現在の活躍を見れば言をまたないだろう。チャレンジャークラスでは、ドライバーの重量は80kgと規定されており、軽いドライバーが乗る場合にはバラストを積む必要がある。何が言いたいのかというと、彼女は軽いから選ばれたのではなく、うまいから選ばれたということである。
工学院大チームは順調にテスト走行を重ねていく。ピットには、石川さんからの無線を通じたフィードバックがひっきりなしに届く。筆者の耳にも「アクセルオフすると電圧が下がります」などと聞こえてくる。これはまさに開発現場なのである。みんな真剣だ。
ワールドソーラーチャレンジには優勝商品や賞金などはなく、得られるのは栄誉のみ。具体的な見返りがなくても熱くなれるのは、やはり若さゆえだろうか。
若者たちの真剣さに心を打たれたオジサン記者は、帰りの新幹線で自らの学生時代を振り返った。競馬とマージャンに明け暮れた記憶しかないが、あれはあれで真剣にやっていたなあとも思った。見返りは求めたけど。
(文=webCG 藤沢/写真=webCG)

藤沢 勝
webCG編集部。会社員人生の振り出しはタバコの煙が立ち込める競馬専門紙の編集部。30代半ばにwebCG編集部へ。思い出の競走馬は2000年の皐月賞4着だったジョウテンブレーヴと、2011年、2012年と読売マイラーズカップを連覇したシルポート。
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