第428回:トヨタが“ホーム戦”で今季2勝目
WRC第9戦ラリー・フィンランドを現地リポート!
2017.07.31
エディターから一言
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2017年の世界ラリー選手権(WRC)も、いよいよ佳境! トヨタの“ホームグラウンド”である、フィンランドはユヴァスキュラで催された第9戦「ラリー・フィンランド」の戦いを現地からリポートする。
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地元ドライバーが有利とされる超高速コース
2017年WRCの第9戦、ラリー・フィンランドが、首都ヘルシンキから北に約3時間の場所に位置するユヴァスキュラ周辺を舞台に開催された。
超高速のグラベルステージで知られるラリー・フィンランドだが、今年は平均速度を抑制するために多数のシケインが設定されるなど、安全面への配慮が講じられた。今年から新規定のワールドラリーカーが導入され、去年までに比べて格段に速度が上がったことへの対応策である。観客へのアピール度を高めるために派手なエアロパーツを装着し、出力の向上を図った新規定のラリーカー。その導入による速度向上を問題視したFIAが、主催者に対して平均速度の抑制を要請し、その結果が今回のシケイン設置となったのだ。一見、矛盾しているようにも思えるこの措置は、今年の開幕戦でギャラリーを巻き込む事故が起こったことも一因となっているかもしれない。
とはいえ、空へ離陸するかのような勢いでマシンが宙を舞うジャンピングスポットや、“コークスクリュー”を思わせる落差の大きなテクニカルコーナーは健在。また、固く締まった路面はまるでサーキットのようでもあり、かと思えば轍(わだち)ができてきたり、前走車が掘り返した大きな岩が露出していたりと、その特殊なコースゆえに昔から「フライングフィン」と称される地元フィンランドのドライバーが圧倒的に有利といわれている。
今年18年ぶりに復帰を果たし、開幕戦のモンテカルロで2位を獲得。続く第2戦スウェーデンでのヤリ-マティ・ラトバラの優勝により、早くも“復帰初勝利”を果たしたトヨタガズーレーシング。その後も着実にポイントを獲得し、マニュファクチャラーズランキング3位、ドライバーズランキングでもラトバラが3位という順位でこのフィンランドを迎えることとなった。
フィンランド人にとってラリーは“国技”
第6戦ポルトガルからは若手のエサペッカ・ラッピをデビューさせ、3台体制となったトヨタガズーレーシング。ユヴァスキュラを本拠地とする彼らにとって、ラリー・フィンランドはまさにホーム戦である。チーム代表のトミ・マキネンは1994年から1998年にかけてフィンランドで5連勝。ラトバラも3度の優勝経験がある。フィンランド人ドライバーが圧倒的に有利といわれるラリー・フィンランドに、全員がフィンランド人ドライバーという布陣で挑むのだ。地の利を生かしてテストを重ねた彼らが、この一戦にかける意気込みは相当なものだった。
それだけではない。「ラリーが国技」ともいわれるフィンランドだけあって、大会の開催中はその様子が新聞やテレビのニュースで頻繁に取り上げられている。そこに地元を本拠地とするトヨタが参戦していることは大きな話題で、筆者が宿泊したホテルのオーナーも「トヨタには期待しているよ。ドライバーはみんなフィンランド人だしね」と笑顔で語っていた。
この国では毎週のようにどこかでラリーが開催されている。渋滞に巻き込まれたラリー車を警察車両が先導し、しかも反対車線を逆走して移動区間を走っていても、誰も文句も言わずにクルマを路肩に寄せ、声援を送っている。その姿を見るたび、いかにフィンランドにラリーというスポーツが根付いているかを思い知らされる。日本にいると全く想像もつかないことだ。
4人のドライバーが下馬評どおりの強さを発揮
ユヴァスキュラの市街地と公園内の道路を使ったオープニングステージから始まった今回のラリーは、トヨタの2人、ラトバラとラッピが終始リードする展開となった。そこに続くのが、同じくトヨタのユホ・ハンニネンと、Mスポーツの若手スンニネンだ。今回初めてワールドラリーカーで参戦したスンニネンの躍進に、皆驚きを隠せない。同時に、1位から4位までを地元フィンランドのドライバーが独占する展開は、フランス人ドライバーの活躍が続き、最近は影をひそめていたフライングフィンの面目躍如といった趣だった。
そんな4人のフィンランド人ドライバーの争いから、まず脱落したのがラトバラである。名物ステージ、オウニンポウヤの2本目でマシントラブルに見舞われ、優勝戦線から去ることとなる。一時はトヨタによる表彰台独占すら期待できただけに、残念な結果となってしまった。一方ラッピは、2位に約50秒の差をつけて順調にステージを消化。そしてスンニネン、ハンニネンの2位争いに割って入ったのがMスポーツのイギリス人ドライバー、エバンスだった。この3人による2位争いは最終日まで続くが、SS23でスンニネンがコースオフ。大きくタイムを落としてしまい、2位争いはハンニネンとエバンスの2人に絞られた。
熾烈(しれつ)な2位争いの一方で、トップのラッピはクルージングモード。とはいえ、ひとつ下のカテゴリー(WRC2)ではチャンピオンを獲得している彼も、トップカテゴリーで首位を走るのはこれが初めてのこと。過去に経験したことのないプレッシャーに襲われながら最終ステージを迎えることになった。
依然としてチームごとの実力は未知数
先にゴールしたチームメイトやライバルたち、チーム代表のマキネン、さらには詰めかけた多くのギャラリーが待ち構える中、ラッピは見事にトップを守ってフィニッシュした。トップカテゴリー参戦初年度での初優勝、そして母国での勝利に、本人だけではなくその場に居合わせた全員が興奮を爆発させていた。
一方2位では、それまで3位だったエバンスが最終ステージでハンニネンを逆転。ハンニネンはわずか0.3秒の差で3位となった。それでも、数々のチームを渡り歩き、苦労を重ねたハンニネンにとってはWRC初表彰台である。「ヤリスWRC」の開発を担当する彼に対し、マキネンをはじめとしたチーム関係者の信頼も厚い。2位を狙えただけに悔しさをにじませたハンニネンだが、彼らからの祝福に笑顔を見せていた。
絶対王者オジェがクラッシュで早々に姿を消したMスポーツ、依然として「C3 WRC」の熟成が進まないシトロエン、そして今回はタイムが伸びなかったヒュンダイに対し、地元で豊富なテストをこなし、万全の体制を整えてラリーに臨んだトヨタ。今回の優勝に「トヨタの力は本物か?」と見る向きもあるが、レギュレーションが変更され、各チームの実力が未知数なのも事実。9戦を終えて6人の優勝者が生まれ、その中のタナックとラッピはWRC初優勝という結果が、今シーズンの混戦模様を表しているといっていいだろう。
いずれにせよ、2017年のWRCも残るは4戦。王者オジェを超えるドライバーが誕生するのかどうかに、ファンの興味は集まりつつある。
(文と写真=山本佳吾)

山本 佳吾
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