第154回:伊米露の最強作品vs日本の呪い映像
夏の終わりに観たいクルマ映画DVD
2017.09.01
読んでますカー、観てますカー
クルマが示す“人間の値打ち”
丘の上にある邸宅に向かう道を、父と娘が乗った「アウディA4アバント」が走っていく。グリルが小さな2代目モデルだ。『人間の値打ち』は2010年の出来事を描いた映画だから、購入してから少なくとも5年はたっていることになる。門を入ったところでは、使用人が「マセラティ・クアトロポルテ」を磨いている。もちろん最新モデルだ。
A4でやってきたのは、小さな不動産屋を営むディーノとその娘セレーナ。邸宅のあるじであるジョヴァンニは投資ファンドを率いる経営者だ。彼の息子マッシミリアーノはセレーナと付き合っている。ショボい商売から抜け出したいディーノは、娘だって利用する。彼女をクルマに乗せて送り届けたのは、ジョヴァンニと知り合うことが目的だ。ファンドに参加すれば、年率40%の高配当を受け取ることができる。ディーノは自宅を担保にして銀行から70万ユーロを借り、ハイリスクハイリターンの投資に人生を賭けた。
資本主義社会では、金を持っているかどうかで人間の値打ちが決まる。クアトロポルテの後席から運転手に行き先を指示しているジョヴァンニは、中古のA4に乗るディーノとは住む世界が違うのだ。貧乏くさい零細企業のおやじとは話が合わないし、価値観もまるで違う。テニスの腕を買ってゲームのパートナーに選んだが、内心は見下している。
セレーナとマッシミリアーノが通う高校でパーティーが行われた夜、悲劇が起きる。給仕係の男が後片付けを終えて自転車で帰宅する途中、クルマにはねられて死亡したのだ。ひき逃げの真相をめぐるミステリーが、3人の別々の視点から語られる。犯人探しが物語の推進力となるが、真の主題はタイトルの通りだ。最後に明かされるのは、裁判所が自転車に乗る人間の値打ちを決めるという事実である。
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鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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