第519回:新型「リーフ」ついに誕生!
寝ずに待ってた欧州のファンが第一印象を語る
2017.09.15
マッキナ あらモーダ!
みんなこの日を待っていた
新型「日産リーフ」が2017年9月6日に発表された。
これまでボクは、欧州各地の初代リーフオーナーに会うたび、「新型はいつ登場するの?」「航続距離は?」などと聞かれた。「私は『ニューモデルマガジンX』ではないッ」と言いたくなるのをこらえたものだ。
そのくせ、発表前日になるとおせっかいな性格がむくむくと頭をもたげ、「明日は日本で新型リーフの発表がありますよ」と彼らに連絡を入れてしまった。
するとどうだ。彼らからは軒並み同じ返事が返ってきた。
「うん、もちろん知ってるよ」
イタリアやフランスのリーフオーナーは、ウェブ上のフォーラムなどを通じて日々情報を共有しているのだ。
そのうち数人は「今夜は途中で起きて、日本からのライブストリーミング動画を見るよ」という。彼らにとっては、アップルの新型「iPhone」発表会に相当するイベントなのであった。
彼らに印象を聞く前に、まずは欧州の自動車情報サイトをチェックしてみた。
フランスの『ロト・ジュルナール』はトップ扱いで、それは2日後の2017年9月8日まで続いた。
同じフランスの『オトピリュス』は2段目、イタリアの『オムニアウト』は3段目、『クアトロルオーテ』は8段目あたりでの扱いだった。フランクフルトモーターショー直前で新型車のニュースがあふれていることや、まだリーフの実車が上陸していないことなどを考えれば、まずまずの“取り上げ度”といえよう。
まるで『スター・ウォーズ』!?
さて、いよいよ初代リーフオーナーたちに第一印象を尋ねてみる。筆者が住むイタリア・シエナのリーフオーナーからは、「ベリッシマ(最高にいい)!」という感嘆に満ちた返事が。
あるフランス人オーナーは、「『ルノー・ゾエ』でさえバッテリー容量は41kWhにとどまるのに、新型リーフは60kWhバージョンが(2018年に)用意されるのには驚いた」という。
参考までに記すと、彼が所属するフランスのリーフを中心とした「EVユーザーによる愛好会」のサイトは、半自動運転機能「プロパイロット」や「e-Pedal」などを挙げて、「まるで『スター・ウォーズ』のようだ」と評している。
より詳細な見解を示してくれたのは、イタリアの都市部に住むあるリーフオーナーである。まずエクステリアデザインに関して、複雑な心境を吐露している。
「エッジの効いたスチールとプラスチックで構成されたフロント部分、ブラックアウトされたルーフは、デザインの意図が理解しづらい」という。「一部のトヨタ車に似て見える」とも。
インテリアに関しても「メーターのグラフィックをはじめ、情報をひと目で確認するのが難しそうな混沌(こんとん)としたデザインで、モデルチェンジの成果が見られない」と辛口だ。
その一方で 「初代の後期型で廃止された電動パーキングブレーキが、『プロパイロット パーキング』とともに復活したのは朗報」としている。
初代ユーザーならではの思い
メカニズムに関しても、このオーナーの場合は、実際のユーザーならではの意見を寄せてくれた。
まず「バッテリーの積極的な冷却システムが採用されてなかったのは残念だ」と指摘。プロパイロット機能についても言及し、「これからもハードウエアの改良で進化してゆくのだろうか」と不安をにじませる。「私たちは、この高価なクルマを頻繁に買い替えることは不可能だ。理想をいえば、近い将来、完全自動運転に至るまでソフトウエアのアップデート、それも遠隔通信で済むサービスが用意されると理想的なのだが」と語る。
同時に、実現が難しいとは知りつつも彼が切望するのは、初代リーフを購入したユーザーへの対応だ。「初代リーフやワンボックスタイプのEV「e-NV200」のユーザーに、より長い航続距離を可能とする大容量バッテリーへの交換プログラムを提供してほしかった」と語る。
彼の周囲には、新型リーフの登場を待てずに、バッテリー出力が大きいルノー・ゾエに買い換えてしまった知人がいるという。
しかし彼は、新型リーフに対して、こんな見解も示した。
「初代リーフは2009年の発表時、私を含めて多くの人が好きになれなかったが、時とともにその資質が評価されてきた。当時日産でチーフデザイナーを務めた井上眞人によるデザインひとつとっても、上品かつ純粋だった。その背後には哲学があった。一方新型には、2015年のコンセプトカー「IDS」に私たちが期待したものが含まれている。今後、より広いマーケットで評価されるだろう」
周囲の反応が今から楽しみ
もうひとり、前述したのとは別のフランス人リーフオーナーに連絡をとってみると、すでにクルマを手放していた。「購入後、県内の公共スペースで充電設備拡充が思ったより進まなかったのが理由」だという。
だが彼が説明するには、隣接県では充電設備が充実してきた。航続距離が長くなった新型リーフの登場により、隣の県へのドライブと現地での充電は容易になる。「新型リーフで、再びEVに戻るかもしれない」と明かしてくれた。ちなみに彼は熱心な日産ファンで、初代リーフを手放した今でも“つなぎ”として2台の日産車に乗っている。
以上が彼らの新型リーフに対する第一印象だが、あるイタリア人リーフオーナーが、ボクを愛車に乗せながら、こんな話もしてくれた。
イタリアでは自治体によって、リーフのような環境対応車は、市街地の一般車進入禁止ゾーンでも通行が認められている。そこで彼もリーフで流していたところ、バールの外でたむろしていた近所のお年寄りたちからやじが飛んできたそうだ。
「こら、ガソリンをケチらないで、ちゃんとエンジンかけて走れよ!」
イタリアの田舎町の風景が目に浮かんでくる。新型の登場によって、どんなシーンが見られるのか、今からひそかに楽しみしている筆者である。
(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>、webCG/編集=関 顕也)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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