スズキ・スイフト ハイブリッドSL(FF/5AT)
これがイチオシ 2017.09.25 試乗記 「スズキ・スイフト」に、独自のフルハイブリッドシステムが搭載された新モデルが登場。2ペダル自動MTとモーターを組み合わせたユニークなパワートレインの見どころと、他のグレードよりさらに上質感を増したドライブフィールを報告する。チーフエンジニア オススメの一品
今年1月、新型スイフト発売直後の試乗会場で、チーフエンジニアの小堀昌雄さんにインタビューしたとき、「小堀さんの個人的イチオシのスイフトはどれですか?」といった趣旨の質問をした。スイフトには当時すでに「RS」系と標準系の2シリーズがあり、しかも動力源はRSで3種、標準系で2種、さらに1.2リッターエンジンには2種の変速機があって……と、なかなか大所帯だったからだ。
そのときの小堀さんの反応は「ええ、まあ、どうでしょう……」と煮え切らないもので、結局のところ、ハッキリとしたお答えはいただけなかった。
それから、ときは流れて今年の7月、スイフトに第4のパワートレイン、いわゆるフルハイブリッドが追加されて、ふたたび試乗会が催された。スズキ自身はこのシステムを「ハイブリッド」と呼称するが、既存のマイルドハイブリッドと区別するため、ここではあえて“フル”ハイブリッドと呼ぶことにする。
その会場で小堀さんは「あのときの質問の答えはこれだったんです」とおっしゃった。
正直いうと、あの質問にさほど強い意図はなく、芸能人やスポーツ選手のインタビューでよくある「最後にファンの皆さんにひと言」みたいな軽い締め質問のつもりだった。だから、私は質問したことすら忘れていた(失礼)のだが、小堀さんはわざわざ私を見つけて、半年越しに答えてくださったわけだ。小堀さんにかぎらず、エンジニアというのは真面目……というか、何事にもキッチリと結論を出す人たちである。
さて、これまでスイフト最強のパワートレインだった1リッターターボがRS専用なのに対して、このフルハイブリッドは標準系専用である。これで両シリーズに3種類ずつの動力源がそろうこととなり、同時に(非スポーツの)スイフトでは、このフルハイブリッドが最高価格、最上級となる。
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ハイブリッド機構に見るスズキらしさ
スイフトに新追加されたフルハイブリッドの動力機構は、「ソリオ」のものと内容も、出力その他の性能値も同じ。数少ないスイフト専用部分は、2ペダル自動5MT(AGS)の変速がソリオより速められて、同時にパドルシフトが追加されるだけである。
それにしても、いまさらだが、1.2リッターの純エンジン車を筆頭に、スズキ独自のマイルドハイブリッド、フルハイブリッド……の3兄弟は、技術的になんとも味わい深い。
まず、中心となる1.2リッターエンジンは細かいチューニングまですべて共通。そのうえで、マイルドハイブリッドはそこに再始動&アシスト用のベルト駆動モーター(ISG)と、その駆動と回生を請け負う12Vリチウムイオンバッテリー(助手席下)が追加される。しかし、もともとあるセルモーターも初期始動専用に残されており、12V鉛バッテリーもセルを含む補機のためにそのまま温存される。
で、今回のフルハイブリッドは、マイルドハイブリッドの構成部品はほぼそのまま(変速機だけCVTからAGSに換装)に、新たな駆動モーターを変速機のファイナル部に追加。その駆動モーターのための高電圧リチウムが荷室下に追加搭載される。
つまり、笑ってしまうほど見事な“アドオン”方式なのだ。結果として、フルハイブリッドの透視図は、モーターは昔ながらのセルを含めて3つ、バッテリーもエンジンルームの鉛、助手席下の12Vリチウム、そして荷室下の高電圧リチウムの3つが全部ある。
ただ、それぞれの細かい役割は変わる。フルハイブリッドでのISGは駆動や回生はせず、エンジン再始動と12V系の電装への普通充電に徹する点が、マイルド~とは異なる。
まあ、なんとも煩雑な構造なのは否定しない。ただ、逆にいうと、上級システムは専用の部品やコンポーネントを単純にアドオンしていくだけなので、下級システムの設計やコスト、生産性にはほとんど影響しない……というメリットが想像される。こうした実利主義的な思想はいかにもスズキである。
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“ハイブリッド感”はそんなに強くない
この動力システムそのものの味わいについては、前回の森 慶太さんほかの先生方が詳しく語っておられるが、おおざっぱにいうと「よくできたアイドルストップ付きのトルコンAT車のごとし」である。自動MT否定派が忌み嫌う(とくにシフトアップ時の)変速ラグを、駆動モーターが見事におぎなっており、普通のトルコンATに遜色ない滑らかさである。
スズキのフルハイブリッドは電気駆動の出力がかぎられるので、後続車無視のダラダラ走りでもしなければ、加速側でほぼ例外なく電気走行するのは、発進時の転がり出しにとどまる。また総合的な動力性能に対するハイブリッドの寄与率も限定的。体感としては「1.2リッターが1.4リッターになったかな」程度である。不足はないが、そっちの驚きもあまりない。
ただ、ソリオより軽い車重のおかげだろうか、ふと「あっ、エンジン止まってる!」と気づく瞬間が走行中でもそれなりに訪れる点が、強いていえばソリオとのちがいか。もっとも、電気走行は車速60km/h以下限定なので、高速の上り~平たん路では、いかに低負荷でも電気走行にはならない。
そのかわり、下り坂ではほぼ例外なくエンジンが停止する。高速でも80km/h以下なら下りでエンジンが止まるが、その領域だとロードノイズにマスキングされるので耳で判別するのは困難。ただし、スイフトではエンジン回転計もそのまま残されているので、その針がストンと落ちることで視認はできる。
ひとつ不満をあげるとすれば、ハイブリッドなのにエアコンのコンプレッサーもエンジン駆動のままであることだ。これからの季節ならあまり不都合はなさそうだが、今回の取材日のように真夏の酷暑下だと、下り坂でエンジンが停止した途端、車内が見る見る蒸し暑くなっていくのには閉口した。これは動力システムの根幹部分なので、アイドルストップのように解除できないのもツラい。
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一昔前のルノーを思わせる足まわり
内輪の話になるが、今年1月の発売以来、スズキが用意するスイフトの広報デモカーはRSだけだった。これはスズキの「今回のスイフトはRS押し」というマーケティング上の都合らしい。なので、フルハイブリッドうんぬん以前に、標準系のスイフトにじっくり乗れたのも今回が初めてである。
かくして、ほぼ欧州仕様と同じRSのフットワークも悪くないが、「日本で乗るなら、僅差ではあるけど標準系がベターかも」というのが、試乗直後の個人的な感想だった。標準系でも最軽量の1.2リッターMTと最重量のフルハイブリッドの間に120kgほどの差があるが、バネ、ダンパー、タイヤなどのサスチューンは標準系なら全車共通だそうである。
アシさばきは市街地でもRSより明らかに柔らかく、交差点でもスッと荷重移動して速やかにロールする。ただ、その動きはなかなか抑制が利いた潤いのあるもの。もちろんRSよりはノーズ反応は鈍いが、パワステの重さと反応速度のバランスは、これまで乗ったスイフトで最良の1台とも思った。
限界より明確に手前の領域で走るかぎり、フルハイブリッドによる重量増もいい方向に効いているっぽい。路面や速度を問わずに、アシが常に豊かにストロークしている重厚感があり、そのわりに高速ではしっかりとフラットに落ち着く。限界の7~8割までなら前後グリップバランスも良好で、素直に丸く曲がってくれる。山坂道では容易にフルバンプ付近までストロークしてしまうが、真骨頂はそこからだ。多少はガタピシ突き上げられつつも、最後のコシもきっちり維持されるので、タイヤが路面から離れないのだ。
個人的に最上級のホメ言葉を使わせていただくと、そこには、ひと昔前のルノーを思わせる滋味があった。
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パーソナルカーとしては最上級の出来栄え
ただ、限界が見えそうな領域になってくると、重さが悪い方向に強調される面もなくはない。旋回速度が高まるにつれて、ステアリングの利きがどんどん弱まっていくのは、前軸重量が増えているだけでなく、荷室下にリチウムを積む後軸重の影響もあろう。
もともと新型スイフトはリアサスペンションが柔らかめなこともあって、後軸重が増えるとフロントの荷重が抜けがちになる。そんなスイフトをうまく運転するには、ステアリングを切るときには前荷重を意識するのがコツである。逆にいうと、そう意識すればスイフトのシャシーは喜々として応えてくれる。
また、撮影中に後席に座っていた向後カメラマンから「乗り心地が悪いんですけど」という指摘もあった。向後さんがフランス車好きの乗り心地フェチであることを差し引いても、リアがフルバンプしやすく衝撃を素直に伝えがちなのは事実。後席はシート自体のデキも簡素かつ平板で、今のスイフトは後席の快適性をあえて割り切っている面もある。「後席重視の向きは『バレーノ』をどうぞ」ということだろう。
ただ、スイフトの名誉のためにいっておけば、1~2名乗りのパーソナルカーとしては、スイフトはどれも乗り心地、操縦性とも良好。そんなスイフトのなかでも、このフルハイブリッドが上位の1台、個人的にはトップ3圏内に位置することは間違いない。
さて、このフルハイブリッドのスイフトは上品に走れば平均20km/リッターくらいの燃費は堅そうだし、高速ほど顕著に燃費がよくなるのは他社の複雑制御ハイブリッドに対する長所かもしれない。ただ、車両価格のモトを取るのはむずかしく、特別に思い入れのない選択なら、やはりマイルドハイブリッドになりそうだ。
それでも、チーフエンジニアの小堀さんがイチオシするとおり、日本でオールラウンドに使うには標準系のほうがベターな場面が多く、中でもこのフルハイブリッドが快適性と動力性能の両面で、圧倒的に高級で重厚だった。プラットフォームがより新しいおかげもあるのか、静粛性もソリオのそれより確実に高かった。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
スズキ・スイフト ハイブリッドSL
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3840×1695×1500mm
ホイールベース:2450mm
車重:960kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:5AT
エンジン最高出力:91ps(67kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:118Nm(12.0kgm)/4400rpm
モーター最高出力:13.6ps(10kW)/3185-8000rpm
モーター最大トルク:30Nm(3.1kgm)/1000-3185rpm
タイヤ:(前)185/55R16 88V/(後)185/55R16 88V(ブリヂストン・エコピアEP150)
燃費:32.0km/リッター(JC08モード)
価格:194万9400円/テスト車=216万9018円
オプション装備:全方位モニター付きメモリーナビゲーション(14万2560円) ※以下、販売店オプション フロアマット(2万0142円)/ETC車載器(2万1816円)/ドライブレコーダー(3万5100円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:2062km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(5)/山岳路(1)
テスト距離:512.1km
使用燃料:31.3リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:16.4km/リッター(満タン法)/16.8km/リッター(車載燃費計計測値)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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