第447回:ヨコハマの新製品「ADVAN dB V552」に試乗
“静かさ”というプレミアム性能に触れた
2017.10.10
エディターから一言
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横浜ゴムのグローバル・フラッグシップブランド「ADVAN(アドバン)」から、「dB V552」が登場。“ヨコハマ史上最高の静粛性”を実現したという新製品の出来栄えを、一般道とテストコースで試した。
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静かなほうがいいに決まってる!
スポーツ系でもコンフォート系でも、「走る」「曲がる」「止まる」といった基本性能が同じくらいのタイヤであれば、ノイズは小さいに越したことはない。中には「静かなタイヤじゃ走った気がしない」という人もいるかもしれないが、「静かなほうがいい」と思う人が圧倒的に多いはずだし、「静かさにお金を払ってもいい」と考える人も少なくないだろう。
かくいう私もそのひとりで、プラグインハイブリッド車を手に入れてからは、ますますその思いが強まっている。走行中にエンジンが停止した瞬間、耳に入ってくるのはほぼタイヤのノイズだけ。これが目立つと、モーター駆動車のウリである静粛性が台なしである。タイヤに静かさを求めるのは、EVやハイブリッド車のオーナーに限らない。プレミアムセダンやプレミアムミニバンなど、ちょっとぜいたくなクルマに乗る人たちにとっては、乗り心地とともにタイヤの静かさが重要視されているというのだ。
そんな、タイヤにもプレミアム性能を求めるユーザーに対してヨコハマタイヤが提案するのが、新商品のADVAN dB V552である。「dB(デジベル)」といえば、静かなタイヤとして幅広い支持を集めているヨコハマの人気商品。その歴史は、1998年にデビューした「ASPEC dB」に始まり、2000年には「DNA dB」、2003年には「DNA dB ES501」に進化を遂げる。
そして2009年、4世代目に生まれ変わるのを機に「ADVAN dB」へ。「ADVAN」というとスポーツタイヤをイメージしてしまうし、事実、モータースポーツ競技用タイヤやスポーツカー向けのタイヤをラインナップしているので、「なぜdBがADVANなの?」と違和感を持つ人もいるだろう。そんな疑問に対して「ユーザーの想像を超えるのがADVANなんですよ!」とヨコハマのスタッフが答えてくれた。つまり、コンフォート性能でユーザーの期待を超えるまでにdBが進化した……というヨコハマの自信が「ADVAN dB」という名前に表れているのだ。その「ADVAN dB」のさらなる進化型が、第5世代となるADVAN dB V552なのである。
ロードノイズを32%低減
ADVAN dB V552では、これまでのADVAN dBを超える「かつてない静粛性」を実現しながら、優れた安全性能や低燃費性能を確保することがテーマとなった。例えば、ロードノイズは従来品に比べて32%、パターンノイズは10%低減。その一方でウエット路面では制動距離が6%短縮し、転がり抵抗は5%低減している。これにより、全サイズで転がり抵抗が「A」等級、ウエットグリップは24サイズ中、最高グレードの「a」が19サイズ、「b」が5サイズとなり、ADVAN dB V552の全サイズが「低燃費タイヤ」となっている。
その実現のために、さまざまな新技術がこのタイヤに注ぎ込まれたのはいうまでもない。例えば、新しいトレッドパターンを見ると、ノイズの発生を抑えるためにブロックのサイズをより小さくしているのがわかる。実際、イン側にはより小さいブロックを配置。アウト側でも細かいデザインを採用するとともに、コーナリング時の安定性を確保するため、サイプ(溝)を貫通させないことでブロックの剛性を確保している。どんなに静粛性が高くても、タイヤの基本性能をないがしろするわけにはいかないのだ。
また、新品のときは静かでも、使用するにしたがって静粛性が大きく劣化したのでは、ユーザーの期待に応えることはできない。ADVAN dB V552では、ブロックのエッジをツイスト状に面取り加工したり、タイヤの接地形状をよりフラットにしたりするなどして偏摩耗を抑制、静かさが長持ちする工夫を施しているのだ。さらに、低燃費とウエット性能を両立させるために、シリカの分散性を高めた新しいコンパウンドを開発している。
こうして生まれたADVAN dB V552の出来栄えをチェックするために訪れたのが、茨城県にある同社のテストコース「D-PARC(Daigo Proving-ground and Research Center)」。ここで、ADVAN dB V552の静粛性に加えて、ウエット性能やハンドリング、操縦安定性などを確認することになる。ちなみに、このエリアは“奥久慈”と呼ばれ、私の生まれ故郷もこのあたりとあって、里帰り気分で取材に向かったというのは内緒である。
さらに静かで安心に
さっそく試乗開始。まずは、ロードノイズが出やすそうな粗い舗装の「特殊路」を走り、新旧ADVAN dBのロードノイズを比較した。ヨコハマのエンジニアが運転する「トヨタ・クラウン」の助手席で静粛性をチェックするのだが、最初に試した旧ADVAN dBの静かさに舌を巻いた。走りだして特殊路に差し掛かるまでの路面で、ロードノイズがほとんど気にならないのだ。特殊路に入っても、ゴーとかザーという音が小さめに抑えられている。「これでも十分なのに……」と思いながら新しいADVAN dB V552を履くクラウンに乗り換えると、特殊路に向かうまでの比較的スムーズな路面のロードノイズが輪をかけて小さいのがわかる。そして特殊路では、ザーという耳障りなノイズがさらに弱められ、舗装の良い部分と悪い部分との差が小さくなったことがわかった。
このあと、ADVAN dB V552が装着された「トヨタ・ヴェルファイア」でD-PARC周辺の一般道を走った。お世辞にも舗装の状態は良いとはいえなかったが、ロードノイズと乗り心地はそれらを感じさせず、走りは至って快適。あらためてADVAN dB V552の実力を思い知ることになった。テストコースに戻り、周回路でヴェルファイアほか4台をとっかえひっかえ140km/hほどで飛ばすことができたが、いずれもスタビリティーは良好。最後は旋回路(スキッドパッド)でウエット性能をチェック。旧ADVAN dBに比べて、新しいADVAN dB V552が装着されたクラウンは滑り出しの速度が高いうえ、コーナリング中にさらにステアリングを切り込んだときの動きにも安定感があった。
テストコースおよび周辺の一般道での試乗を通して、ADVAN dB V552がさらに静かに進化しながら、同時にタイヤの基本性能を高めたことが確認できた。そして、この静かさと安心感には、お金を払うだけの価値があると思う。
(文=生方 聡/写真=横浜ゴム/編集=近藤 俊)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースレポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。