第448回:歴史的なランボルギーニがスイスに集合
同社初の自社開催コンクールデレガンスを観る
2017.10.11
エディターから一言
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ランボルギーニがスイス西部の湖畔の街ヌーシャテルで、2017年9月15日から17日まで、コンクールデレガンスを開催した。同社としては初開催となるコンクールデレガンスで栄誉ある「ベスト・オブ・ショー」に輝いたのは、日本から参加した「ミウラSV」だった。自動車ライターの西川 淳がリポートする。
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スイスの2つの街を舞台に開催
ツーリング&ギャザリング(集会)、コンクールデレガンス、そしてオークション。これら3タイプのイベントが、言ってみれば“メインステージ”となって、昨今のクラシックカーブームを支えていると言っていい。ツアーを走る姿を見てもらい、ビューティーコンテストで賞を取って、オークションで高く取引してもらう、というのがメインストリームである。
ツーリングやギャザリングイベントはこれまでもたくさん開催されてきたが、昨今、はやってきているのがコンクールデレガンスだ。ペブルビーチやヴィラデステが世界的に有名だが、最近では有名ブランドが独自に、自社のヘリテージモデルを集めてコンテストを開くケースが増えてきている。
9月のなかば、スイスはヌーシャテルにおいて、ランボルギーニ社もコンクールデレガンスを開催した。初めての自社開催コンクールで、“ポロストリコ”というクラシックモデルのアーカイブや認定、レストア事業を行う部門が中心となって運営したものだ。
「近代建築の3巨匠」のひとりであり、建築以外にも家具や彫刻などさまざまな分野において現代人の生活をデザインしたル・コルビュジエへのオマージュをメインテーマとしたため、彼の生まれ故郷であるラ・ショー=ド=フォン(精密時計でも有名な街だ)と近郊の美しい街ヌーシャテルを、その初舞台として選んだのだった。
ル・コルビュジエの故郷を訪問
コンクールの週末。初日はコンクール参加車両によるランチツーリングが催された。ヌーシャテルからラ・ショー=ド=フォンまでの数十kmを白バイを先導に30台以上のクラシックモデルが連なって走る。
初代モデルの「350GT」や、「イスレロ」「エスパーダ」「ミウラ」「ウラッコ」「クンタッチ(カウンタック)」といった歴代の名車たちが連なって走る様子は圧巻のひとこと。赤や黄、緑や青、白、シルバーと、色とりどりなところもランボルギーニらしい。スイスの牧歌的な景色を背景にみるカラフルなスーパーカー軍団のツアーは、ほとんど幻想的ですらあった。
ラ・ショー=ド=フォンの街の広場にクルマを止めた参加者たちは、ル・コルビュジエゆかりの建物を見学したり、国際時計博物館を訪れたりと、ランチ以外にもデザインにまつわるプログラムを楽しんだ。旦那がクルマ話で盛り上がるだけのイベントではなく、一緒に参加した女性や家族たちも楽しめるものにしたいというのが、ランボルギーニ社の思惑だったらしい。
ただ単にクルマの美しさだけを競うのではなく、実際に愛車を走らせて、何かを発見し、共有し、記憶するという重奏的な時間を仲間たちとともに過ごす。クルマがあってこその、そんな“遊び”を真剣に楽しもうという企画である。
その夜は公式のガラディナーが開催された。ランボルギーニ社CEOのステファノ・ドメニカリとチーフデザイナーのミッチャ・ボルカートも同席する。さぁ、いよいよ明日はコンクールの本番だ。
“エスパーダクラス”を設けた意図は?
日曜は朝早くから、キャブレター付き大排気量エンジンの豪壮に目覚める音が、静かな街の空気を震わせていた。ヌーシャテルの小さな港に面した広場が、コンクールデレガンスの特設会場だ。60台近くのランボルギーニがクラスごとに並べられている。参加台数が最も多かったからだろう、ミウラだけは、「P400」「P400S」「P400SV」というふうに、モデルごとにクラスが分かれている。
「LM002」クラスがあった。12月にデビューする期待のSUV、「ウルス」を意識しての展示だろうか。そういう意味では、エスパーダクラスの存在も意味深で、“におう”。クンタッチや「ディアブロ」は人気モデルだし、独立したクラスがあってもまだ分かる。けれども、ウラッコではなく、「ハラマ」でもなく、エスパーダだけを集めたクラスを作ったからには、何か裏の事情がありそうだ。とある関係者に聞いてみれば、来年はエスパーダの50周年に当たる。だから盛り上げたい、と。
本当にそれだけだろうか? イスレロやハラマにだって、そのチャンスはあっただろうに……。エスパーダの再来となるハイブリッド4シータークーペのウワサは、やはり本当なのだろうか。そんなマーケティングの“深読み”もまた、自社開催のコンクールならではだ。
朝から最も注目を浴びていたのが、幻のコンセプトカー「マルツァル」だったというあたりもまた、符号が一致するではないか! ひょっとしてミッチャは、この銀色のマルツァルから、大いにインスパイアされたのではないだろうか!?
日本のミウラがベスト・オブ・ショーに輝く
4、5人のグループを組んだジャッジがクラスごとに一台一台、ていねいに審査してゆく。筆者も日本から参加したT氏のミウラSVの審査に“通訳”として立ち会った。T氏の思いの丈をジャッジに精いっぱい、伝えてみる。
審査のポイントは、まず、オーセンティックであることだ。つまり、ランボルギーニの工場出荷時と、できるだけ同じ仕様であることが望ましい。エンジンルームやインテリアなど、変更されがちなポイントを容赦なくチェックされる。
そういう意味では、ポロストリコ部門が仕上げたばかりの個体なら、誰がどう判断してもオーセンティックであろう。おまけに、新車のように美しい。そういう個体がミウラに限らず、何台もコンクールに参加していた。
純粋さやキレイさだけであれば、そういうクルマの中から今回も優勝車が出ておかしくない。実際、クラス優勝車には、レストアされたばかりの個体が多かった。
ミウラSV部門にも、直前にポロストリコで仕上がったばかりという金色のSVがあった。キレイさではダントツだ。けれども、クラス優勝にはT氏のSVが選ばれた。さらに、クラス優勝車の中からこの日のイチバンを選ぶ「ベスト・オブ・ショー」にも、日本からやってきた黄緑のSVが選出されたのだ!
ジャッジに選考理由を尋ねてみると、うれしい答えが返ってきた。キレイでオーセンティックな個体は他にもたくさんあった。けれどもT氏のミウラSVには、他の個体にはない素晴らしいポイントがあった。それは、人とクルマとの長年にわたる付き合いだ。氏はこのミウラを20年以上所有している(レストアされた個体のオーナーは往々にして所有歴が短い)。
常に完調なコンディションをキープしてきた。なぜなら彼は、乗ると決めたら全開にしなければ気がすまないタチだからだ。サーキットも攻めて走る。そこで壊れるようなクルマには乗りたくない。そういう気性の人だった。
だから、ガレージにしまっておくようなことは絶対にしない。イタリアのランボルギーニツアーにも参加した。ミウラ50周年ツアーも走った。ミウラ牧場を訪ねるスペインツアーも完走した。とにかく、乗り倒す。それでいて、オーセンティックさを保っている。インテリアなどは、オリジナルのままだ!
ただ単に、金に飽かせてキレイに仕上げた個体よりも、オーナーが手塩にかけて守ってきた個体の価値が上回った。ある意味、至極まっとうな結論であり、それこそがクルマ文化というものだろう。
日本から、そんな人とクルマが現れたことに、感謝したい。
(文=西川 淳/写真=ランボルギーニ/編集=竹下元太郎)
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