ホンダCRF250ラリー(MR/6MT)
お釣りがくるほど勇ましい 2017.11.11 試乗記 キーワードは「ザ・ダカールレプリカ」。ホンダがダカールラリーに投入するワークスマシンのイメージを受け継いだアドベンチャーモデル「CRF250ラリー」に試乗。乗るものを選ぶような足つき性の“悪さ”に、ホンダの心意気を感じた。その無遠慮さに久々に感動
久しぶりに感動した。ここまで乗り手を選ぶモデルをリリースするなんて、親近感が売りのアイドルグループにパリコレのモデルを加入させるくらい突拍子もない判断だと思ったからだ。
何しろ真横から見たら“板”なのである。普通のオートバイはシート辺りを下方にえぐってあるもので、しかも最近は足つき性なるスペックが重要視されるから、これでもかとえぐるのが常態化している。たとえて言うなら誰でも口ずさみやすい歌のように。
一方でオフロードモデルなら、荒れ地のロードクリアランスを考慮して車高を高めに設定するのもその道のコモンセンスだ。強いて言うならランウェイで映える180cm超えの身長のごとく。それを理解していても、CRF250ラリーのたたずまいは近年まれに見る無遠慮と言わざるを得ない。
「無理っす」と脇に立ったままフリーズしたwebCGのホッタ青年をあおってまたがらせてみたら、顔から表情が抜け落ちた。決して背が低いわけでも、機能しないほどに足が短いわけでもない彼だが、爪先が辛うじて地面に触れる姿勢ともなれば立ちゴケの恐怖を拭うことはできないだろう。その果敢な挑戦に笑みを添えた拍手を贈ったが、身長175cmの自分であってもうかうかできない。信号待ちなどで足をついた場所がくぼんでいたら、「あれ?」と思う前に転倒するかもしれない。となれば、ストップ&ゴーが多い街中では常に緊張を強いられるだろう。
ホンダの巧さが光るレプリカ方程式
ホンダはなぜそんな拒絶型を世に送り出したのか? その理由は開発キーワードが明快に答えてくれる。『ザ・ダカールレプリカ 週末の冒険者へ!』。いやまったく、何て勇ましいセリフだろう。
「ザ・ダカールレプリカ」とは何か? 単純明快にお答えしよう。世界最高峰のラリーレイドであるダカールラリーに、ホンダが24年ぶりのワークス体制で臨むために製作されたのが「CRF450ラリー」。CRF250ラリーは、そのレプリカモデルということだ。もしよかったら、ホンダワークスのHRCがつくった動画をご覧ください。そのいでたち(ホンダいわく開発思想も含めて)がそっくりコピーされているのがよくわかるはずです。
ただし、ここまでトガったモデルを単体開発しないのがホンダの巧みさだ。CRF450ラリーのレプリカとうたいつつ、エンジンやフレーム等の基本構成は「CRF250L/CRF250M」と共有しながら、専用設計の足回りを採用し、最低地上高をCRF250Lから15mmアップ。その上でCRF450ラリーのルックスとし、ベースモデルとは走行特性も見た目も、もちろん足つき性も異なる一台に仕上げた。これを巧(うま)いと言わずに何と言う、である。
![]() |
![]() |
![]() |
手なずけてみせるのも男気でしょう
しかし、ホンダのビジネスセンスに嫌みを差し挟むつもりなどまったくない。そんな気を起こさせないほどにCRF250ラリーは勇ましい。特に250クラスを完全にしのぐサイズ感は、誤解を恐れずに言えば「車検がなくて助かる」というようなせちがらさを軽く吹き飛ばす存在感を放っている。それはまた「こんなに立派なのに車検費用が掛からなくて済むんだよ」という逆説的免罪符としての効果も発揮する、はず。足つき性の悪さをのぞけば……。
いやいや、そうした拒絶型をどうにか手なずけてみせるのも、ダカールレプリカを堂々と名乗るCRF250ラリーに向けた男気でしょう。本当に、というのは変な表現だけど、ひとたび乗ってしまえば安楽フィーリングなのだ。DOHC 4バルブ単気筒の249ccエンジンは実におだやかな特性で、街乗りから高速まで破綻なく対応してくれる。「それじゃ見掛け倒しだろ」と突っ込まれるかもしれないが、ごく普通の乗り手がオフロードへ突入した場合、このくらい手ごろなパワーとトルクのほうが御しやすくて楽しいのではないだろうか。
さらに書き加えておきたいのは、ウインドスクリーンやボディー両サイドのカウリングが、高速走行時の疲労軽減と燃費向上に貢献することだ。その辺はラリースタイルならではの特徴で、異論の余地はあれどツーリング最強モデルと評してもいい。
だからこその『ザ・ダカールレプリカ 週末の冒険者へ!』。ウイークデーまで危険を冒すような行為を求めるなら別のモデルを選ぶべきだろうが、気分としての冒険を味わうなら、自分はCRF250ラリーでお釣りがくる。ホッタ青年には済まないが、そこそこ足がつくし。
(文=田村十七男/写真=三浦孝明/編集=堀田剛資)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2210×900×1425mm
ホイールベース:1425mm
シート高:895mm
重量:155kg
エンジン:249cc水冷4ストローク単気筒DOHC 4バルブ
最高出力:24ps(18kW)/8500rpm
最大トルク:23Nm(2.3kgm)/6750rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:44.3km/リッター(国土交通省届出値 定地燃費値)/33.1km/リッター(WMTCモード)
価格:64万8000円

田村 十七男
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。