ランドローバー・レンジローバー ヴェラールR-DYNAMIC HSE(D180)(4WD/8AT)
引き算の美学 2017.12.05 試乗記 レンジローバーファミリーに第4のモデル「ヴェラール」が登場。未来感あふれるデザインと先進技術とを融合させた、ラグジュアリーSUVの個性とは? ディーゼル車の最上級グレードである「R-DYNAMIC HSE(D180)」に試乗した。シンプルで美しいスタイリング
レンジローバーについては常々「せっかく“砂漠のロールス・ロイス”と称されるなど、最高のプレミアムSUVの地位を得ているのに、商売っ気丸出しでやや小さい『スポーツ』やうんと小さい『イヴォーク』を出すなんて。レンジローバーは孤高の存在であるべきで、その名を安売りするべきではない!」と(株主でもないのに)言いたくて手ぐすね引いているのだが、出てくるどれもが素晴らしいので言うタイミングがない。
スポーツは初代こそサイズも性能も存在感もやや中途半端な印象があったが、モデルチェンジしてレンジローバーの名に恥じぬ高級感とレンジローバー以上のスポーティネスを得てその存在意義は明確になった。イヴォークは、さすがにエンジン横置きのレンジローバーはないだろうと説教する気満々だったのだが、いざ実物を前にすると圧倒的な美しさを前に「こういうのもいいよね」と言うほかなかった。
しかしスポーツとイヴォークの間にさらにさらにもうひとモデル増やそうとしているとわかったときには、さすがに「いやいやいやランドローバーさんよ、調子に乗りなさんなって。きめ細かくカテゴリーを埋め尽くすなんて、ロイヤルワラントのブランドがすることではありませんよ」と書いてやるんだと心に決めた。
そうしたら出てきたのがこのヴェラール。今回もいとも簡単にランドローバーのデザイントップ、ジェリー・マクガバンの軍門に下ったのであった。だってこんなに美しいSUVってある? 前端に「RANGE ROVER」と書かれたクラムシェルボンネット、切れ長のヘッドランプ、いかにもデパーチャーアングルを意識した、跳ね上がったリアオーバーハングなど、レンジローバーを名乗る以上守るべきデザイン上のお約束を守ったうえで、凹凸が極めて少ない、シンプルで美しいスタイリングで登場した。
このクルマのデザインテーマはリダクショニズムだとか。なるほど……何それ? いわゆるひとつの“引き算の美学”というやつだとしたら、確かにヴェラールのエクステリアデザインは要素が少ない。デザインがゴチャゴチャ散らかっていない。大きなタイヤを精いっぱい張り出すいっぽう、サイドウィンドウに傾斜をつけてキャビンを小さく見せている。ドアノブも普段は隠れていて、必要な時に出てくるスカしたタイプだ。都市部にあると、イメージ映像を撮影中のコンセプトカーのように見え、自然の中で見ると、ひそかに降り立った宇宙船のよう。
未来感あふれるインテリア
インテリアも未来感でいっぱい。ステアリングホイール奥にあるメーターがフルデジタルなのはもはや珍しくない。その隣のダッシュ中央に10.2インチの横長タッチスクリーンがあるのもよくある。珍しいのはその下。コンソールへとシームレスにつながるピアノブラックのセンタースタック部分には大小3つのダイヤルスイッチがあるだけ。
ところが実はこのスタック部分もタッチスクリーンで、スタートボタンを押すとエアコン、テレインレスポンスなど、車両の各種設定を操作するためのカラー表示が映し出される。見た目はチャラいが、直感的に操作できるので使いやすい。
ランドローバーのインフォテインメント系は長らくDVDナビだったし、使い勝手もあまりよくなかった。それがついこの間「InControl Touch Pro」というモダンなインターフェイスを手に入れたと思ったら、今度は一気に上下2段の未来的インターフェイス「InControl Touch Pro Duo」、とは恐れ入る。
インテリアの新しさはそれだけではない。デンマークのテキスタイルメーカー、クヴァドラ社のプレミアムテキスタイルがシート表皮に採用された(家具業界では有名、自動車業界としては初採用)。これが独特の手触りで、従来のファブリックともレザーとも見た目、触感ともに異なり、何かとても新しいモノに接している気にさせてくれた。
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ライバルは「Fペース」
ヴェラールには実に33機種が設定される。エンジンが4種類。それぞれに8グレードあり、4×8で32機種。これに特別仕様のファーストエディションが加わって33機種だ。エンジンは2リッター直4ディーゼルターボ、2リッター直4ガソリンターボが2種類、それにV6ガソリンスーパーチャージャーの4種類で、このうち直4ガソリンターボ2種類が新開発の「インジニウム」エンジンとなる。そしてグレードは、標準顔の「ヴェラール」とアバンギャルド顔の「ヴェラールR-DYNAMIC」のそれぞれにベース/S/SE/HSEの4グレードがあって計8グレード。
今回テストしたのはディーゼルエンジン搭載モデルとしては最上級のR-DYNAMIC HSE。ボディーカラーはブルーにもグレーにも見えるバイロンブルー、インテリアカラーはエボニーというシックな色づかいのモデルだ。ジャガー各モデルにも搭載されるディーゼルエンジンは、最高出力こそ180ps/4000rpmとクラス標準的ながら、最大トルクが430Nm/1750-2500rpmとこのクラスとしては立派なスペックを誇る。このエンジンはどのモデルで試しても振動と騒音はよく抑えられている。エンジンそのものが発する振動と騒音もよく抑えられているのだろうが、ジャガー/ランドローバーは高価格車が多いため、遮音対策にもしっかりコストがかけられているのだろう。
動力性能は決して不満ではないが、以前テストしたV6ガソリンのほうがトルキーで、レスポンシブで、よりスムーズな回転フィーリングを持つために好印象だ。この印象の違いはコンポーネンツをかなりの部分で共用する「ジャガーFペース」でも感じるのだが、ヴェラールではより強くそう感じた。ディーゼルエンジンはどれも、とりわけ4気筒ディーゼルは基本的に実用的な性格をもつため、伊達(だて)男ヴェラールにはより贅沢(ぜいたく)なガソリンのほうが似合う。レンジローバーやレンジローバー スポーツに載るV6ディーゼルだったらかなり印象も違うかもしれない。
一番のライバルは身内ながらFペースか。同じ販売店がとなり合って販売しているのだからライバルとは言わないか。ただどっちにしようかなと迷うお客さんは多いはずだ。見た目はもちろん、乗るとこれがけっこう違う。イニシャルコスト、ランニングコストともに余裕があるなら、さっき述べた理由でV6ガソリンを薦めたい。これはFペースもヴェラールもそう。コーナーの連続をキビキビとハイペースで駆け抜けたいならFペースを、どんな場面でも乗り心地を優先させたいならヴェラールを薦めたい。
レンジローバーの新たな個性
V6ガソリン仕様にエアサスが標準装備、直4ガソリンの上位モデルにオプション設定されるのを除くと、ヴェラールにはコイルサスが備わる。それでもFペースよりもロールを許し、全体的にマイルドな乗り心地になっている。テレインレスポンスをダイナミックに設定すれば多少は引き締まった印象となるが、それでも揺れる。揺れるというより時間をかけて入力を収束させる。テスト車には20インチのタイヤ&ホイールが装着されていたが、大径だとそうなりがちなバタつきは感じさせなかった。
タイヤ&ホイールについて述べると、標準サイズはベースグレードが18インチ、Sが19インチ、SEが20インチ、HSEが21インチで、オプションで22インチも選ぶことができる。通常はタイヤが大きくても、乗っていると見えないし、乗り心地にいい影響を与えにくいし、交換時に高いからほどほどでよいと書くことにしているが、何事にも例外はあって、どうせ数ある選択肢からここまでカッコ重視のクルマを選ぶなら、タイヤ&ホイールはドーンと大きくいこうじゃないか。「レンジローバー」を上から押しつぶしたような水平基調の伸びやかなスタイリングには、大径タイヤを装着してHot Wheelsみたいに仕上げるのがよいのではないだろうか。
最後に細かい注文をつけるとしたら、完全停止まで対応するACCが備わるのだが、停止状態からアクセルをちょっと踏んで再発進させる際、優しく踏んだつもりでもビュッと出てしまうのはやや洗練性に欠ける。チューニングを見直してほしい。
これでレンジローバーはオーセンティックなレンジローバーからカジュアルなイヴォークまで4シリーズが取りそろえられた。“本物のレンジローバーはレンジローバーだけ”という頑固で保守的な考えが心の中からまったくなくなったわけではないが、乗ってみればそれぞれによさがあり、うまくつくってあることは納得した。
スポーツカーブランドがこぞってSUVへ流れ込んでくる中、レンジローバーも生き残りをかけて必死に新しい提案をし続ける必要があるのだろう。結果として、保守的であり続けることが伝統を守ることとは限らないということをわれわれに教えてくれているのかもしれない。
(文=塩見 智/写真=尾形和美/編集=大久保史子)
テスト車のデータ
ランドローバー・レンジローバー ヴェラールR-DYNAMIC HSE(D180)
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4820×1930×1685mm
ホイールベース:2875mm
車重:2040kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:180ps(132kW)/4000rpm
最大トルク:430Nm(43.8kgm)/1750-2500rpm
タイヤ:(前)255/50R20 109W /(後)255/50R20 109W(グッドイヤー・イーグルF1 AT SUV4×4)
燃費:14.4km/リッター(JC08モード)
価格:1053万円/テスト車=1403万9880円
オプション装備:メタリックペイント(10万円)/セキュアトラッカー/InControlセキュリティー(10万円)/InControlリモート(4万円)/コンビニエンスパック(9万円)/イオンプラズマクラスター(2万円)/Meridianシグネチャーリファレンスサウンドシステム(37万円)/InControlアプリ(3万7000円)/20インチスタイル1032アロイホイール ダイヤモンドターンドフィニッシュ(0円)/スエードクロスヘッドライニング(26万円)/R-DYNAMICブラックパック(15万円)/ブラックコントラストルーフ(10万円)/ヘッドアップディスプレイ<HUD>(19万円)/ヒーテッドフロントスクリーン(5万円)/スライディングパノラミックルーフ(29万円)/プライバシーガラス(7万円)/トランク用イルミネーテッドメタルトレッドプレート(5万円)/イルミネーテッドフロントメタルトレッドプレート<R-DYNAMIC>(5万円)/ルーフレール<ブラック>(5万円)/カスタマイズ可能なインテリアムードランプ<10色>(4万円)/シグネチャーライト付きマトリックスレザーLEDヘッドランプ(30万円)/オンオフロードパック(13万円)/ウェイドセンシング(25万円)/インストゥルメントパネルクロームフィニッシュ(1万円)/リアシートエンターテインメントシステム(36万円)/プレミアムテキスタイルインテリアパック(7万円)/電動18ウェイフロントシート<フロントシートヒーター&クーラー、リアシートヒーター、メモリー、マッサージ機能付き>(4万4000円) ※以下、販売店オプション ラグジュアリーカーペットマットセット(3万8880円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:1255km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:286.3km
使用燃料:25.0リッター(軽油)
参考燃費:11.4km/リッター(満タン法)/11.7km/リッター(車載燃費計計測値)

塩見 智
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