ランドローバー・レンジローバー ヴェラールD200 (4WD/8AT)
何もかもが上品 2021.06.30 試乗記 スタイリッシュなプレミアムSUVとして知られる「レンジローバー ヴェラール」。そのラインナップに加わったマイルドハイブリッドのディーゼル車は、上質な内外装に見合った、極めて品の良い走りを味わわせてくれた。ちょうどいいレンジローバー
モータージャーナリストという仕事をしていて良かったなあと思うのは、いろいろなクルマに試乗できること。それも5分や10分ではなく、試乗会でも最低1時間は自由に運転できるし、個別に借り出せば数日間その魅力を堪能することができる。それで原稿を書いて収入が得られるのだから、クルマ好きの自分にとっては、これ以上の仕事はない。
ただ、仕事で試乗はできても、プライベートに戻るとなかなか距離が縮まらないブランドがいまだにあるのも事実で、「このクルマが買える日はこないだろうな……」とため息をつくこともしばしばある。そういう意味で「レンジローバー」もそんなクルマのひとつだっただけに、この10年で一気に距離が近づいたのには驚きである。
コンパクトSUVクーペの「イヴォーク」が登場したのがきっかけだ。サイズも価格も十分に手が届く範囲にあるし、その価格以上に上質なつくりにシビれてしまったのである。さらに追い打ちをかけたのが「イヴォーク コンバーチブル」の存在。あの格好の良さと気持ちの良さに、暇があればつい中古車サイトで検索してしまうほどである。
そんなイヴォークの兄貴分として2017年に登場したレンジローバー ヴェラールも気になる存在だ。ふだんひとりで乗るにはイヴォークやイヴォーク コンバーチブルでも十分だが、人や荷物をたくさんのせる場面ではもうひとまわり大きなボディーが欲しい。かといって、「レンジローバー スポーツ」となると、サイズも価格も私には少しぜいたくなような気がして、そうなるとヴェラールが“ちょうどいいレンジローバー”ではないかと思えるのだ。
まるでラグジュアリーセダン
レンジローバー イヴォークとレンジローバー スポーツのギャップを埋めるレンジローバー ヴェラールのボディーサイズは、全長×全幅×全高=4820×1930×1685mm。レンジローバー スポーツに近いが、全幅が65mm狭く、全高は115mmも低いぶん、印象はかなり異なる。しかも、ボディー全体が滑らかで、えもいわれぬ上品さが漂うのが、なんとも魅力的なのである。
インテリアも期待を裏切らない。液晶のメーターパネルや大型のタッチパネルにより物理的なスイッチを極力減らしたコックピットは、シンプルだが決して質素ではなく、上質さにあふれている。ライトオイスターと呼ばれる明るい色のシートやソフトパッドが施された室内も上品で、SUVとしては低めの全高も手伝って、SUVというよりも、ラグジュアリーなセダンの中にいる気分である。
余裕あるサイズのおかげで、後席も十分な広さが確保されている。身長167cmの筆者の場合、ヘッドルームは13cm、レッグルームは20cmほどで、無理なく足が組めるし、電動リクライニングシートで後席でも好みのポジションが得られるのがうれしい。ラゲッジスペースも後席を使用する状態でも奥行きは100cmほどあり、荷物がたっぷり詰め込めるのはたのもしい。
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マイルドハイブリッドが元気の素
さて、今回試乗したのは2リッター直列4気筒ディーゼルターボエンジンを搭載する「D200」。最新2021年モデルのレンジローバー ヴェラールには、このD200と、同排気量のガソリンターボを積む「P250」という2タイプのパワートレインが用意され、そのどちらにも48Vマイルドハイブリッドシステムが組み合わされるのが新しい。
D200は最高出力204PS(150kW)、最大トルク430N・m(43.9kgf・m)という実力を持ち、2020kgと決して軽くはないレンジローバー ヴェラールのボディーを軽々と発進させた。ヨーロッパ勢がこぞって投入するマイルドハイブリッドシステムは、低回転域のドライバビリティー向上には有効である。一方、2000rpm手前あたりからこの2リッターディーゼルはがぜん力強さを増し、4000rpmを超えてもその勢いが続く。
このディーゼルエンジンはノイズや振動がよく抑えられているのも見どころのひとつ。吹け上がりのスムーズさも、積極的なドライビングを可能にしてくれる。
見た目以上に走りは軽快
レンジローバー ヴェラールにはコイルサスペンションが標準で搭載されるが、この試乗車には、電子制御エアサスペンションを含むオプションの「ダイナミックハンドリングパック」(48万9000円)が追加されている。タイヤは標準の235/65R18から255/50R20へと2インチアップされ、路面によっては多少ホイールがバタつく感じもあったが、乗り心地は実にマイルドで、挙動もフラット。走りまでも上品なレンジローバー ヴェラールである。
走りだせば、余裕あるサイズのボディーがひとまわり小さく感じられるほど、クルマとの一体感がある。ワインディングロードではロールの動きがよく抑えられ、見た目とは裏腹に素直で軽快なハンドリングを示すのは意外だった。高速走行時のロードノイズも控えめで、スムーズなボディーに加えて、オプション「メリディアン3Dサラウンドサウンドシステム」の一機能として提供されるノイズキャンセリング技術の「アクティブ・ロードノイズ・キャンセレーション」が効いているのかもしれない。
ちなみに、今回の試乗車は、車両本体価格が787万円であるのに対して、てんこ盛りのオプションは502万8000円とかなりぜいたくな仕様だったが、アイテムを厳選すれば、そこまで価格を上げずに納得のいく仕様に仕立て上げられそうだ。
オプションの話はともあれ、デザイン、走りともに上品さが際立つレンジローバー ヴェラール。その内容を考えれば、実はコストパフォーマンスに優れる選択肢ではないかと思う。
(文=生方 聡/写真=荒川正幸/編集=関 顕也)
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テスト車のデータ
ランドローバー・レンジローバー ヴェラールD200
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4820×1930×1685mm
ホイールベース:2875mm
車重:2020kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:204PS(150kW)/3750-4000rpm
最大トルク:430N・m(43.9kgf・m)/1750-2500rpm
タイヤ:(前)255/50R20 109W M+S/(後)255/50R20 109W M+S(ピレリ・スコーピオンゼロ オールシーズン)
燃費:13.6km/リッター(WLTCモード)
価格:787万円/テスト車=1289万8000円
オプション装備:ダップルグレイプレミアムテキスタイル&ライトオイスタースエードクロス<ライトオイスターインテリア>(41万6000円)/ホットクライメートパック(17万円)/メリディアン3Dサラウンドサウンドシステム(27万5000円)/オンラインパック<データプラン付き>(3万2000円)/Wi-Fi接続<データプラン付き>(3万6000円)/ラゲッジスペースパーティションネット(2万1000円)/スペースセーバーアロイスペアホイール(3万2000円)/20インチ“スタイル7014”7スポーク<グロスブラックフィニッシュ>(20万4000円)/プレミアムブラックエクステリアパック(34万3000円)/固定式パノラミックルーフ(29万1000円)/プライバシーガラス(7万3000円)/フロントトレッドプレート<メタル、イルミネーション機能付き>&リアとレッドプレート<メタル>(5万2000円)/電動調整ステアリングコラム(6万3000円)/電動ソケットパック3(4万2000円)/ルーフレール<ブラック>(5万2000円)/フロントフォグランプ(3万1000円)/プレミアムキャビンライト(4万2000円)/アクティビティーキー(6万3000円)/パワージェスチャーテールゲート(10万4000円)/コールドクライメートパック(9万4000円)/テクノロジーパック(71万8000円)/カーペットマット(2万1000円)/インストゥルメントパネルエンドキャップ<クローム>(1万1000円)/ダイナミックハンドリングパック(48万9000円)/ヘッドライニング<ライトオイスター、スエードクロス>(27万1000円)/ポルトフィーノブルー(10万4000円)/20Wayフロントシート<ヒーター&クーラー、メモリー、マッサージ機能付き>(87万円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:1949km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:346.3km
使用燃料:28.9リッター(軽油)
参考燃費:12.0km/リッター(満タン法)/11.9km/リッター(車載燃費計計測値)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースレポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。