ポルシェ・パナメーラ ターボS Eハイブリッド スポーツツーリスモ(4WD/8AT)
電動化時代のハイパフォーマンスカー 2018.01.18 試乗記 強力なV8ツインターボエンジンとプラグインハイブリッド機構を搭載した「ポルシェ・パナメーラ ターボS Eハイブリッド スポーツツーリスモ」。走りと環境性能という“本音と建前”を技術の力で両立させた、新世代ポルシェの旗手を試す。カッコで選んで問題ない
「カイエン」でプレミアムSUV市場をけん引してきたポルシェが、そのブランドイメージを生かしてフルサイズサルーン市場に参入したのは2009年のこと。初代パナメーラはこの保守的なセグメントにおいても一定の成功を収め、2016年に第2世代へとバトンタッチした。
ポルシェが開発を主導したMSBモジュールを採用し、シャシーをはじめとするメカニズムは完全刷新。それに加えて大きなウリとして仕込まれていたのが、もうひとつのボディーバリエーションとなるこのスポーツツーリスモだ。思い起こせば2012年のパリサロンで登場したコンセプトカーは、パナメーラのフルモデルチェンジを予兆していたのみならず、このバリエーションの存在自体をほぼ違わぬ形で示していたことになる。
ともに5ドアハッチバックの体を取りつつも、キャビン形状を微妙に違えることでアストンマーティンの「ラピード」やフェラーリの「GTC4ルッソ」あたりと対峙(たいじ)できる2つのキャラクターを成立させている……と言うとひいき目になるのかもしれない。そのくらい、標準車とスポーツツーリスモの物理的な差異は微妙だ。
後席が独立2座、つまり4人乗りの標準車に対し、スポーツツーリスモは後席中央部をオケージョナルユースとした5人乗り。シートバックは40:20:40の独立可倒式とするなど、荷室の使い勝手も高めている。とはいえ、後席使用時の荷室容量の差は20リッターというからバックパックひとつ分くらいのもの。これをもって「居住性も積載能力も似たようなもの」と判断できる人、日常的に長尺物を積むでもない人にとっては、選択の基準はカッコのみで問題ないだろう。
パワートレインはまさに“満艦飾”
標準車が多少なりとも平時の礼式感を意識している一方で、スポーツツーリスモはフルサイズサルーンの快適性とポルシェに期待されるパフォーマンスをシューティングブレーク的なワゴンスタイルでまとめあげ、余剰的なぜいたくを突き詰めたもの――とするならば、「ターボS Eハイブリッド」というくどいグレード名と、それが示すパワートレインは、むしろスポーツツーリスモに似合うものだ。それをもって究極の余剰とする。それこそラピードともGTC4ルッソとも違う、ポルシェらしいラグジュアリーの描き方といえるだろう。
それにしてもスポーツツーリスモ ターボS Eハイブリッド……は余りに長すぎなので以降「ターボS E」と略させてもらおうと思うが……その心臓部は思わず苦笑してしまうほどの満艦飾ぶりだ。
ベースとなる内燃機側のスペックは先述の「ターボ」とまったく同じで、4リッターV8ツインターボから繰り出されるパワーは550ps、トルクは770Nmと、それだけでも300km/hオーバー級の実力といえるだろう。そこに加えられるのは100kW&400Nmを発生する電気モーターで、双方を合わせたシステム総合出力は680ps&850Nmにも達する。0-100km/h加速は3.4秒、最高速310km/hという数値はひと世代前の「911ターボ」にほど近い。
一方で、ターボS Eにはこの電気モーターを使って最大航続距離49kmまでのEV走行が可能なプラグインのモードも備わっている。14kWhのバッテリーは急速充電には対応していないが、230V/10Aの電源を介して6時間で満充電が可能とあらば、片道15~20km程度の平日通勤なら内燃機の側をほぼシャットダウンしたままの走行も現実的となってくるだろう。ハイブリッドがメジャー化してすでに久しいが、ともあれこれほど極端に本音と建前が同居しているモデルも珍しい。
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これからのポルシェを支える屋台骨
ターボS EのEV走行モードは、例えば都市部の渋滞や低速などのトラフィックに遭遇しても、内燃機関に頼ることなく加減速をこなしてくれる。さすがにレーンの短い都市高速の合流などでは心もとないが、本線に入ってしまえば電池残量の続く限り、粛々と走り続けることは難しくない。
そこからアクセルを踏み込んでの内燃機始動時は、さすがにポルシェ謹製V8ユニットの目覚めも静かに……とはいかないが、振動そのものはしっかり抑えられており、パワーのつながり感も相当に洗練されている。平時の穏やかなアクセルワークであれば、680ps、850Nmという火力を手に余らせることなく、いつでも必要なトルクを素早く引き出せるといった印象だ。そもそもターボラグの類いをまるで感じさせないところにきてモーターアシストも適切に加わるため、その“力感”は2tオーバーのマスをカバーして余りあるといったところだろうか。
スポーツドライビングにおいては電子制御ベクタリング、リアアクスルステアなどのデバイスが旋回力をしっかりアシストすることもあり、その身のこなしは、ひと回り小さなEセグメントあたりになぞらえられるほど軽快だ。ただ軽いというだけでなく、絶え間ない制御介入を自然な挙動にまとめあげていることに驚かされる。対して、コーナーでアクセルのオン/オフを繰り返すような状況では、その間髪入れぬレスポンスにモーターの明らかな存在感を感じるあたりが面白い。山谷の起伏を全然感じさせない不気味な加速でもって、車体がグイグイと空気の壁に押し込まれていく、その冷酷な力感の方がよほど特別なものとしてキャラ立ちしているように思えてくる。
ハイパフォーマンスブランドとしてはいち早くパワートレインの電動化を手がけてきたポルシェ。もちろんそれは2020年の上市といわれる電気自動車「ミッションE」へとつながるプロローグとみることもできる。しかし、このターボS Eの仕上がり、特に内燃機とモーターの出力協調のうまさをみるに、このハイブリッド技術は向こう10年どころではなく彼らの屋台骨を支えることになるのではないだろうか。個人的には少なくともそう遠くない将来にフィードバックされるだろうスポーツモデルの仕上がりが、不安ではなく楽しみになってきた。
(文=渡辺敏史/写真=ポルシェ/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
ポルシェ・パナメーラ ターボS Eハイブリッド スポーツツーリスモ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5094×1937×1432mm
ホイールベース:2950mm
車重:2325kg
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:550ps(404kW)/5750-6000rpm
エンジン最大トルク:770Nm(78.5kgm)/1960-4500rpm
モーター最高出力:136ps(100kW)/2800rpm
モーター最大トルク:400Nm(40.8kgm)/100-2300rpm
システム最高出力:680ps(500kW)/5750-6000rpm
システム最大トルク:850Nm(86.7kgm)/1400-5500rpm
タイヤ:(前)275/35ZR21 103Y/(後)325/30ZR21 108Y(ミシュラン・パイロットスポーツ4)
燃費:3.0リッター/100km(約33.3リッター/100km、ハイブリッド燃料消費率、新欧州ドライビングサイクル)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(プレミアムガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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