第537回:夢のカーライフはすぐそこに!?
エレクトロニクスの見本市「CES 2018」リポート
2018.01.19
マッキナ あらモーダ!
ハイテクショーで、まさかの停電
世界最大級の家電・エレクトロニクスショー「CES 2018」が、2018年1月9日から12日にかけて、米国・ラスベガスで開催された。
空港における入国審査は、テロ対策から年々時間を要するようになっている。今回、イタリアからの空路で最初の米国入国地となったデンバーでは、機械と入国審査官のダブルチェックを通過するのに、なんと2時間を要した。この苦労、懐かしのテレビ番組「アメリカ横断ウルトラクイズ」かよ! と思ってしまった。
到着した1月8日のラスベガスは大雨だった。配車サービス「ウーバー」のドライバーは、ホテルまでいつもと違うルートをとる。無駄な遠回りを警戒し、「俺はベガスに詳しいんだぜ」といった言葉をちらつかせた。するとドライバー氏は、「今夜は雨であちこちの道が水浸しのうえ、渋滞がひどいんですよ」という。実際にそれは正しく、宿でテレビをつけると、たちまちラスベガス地域における冠水のニュースが流れた。
後日乗った別の運転手によると、当日ラスベガスでは200件の追突事故が起きたという。「この地の住民は、雨の日の運転テクニックを知らないからね。そもそもワイパーを使う日がまれなんだよ」と教えてくれた。
大雨はさらなる災厄をもたらした。CESのメインパビリオンでは会期1日目に雨漏りが発生。2日目には1時間半にわたる停電が起きた。世界屈指の最先端テクノロジーショーだけに、かなりのブラックジョークだ。
欧米メーカーは冷めている!?
閑話休題。51回目となる今回のCESは、オフィシャルのものだけでも11に及ぶ会場に、24カテゴリー、約3900の組織団体が出展した。
自動車メーカーとサプライヤーの多くは、例年どおり「北ホール」と呼ばれるパビリオンとその周辺にブースを展開した。
ただし、状況はやや変化してきている。今回フォルクスワーゲンは、NVIDIA(エヌビディア)社の発表会において同社からAIテクノロジーの供給を受けることを発表したのみで、従来のような自社ブースは設けなかった。アウディも2016年はブースがあったものの、2017年はNVIDIA社との屋外での自動運転デモだけになり、今回は自社としての参加はなかった。
米国系もしかり。2016年に新型「シボレー・ボルト」を会場で華々しく発表したゼネラルモーターズは今回ブースを出さず、FCAは事実上、ロサンゼルスオートショーで発表した新型「ジープ・ラングラー」を並べただけ。まともな出展はフォードのみだった。欧米自動車メーカーの間では、そろそろ「CES離れ」が始まったのかもしれない。
一方、日本のブランドは気合が入っていて、昨2017年に引き続き、トヨタ、日産そしてホンダが参加した。
トヨタの展示の1つ目は「e-Paletteコンセプト」と名付けられた自動運転のEVコンセプト。「さまざまな商用に応用可能なプラットフォーム」という構想だ。トヨタはそれを実現するための初期アライアンスのメンバーとして、アマゾン、配車サービスのDiDi(滴滴出行)とウーバー、マツダ、そしてピザハットとの提携を発表した。
勢いのあるトヨタに期待
ピザといえば、自動車メーカーとしては、2017年にフォードがドミノ・ピザを巻き込んで自動運転車の実証実験をミシガンで開始している。会場には、今回もその車両が展示された。
会場のフォード関係者に「なぜ、みんなピザなのか?」と聞くと、相手は個人的見解と断りながらも「ピザはアメリカの食文化のひとつだから」と答えた。本場のイタリア人が聞いたら笑止千万だろう。だが、イタリアにおけるピザが「週末、お気に入りの店に仲間や家族と食べにいくもの」であるのに対し、「デリバリー食の代表」として扱う点では、アメリカに一日の長があるのは明らかである。一般の人々に自動運転への興味を持ってもらうには、宅配ピザ業者は絶好の提携先に違いない。
いっそトヨタには、ピザではなく、運搬に際してよりスタビリティーと温度管理が求められる、そばやうどんのような汁物に挑戦してほしいというのは、筆者の個人的見解である。
トヨタの2つ目は、自動運転実験車「Platform 3.0」である。こちらは子会社のトヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI)とともに、「レクサスLS600hL」をベースに開発したものだ。周囲360度を認識可能なLiDAR(レーザーレーダー)を備えると同時に、トヨタの米国デザイン部門であるCALTY(キャルティ)の協力のもと、よりスマートなセンサーやカメラ類のデザインを模索している。
実物を見た印象としては、「iPhone6」以降の“突出した背面カメラ”に似た違和感が、まだ残る。したがって、現段階では、将来各種センサー類が完全に同一平面化するまでの過程として捉えたほうがいいようだ。逆に、歩行者の安全が保証される範囲でセンサー類を突き出させ、「俺は自動運転車だぞ」的なテクノ感を演出するのも手ではないか? とも思えてくるのだが、いかがだろうか。
脳波を運転に生かす技術も
日産は、「Brain to Vehicle」という技術を発表した。運転中の脳波のアルゴリズムをリアルタイムでスキャン、解析し、それをビークルダイナミクスに反映する。簡単な例として、きついカーブに差し掛かる前に人間が出す脳波を感知し、それをクルマのメカニズムに反映させることで、より安心でき、ドライビングプレジャーに満ちた運転を可能にする。
プレゼンテーションに立った脳波テクノロジー・イノベーション研究員のルシアン・ギョルゲ氏は、このシステムが最大の効果を発揮するためには、ドライブ・バイ・ワイヤー技術との緊密な連携が必要であることを示唆した。
現時点では脳波の測定にヘッドギアやブレスレットを用いているが、それをどこまでワイヤレスで行えるようになるかも、この技術の鍵となってくるだろう。
変わってホンダは、人とコミュニケーションをとるロボット「3E-A18」、人との関わりを通して、より人のためになるよう自らを成長させてゆくロボット「3E-C18」、そして、アタッチメント交換で消火活動などにも使えるロボット「3E-D18」を展示した。
プレゼンテーションでは、「技術は人のためにある」ことを強調した。その伝統として、スクリーンに現れたのは、日ごろおなじみの発電機、耕うん機などであった。なるほど、ホンダの場合こういう話題の展開法もあったか。
音の工夫で「より安全な生活」を
自動車のCASE(コネクテッド/オートノマス<自動運転>/シェアリング/エレクトリック)化に関連したサプライヤーの出展も華やかだった。
顔認識や目の虹彩によるID認証は、さまざまな企業から提案されていた。スタートアップ企業はシェアリング用のキーボックスを提案する一方で、パナソニックは二輪と四輪双方に使えるEV用パワートレイン・プラットフォームを展示した。
3年前、初めてボクがCESを訪れたときに大出力と派手さで幅をきかせていたカーオーディオメーカーたちは、今やそうした“インテリジェント系”に、まるでオセロゲームの駒がひっくり返されるように駆逐されようとしている。
会場外展示でも興味深いものが少なくなかった。Bose Automotive(ボーズ・オートモーティブ)は今年もダウンタウンの特設会場において、開発中の新技術を関係者に公開した。
そのひとつ「Clear Voice」は、同乗者の話し声やカーナビの音声、ラジオといった不要な背景雑音を信号処理技術で取り除き、通話の音声だけを明瞭に届ける技術だ。
同社のマーク・マンセル副社長は、「今日メーカー装着のハンズフリーフォンは『聴こえにくい』という苦情が少なくない。結果として、いまだスマートフォン片手に運転してしまう危険なユーザーがたくさんいる」と指摘。新技術はそうした状況を改善できると訴える。
夢の技術満載のCESだが、日常の自動車生活をより快適なものにする、こうした地道な技術も紹介されているのである。
“リアル”で勝負のBMW
CASEの「A」にあたる自動運転の実演は、昨年に引き続き、北ホールに隣接した屋外会場で開催された。ただし今回は、場内だけにとどまらなかった。
旧デルファイ系のアプティブ社は、自動配車サービス「Lyft(リフト)」とともに、「BMW 5シリーズ」がベースの自動運転車を使って、来場者を市内の希望の場所まで乗せるサービスを展開したのだ。車両は8台。体験は無料で、希望者はLyftの専用アプリを通じて申し込む仕組みである。
並んでいる人に聞いたところ、「アプリの操作がわからなくて20分苦戦。そのあとは約1時間待ちだった」と教えてくれた。運転席を見せてもらうと、限りなく普通の5シリーズである。念のためだろう、後方に伴走車がついての走行だ。
そうしているうち、遠くから、けたたましいタイヤのスキール音が聞こえてきた。
音の源はBMWだった。
今年、彼らが掲げるテーマは「リアル&バーチャルワールドにおける究極のドライビングマシン」。テント内にはゲームソフト「グランツーリスモSPORT」の体験ブースが設けられ、屋外では、BMWのドリフト走行同乗体験パフォーマンスが行われていたのだ。実車である。
そこに並ぶ人の数は、自動運転車に勝るとも劣らないものであった。上を通るモノレール駅には、ドリフトの様子を眺める人や、スマートフォンに映像をおさめようとする人が鈴なりになっているではないか。立ちのぼる煙とタイヤの焦げる匂いは、バーチャルではあり得ないものだ。
ハイテクてんこ盛りの世界だからこそ際立つ、アナログなパフォーマンス。BMWのイベント担当者は、テントの脇でガッツポーズをしていたに違いない。
(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>、Bose Automotive/編集=関 顕也)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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