第126回:「i」コンセプトに見る未来のBMW 〜ドイツで開催された技術ワークショップに参加
2011.08.18 エディターから一言第126回:「i」コンセプトに見る未来のBMW 〜ドイツで開催された技術ワークショップに参加
BMWの野望
大勢のプレスでざわついていた会場が、急にシンと静まった。ヒューンという独特な走行音を発しながら、唐草模様に偽装された1台のスポーツカーが、会場を取りまくように周回しはじめたからだ。むろん屋内を走らせるわけだから、排出ガスゼロのモーター駆動である。そして始まったカウントダウン。プレスイベントの開始とともに、われわれの目の前に現れたのは、偽装を外した「i3」と「i8」だった。
バイエルン出身の、いかにも精力的な交通大臣が熱弁をふるう。いわく、「ドイツ製品は世界一」「BMWの電気自動車(EV)戦略を大歓迎する」「今政権でEVモビリティの端緒を作ったことに誇りを持つ」「今後も政策的にEVを支援する」「ナショナルプラットフォームを作る」「バイエルンがモデルとなってあらゆる法的支援、規制緩和を進める」、そして「その世界最先端のビジネスモデルを輸出し、新たなモビリティインフラビジネスにおいてドイツが世界ナンバー1を目指す」らしい……。
それくらい日本人だってできるわい、と内心強がりつつも、政治家からこれだけ簡潔で力のこもったメッセージが発せられると、「してやられるんじゃないか!?」 という気にもなるってもんだ。がんばろうぜ、ニッポン。
それはさておき、BMWのサブブランド「i」が、ついに正式発表された。従来型の自動車を中心とした人と社会とモビリティでは、経済や環境分野における急進的な変革期を乗り越えられないというのは常識的な見方だ。そこでBMWは、新たなパーソナルモビリティを提案することで、人と地球との新たなバランスを構築しようと今までのラインナップとは一線を画するサブブランドとして、「i」を生み出した。
このスタート地点の考え方が、最も重要だと思う。かみくだいて言えば、私のような20世紀型クルマ好きばかり相手にしておれん、それはそれで相手にしつつ(=従来のラインナップ)、次世代を担う人たちや未来の人々に向かってもうひとつの違うメッセージ(=「i」)を出しておこう、というわけだ。何だかホッとするような、そうでないような……。
社会的に見ても、また、産業的に見ても「パーソナルモビリティが大変革の時期に差し掛かっているのは紛れもない事実である。その分野においても、プレミアムな製品を提供し、ナンバー1の座を狙いたい」というのが企業としてのBMWの野望である。
そのために、彼らは当然のことのように、CO2ゼロを最終目標としている。もちろん、生産過程で発生するものから製品が発生するものまで、である。2013年に「i」シリーズの生産を始めるライプチヒ工場では、風力エネルギーを積極的に使い、これまでの工場に比べて50%以上の効率化と、70%以上の水資源抑制、さらにはグリーンエネルギー使用率100%を目指すという。
デザインはほぼ完成!?
新たなモビリティは当然、EVが主体となる。われわれ日本人にはもうおなじみの話だが、それらはネットワーク化され、生活のモビリティの在り方を再定義することになる。デジタル統合ナビゲーションにより、モビリティはシステムの一部と化し、人や他のモビリティと協力しあって、完全自動運転一歩手前の安全性と機能性、利便性を有することになる。
システム化、ネットワーク化の具体的なプレゼンテーションもあったが、まずどれもこれも予想通りのもので、特に驚くに値しない。“電気製品”では当り前のことを、クルマに採り入れただけで、逆にそうなってもらわなければ、宝の持ち腐れだ。今、EVに乗って、いまひとつ盛り上がらないのも、それが単に従来型の自動車から音を奪いさって代替しただけだからだ。
「i」の具体的な商品が、「i3」と「i8」である。前者は完全EV(オプションでレンジエクステンダー化可能)のシティコミューター、後者はBMWらしい新時代のハイブリッドスポーツカーである。ちなみにBMWといえば数字でモデルシリーズを表現するわけだから、これまでの伝統でいえば、他のモデル、「i1」や「i5」「i7」があってもおかしくないし、ひょっとすると「i3X」なんてモデルも考えられるだろうか。いずれにしても、クルマのコンセプトと機能が大きく変わるだけで、形而上ではともかく、形而下において人とクルマの関係はそれほど変わるものではなさそうだ。
そのいい例が、舞台に出て来た2台のコンセプトカーだ。BMWグループ・デザイン部門統括責任者エイドリアン・ファン・ホーイドンク氏によれば、これらは「9割方完成したデザイン」である。インテリアとエクステリアの融合など、新しいテーマも見受けられるが、その実、ディテールを外してみれば、かなり常識的なデザインだ(だから9割なのかも知れないが)。ライフモジュールとドライブモジュールとにはっきり分離して機能設計するという新しいコンセプトを介してもなお、今あるクルマと見た目にそうは違わない。特にスポーツカーの「i8」、よくよく観察してみれば、ただノーズが低い(エンジンがない)だけの格好いいノッチバッククーペで、ドアが非常識に開くこと以外、腰を抜かすほどのものじゃなかった。
ただ、目を見張るのは、これだけカタチが違うにもかかわらず、両車のあいだでデザイン言語が見事に統一されている点である。キドニーグリルはもはや機能としてのレゾンデートル(存在理由)を失ったものの、BMWブランドのランドマークとしてこれまで通りの役割が与えられた。細く大径のタイヤはスタイルにダイナミクスを、そしてガラスパートの多さは新しさを、それぞれ効果的に表現している。斜め後ろから見た2台の姿は、高さが違うだけで、実によく似ていて、テールランプやディフューザー、サイドライン、リアフェンダーの造作が、統一性を物語る。
2013年に登場する頃には、もう少し現実的になるのだという。おそらくガラスエリアが減らされ、インテリアにもなじみが出ることだろう。その代わり、もう少し驚きが付加されるというから楽しみだ。
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確立されたカーボンボディ量産技術
個々の車両のスペックについては、別掲の通り。ここでは詳しく説明しない。あくまでもコンセプトカーなので、「現時点ではこのスペックだが将来的には……」という説明があまりにも多かったため、ここは発表された車両スペック以上のことを読み取ったとしてもかいがないと考えた。
「i3」がモーターリア置き後輪駆動の4人乗りEVで、「MINI E」のように1ペダル走行が7〜8割方できそうだということ、オプションでレンジエクステンダーエンジン(どういう種類かは明らかにされなかった)を積めること、荷物用スペースが200リッター確保されていることあたりを覚えておきたい。
「i8」に関しては、2+2のスポーツカーで、フロントにモーター(「i3」用の改良型)、リアにエンジン(3気筒ターボ)を置く4輪駆動同等であること、重量配分50:50にこだわっていること、あたりで十分か。
もうひとつ、興味深いのがCFRPアーキテクチャーだ。「i」シリーズを実現するにあたり、軽量化は避けては通れない課題であった。それをイッキに解決する方法が炭素繊維強化プラスチックの利用であることは衆目の一致するところだが、「i」シリーズはスーパーカーではない。プレミアムであるとはいえ、パーソナルモビリティの新鋭であるから、量産車だ。ライフモジュールをCFRPで形成するにあたり、その生産コスト引き下げ手法に注目が集まる(CFRPコストで多くを占めるのは人件費だったりする)。
今のところ、ジョイントベンチャーで開発した専用のスペシャルマトリックス入りカーボンシートを使って、RTM法によりキャビン構成パーツを量産する、とまでしか明らかにされていない(「i8」ではブレイディングも使う)。ちなみに、「i3」の側面一枚のカーボンパーツを成型するのに要する時間は、たったの2分だという。アウト・オブ・クレイブによるCFRP生産が、いよいよ本格化する、ということか。ちなみに、CFRPをアピールするため、「i」のカーボンシートにはこれまであまり見たことのない模様が入っていた。見慣れた格子状ではなく、ちょっと違う風にみえる。しゃれていると思う。
会場内では、早くも「本当に出て来たら欲しい」というジャーナリストからの声が聞こえてきた。確かに、それだけのインパクトがある商品である。まさに今、われわれ自動車関係の仕事に携わっている者が欲しているのは、商品による刺激であり、欲望の喚起である。日本のメーカーとの違いでいえば、そこに尽きるのではないだろうか。技術力や探究心は変わらないとしても、そのプレゼンテーション能力に差があるとすれば、それはあまりにももったいない話だろう。
(文=西川淳/写真=BMWジャパン)

西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。
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