BMW X3 xDrive20d Mスポーツ(4WD/8AT)
乗れば沁みる“SAV” 2018.01.31 試乗記 見た目はキープコンセプトながら、多くの先進機能を携えて登場した3代目「BMW X3」に試乗。そのライバル車に対するアドバンテージはどこにあるのか。内外装の出来栄えや、走行性能をチェックした。今や販売台数の3分の1が“SAV”
イチ押しの訴求ポイントでもある“走りの良さ”を強調するべく、あえて「Sport Activity Vehicle(スポーツアクティビティービークル)」、すなわちSAVという言葉で自身のSUVを紹介するBMW。
初代が2000年に誕生の「X5」に次いで長い歴史をもつX3が、2度目のフルモデルチェンジを敢行して日本に上陸となった。
車名が「X」で始まるSAVは、今やBMWのラインナップになくてはならない存在で、何となればそのシリーズは全BMW車の新車販売台数中、すでに3分の1ほどを占めるという。最近では、ブランニューモデルとして「X2」が追加され、コンセプトモデルという扱いながら、すでに「X7」の存在も明らかになっている。
この先、Xシリーズだけで“フルラインナップ”が成立するとなれば、前述した3分の1という比率が今後さらに上昇していくことは確実という状況だ。
新たなボディー骨格を採用した新型X3では、ホイールベースを55mm拡大。同時に、全長もほぼ同様に延長されている。
一方で、エクステリアデザインの雰囲気は従来型のそれを強く踏襲し、グラフィックが大きく変更されたテールランプが目に入らないアングルでは“見間違える”人も現れそう。
かくして、従来型に好感を抱いていた人には、すんなりと受け入れてもらえそうなのが新型のアピアランス。そうした中で、どうしても注文をつけたくなるのは、キドニーグリル内を走る斜めのパイプ(?)。そんな“内臓”はカタログ写真では見事に消されているが、実際には正面から日差しを受けたりすると、思いのほかに目立ってしまう。せめて、ブラック塗装を施すくらいの配慮はできなかったのだろうか?
インテリアに見るBMWのこだわり
あえて言うなら“コンサバティブ”なエクステリアに対して、インテリアはフルモデルチェンジらしい大変貌を遂げた。ただし、それはダッシュボードまわりのデザインを中心に、「見慣れたテイスト」であるのもまた事実だ。
そう、新型X3のインテリアデザインは、そのすべてが「最新のBMWの流儀にのっとった」といえるもの。ワイドなディスプレイをダッシュボード中央上部に立てかけたような仕立てや、そこに表示される項目の多彩さは、従来型のそれと見比べるとはるかにモダンであることは間違いない。ドライバー正面のクラスター内に表示されるメーターも、いわゆるバーチャル方式になった。
ユニークなのは、そんなメーター表示部分にはあらかじめ物理的な“リング”がレイアウトされ、そこに表示されるグラフィックは複数タイプが用意されていても、直径は不変の円形メーターであること。
せっかくバーチャル方式を採用したのであれば、カタチも大きさもさまざまに設定したい、というアイデアも当然あったはず。しかし、そこに自ら制約を課したのが、BMWならではのこだわりということになるのだろう。
従来型と比べて居住空間やラゲッジスペースが大きく拡大された感は受けないものの、「大人4人が相当量の荷物を持ち込んでも不足はない」というレベル。一方で、ドライバーズシートからの見下ろし感は、ヒップポイントが上げられたことでこれまでのモデルよりもやや強くなった。ここは、過日の国際試乗会の場で耳にした「コマンドポジションをより明確にしたかった」という、エンジニア氏の言葉通りの印象だ。
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現時点でのパワーユニットは2種類のみ
テストドライブを行ったのは、最高出力190psの2リッター4気筒ターボ付きディーゼルエンジンを搭載する「xDrive20d Mスポーツ」。日本で売られる新型X3には、これ以外に2リッター4気筒ターボ付きガソリンエンジン仕様も用意されている。
というより、「この2種類しか選択肢がないのが日本のX3」という言い方もできる。欧州向けにはガソリンにもディーゼルにも直列6気筒エンジンの用意があって、いずれもなかなか魅力的な仕上がりだったため、この部分はちょっとばかり残念、かつ悔しいポイントだ。
特に「Xシリーズとしては初めてとなるMパフォーマンス・モデル」と紹介される、360psもの最高出力を発するガソリンエンジンを搭載した「M40i」の走りは、まさに“羊の皮をかぶった狼”的なダイナミックな俊足ぶりが心に残る、大いに魅力的なものであったのだが……。
とはいえ、ベーシックなディーゼルエンジンを搭載する今回のモデルでも、絶対的な加速力に不満を感じるシーンは、ただの一度もなかったのは事実。
何しろ、400Nmという強大な最大トルクが発せられるのは、わずかに1750rpmから。それゆえ、街乗りシーンでも常に“太いトルクバンドの中”で走行ができるし、高速道路上でもアクセルの踏み増しに対して、キックダウンに頼らず力強く走れる感覚がゴキゲンなのである。
ディーゼルらしい音色は思ったよりも明確である一方、そのボリュームも不満を抱くには至らない水準。組み合わされる8段ATも、最近のBMW車の例にたがわず好ましい出来栄えで、どこをとっても納得のいく仕上がりだったのが、このモデルの動力性能だ。
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ライバル車に対するアドバンテージは……
今回のテスト車は、ヒーター付きのレザーシートやウッドインテリアトリムなどからなる「ハイラインパッケージ」や、ヘッドアップディスプレイやディスプレイキーなどからなる「イノベーションパッケージ」、電動パノラマサンルーフなど、92万円ほどのオプションアイテムを装着した仕様。ちなみにMスポーツグレードでもサスペンションはノーマルと同様のセッティングだ。
履いていたランフラットタイヤの感触については、あらかじめ知っていれば、特定路面でのばね下のやや重い動きから“そう”と推測できる程度。ハンドリング感覚の自在性の高さは、「さすがBMWの作品」と紹介するに足るものだ。
「アウディQ5」に「ボルボXC60」と、ここにきていみじくも新型X3の直接のライバルとなりうる欧州モデルが上陸しているが、ディーゼルモデルを持たないQ5に対しては、ズバリそこに大きなアドバンテージが見られるし、XC60に対しては、エンジンやトランスミッションの洗練度や、マルチメディアの扱いやすさで明らかに勝っている、というのが個人的印象。
もうちょっと見た目の斬新さが欲しかったのに……という気もしないではないけれど、その分、飽きずに長く付き合えそうな最新のBMW車なのである。
(文=河村康彦/写真=荒川正幸/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
BMW X3 xDrive20d Mスポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4720×1890×1670mm
ホイールベース:2865mm
車重:1890kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:190ps(140kW)/4000rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/1750-2500rpm
タイヤ:(前)245/50R19 105W XL/(後)245/50R19 105W XL(ヨコハマ・アドバン スポーツZ・P・S)※ランフラットタイヤ
燃費:17.0km/リッター(JC08モード)
価格:710万円/テスト車=802万2000円
オプション装備:ボディーカラー<メタリックペイント ファイトニックブルー>(9万3000円)/電動パノラマガラスサンルーフ(20万2000円)/ハイラインパッケージ<ランバーサポート+シートヒーティング+ヴァーネスカレザーシート+センサテックフィニッシュダッシュボード+ポプラグレー ファインウッドインテリアトリム>(29万2000円)/イノベーションパッケージ<BMWディスプレイキー+BMWジェスチャーコントロール+BMWヘッドアップディスプレイ>(17万1000円)/アンビエントライト(5万円)/harman/kardonサラウンドサウンドシステム(9万4000円)/リアシートバックレストアジャストメント(2万円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:1792km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:458.2km
使用燃料:40.0リッター(軽油)
参考燃費:11.5km/リッター(満タン法)/11.8km/リッター(車載燃費計計測値)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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