マクラーレン570Sスパイダー(MR/7AT)
人が主役のスーパースポーツ 2018.02.07 試乗記 マクラーレンのエントリーレンジを担う「スポーツシリーズ」に、第4のモデル「570Sスパイダー」が登場。570psのV8ツインターボと開放的なオープンボディーが織り成す走りに加え、単なるエントリーモデルにはとどまらない走りの魅力をリポートする。2017年発表の“ホット”なマクラーレン
2017年6月末に英国で開催された「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」において、ワールドプレミアを果たしたマクラーレン570Sスパイダー。日本では同じ2017年の9月に導入が発表された。
現在マクラーレンは、フェラーリでいうところの「スペチアーレ」(「ラフェラーリ」や「エンツォ・フェラーリ」「F50」など)に相当する「アルティメットシリーズ」を頂点に、「フェラーリ812スーパーファスト」や「ランボルギーニ・アヴェンタドールS」がライバルとなる「スーパーシリーズ」、そして「フェラーリ488GTB」や「ランボルギーニ・ウラカン」シリーズを仮想敵としたスポーツシリーズの3カテゴリーを擁している。
今回ここで紹介する570Sスパイダーが属するのは、そのスポーツシリーズ……マクラーレンとしてはエントリーモデルのラインナップに属する。トップバッターとなった「570S」(クーペ)、「540C」(クーペ)、そして「570GT」(ハッチバック)に続く、第4のモデルバリエーションだ。また、スーパーシリーズの第2世代モデル「720S」よりさらに後に発表された、つまり最も“ホット”なマクラーレンという時系列的事実もある。
そんな570Sスパイダーにおいて注目すべき点は大きくふたつ。ひとつは、当然のことながらクーペモデルの570Sとの違い、そしてもうひとつが、3つのシリーズカテゴリーにおけるスポーツシリーズとしての役割だ。
前者のチェックは明確で、一般的にクーペに比べてハンドリングやパフォーマンスの点で不利とされるオープンボディーの仕上がりを、570S(クーペ)と比較して確認すればいい。後者はもう少し概念的な分析も必要だろう。アルティメットシリーズは別格としても、スーパーシリーズとはどこが異なっているのか。スポーツシリーズとはどんなユーザーに向けたどんなモデルなのか。上位モデルと下位モデルの作り分けや存在理由が、このモデルとの短いドライブで理解できればいい。それがマクラーレンのビジネス上の理由という結論でも構わない。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
最小限に抑えられた車両重量の増加
ひとつ上のスーパーシリーズが720Sとして新世代に移行した今(ホオジロザメをモチーフとしたというそのエクステリアデザインはなかなか斬新だ)、570Sスパイダーが属するスポーツシリーズ系のエクステリアは、アルティメットシリーズの「P1」(2013年)に始まったデザインコンセプトの集大成ともいえる。空力のために複雑なレイヤー処理を行ったフロントセクション、リアのエアインテークに空気を無駄なくそして効率的に取り込むための、かつてのNACAダクトをほうふつとさせる大きな開口部を持ったサイドデザイン。そのどれもが、先行ブランドのフェラーリやランボルギーニとは異なったマクラーレンらしいアピアランスを表現している。
注目のトップは、電動のリトラクタブルハードトップ。走行中でも40km/h(実測では43km/h程度)までなら開閉がスイッチひとつで行える。その開閉時間はわずか15秒。信号待ちや渋滞時など、いつでも気軽に気分次第で開け閉めが簡単に行える。軽量化を理由にソフトトップを採用するオープンスーパーカーも少なくない中、マクラーレンは遮音性や閉じた際のフォルムを優先しハードトップを採用したようだが、クーペ比でプラス46kgの車重でしかない。軽さにも自信ありということなのだろう。
ルーフを閉じた際のフォルムも570Sスパイダーは独特だ。フローティングピラーが特徴的な570S、なだらかな一枚続きのリアセクションを持つ570GTとは異なり、クローズド時にはルーフラインと一続きとなる、左右一対のフェアリングが目を引く。さらにキャビン後方には垂直の電動リアウィンドウも用意。これは、オープン時には風の巻き込みを防ぐウインドディフレクターとして機能するほか、クローズド時にはあえてこのウィンドウを開けることで、後方でうなりを上げるV8のサウンドを遮蔽(しゃへい)物なく楽しむこともできる。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
オープン化に伴うネガは感じられない
このように、クーペ以上にエンターテインメント性が高いオープンモデルでは、それと引き替えに失うモノがあるはずなのだが、この日に公道を流した限り、570Sスパイダーの走りにクーペと異なる部分(主にデメリット)はまったく感じられなかった。
ルーフを開閉式にした分、ボディー剛性は低下……していない。実に良好である。カーボンのモノコックタブの強靱(きょうじん)さを前にしては、ルーフの有無も大きな問題とはならないようだ。これがクーペかスパイダーか、目隠し状態で運転をしたら(もちろん現実的にそんなことはあり得ないが)、どちらを運転しているのかを言い当てるのはプロでも難しいだろう。スカットルシェイクや内装のきしみ音など、オープンカーに特有のビハインドも感じとることはできなかった。
オープンボディーになったとたんに走りやハンドリングが荒くなるオールアルミボディーのスポーツカーとは一線を画す、シャシーの剛性感とボディーの応力構造が、カーボンモノコックタブを採用するマクラーレンの全車に共通するアドバンテージだ。サーキットでつぶさに検証すれば、電動トップ(とその機構)を追加した重心の変化はひょっとすると感じられるかもしれない。しかし、そこそこの速度でS字の切り返しを試してみても、それに起因するクーペモデルとの違いを一般道では感じることは、少なくとも今回は、なかったと報告したい。
ライバルとは一線を画すストレスのなさ
重量が46kg増加した分、パフォーマンスは……こちらも低下していない。実に素晴らしい。さすがに一般道や高速道でフルスロットルは試せていないが、カタログデータ上において、0-100km/h加速はクーペと同じ3.2秒を実現。328km/hの最高速度も変わらない。ただし、オープン時の最高速度が315km/hにとどまるのは、やはり空力面での違いが顕著に表れるからだろう。一般的な使い方では、この上の加速力が果たして本当に必要なのかと考えてしまうほどに速く、低中速域でのトルクの厚みもクルマの扱いやすさにつながっている。スーパーカーと呼ばれるクルマから想像される、神経質なマナーなどは皆無。これは後述するが、スポーツシリーズの存在意義にも無関係ではないだろう。
と同時に、その加速シーンにおいてのエンジンサウンドも魅力的だ。後方から届くオープンモデルならではのライブサウンドが耳に心地よい。もちろんV12(こちらはスーパーシリーズが担当)には官能性で及ばず、アストンマーティンのV8ほどの演出もないが、スポーツカーらしいそのサウンドには、3000万円に迫る特別なクルマに相応な満足感を得られる。
マクラーレンによれば、スポーツシリーズは実用性や快適性を持ち合わせた、日常使いもできるスーパーカーなのだという。確かに、スーパーシリーズの代表モデルであった過去の「650S」の試乗経験からいえば(残念ながら最新の720Sはこの時点では未試乗)、サイドシルは低く狭く、同時にドアの前方にあたる部分に絶妙な切り欠きがあり、乗り降りの際に“足抜き”がしやすい。スーパーカーにありがちな乗降時の負担が減った。ドアリビングポジションもスッと決まり(いっぽうで電動シートのスイッチは残念ながら非常に使いづらい)、視界もスーパーカーにしては良く、この点におけるストレスもライバル車よりはぐんと少ない。
実用性というと、やれ荷物がどれほど載るとか、何人乗りだとか分かりやすい比較に陥りがちだが、スーパーカーにとっては乗り降りのしやすさや運転のしやすさも“実用性”という項目に含まれるのだ。そこから考えれば、初めてこの手のミドシップスーパーカーのオーナーとなる人へのハードルが、スポーツシリーズでは極めて低い。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
単なるエントリーモデルではない
だが、スポーツシリーズのスポーツシリーズたるゆえんはそれだけではない。
電子制御バリバリで、ロールもピッチングも極めて少なく、旋回特性を一定に保ち、まるで「物理法則を無視」したかのように振る舞うブレーキステアと「プロアクティブ・シャシー・コントロール」の存在感が際立つスーパーシリーズに対して、こちらは同様の電子制御システムを採用しつつも、コーナリングではフロントに荷重をしっかりと乗せるためにきちんと減速が必要で、同時にステアリングを早めに操作しヨーをわずかに発生させることによってキレイに旋回を保つという「物理原則を尊重」するような走りが信条なのだ。
この味付けの違いは、間違いなくマクラーレンが意図して演出したはずのものだ。F1由来のテクノロジーをダイレクトに市販車でも体感させるスーパーシリーズと、オーナーの操作にできるだけ添いながら気持ちよく走れるようサポートするにとどめたスポーツシリーズの操作性やフィーリングの違いこそが、ネーミングの「スーパー」と「スポーツ」の意味するところだろう。それはそのまま、パフォーマンスにおいて単純に市販車トップを目指したカテゴリーのモデルと、ドライビングスキルをさらに高める意思を持つオーナーに向けたカテゴリーのモデルとの違いでもある。
乗りやすく、パワーと価格を抑えたビジネス上のエントリーモデルだとスポーツシリーズの上っ面だけを見ていては、本当に練られたマクラーレンの知的な戦略に気づかない。3つのカテゴライズは、ターボの出力を変えて価格差をもたらし、車名の数字で差別化を図るような薄いマーケット戦略ではないのである。
(文=櫻井健一/写真=郡大二郎/編集=堀田剛資)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
マクラーレン570Sスパイダー
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4530×2095×1201mm
ホイールベース:2670mm
車重:1498kg(DIN)
駆動方式:MR
エンジン:3.8リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:570ps(419kW)/7500rpm
最大トルク:600Nm(61.2kgm)/5000-6500rpm
タイヤ:(前)225/35ZR19 88Y/(後)285/35ZR20 104Y(ピレリPゼロ コルサ)
燃費:10.7リッター/100km(約9.3km/リッター、欧州複合モード)
価格:2898万8000円/テスト車=3242万円
オプション装備:セキュリティー・パック<車両リフト+パーキングセンサー[フロント+リア]+リア・パーキングカメラ+室内専用ボディーカバー>(67万1000円)/ラグジュアリー・パック<シートヒーター&電動メモリーシート+電動ステアリングコラム+ソフトクルーズドア+専用フロアマット>(74万4000円)/スペシャルペイント(24万9000円)/スポーツエキゾースト(58万6000円)/Byマクラーレンデザイナー・インテリア-ラグジュアリー(44万6000円)/ライトウェイト鍛造ホイール<5ツインスポーク&10スポーク>-シルバーフィニッシュ(46万7000円)/ダイヤモンドカット・ホイールフィニッシュ(26万9000円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:2916km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:175.4km
使用燃料:26.9リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.5km/リッター(満タン法)/11.5リッター/100 km(約8.7リッター、車載燃費計計測値)
拡大 |

櫻井 健一
webCG編集。漫画『サーキットの狼』が巻き起こしたスーパーカーブームをリアルタイムで体験。『湾岸ミッドナイト』で愛車のカスタマイズにのめり込み、『頭文字D』で走りに目覚める。当時愛読していたチューニングカー雑誌の編集者を志すが、なぜか輸入車専門誌の編集者を経て、2018年よりwebCG編集部に在籍。
-
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(4WD)【試乗記】 2026.6.1 「ホンダCR-V」がフルモデルチェンジ。新型は適切なボディーサイズと高品質な内外装を持ち、乗れば最新のホンダ車らしい気持ちよさが味わえる。ただし、その月販目標は400台。ちょっと弱気ではあるものの、周辺事情にも考えを巡らせると極めて妥当な数字にも思えてくる。
-
トヨタRAV4 GRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】 2026.5.30 新型「トヨタRAV4」のプラグインハイブリッド車ではEV走行換算距離が約150kmにまで到達。もちろん電池容量の拡大によるところも大きいが、何よりも最新のハイブリッドシステムによる効率向上が効いている。「GRスポーツ」をドライブした印象をリポートする。
-
キャデラック・リリックV(4WD)【試乗記】 2026.5.29 キャデラック初の電気自動車(BEV)「リリック」に、最高出力646PSのハイパフォーマンスモデル「リリックV」が登場。“ブランド史上最速”をうたう豪速SUVだが、実際に乗ってみると、高い動力性能がもたらすゆとりや心地よさにも魅力を感じる一台となっていた。
-
DS N°8エトワールAWD(4WD)【試乗記】 2026.5.28 前衛を身上とするフランスのラグジュアリーブランド、DSオートモビルから、新たなハイエンドモデル「DS N°8(ナンバーエイト)」が登場。当代屈指の性能を誇る電気自動車であり、かの地では大統領専用車にも選ばれる一台の、独創の魅力に触れた。
-
メルセデスAMG GLC53 4MATIC+(4WD/9AT)【海外試乗記】 2026.5.27 「メルセデス・ベンツGLC」にスポーティーな「メルセデスAMG GLC53 4MATIC+」が仲間入り。「43」と「63」の中間、AMGとしては松竹梅の竹にあたるモデルだが、今後はそのポジションの重要性がさらに増すことになるという。本国ドイツでドライブした印象をリポートする。
-
NEW
レクサスES350h(FF/CVT)/ES350e(FWD)/ES500e(4WD)【海外試乗記】
2026.6.3試乗記「レクサスES」がフルモデルチェンジ。シャシーがFFベースというのは歴代モデルと同じだが、新型ではボディーサイズがググッと拡大。「LS」の6輪ミニバンコンセプトが登場したこともあり、今後のレクサスセダンの総代を担うことになる。北米で乗った印象をリポートする。 -
NEW
ミドシップ化で運動性能はどう変わる? 「GRヤリスMコンセプト」の現時点での完成度を体感
2026.6.3デイリーコラム「GRヤリス」をベースとしたミドシップ4WDとして市販化を目指す「GRヤリスMコンセプト」。現在もスーパー耐久に投入されるなどして鍛えられているが、その開発車両をドライブできた。普通のGRヤリスとの運動性能の違いや、新開発エンジンの印象などをリポートする。 -
NEW
第115回:メイク・アメリカ・グレート・アゲイン!(後編) ―デザインもサイズも規格外! 魅惑のアメリカ車はなぜ“主役”になれないのか?―
2026.6.3カーデザイン曼荼羅トヨタ&ホンダが発表した、米国生産車の日本導入計画。しかしアメリカには、規格外に面白いクルマがまだたくさんあるのだ! カーデザインの識者とともに魅惑の日本“未”導入車を探すとともに、魅力的なアメリカ車が、それでも主役になれない理由を考えた。 -
どうしてピアノブラックの内装材は多用されるのか?
2026.6.2あの多田哲哉のクルマQ&Aよく目にするピアノブラックの内装材は、「キズや脂汚れが目立つ」などネガティブな評価もしばしば。それでも多用されているのはなぜか? 車両開発者の多田哲哉さんに聞いてみた。 -
BSAゴールドスター650(5MT)【レビュー】
2026.6.2試乗記かつて一世を風靡(ふうび)した英国の名門、BSAが復活! 新生第1号モデルである「ゴールドスター650」は、クラシックで優雅なお散歩バイク……と思いきや、ツインカムの大排気量シングルで、ライディングも前のめりに楽しめるマシンに仕上がっていた。 -
レストモッドがイメージ 特別なオニツカタイガーの魅力に迫る
2026.6.1オニツカタイガーの新作ドライビングシューズを知る<AD>オニツカタイガーが、“レストモッド”と呼ばれるクルマのレストア&カスタム手法に着想を得たドライビングシューズを発表。4タイプ製作された、「MEXICO 66 DRIVING」のスペシャルバージョンの魅力に迫る。






















