第477回:貴重な「スカイラインGTS-R」のレースカーが復活!
名車再生にまつわる魅惑のエピソードを紹介する
2018.02.06
エディターから一言
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日産名車再生クラブが1年の時間をかけてレストアした、欧州ツーリングカー選手権出場車の「スカイラインGTS-R」。作業の過程で明らかになった数々のエピソードを、実車の詳細な写真とともにリポートする。
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スカイラインの歴史を語る上で欠かせない一台
2018年1月20日、日産名車再生クラブが神奈川県厚木市の日産テクニカルセンターにおいて、2017年度の再生車両「1988年 欧州ツーリングカー選手権出場車 スカイラインGTS-R」の再生完了宣言式を行った。
まずは日産名車再生クラブについて簡単に紹介したい。同クラブは、日産自動車の開発拠点である日産テクニカルセンターの従業員を中心としており、関連会社の従業員とともに旧車のレストア活動を行っている。毎年1台のペースで行うレストアの対象は、市販車をベースとしたモータースポーツ車両を基本としており、日産ヘリテージコレクション(座間記念庫)の中から選ばれる。活動は土日を中心とした就業時間外に実施。それだけに、毎年公募で集められるメンバーには、クラシカルな日産車が好きなだけでなく、課題となるレストア車への思い入れが強い人たちが集まる。今回も社内の熱心なR31ファンが参加していたという。
先述の通り、2017年のレストア車は1988年スカイラインGTS-RのETC(欧州ツーリングカー選手権)出場車。当時、全日本ツーリングカー選手権(JTC)に参戦していたものと同じグループA仕様のGTS-Rを欧州に送り込み、ETCに投入した車両そのものだ。R31が選ばれた理由は、昨年はスカイラインの生誕60周年に加え、R31も生誕30周年だったこと。そして、同車両がワークススカイラインとして初めてグローバルにモータースポーツ活動を行ったものであることが挙げられる。レストアのため、保存車の素性を調査した結果、同車両は1988年のスパ・フランコルシャン24時間レース(SPA)でシーズン最高位となる6位に輝いていたことから、SPA仕様にレストアすることを決定。当時の写真など資料を入手し、その仕様が厳密に再現された。
次々に出てくる知られざるエピソードの数々
作業の内容としては、まずは後期型となっていたヘッドランプとテールランプ、フロントグリルを前期型に修正。ベース車は後期仕様で合っているのだが、レースに投入された車両はいずれも前期仕様となっていたのだ。ここには当時のレギュレーションが関係していたものと推測される。ホイールも、当時と同じBBSゴールドメッシュをドイツのBBS本社に再生産してもらい装着。失われていたゼッケン灯も、当時と同じものが手に入ると判明したため、新品を購入して装着した。
ゼッケンとステッカー類についてはデザイン写しをもとに新規に作成。SPA仕様とするため、当時の写真をもとにデザイン、サイズ、装着位置を再現した。ボディーの塗装状態も悪くはなかったものの、バラしてみると接触跡や隠れた部分のサビなどが見つかったので、併せて修正された。
エンジンについては、ヘッドにクーパーリング風の加工が施され、制御もザイテック製のECMに変更されるなど、現地で手が加えられていることが判明。そこで今回は、今後の整備性も考慮し、「R32」用のRB20DETを使用してリビルドすることとした。R32 用を選んだ理由は、インジェクションがポート中央噴きなので混合気形成が良いためとのこと。同時にECMも純正品をベースにレース用へと改良したものに変更した。
トランスミッションにも、ちょっとしたドラマが隠されていた。本来は「77」と呼ばれるシーケンシャルタイプの特別品が装着されているはずなのだが、実際に積まれていたのは生産車と同じHパターンの「71C」。77を入手することは不可能なため、搭載品をオーバーホールして利用することとなった。
気になるのは、本来装着されていたシーケンシャルミッションの行方なのだが、なんと同じ日産ヘリテージコレクションに収蔵されている「リーボックスカイライン」(R31)へ移植されていたのだ。この車両は1989年JTCシリーズチャンピオンに輝いたマシンであり、過去に走行可能な状態にレストアした際、ドナーとして提供してしまったというのだ。少し寂しいエピソードではあるが、それでも今回のETC車復活は、日本のモータースポーツ史にとってもまぎれもなく祝い事。貴重な一台が復活したといえるだろう。
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活動するメンバーの情熱のたまもの
レストア作業の多くは、分解した部品を丁寧に磨くことだ。その地道な作業の中で当時のさまざまな痕跡を見つけることは、クラブ員たちの楽しみのひとつでもある。今回も、SPA参戦車の確証であるゼッケン灯の装着跡に加え、ドアの内張りの中からはファンサービスに配ったと思われる同車のフォトカードが発見された。
動態保存の状態まで仕上げられたレストア車は、日産ファンに向けた完成披露を兼ね、毎年11月に開催されるニスモフェスティバルでデモランを行う。通常であれば再生完了宣言式は、シェイクダウンの後、ニスモフェスティバルを控えた時期に行われるが、今年はボディーの修復作業に時間を要したことから、車両の完成がニスモフェスティバルの直前までかかってしまい、宣言式は年明けに延期されていた。車両の組み付けにかけられる期間は1カ月ほど、テスト走行は完成の3日後と、スケジュールは超タイト。日々の業務をこなしつつR31を完成させたメンバーの苦労は、相当のものだったはずだ。これも彼らの持つクルマへの愛情の表れといえるだろう。
ニスモフェスティバルでストレート6の素晴らしい音をサーキットに響かせた完成車は、現在、期間限定で日産テクニカルセンターのロビーに展示。同クラブがレストアを手がけた「1964年式スカイラインGTレーシング仕様」と「NISMO GT-R LM 1995年ル・マン24時間出場車」とともに、来客者の目を楽しませている。
一方、名車再生クラブの2018年の活動については、これからレストア車の候補を検討するとのこと。今年はどんな競技車が再生されるのか、今から楽しみだ。
(文と写真=大音安弘/編集=堀田剛資)