第488回:雪上をスリックタイヤで疾走!?
ヨコハマの雪上試走会で知ったスタッドレスの進化
2018.03.09
エディターから一言
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雪上コースをまさかのスリックタイヤで疾走!? ユニークなプログラムが多数用意された横浜ゴムの雪上試走会を通し、スタッドレスタイヤにおけるコンパウンドとトレッドパターンの重要性や、それらの技術の急速な進化のほどを実感した。
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設備強化が後押しするスタッドレスタイヤの進化
東北・北陸地方の日本海側や北海道を中心に、記録的な大雪による被害が報じられた今シーズンの冬も、さすがにそろそろ終盤戦……と、そんなタイミングで正直“いまさら感”は拭えないものの、ここにお届けするのはあらためてスタッドレスタイヤの話題である。主役は2017年9月に発売され、この冬がデビュー後の初シーズンとなった最新乗用車用スタッドレスタイヤ「アイスガードiG60」、通称「アイスガード6」だ。
すでに発売済みのアイテムの話題をこうしてあらためて採り上げるのは、“生みの親”である横浜ゴム主催によるイベントが、再度北海道のテストコースを舞台に開催されたゆえ。しかも、そのタイトルは「スタッドレスタイヤ勉強・試乗会」と、通常のテストイベントとは一線を画したもの。それは単なる自社製品のプロモーションにはとどまらず、日頃タイヤ情報と接する機会の少ない編集者たちまでも幅広く招待し、「お前ら、もうちょっとスタッドレスタイヤへの理解を深めんか!」という、親心あふれる(?)イベントであったというわけだ。
舞台は、横浜ゴムが2015年末に開業した「北海道タイヤテストセンター」。略称のTTCHとは”Tire Test Center of Hokkaido”に由来したものだ。以前のコースの約4倍、東京ドームの19倍強に相当するという広さが売りのこの場所は、実はかつての旭川競馬場の跡地だったりする。
それゆえ、旭川空港からはクルマで10分、旭川駅からも同15分と交通も至便。実際、今回のイベントでも空港や市内のホテルからアッという間にアクセスできたのが印象的だった。
ちなみに、最新のトピックは2018年1月末に発表された屋内氷盤試験場の開設である。スタッドレスタイヤの氷上性能評価に不可欠な“氷盤”の、天候による状態の変化を抑制することが可能で、これまで用いられてきた屋外試験場に比べ「試験データの精度が向上し、より高度な技術開発が可能になる」という。乗用車だけでなくトラック、バスのテストも実施できる規模で、今後の同社のスタッドレスタイヤ開発に大きく貢献していくことは確実だ。
2017年に登場したばかりのヨコハマの最新モデル
横浜ゴムの乗用車用スタッドレスタイヤブランドであるアイスガード。その最新作として登場した前述の“6”は、トレッドのパターンやコンパウンド、さらにはベースコンパウンドに至るまで、すべての部分に最新技術が投入されている。横浜ゴムが自ら「史上最高傑作」とうたう一品だ。
従来品である「5プラス」との比較では、氷上での制動性能や旋回性能、さらにはウエット路面での制動性能を大きく引き上げたのみならず、ロードノイズやパターンノイズ、転がり抵抗の低減と、ドライ路面での性能向上もうたわれており、氷雪路以外の分野も重視されたことが特徴として紹介されている。
今回のイベントで幸運だったのは、当日の気温が氷点下で安定し、しかも基本的に曇天でほとんど日差しもなかったため、路面のコンディションが時間帯によって大きく変化しなかったことである。
ウインタータイヤ評価の場合、厄介なのはこの「路面が変化をしてしまうこと」で、大方の場合は朝一番でまだ他車が走り回る前の状態が最もグリップ感が高く、時間がたち、特に日中に日が射(さ)してしまうと、同じタイヤを装着してもそのグリップ感は大きく低下してしまいがちなのだ。ところが、今回のイベントでは路面状況がほぼ一定で、それゆえ、さまざまな種類のタイヤを履き替えながらの評価に、高い整合性が得られた。
アイスガード6については、そうした条件の中での試走を通して今季トップレベルのスタッドレスタイヤであることを確信。「なるほど、これは“史上最高傑作”をうたいたくなるのもさもありなんだな」と納得した次第なのだが、実は今回のイベントはそれだけで終わりではなかったのである。
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特別な比較試走で実感した、2つの技術の重要性
今回のテストコースには、雪と氷のコンディションには何とも不釣り合いな“スリックタイヤ”が用意されていた。
スタッドレスタイヤの場合、新雪の中に食い込ませたり、氷上のミクロの水膜を切り裂いたりすることで摩擦力を獲得する等々の理由から、トレッドパターンは極めて重要というのが常識である。ところが、その影響をあえて排除し“ゴムの能力”のみにフォーカスすべく、アイスガード6用に加えて欧州向けウインタータイヤのコンパウンドを用いた2種類のスリックタイヤが、特別に製作されていたのだ。
結果は驚くべきもので、「どちらも満足に走れないだろう」という予想とは裏腹に、屋内氷盤路でも雪上/氷上旋回路でも、スタッドレスタイヤ用コンパウンド採用品がウインタータイヤ用コンパウンド採用品を圧倒した。排水性のなさから、雪解け路面などでのハイドロプレーニング現象の発生は不可避なので、リアルワールドでの使用はもちろんご法度。しかし、少なくとも今回の条件下では「このまま不自由なく走れてしまうのでは?」と、そんな印象すら覚えさせられたのが、スタッドレス用コンパウンドで作られたスリックタイヤのグリップ感だった。
今回のイベントでは、もうひとつ興味深いタイヤもチェックすることができた。先ほどとは逆に、ゴムの違いを排除してトレッドパターンの影響を知るため、市販されているアイスガード6のコンパウンドをアイスガード5プラスのトレッドパターンと組み合わせた、やはり特製のアイテムだ。通常のアイスガード6との比較では、前述の“コンパウンド違い”ほどの大差は感じなかったものの、例えば氷盤上での静止状態からのスタート時には、やはり明確に異なる蹴り出しを実感することとなった。
そんな、手を変え品を変えのプログラムによって、「コンパウンドやパターンなどの研究を通して、現在のアイスガード6が誕生したのだ」と、開発陣は声を大にして訴えたかったに違いない。
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スタッドレスタイヤの性能評価は難しい
世の中に数あるタイヤの中でも、「一般ドライバーが街乗りをしただけでも、限界性能を使い切ってしまう可能性が大」という点で、スタッドレスタイヤは特殊な存在といえる。だからこそわれわれメディア側は、その限界性能やそうした場面での挙動をつぶさにチェックし、報告をしたいところなのだが、いかんせん通常の試走会では時間の制約が大きく、かつそもそも“路面も刻々と変わってしまう”なかでのテストドライブとなるため、絶対的な評価コメントを与えにくいのが実に忸怩(じくじ)たるところである。
もう一点難しいのは、異なるブランドのアイテムを特定メーカーのテストコースで同時比較することができないことだ。最近も、とあるブランドが「報道はNG」とただし書きを付けた上で他社銘柄との比較を含んだイベントを開催したところ、それだけで”公正な競争”を推進する団体から「そうしたプログラムはご法度」とクレームがついたというウワサを耳にした。
だからこそ、冬タイヤのイベントとしては例外的なまでに長い時間を費やし、“自社製品のみ”という制約はあったものの、さまざまなアングルから最新モデルのポテンシャルを知ることができた今回のプログラムは、極めて有用であった。そして、実はこのイベント以外にもあらためて雪上/氷上を走る機会があったからこそ、「アイスガード6は“今季トップレベルのスタッドレスタイヤ”」という個人的な思いも新たにしたのである。
(文=河村康彦/写真=横浜ゴム/編集=堀田剛資)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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