第545回:エネルギッシュな巨匠も健在
これがジュネーブショーの“輝き”だ
2018.03.16
マッキナ あらモーダ!
有名ブランドが続々欠席
ジュネーブは、もうやめよう――本気でそう思っていた。
第88回ジュネーブモーターショーは2018年3月6日に開幕した。主催者発表によれば出展ブランド数は180。2017年と同じである。
しかし、ダッジ、ラムといった特定の国を中心に展開しているブランドやカロッツェリアなどの小規模メーカーを除いた主要ブランドをボクが数えてみたところ、昨年の47から43に減っている。ボルボの電動化車両専用ブランドであるポールスターが加わったものの、オペル、DS、インフィニティ、シボレー、キャデラックが消えたから1増5減だ。ちょうど計算が合う。
昨今、主要自動車メーカーがショーへの出展を減らしているのは、周知のとおりだ。
2017年のフランクフルトモーターショーでは日産、インフィニティ、三菱、シトロエンを除くグループPSA、マセラティを除くFCA、ロールス・ロイス、アストンマーティンなどが不参加だった。ボルボは、2015年の回から参加していない。フランクフルトでは、あのテスラも出展を取りやめた。ジュネーブも2016年を最後に出ていない。
多くのブランドが、集客力が落ちた割にはお金のかかるショーを見放し、別のイベントで新車を発表するようになってきたのだ。
そうした中、ボクもモーターショー取材の「選択と集中」をせねば、と考えるようになった。
まず“断捨離”したのは2017年の東京モーターショーだった。もちろん、迷った。「オートモーティブ・デザイナーズナイト」をはじめ、同時期に開催されるイベントは、普段会えない日本の自動車関係者の貴重な話を聞ける機会であるからだ。
そもそもボクにとって東京モーターショーは、幼いころから親しんだショーだった。今は亡き両親も、日比谷公園の「第1回全日本自動車ショウ」から毎年欠かさず足を運んでいた。2代にわたり続いた習慣を断つことは「墓じまい」をするくらい、断腸の思いであった。
だが、ここ数年続いた円安はイタリアでの生活を圧迫し、モーターショーとシンクロする日本の連休前後の航空券は、買うのをためらう価格に達していた。ということで、涙をのんで欠席を決めた。
悩みどころのジュネーブ行き
東京に次いで俎上(そじょう)に載せたのが、今回のジュネーブだった。
ショー自体のキャラクターというか、立ち位置が微妙になってきたからだ。欧州自動車ビジネスをリードするドイツ系ブランドは、フランクフルトに軸を置くようになった。自動車のCASE化が進む今日、自動運転や電動化に関してはラスベガスの「CES」、コネクティビティーについてはバルセロナの「モバイルワールド・コングレス」のほうが勉強できる。北京や上海のショーは、世界一の自動車市場を追う上で欠かせない。
一方ジュネーブは近年、大手が主力モデル発表の場に選ばなくなった代わりに、高級車や高性能車が目立つようになり、どこかチューニングカーショー的なムードを帯びてきた。
再び財布の話題に戻って恐縮だが、会期中のホテルの宿泊料は暴騰する。ジュネーブという小さな街に世界中の関係者やジャーナリストが押しかけるためだ。たとえ風呂・トイレ共同のようなビジネスホテルでも、円換算で1泊1万円以下は無いと思ってよい。小池百合子東京都知事の言葉を借りれば、「ワイズ・スペンディング」からは程遠いのだ。
幸い飛行機はCESのようには値上がりしない。だが、いざ調べてみると、従来あったわが家に最寄りのフィレンツェ~ジュネーブ直行便が廃止されていた。あるのは面倒なチューリッヒ経由である。
また、自動車に対する個人的な関心という点でも、ほかのさまざまなショーで自動運転へのロードマップが見えてきた現在、次にクルマを買うのは、レベル3とはいわずとも、レベル4の自動運転が実現するまでじっと待っていたい。
そのような背景から、冒頭のように最初は行くマインドにならなかった今年のジュネーブだった。しかし考えてみると、このショーを訪れるようになって今年でちょうど15年目だ。キリがいい。開幕の約1週間前、「今年を最後にしよう」と心に決め、出張することにした。
“テスラ・キラー”に“新ブランド”続々
2018年ジュネーブにおける市販車および市販予定車のトレンドにあえてタイトルをつけるならば「テスラ・キラー続々」である。
「ジャガーIペース」「ポルシェ・ミッションEクロスツーリスモ」、そしてPHVの「ポールスター1」などは、あたかも「長年クルマづくりに携わってきたプロが電動化車両を作るとこうなる」とテスラに挑戦状をたたきつけているかの如き完成度の高さである。
もうひとつの見どころは新ブランドだ。まずは前述のポールスター。一方アストンマーティンは、かつて買収したメーカーの起源をたどり、たびたび用いてきたラゴンダブランドを今度は電動化車両の名称に用いることにした。
もう少し軽い感覚で新ブランドのクプラを展開するのは、フォルクスワーゲン グループのスペイン法人、セアトである。
CEOのルカ・デメオ氏に「(グループPSAの) DSのように、独立した販売店を設けるのか?」と質問すると、彼は「クプラはShop in Shopで展開する。また、DSのように独自車種を用意するのではなく、よりテクノロジー志向になる」と定義付けた。いわばAMGやアバルトに近い形という。そして彼はイタリア語で「やってみよう」を意味する「プロヴィアーモ!」とボクに言った。デメオ氏はフィアット時代に新生アバルトを立ち上げている。それなりの勝算はあるに違いない。
熟練デザイナーたちも元気
そしてジュネーブといえば、カロッツェリアの競演である。
ジョルジェット・ジウジアーロ氏が息子のファブリツィオ氏と共に率いる新会社「GFGスタイル」は、2年目の出展だ。今回は風力発電設備市場でGEに次ぐシェアを誇る中国のエンビジョン社とのコラボレーションで、EVコンセプト「Sibylla(シビラ)」を公開した。パッケージングの天才であるジウジアーロ氏の才能は遺憾なく発揮され、「アウディA8」より短い全長の中に、同車を上回る室内空間を実現している。ポストSUV時代への提案といえる。
ジウジアーロ氏によれば「完全自動運転が実現するのは、もうしばらくかかる。こうしたハイクラスのクルマを求めるユーザーは、まだ自ら操縦する喜びを求めるはずだ」ということで、ステアリングホイールは残されている。
GFGスタイルは、まだジウジアーロ氏がベルトーネのチーフデザイナーだった1963年にデザインし、今は彼の所有になる「シボレー・コーヴェア テスチュード」も一緒に展示した。
プレゼンテーションがひと段落すると、ジウジアーロ氏は、テスチュードを前にして、筆者にしばし昔話を披露してくれた。その内容については、また近いうちに記そう。
スイスのカーデザイナーでカロッツェリアの創設者であるフランコ・スバッロ氏の姿も見られた。彼の場合、ジュネーブ出展は46年目だ。今年の作品は、「4×4+2」と名付けられたSUVである。“+2”とは、左右両サイドに装着されたスペアタイヤを指す。
それはスイッチひとつで上下し、かつ動力源となる電気モーターが装着されているので、メインのタイヤがパンクした場合でもタイヤ交換することなく走行を続けることができる。「(ラリードライバーの)セバスチャン・ローブがタイヤのバーストで勝利を逃したのを見て思いついた」のだそうだ。
これまでも、ハブやスポークがない中空ホイールといった奇抜なアイデアを提示してきたスバッロ氏。その発想力はいまだ衰えていない。
ジュネーブで多くを学んだ
思い起こせば、イタリアに住み始めて7年目の2003年のことだった。当時どこの出版社からも原稿依頼がなかったにもかかわらず、ジュネーブモーターショーをひと目見たくなった。飛行機や列車よりクルマでの交通費が安いとわかったボクは、モンブラントンネルを越えて片道700kmを運転しジュネーブにやってきた。そして、ユースホステルの相部屋から会場に赴いた。
一般公開日にもかかわらず、自身のコンセプトカーについて熱心に説明してくれたのは、前述のスバッロ氏だった。
やがて、新型車を見て「これはヒットするぞ」と直感できるようになった。同時に、賑々(にぎにぎ)しく出展したものの「もう来年は資金難で、二度とお目にかかることはないだろうな」というメーカーも、まるで霊能力者が霊視するごとく分かるようになった。
それはともかく、自動車界に長年籍を置く人々が、ボクのような(彼らからすれば)若者にも気軽に接してくれた。それにより、取材やインタビューのコツを、失敗を繰り返しながらも学べたのは、ほかでもないジュネーブモーターショーであった。
今年、ジウジアーロ氏は80歳。スバッロ氏79歳。彼らがクルマを語るときの目の輝きは、初めてジュネーブで会った頃とまったく変わっていなかった。
まだまだ輝いているショーではないか。そう思い直した筆者であった。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/編集=関 顕也)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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