ポルシェ911 GT3(RR/7AT)
抜き身の魅力 2018.03.19 試乗記 「ポルシェ911 GT3」の最新モデルに試乗。“寄らば斬るぞ”と言わんばかりのド派手な空力パーツと、GT3カップカーからデチューンすることなく移植したという4リッター自然吸気フラットシックスユニットを備えた、公道のレーシングカーの実力とは?最高出力は500psの大台に
新型911 GT3で向かったのは、埼玉県の本庄サーキットだった。ドリフトイベントによく使われるミニサーキットへ走りに出掛けたわけではない。「日産セレナe-POWER」の試乗会が行われていたのだ。
まだ真っ暗な早朝、覚悟を決めてエンジンをかける。スゴイ音がするので、クルマには申し訳ないが、すぐDレンジに入れて動き出す。ノーズを出し、右に90度曲げて道路に出るとき、冷え切ったデフが「ガギグゲゴ」と文句を言った。
「公道も走れるGT3カップカー」が991型911に登場してから3年、バージョンアップした2018年モデル最大の変更点は、水平対向6気筒がまたストロークアップして、3.8リッターから4リッターになったことである。最高出力も475psから大台の500psに乗った。しかし、そのへんの200ccも25psも筆者のようなドライバーには意味がない。3.8リッターのGT3には3年前たしかに試乗しているのだが、今回、公道で新型に乗っても、正直言って排気量やアウトプットの伸びシロを体感することはできなかった。
しかし、相変わらずスゴイのは、音だ。特に暖機が十分でないと、PDKやデフのメカノイズが容赦なく侵入してくる。アイドリングストップ機構は付いていない。低速では後輪の跳ね上げた砂や小石がフェンダーの裏側をパチパチたたく音もする。遮音レベルもGT3級だ。目でも耳でもレース機材である。
リラックスして乗れるGT3
高速道路に入り、イエローバードのノーズを北に向ける。朝もはよから、道は混んでいた。でも、遅いトラックに挟まれて走っていたって、GT3は退屈しない。むしろ感心することばかりである。
この自然吸気4リッターフラットシックスは9000rpmまで回る。タコメーターのフルスケールは1万rpm。12時の位置が5000rpmだ。ためしに9000rpmまで引っ張ると、1速で77km/hまで伸びる。100km/h時のエンジン回転数は7速トップで2600rpm。左パドルを引いてシフトダウンしてゆくと、2速(7400rpm)まで落とせる。
追い越し車線に出て、加速する。当然ながら速い、なんてもんじゃない。速くて、強い。直進安定性がまたすばらしい。これにはダウンフォース効果を高めたリアウイングも効いているはずだ。
だが今回、4リッター500psになった新型GT3で一番感心したのは、乗り心地である。フロントに245サンゴー、リアに305サンマルというサイズの20インチタイヤを履くオーバー300km/hカーだから、もちろん硬い。けれども、旧型と比べると明らかに乗り味が滑らかで上質になった。特に高速道路での乗り心地は、これまでのGT3からすると、シルキースムーズと言いたいくらいである。新型の技術資料には「スプリングとダンパーを最適化した」としか書かれていないが、乗り心地だけでなく、ステアリングの操舵力も少し軽くなったように感じた。そのため、これだけレーシーに刺激的でも、疲れない。いままでで一番リラックスして乗れるGT3である。
ブレーキングさえも楽しめる
集合時間よりだいぶ早く本庄サーキットに着く。せっかくだから秩父のほうへ抜ける峠道を探しにゆく。
以前乗った3.8リッターモデルのシートは、座面が低すぎて前がよく見えなかったが、今回は大丈夫だ。カーボンシェルをレザーでくるんだバケットシートで、背もたれの角度も座面の高さも調整できないが、アルカンターラのクッションには十分なアンコが入っている。あとで見たら、オプションのスポーツバケットシートで、約70万円なり。
初めての峠道を登ってゆくと、やがて路肩に雪が現れ、その量が増え、雪解け水も出てきた。アブナイので撤退する。しかし、ニュルブルクリンクのノルドシュライフェでなくとも、それなりに楽しませてくれるのがGT3である。これだけ強力なパワーとLSDがあれば、スロットルでクルマを曲げるのは簡単だ。昔、911でそんな体勢になったら肝を冷やしたものだが、いまはPSM(ポルシェスタビリティマネジメント)が介入して、勝手に安定させてくれる。どなたさまにもジャブを当てさせてくれるのだ。靴のソールでブレーキローターを締め付けているかのようなダイレクトきわまるブレーキは、“ファン・トゥ・ストップ”と表現したい。
路面の悪いところで役に立ったのは、フロントアクスルリフトシステムだ。「カレラS」より25mmローダウンしたボディーをフロントだけ30mm上げてくれる。ボタンを押すと油圧でスッと上がるので、ちょっと上を向いたくらいに感じる。街なかの段差でも下をこすらずにすむ41万円のオプションだ。
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空冷時代のよさが残っている
GT3のコックピットはシンプルだ。ドライブモードの切り替え機構はないから、ハンドル右手に取って付けたような切り替えダイヤルも付いていない。これだけ乗り味の質が向上すると、サーキットとオンロードの2パターンくらいはあってもいいかなと思ったが、そういうことをしない抜き身の魅力がGT3である。
ノーマル911と違って、定員は2名。運転席から振り返ると、カーペットで覆われた空間はあるが、シートはない。ロールケージ建設予定地である。
でも、フロントのトランクにロードバイク(自転車)の車輪が2本、あつらえたように収まるのはGT3も同じだ。911の設計者には絶対ロードバイカーがいると思う。筆者が知っている唯一のGT3オーナーも、ツール・ド・フランスライダーの今中大介だ。
セレナe-POWERの試乗会が終わり、駐車場で再びGT3に乗り込み、出発しようとしたら、窓ガラスをトントンとたたかれた。テストドライバーのKさんだった。2008年には厚労省認定「現代の名工」にも選ばれた日産自動車のレジェンドである。2017年、定年を迎えられて、「いまは社内フリーターやってます」とのこと。
これから戻る道で取り締まりをやっていることを教えてもらう。ただ、反対車線だという。エンジンをかけると、「あ、こりゃ捕まるわ」と言って笑った。「4リッターになったのかあ。センターロックでしょ。2000万円以上するわなあ」と言うKさんに「GT3、お好きですよね?」と聞くと、「大好きです」と即答した。そしてこう付け加えた。「空冷時代のよさが残っている911は、これくらいだからねえ」。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=小河原認/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
ポルシェ911 GT3
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4560×1850×1270mm
ホイールベース:2457mm
車重:1490kg
駆動方式:RR
エンジン:4リッター水平対向6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:7段AT
最高出力:500ps(368kW)/8250rpm
最大トルク:460Nm(46.9kgm)/6000rpm
タイヤ:(前)245/35ZR20 95Y XL/(後)305/30ZR20 103Y XL(ミシュラン・パイロットスポーツ カップ2)
燃費:12.7リッター/100km(約7.9km/リッター 欧州複合サイクル)
価格:2115万円/テスト車=2365万円
オプション装備:レザーインテリア<ブラック>(55万1000円)/レザーインテリアパッケージ<赤いステッチ>(21万4000円)/シートヒーター<フロント左右>(8万6000円)/フロントアクスルリフトシステム(41万1000円)/フロアマット(2万円)/スポーツバケットシート(69万2000円)/スポーツクロノパッケージ<モードスイッチ含む>(8万7000円)/LEDヘッドライト<PDSL付き>(38万9000円)/シートベルト<レーシングイエロー>(5万円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:8999km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(5)/山岳路(2)
テスト距離:388.8km
使用燃料:58.4リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.7km/リッター(満タン法)/6.5km/リッター(車載燃費計計測値)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
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