第205回:夏本番、あの“チンチン娘の親分”はまだ現役だった!
2011.08.05 マッキナ あらモーダ!第205回:夏本番、あの“チンチン娘の親分”はまだ現役だった!
交通情報映像にだまされるな
「また、ウソだー!」テレビの前で声を上げ、大笑いする時期がやってきた。
夏休みシーズン本番。イタリアのテレビニュースは毎週末、海へ向かうアウトストラーダの混雑を伝えている。そうしたとき、日本のテレビ局では到底考えられない映像が映る。何かといえば、過去の渋滞映像の使いまわしだ。昔撮影した料金所や国境付近などの渋滞映像を何年も繰り返し使っているのである。ローカル局ではない。全国ネットの一流局が、それを堂々とやっているのだ。「資料映像」というテロップも出ない。
その使いまわし、クルマ好きの目にはすぐわかってしまう。さすがのイタリアでも寄る年波からアウトストラーダで見かけることがまれになった2代目「フォルクスワーゲン・ゴルフ」や「ランチア・アウトビアンキY10」、現役時代からレア車だった「ランチア・カッパ」などがしっかり映っているからだ。
もちろん道路交通情報センターのモノクロモニター映像が転送され、放映されることもあるが、その回数は日本に比べて極めて少ない。イタリア人は、たいしてニュースにリアルタイム映像を期待していないようだ。
これには理由がある。ベルルスコーニ首相の乗ったクルマが首相官邸に入るときの映像しかり、原油価格高騰のニュースで石油の入ったドラム缶がコンベア上を流れるビデオしかり、他のニュースでも使いまわしが当たり前なのである。したがって渋滞ニュースも、いわば“ムード映像”でもオッケーなのだろう。
逆に、ボク個人がひそかにイタリアのテレビニュースで評価していることもある。交通事故のときだ。
さすがにそれらを伝える映像は“現場での撮りおろし”であるが、そうしたときイタリアでは、事故を起こしたクルマや巻き込まれたクルマのメーカー名や車種名を必ずといっていいほど読み上げるのだ。
彼らが意識して行っているとは思えないが、「上手に潰れていることからして、かなり衝突安全性の高い設計に違いない」とか、「あの超高級車でも、その速度で衝突すれば、こんなになってしまうのか」と、ボクにとってはかなりの情報が入手できるのである。
まあ、ときには、「免許取りたての若者が父親のマセラティを引っ張り出し、友達を乗せて速度超過のあげく大事故」といった、「おいおい〜」と言わざるを得ないものもあるが。
「コルポ・グロッソ」を知ってますか
イタリアのテレビといえば少し前、隣県に至る田舎道で、見た途端に思わず急ブレーキを踏んでしまったものがあった。あのウンベルト・スマイラのライブを告知する看板である。
「あの、と言われても、そんな奴知らねえヨ!」と言うなかれ。日本でも海外ドラマ専門チャンネルを通じて放映されていたイタリア番組『Colpo Grosso(コルポ・グロッソ)』の司会者である。
コルポ・グロッソとは、イタリア語で「巨大な一撃」を示す。番組は、ときおり大胆に胸をはだける「チンチン(Cincin:乾杯)娘」と称する女性グループが、歌や踊りをはさみながら進行していくクイズショーだ。
イタリアで放送されていたのは1988-1992年で、放映していたのは、「Italia7」というテレビ局である。日本でいうなら往年のUHF局のポジションといってよいだろう。ただしボクがイタリアに住み始めた1996年頃も、再放送されていた。それも繰り返し放映されるものだから、個人的には絶大なイタリア語学習番組となった。
「チンチン娘」の存在は偉大だった。一流局ではなかったにもかかわらず、今でも番組を覚えているイタリア人の殿方は多い。だからジャコモ・プッチーニやジュゼッペ・ヴェルディのオペラの話題と、女性がいなくなったのを見計らってするチンチン娘談義では、相手と打ち解けるスピードが八高線と新幹線『のぞみ』くらい違う。
日本でも隠れファンがいたらしく、ボクがイタリア在住と知ると、「イタリアといえばチンチンガールズですよねェ」と切り出す人に出会ったのは、今日まで一人や二人では済まない。20年近くも前に終了した番組が、極東で今も語り草となっている。イタリアのテレビ界では、トッポ・ジージョ以来の快挙といえまいか。
歌うとスゴいんです
と、話が長くなってしまったが、ウンベルト・スマイラは、チンチン娘をうまく引き立て、かつなれなれし過ぎず、きわめて良い立ち位置を終始維持していた。
実はウンベルトの本業は歌手である。彼のプロフィールを見てみよう。
1950年ヴェローナに生まれたウンベルトは、幼い頃からピアノを習い始め、リストとショパンのとりこになったという。そして10歳のとき早くも数々のコンサートで演奏している。頭もかなり切れたようで名門・ボローニャ大学の法学部に入学するも、仲間とバンド活動にのめり込み、中退。やがてソロ歌手としてイタリアのメインテレビ局で活躍するようになる。その頃の出演番組を見ると、イタリアテレビ史に残る人気バラエティショーの名前がずらりと並んでいる。
その彼が38歳のとき司会に起用されたのが、コルポ・グロッソだったというわけだ。コルポ・グロッソ終了後は映画やミュージカルの俳優を務める傍らで、今日まで映画音楽も20曲以上手がけてきた。ルチアーノ・パヴァロッティの財団と仕事をしたり、サッカーチーム「ACミラン」の応援歌なども作曲している。
そのように多才な彼も61歳。「さすがにリタイアしたのかな」と思っていたところで、前述のように彼のコンサート告知看板に遭遇した。還暦を超えても、他のイタリア人若手ミュージシャン同様、この時期に地方をまわってライブ活動していたとは。
そこでふと考えたのは、誰かの助けでウンベルトの東京公演を実現できないか? ということである。単なる“チンチン娘の親分”と思っている日本のテレビおたくたちを、彼のパンチの利いた弾き語りカンツォーネ(歌)でビビらせたら、それはそれは痛快であると思うからだ。
(文と写真=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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