ボルボ、ロータスに続いてダイムラーにも食指!?
中国メーカー、吉利の正体を探る
2018.03.28
デイリーコラム
スタートは「ダイハツ・シャレード」のコピー車
2018年2月26日、ドイツ・ダイムラーは、中国の完成車メーカー大手である浙江吉利汽車(ジーリー)が同社の株式の9.96%を取得し、筆頭株主となったことを発表した。中国の完成車メーカーが世界でも有名な高級車メーカーの筆頭株主となったことは大きな話題となった。
浙江吉利汽車は1986年に冷蔵庫メーカーとして設立され、1992年にバイクの製造を開始。1997年に中国で初めての民間自動車メーカーとして自動車市場へと参入した。最初に製造を始めたのは、日本のダイハツの3代目「シャレード」のコピー車「豪情」だった。
当時の自動車メーカーは、国営企業、または国営企業と外資系企業の合弁会社しかなく、庶民の感覚からすれば乗用車の価格は非常に高かった。そこに5万元(1元=17円換算で85万円)という低価格で投入された豪情は“激安小型車”として中国市場で好調に売れ行きを伸ばした。
一人の人物を通じて日米の技術を吸収
筆者が初めて吉利車に接したのは2004年の北京モーターショーだった。現在の北京モーターショーは、北京首都国際空港からほど近い中国国際展覧中心(新館)で開催されているが、当時は北京の市街地に近い、古い中国国際展覧中心で開催されていた。2006年のショーも同じ会場で実施されたが、ちょうど中国でモータリゼーションが盛り上がっていた時期でもあり、会場の面積が足りず、吉利は本会場から押し出された格好となってしまい、北京市郊外に設けられた特設会場を訪れたのを覚えている。そのときには、トヨタの9代目「カローラ」をコピーした車種が目玉商品だった。
このように、長らく日本車のコピーを作ってきた吉利だが、その裏では着々と体質改善に取り組んでいた。転機になったと筆者が感じているのが、2006年に当時の米クライスラー(現在のフィアット・クライスラー・オートモービルズ)のリサーチ・エグゼクティブだった趙 福全氏をスカウトしたことだ。趙氏の入社によって、その後に出てきた吉利車の水準が格段に高まったように筆者の目には見えた。これは趙氏の貢献ももちろんあるのだが、趙氏自身が多くの優秀なエンジニアをスカウトしたことにある。そのスカウト先は日本の完成車メーカーや部品メーカーだった。
実は趙氏は、吉林工業大学を卒業後、国費留学生として広島大学に留学し、博士号を取得したという経歴の持ち主で、日本語も堪能である。そして趙氏は吉利での部下として、日本の完成車メーカーや部品メーカーで働いていた中国人エンジニアを多く迎え入れた。つまり吉利は米国の技術と日本の技術によって技術・品質面で大きく飛躍したといえる。
拡大 |
“口出し”しないことが生み出す好循環
その吉利が欧州メーカーの技術力を吸収するきっかけとなったのが、2010年にスウェーデンのボルボ・カーズの株式を米フォードから買収したことだ。吉利はボルボを買収しても経営に口出しするのではなく、ボルボにエンジニアを送り込むことで欧州メーカーの技術を着実に学んでいった。一方でボルボ自身も、技術開発のための資金的な裏付けを得て、競争力を回復させている。それがさらに吉利にフィードバックされるという好循環を生んでいる。
ボルボと吉利のコラボレーションの成果といえるのが、吉利の新ブランド、Lynk & Coだ。同ブランドの車両は、オーナーがクルマを使わない時間を車内のタッチパネルで登録しておくと、カーシェアリングサービスに自分の車両を提供できる機能を最初から備えているのが特徴だ。
カーシェアリングサービスの利用者は、スマートフォンのアプリで利用したい場所にある車両を探して予約し、時間内であれば自由に車両を使える。現在でも個人間のカーシェアリングサービスはあるが、借り主と貸し主が会ってキーの受け渡しをしなければならないという手間がかかる。これに対してLynk & Coの車両は、利用者がスマートフォン上でアプリを操作することで、ドアの解錠やエンジンの始動が可能で、クルマのオーナーと利用者の、双方の手間が省ける。
Lynk & Coブランドの最初の車種であるSUVの「01」は、ボルボの新型SUV「XC40」と同じ新世代プラットフォーム「CMA(コンパクトモジュラーアーキテクチャー)」を採用しており、ハードウエアとしてのクルマの性能も、もはや先進国のメーカーにヒケをとらない水準に達しているとみられる。
このように、吉利は時流を巧みに読みながら、あるときには外部の技術力をうまく活用し、成長を続けている。これまでの同社の動きから考えて、今回のダイムラーへの出資でも、同社を支配するというのではなく、同社の強みを謙虚に学び、自らの強みに変えていくしたたかさを見せるに違いない。
(文=鶴原吉郎<オートインサイト>/編集=藤沢 勝)
拡大 |

鶴原 吉郎
オートインサイト代表/技術ジャーナリスト・編集者。自動車メーカーへの就職を目指して某私立大学工学部機械学科に入学したものの、尊敬する担当教授の「自動車メーカーなんかやめとけ」の一言であっさり方向を転換し、技術系出版社に入社。30年近く技術専門誌の記者として経験を積んで独立。現在はフリーの技術ジャーナリストとして活動している。クルマのミライに思いをはせつつも、好きなのは「フィアット126」「フィアット・パンダ(初代)」「メッサーシュミットKR200」「BMWイセッタ」「スバル360」「マツダR360クーペ」など、もっぱら古い小さなクルマ。
-
買った後にもクルマが進化! トヨタ&GAZOO Racingが提供するアップデートサービスのねらいと意義 2026.5.25 GAZOO Racingが「トヨタGRヤリス/GRカローラ」の新しいソフトウエアアップデートを発表! 競技にも使える高度な機能が、スマートフォンのアプリで調整できるようになった。その詳細な中身と、GRがオーナーに提供する“遊びの機会”の意義を解説する。
-
“ポチって”始まるブランド体験 「Amazonで買えるホンダ」って何だ? 2026.5.22 ホンダは2026年4月末、オンラインブランドストア「Honda Goods」をAmazon内にオープンした。その内容は? 「これは」と思うアイテムをピックアップしつつ、車両メーカーが力を入れる「グッズ販売」の意義について考えてみよう。
-
間もなく販売スタート 「シビックe:HEV RS」でホンダはかつての輝きを取り戻せるか? 2026.5.21 新型「プレリュード」に続き、「ホンダS+シフト」を搭載する「シビックe:HEV RS」が2026年6月に正式発売される。有段変速機のようなダイレクトで鋭い駆動レスポンスとシフトフィールが味わえるという同モデルの特徴を、開発担当者に聞いた。
-
「北京モーターショー2026」で実感 中国車の進化のスピードは想像のはるか上をいっていた 2026.5.20 今や世界最大の自動車市場である中国だが、すでに開発拠点としても世界でも有数の地位に達している。「北京モーターショー2026」で見た数々のテクノロジーは、今後は自動車の進化の中心が中国になると思わせるほどのレベルだった。現地からのリポートをお届けする。
-
どんどん伸びる新型BEVの航続距離 “買いの数字”はどれくらい? 2026.5.18 減速傾向にあるとはいえ、BEVの進化は止まらない。一充電走行距離は600~700kmかそれ以上が当たり前になっているが、日常ユースで満足できる、現時点での理想値はいかほどか? 現実的にみた、BEVの「これなら買い!」を考えよう。
-
NEW
買った後にもクルマが進化! トヨタ&GAZOO Racingが提供するアップデートサービスのねらいと意義
2026.5.25デイリーコラムGAZOO Racingが「トヨタGRヤリス/GRカローラ」の新しいソフトウエアアップデートを発表! 競技にも使える高度な機能が、スマートフォンのアプリで調整できるようになった。その詳細な中身と、GRがオーナーに提供する“遊びの機会”の意義を解説する。 -
NEW
第336回:やっぱり絶交!
2026.5.25カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。夜の首都高に200台の台数限定で販売される「マツダ スピリット レーシング・ロードスター12R」で出撃した。手作業で組まれた2リッター直4エンジンを搭載するマツダ入魂のスポーツモデルに、カーマニアは何を感じた? -
NEW
アウディQ6スポーツバックe-tronクワトロ アドバンスト(4WD)【試乗記】
2026.5.25試乗記アウディの電気自動車(BEV)「Q6スポーツバックe-tron」で、東京・渋谷と静岡・裾野を往復。雨のなかでエアコンを効かせ、高速や峠道を遠慮なく走らせるハードユースに、最新のBEVはどう応えてくれたのか? そこで感じた“本音”をリポートする。 -
ホンダ・プレリュード(後編)
2026.5.24ミスター・スバル 辰己英治の目利き軟派なクーペはアリやナシや。ミスター・スバルこと辰己英治さんが新型「ホンダ・プレリュード」に試乗。「シビック タイプR」とは趣を異にするシャシーに触れ、話題の「S+シフト」を試し、これからのスポーツクーペ像に思いをはせた。 -
日産リーフAUTECH B7(FWD)【試乗記】
2026.5.23試乗記新型「日産リーフ」にもおなじみの「AUTECH」が仲間入り。デザインや質感などの上質さを目指した大人のカスタマイズモデルだが、走りの質感がアップしたと評判の新型リーフとは、さぞ相性がいいに違いない。300km余りをドライブした。 -
思考するドライバー 山野哲也の“目”――フェラーリ12チリンドリ編
2026.5.22webCG Moviesレーシングドライバー山野哲也さんが、あのフェラーリのフラッグシップモデル「12チリンドリ」に試乗。ワインディングロードで走らせてみた印象を語ります。



