第550回:伝えたいことはボディーに書いちゃえ!?
iPhoneや飛行機になりたかった(?)クルマたち
2018.04.20
マッキナ あらモーダ!
「ポールスター1」のフェンダーに
ボルボの新しい電動化車両ブランドのポールスター。その名前を聞くたび、シンガーの八神純子による1980年のヒット曲『ポーラー・スター』を思い出している昭和な読者は必ずいるはず、とボクは読んでいる。
冗談はさておき、そのポールスター・シリーズの第1弾である「ポールスター1」のフロントフェンダーをよく見ると、細かな文字が確認できる。
訳してみると、「高弾性炭素繊維強化プラスチック 最適化された炭素繊維レイアウト」と記されている。
ジュネーブモーターショーで車両の脇に立っていたプロダクトマネージャー氏に聞けば、アイデアの源は、Appleの「iPhone」であるという。それをお持ちの方ならおわかりと思うが、裏面の「iPhone Designed by Apple in California…」と記されたあれだ。
30年前の巨匠作品にも
自動車のボディーに文字を記し、それをスタイリッシュに見せるというアイデアをいち早く試みたのは、イタリアを代表するカーデザイナー、ジョルジェット・ジウジアーロと彼が率いるイタルデザインである。
具体的には1988年のトリノショーで公開した「アスピッド」とそのバルケッタ版である「アズテック」、そしてワンボックスのミニバンである「アスガード」だ。イタルデザインの20周年記念作である3台は、いずれもドア周辺に小さな文字が記されている。
その脇には1から3までのキーが付いている。3つの数字の組み合わせで、マルチファンクション・インジケーターに何を表示させるか切り替えられる。「エアフィルターのメンテナンス」「オート・セルフレベリングのオイル交換」などをチェックできるというアイデアだ。さらに、12VのDCソケットまで備わっている。
ちなみにボクは2004年、実際にイタルデザインの非公開社内ミュージアムでボタンをこっそり押してみたが、まったく押し込めなかった。少なくともそこにあったのは、ダミーだった。
ジウジアーロ史の中でこの3台は、従来ボディーデザインのみで提案を行ってきた彼が、本格的にディテールで遊んだ初の例であるとボクはみている。
用はないけど、カッコいい?
ジウジアーロによるこのアイデアは、各種インストラクションや警告が機体に直接記されている飛行機からインスピレーションを得ていることは明らかだ。
2005年、デザイナー生活50年を迎えたジウジアーロ本人に「いつかデザインしてみたいものは?」と筆者が質問したとき、彼が「カッチャ・アエーレオ(戦闘機)」と即座に答えたからである。
自動車が飛行機に思いをはせたのは、その黎明(れいめい)期にまでさかのぼる。フランスのヴォワザンは出発点が飛行機メーカーであったことを、自動車を製造するようになってからもセリングポイントとした。そして鳥をアール・デコ調に解釈したマスコットを掲げた。
他にも、飛行機とクルマの両方に携わったメーカーが数々あることは読者諸兄もご存じのとおりである。アメリカで1948年に誕生し、1959年に絶頂を迎えたテールフィンも、飛行機への憧憬(しょうけい)を表したデザインといってよい。
いっぽうで、ジウジアーロはディテールで飛行機を表現した。
飛行機の機体各部に記された文字は、地上隊員もしくはスタッフが、間違いや危険をおかすことなく、メンテナンスするためのものである。いっぽう乗用車は基本的に個人の乗り物であるので、インストラクションを記す必要性は薄い。ましてや、メンテナンスフリー化が進行し、購入から売却まで一度もエンジンルームを開けない人が多い時代である。文字が記されている必要はまったくない。
それでも「なにか文字が記してあると、スタイリッシュ」というのは決して否定できない。日本の100円ショップで販売されている、意味不明なフランス語がプリントされた収納容器も笑えなくなってきた。
ナンバープレートもいっそ「書いちゃえ」
「なくてもいいもの」と記したが、考えてみれば、ボディーに文字を記すのは、いろいろと応用できる。
ヨーロッパで暮らしていると、「どうせならボディーにもっとカッコよく記してほしい」と思っていたものがある。レンタカーの給油口に貼られた「DIESEL」「GASOLINE」のステッカーだ。借りた人が間違って給油しないようにするための配慮である。ようやく最近は、見た目を気にしたもの(同ページ内の写真をご覧ください)がちらほらと出てきたところだが、大半はレンタカー会社のやっつけ仕事といわんばかりに、乱雑に曲がって貼られていることが多い。
電子ペーパーの技術がブレイクしている時代である。いっそのこと、往年のスポーツカーの一部に倣って、ナンバープレートをボディーに記してしまえばいいと思う。ボディーと面一になり、デザイン・空力の双方でいいことこのうえない。
実際には、耐候性に優れたフィルムがよいだろう。使い回し防止には、すでに一部の公的なステッカーに導入されている、剝がそうとすると粉々に破れてしまう切れ目を入れておけばよい。
カタログではカッコいいのに、日本のナンバープレートが付いた途端格好悪くなる「ナンバーブス」は、特に輸入車に多いが、それも解決できる。
ただし、そうする場合でも、文字のサイズや書体、そしてデザインが肝心だ。一時期話題となった「ご当地ナンバー」の、とめどもない色彩を見ると、提案しておきながらやや心配になるボクである。
そこでまずは民間から。車内土足禁止にしている方が、ボディーにしゃれた文字で「Shoes strictly prohibited」と書いてみたらどうだろうか。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/編集=藤沢 勝)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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