第170回:現代アートの旗手はモデルSでどこへ向かう?
『ザ・スクエア 思いやりの聖域』
2018.04.27
読んでますカー、観てますカー
嫌な感じがパワーアップ
映画を観てハッピーな気分になりたいと思っているのなら、この映画は向いていないだろう。日本では美少女アイドルとイケメンを起用したマンガ原作のラブコメ映画が山のように作られているのだから、そちらをオススメする。ただし、1カ月後には何も覚えていないかもしれない。似たような作品をいくつか観ると、区別がつかなくなる可能性すらある。『ザ・スクエア 思いやりの聖域』を忘れ去ることは難しいだろう。映画を観終わった後に感じた居心地の悪さは拭いとることができない。ストーリーの詳細は思い出せなくても、心の底にしこりのような不安感が残る。
監督はスウェーデンのリューベン・オストルンド。2014年の『フレンチアルプスで起きたこと』は、全世界の父親と夫をいたたまれない気持ちにさせた。バカンスでスキー場を訪れた親子がテラスでランチを楽しんでいるところを雪崩が襲う。男は妻と子を守ろうと身を投げ出す……べきだったのだろうが、とっさに自分ひとりで逃げ出してしまった。幸いにも被害はなかったが、彼は完全に妻の信頼を失ってしまう。俺は絶対にそんなことはしないと言いきれる男は存在しないから、カップルで観るのに最も適さない映画といわれた。
嫌な感じをさらにパワーアップさせたのが今作である。オープニングからノイジーな音楽と叫び声が響き、不穏な空気を漂わせる。主人公のクリスティアン(クレス・バング)は美術館のキュレーター。現代美術を扱っている。洗練された服装で先端のアートを語る知的なイケメンだ。別の言い方をすると、こざっぱりとしたシャツを着て小じゃれたスーツに身を包み、小ざかしい理屈をこねる小ずるい野郎だ。
新しいアート企画について、インタビューを受ける。背景の白い壁には「YOU HAVE NOTHING」という文字が記されていて、意味ありげだ。現代アートを語るクリスティアンは、時代が要求するコンセプトを体現する知的リーダーそのものである。自信にあふれているように見えたのは、パンフレットに書かれていた自分の文章について説明を求められてシドロモドロになってしまうまでだったが。

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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