ランボルギーニ・ウルス(4WD/8AT)
意のままの猛牛 2018.05.11 試乗記 ランボルギーニ初の“スーパーSUV”「ウルス」に試乗。新しいタイプのファイティングブルには、ほかの高性能SUVとは違った持ち味があるのか。その走りをサーキットから一般道、オフロードまで、さまざまな道でチェックした。ランボの未来がかかっている
衝撃のコンセプトカーデビューから、足掛けちょうど6年。ようやく、ウルスを試すときがやってきた。
その市販スタイルがコンセプトカーとほとんど変わらなかったことと、プラットフォーム&パワートレインのデザインを同じグループから拝借したことを考え合わせたならば、6年という“掛かった歳月”は、MBD(モデルベース開発)が主流となった最近のトレンドからすると、いかにも長かったように思われることだろう。とはいえ、それは必要な時間でもあった。なんせ車両の開発だけでなく、新たなアッセンブリー工場の建設を用地の買収から始めなければならなかったのである。
ランボルギーニにとって第3のモデルとなるウルスは、成長戦略の要だ。彼らが“トラディショナルプロダクツ”と呼ぶミドシップスーパースポーツ系モデルの希少性を担保するためには、現在の年4000台という生産規模が適当であると判断した。それゆえ、それ以上の台数=成長、は違うキャラクターに任せるほかなかったのだろう。世界的なSUV人気を考えれば、まずは正しい選択だったといえる。
つまり。未来におけるスーパースポーツカーブランドとしての命運は、ひとえにウルスの成功いかんにかかっていると言っていい。ポルシェがSUVの「カイエン」で「911」や「ボクスター&ケイマン」といったスポーツカーの戦略をいっそう深化させたように、ランボルギーニもウルスを売りまくることによって、スーパースポーツカーの未来を可能な限り長く輝かせたいというのが、サンタガータのもくろみである。
ということは、「パナメーラ」のようなモデルもありえる? 首脳陣からは、その可能性についても言及があったが、今はとにかく新型SUVの話だ。さぁみんな、未来のスーパースポーツのために、ウルスを買ってくれ!
スペック的にはスーパーカー
ウルスという名前は英語でオーロックス=家畜牛の先祖にあたる野生牛にちなんでいる。オーロックスの血脈は、歴代ランボルギーニがその名を拝借してきた(「アヴェンタドール」や「ムルシエラゴ」などの)闘牛たちも引き継いでいる。そういう意味でも、ウルスは、“未来の猛牛の母”と言っていい。
スタイリングやインテリアといったスタティックな話は、これまでにも十分に語られてきたはずだから、ここでは“中身”をおさらいするにとどめよう。
ランボルギーニ初となる市販ターボカーである。パワートレインはグループ会社との共同開発&生産品で、4リッターV8ツインターボ+8段AT。最高出力は系列最高の650ps。0-100km/h加速3.6秒、最高速度305km/hというから、背の高いスーパーカーだ。アウディ流のトルセン式フルタイム4WDシステムを採用する。通常は前40:後ろ60というおなじみのトルク配分で、フロントへは最大70%、リアへは最大87%のトルクを振り分ける。リアステアシステムやアクティブトルクベクタリングも備わる。
ウルスの走りにおける最大の注目ポイントは、センターコンソールの真ん中にこれ見よがしに置かれた「Tamburo(タンブーロ)」と呼ばれる操縦かんのようなレバーを使って、強力なパワートレインと最新の車体制御システムを、走行環境に合わせてセッティングできることにある。余談だが、このシステム、当初はモニター画面をタッチしてモードを選ぶ方式が採られていた。サンタガータのナンバー2で技術部門トップのマウリツィオ・レッジャーニ氏が、「トラディショナルでかっこいいレバーにしてほしい」と、企画屋とデザイナーをけしかけた結果、今のスタイルになったという。
ちなみに、画面上でも同じ操作はできるが、確かに操作感は味気ないし、走行中では確実性にも欠ける。私も大嫌い(笑)。たとえ振動で返してもらっても(ウルスにその機能はないけれど)、嫌なもんは嫌。何より、指紋がつくのが嫌だ。みんなテスラの影響、受け過ぎです。
いろいろ選べる走行モード
タンブーロをもう少し詳しく見ておこう。向かって左、つまりドライバー側には、ストラーダ(ノーマル)、スポーツ、コルサ(サーキット)という、ほかのランボルギーニと同じ3つのドライブモードに、テッラ(グラベル)、ネーヴェ(スノー)、サッビア(デザート)という別の3モードを加えたレバーがある。
システム的には、「カイエン」や「ベンテイガ」と同じロジックであろう。ストラーダがデフォルトで、レバーを下げてひとつずつ順にモードを選んでいく。一方通行でやや不便に思ったが、長押しすればデフォルトに戻る。一気に好きなモードに移りたい、というなら、画面上で選択するほかない。
助手席側のレバーは、いわゆるインディビジュアルセッティング用だ。パワートレイン、トランスミッション、サスペンションのそれぞれに、ソフト(ストラーダ相当)からハード(コルサ相当)まで3段階のセッティングが用意され、好きなように組み合わせることができる。「アヴェンタドールS」でも採用された方式だ。
待望の国際試乗会は、ローマ近郊で行われた。舞台はヴァレルンガサーキット。ここを起点に、オンロード(23インチ)とサーキット(22インチ+カーボンパッケージ)はもちろん、オフロード(21インチ+オフロードパッケージ)を試すこともできた。
さて。3つのコースのうち、どれが最も感動的だったか? そりゃ、オフロードに決まっています。ウルスはSUVなんだもの!
ウルスならではの作法がある
いきなりサーキット試乗、だった。プレスカンファレンスのあと、ピットに着いたらそのままクルマへと誘導される。ドキドキする間もなく、乗り込んだ。前のウルスには『CG』のカトー社長。彼のウルスのブレーキランプがついたので、こちらも慌てて準備。エンジンを掛けたまではよかった。ところが1速への入れ方が分からない。プチパニック。ええ~、D(ドライブ)のボタンかレバーって、どこどこ? トランシーバーからは、「アー ユー レディ?」というインストラクターの声も聞こえてきて、さらにパニック。わ~、どうしよう! あ、そうか。コイツはランボルギーニだった、と、すんでのところで思い出し、右のパドルを手前に引けば難なく1速へ。もうちょっとで、格好悪い始末になるところだった。
まずはスポーツモードで。経験では、オーバーステア気味のスポーツのほうが、コルサよりサーキットで楽しいはず……。「ウラカン」やアヴェンタドールと違って、パドルはステアリング固定式。それゆえ、おにぎり型で大きさもやや小ぶりだ。指が短めの私には、少し厄介。指紋がくっきり残るほど脂性なので、ちょっと滑るし。
走りだしてすぐに、クルマの軽さを実感する。左右に振った動きも実に混じりけのないもので、車体の大きさを必要以上に感じさせない。パワートレインに力がみなぎっている様子が、自分の下半身へも、ひしひしと伝わってくる。腰まわりがむずむずしはじめた。
徐々にスピードアップ。今回が、「ガヤルド」、アヴェンタドールに続く、3回目のヴァレルンガ。コースもすぐに思い出した。前半が楽しくて、後半はテクニカル。
視線が高いSUVゆえに、コーナーの入り口が広く見渡せ、狙ったラインをとりやすい。踏みこめばあっという間にレッドゾーンで、燃料カットが入ってしまうというあたり、猛牛の自然吸気型スーパースポーツカーのつもりで走っていると、とんだタイムロスになる。「日産GT-R」のように、早め早めのシフトアップのほうが、速く走れそう。
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サーキットでは意外に“薄味”
途中からコルサモードへ。経験的予想と違って、こちらの方がサーキットでは走らせやすかった。ミドシップのスポーツカーと、フロントエンジンのSUVとでは、当然ながら動きがまるで異なる。ニュートラルステア傾向のほうが、この手の巨体で攻めるには適しているのだ。
とにかく面白いように内を向いて、姿勢はというとフラットを貫き、安心して攻めこめた。特にヴァレルンガ前半の高速コーナーでは、4WSがばっちりと効いて気分爽快の速さ。タイトベントにおける、速く駆け抜けるためのトルクベクタリングも素晴らしい。
巨大なコンポジットブレーキを標準で装備するものの、サーキットではやっぱりちょっとつらかった。もっとも、SUVで2、3周はもつのだから、十分優秀だったとも言える。V8サウンドも確かにどう猛だが、スーパースポーツほどにはたけだけしく聞こえてこなかった。
SUVとしては、異例にサーキットをよくこなす。速い。とはいえ、あまりに洗練されたドライブフィールで、刺激的だったとはおよそ言い難い。プロドライバーと速いカトーさんに紛れて、4ラップを都合3セット、続けざまに攻め立てたのだが、それでも脇の下に汗がにじんだ程度。なんと平穏で速いSUVなことか! 背の低いスーパースポーツだったなら、シャツの背中はおろか下着のパンツまで、ぐっしょりとぬれてしまったはず。
サーキットを終えたら、エスプレッソを飲む間もなく、即、一般道へ。ヴァレルンガ近くの大きな湖を一周するコース。富士五湖の周回道路を広くしたようなもので、広い道と街中の狭い道が交互に現れた。
そこでのウルスは、とても優れた“乗用車”に終始した。乗り心地はソリッドで、ちょっと昔の欧州車を思い出させるライドテイスト。車体は常にフラットな姿勢を保つ。ボディーがしっかりしているのだろう、アシが常によく動いていることが分かる。23インチのスペシャルタイヤでも、乗り心地に嫌みがない。
満喫するならオフロード
感心したのが、なにげなくコーナーを曲がっていくときのノーズの動きだった。向きたい方へノーズの動く様子が、最後まで確実な手応えとして感じられる。それが何とも心地いい。意のままに動かせているという確信が持てるから、ここでもむやみに大きさを感じないですむ。狭い道だって、へっちゃら。しまいには、ランボルギーニをドライブしているということさえ忘れて、だらだら運転してしまっている自分がいた。
そんなときは、右アシに力を込めてみる。すると、どうだ。SUVとは思えない、バカッ速な加速! ふわっと浮いてから、まるで蹴飛ばされたかのよう。スリリング! そして、サーキットでは聞こえてこなかった爆音もとどろいた。これこそ、まさにランボルギーニじゃないか。
最後がオフロードコース。個人的に最も好みのいでたち(先がとがって見える)をみせる、オフロードパッケージを試す。タンブーロは、テッラ=グラベルモードに。ベンテイガでよく知っていたとはいえ、トラクション制御のすさまじさに、三たび驚く(ベンテイガで2度、オフロードを攻めたことがある)。それゆえ、滑りやすい路面をまるで気にすることなく、強大なトルクを安心して使いこなせる。左右でデカップするアクティブアンチロールバーの恩恵で、凸凹が続いてもほぼフラットライドを保つから、これまた視線が安定する。とても運転しやすい。
もちろん踏みすぎは厳禁。物理的な重さを制御だけでは克服できない状況に陥ると、ドアンダーになって、気分も逆にへたる。きっちりスローイン、RWDとは逆のカウンターコントロールで滑らせ脱出できたときの、シンプルな楽しさといったら! これに比べたらサーキットでのウルスは、洗練された、ただ速いだけのクルマかも。
どんなクルマでもオフロードや氷上は楽しいもの。とはいえ、手っ取り早くウルスの性能を引き出して楽しんでみたいという人は、ぜひ、一度はクロカンコースへ。とはいえ、これでオフロードをがんがん攻めたてようなんて人、そうそういないとは思うけれど。
それは、アヴェンタドールの実力をサーキットで解き放ちたいなんて人があまりいらっしゃらないのと同じ。要するに、そこにその格好(空力とか最低地上高とか)を要求する、本物の性能と機能が備わっているかどうか、が大事。実際に使う・使わない、の問題ではない。格好から期待する性能を、世界最高レベルの本物に仕上げてあるということにこそ、高価なスーパースポーツカーブランドの価値があるというものです。
(文=西川 淳/写真=ランボルギーニ/編集=関 顕也)
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テスト車のデータ
ランボルギーニ・ウルス
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5112×2016×1638mm
ホイールベース:3003mm
車重:2200kg以下(乾燥重量)
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:650ps(478kW)/6000rpm
最大トルク:850Nm(86.7kgm)/2250-4500rpm
タイヤ:(前)285/45R21/(後)315/40R21(ピレリPゼロ)
燃費:12.3リッター/100km(約8.1km/リッター 欧州複合サイクル)
価格:2574万円*/テスト車=--円
オプション装備:--
*=日本市場での車両価格。
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードおよびトラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。