メルセデス・ベンツG500(4WD/9AT)/メルセデスAMG G63(4WD/9AT)
道具感は健在! 2018.05.15 試乗記 ヘビーデューティーSUV「メルセデス・ベンツGクラス」が1979年のデビュー以来、初のフルモデルチェンジ! スクエアなデザインを受け継ぎながらも、フロントサスペンションなどは大幅に刷新された。軽やかで強烈な走りを報告する。ビッグマイナーのはずだった!?
そもそもは軍事用高機動車としてNATOなどに79年から配備されたW461型をひな形に、それを民生向けとして快適性を中心にアレンジを加えたのがW460型こと「メルセデス・ベンツ・ゲレンデヴァーゲン」。89年にはフルタイム四駆化に伴うオフロードのイージードライブ化に加えて内外装はさらなる加飾が進み、Gクラスと呼ばれるようになった現在への礎となった。このビッグマイナーチェンジの際に用いられた型式名称が、W463型だ。
そのW463型との共通部品はスペアタイヤカバーとドアハンドル、ヘッドライトウオッシャーノズルのみといわれる新型Gクラス。ディメンションからして異なるものとなったわけだが、それに与えられる型式名称もまた、W463型である。
この点について開発責任者に尋ねてみると「最初はビッグマイナーチェンジでいけるだろうというもくろみで同型式名を社内申請していたが、気づいたらそうとは言えない状況になっていた」と、正直すぎる話を披露してくれた。ホンマかいなといぶかしがるも、隣にいた本社の広報担当者もまったく否定しなかったので、恐らくはそういうことなのだろう。
この緩さを好意的に解釈すれば、Gクラスはダイムラーのポートフォリオにおいても相当特殊な存在、すなわち数や金もうけうんぬんは他車で散々やってるから君は象徴としてどーんと構えていてくれればいいんだよと、さしずめそんなところだろうか。ともあれGクラスは可能な限り昔のままに見せつつも見る者が見れば明らかに違う、そして乗れば誰もがその進化に驚かされる……と、そういう類いのモデルチェンジを受けることになった。
前サスとステアリングは大変更
新型Gクラスの全長は先代比で53mm長い4715mm、全幅は実に121mm広い1881mm。これらの拡大しろはディメンションにもほぼ反映されており、ホイールベースは40mm伸び、前後トレッドは123mm広げられている。日本の車検証上の記載値は不明ながら、寸法的には「ジープ・ラングラー アンリミテッド」に近いところにある。
通常、全長およびホイールベースが伸ばされるに伴い、オフロード走破性の基本となるアプローチ、ランプブレークオーバーそしてデパーチャーの3アングルがゆがめられることが多い。ましてやGクラスは耐久性や整備性の観点から新型でも伸縮式のエアサスを使わず、前後の懸架にコイルバネを用いている。
もちろん乗降性などのユーティリティーを確保しながら地上高を稼ぐには限界があるわけだが、新型Gクラスではドライブトレインの刷新に伴って前デフを中央寄りに配置、その地上高を271mmまで高めるなど、骨格面から3アングルの改善を試みている。ちなみに最低地上高は先代より6mm高い241mm。結果的に3アングルは31度、26度、30度と先代に対して1度ずつ向上した。
ヘビーデューティー志向のユーザーにとって新型Gクラスのメカニズムにおける最大の興味は前まわりにあるかもしれない。というのも、ついに前後リジッドサスをあらためて前サスにはダブルウイッシュボーン式の独立懸架を採用したからだ。加えてステアリングも従来の油圧式リサーキュレーティングボールからピニオンマウントEPS付きのラック&ピニオンに改めている。
新設計のスチールラダーフレームは先代に対してスタティックのねじり剛性が55%も向上しているというが、独立懸架化に伴う物理的な支持剛性の低下を補完すべく、さらに前ストラット間にはドームアームと呼ばれる大径のタワーバー的な構造体が加えられていた。
身のこなしが軽やかに
現状、新型Gクラスで発表されているグレードは2つ。ともにV8のバンク間にタービンを挟むホットVレイアウトの4リッターユニットだ。メルセデス・ベンツのラインとなる「G500」は422ps/610Nmを、メルセデスAMGのラインとなる「G63」は585 ps/850Nmを発生。ともにトランスミッションは9段ATが組み合わせられる。
駆動方式はフルタイム4WDで、駆動配分は40:60。オンロードでの運動性を意識してか、先代より10%後輪寄りの設定とされた。ちなみに動力性能はオプションのドライバーズパッケージを組み合わせたG63の場合で最高速は240km/h、0-100km/h加速は4.5秒と、骨格を考えればちょっとあぜんとするものだ。
写真ではオリジナルのテザインを拡幅しただけのように見えるかもしれないが、実は平板風なウィンドウはリアゲート以外すべて微妙な曲げが加えられていたり、テールランプも後付けに見せつつ車体に滑らかにインテグレートされていたりと、新型Gクラスはその刷新ぶりを端々で伝えてくる。
短いダッシュボードや低いショルダーライン越しの視界もさながら先代を転写したかのようだが、室内は確実に広くなっている。特にキャビンがナローだった先代を知る身には、左右席間の広さは驚きに値するかもしれない。ただし、車高調整機能を持たないラダーフレームなりの乗降性に特段の変化がないことは認識しておくべきだろう。
ドアのラッチ音や電磁ロックの作動音なども先代そのままに調律された新型Gクラスだが、走り始めるとその違いは明らかだ。操舵応答の速度や確度やセルフセンタリング、わだちに対する柔軟性……といった前軸まわり起因の癖はほぼ一掃され、予想通り独立懸架のメリットは十分に感じとれる。加えて、上屋にアルミハイブリッド構造を採ったことで先代比最大170kgの減量を果たしたということもあってだろう、発進、減速、旋回とあらゆるシーンにおいて身のこなしが俄然(がぜん)軽やかになった。
オフロード専用のGモードを搭載
もちろん、駆動系の刷新によるロスの低減は走行時のメカノイズの減少にもきちんと現れている。改善されたという風切り音が相変わらず相当目立つのはデザインを思えば致し方ないところだが、それでも日本の実用速度域であればパッセンジャーとの会話に支障をきたすことはなさそうだ。
オンロードでの乗り心地は、なんともメルセデスらしい。大きな伸縮の動きをきっちり規制して、車体をフラットに保ちながらしなやかに突き進む。後軸側に残されたリジッドサスの動きによって上屋が無用に揺すられることもほとんどない。
試乗したのはオプションの20インチタイヤを履きアダプティブダンパーを装着したG500だが、18インチの標準仕様であればよりまろやかな乗り味が楽しめただろう。それでも、20インチ仕様の動的質感に不満はほとんど感じなかったし、21インチを履くG63でさえ乗り心地に上質感をみてとれたのには驚かされた。コーナリングの自然な所作や安定した姿勢というあたりも含めて、先代では望むべくもなかった劇的な改善点のひとつである。
新型Gクラスには従来からのエコ/コンフォート/スポーツ/インディペンデントの各ドライブモードに加えて、Gモードが搭載されている。これはメカニカルなローレンジ、もしくはデフロックのいずれかを選択すれば路面状況に応じて操舵アシストやスロットル、変速などの制御を最適化するといういわばオフロード走行専用モードだ。
新型Gクラスのオフロード走行はこのGモードを軸に、伝統ともいえる3つのデフロックを任意で駆使しながら難所を走破することになる。大抵のセクションなら乾式クラッチを用いるセンターデフのロックのみで走破が可能だが、モーグル的な地形や大きな岩場の登坂では後ろ、そして前の順にデフロックを使うことが推奨されている。3つのデフロックすべてを利かせた際の走破能力はさすがに強烈で、乗っているドライバーからすれば行けない場所はないと勘違いしてしまうほどだ。
賛否は分かれるかも
また、そういったセクションを走る際に驚かされるのがこれまた乗り心地の良さで、特に操舵方式の変更により緩衝効果が期待できなくなったがゆえの不快さは悪路試乗の始終で一切感じることはなかった。ラック&ピニオンでキックバックを和らげるのに特別な工夫はしていないということではあったが、バリアブルなステアリングのギア比の初期が先代並みにスローにしつけてあることや、電動パワーアシストの量を悪路用に最適化していることも奏功しているのかもしれない。
先代よりも7度も増したという最大走破斜度35度のキャンバー走行を体験しながら助手席のインストラクターに尋ねたのは、なぜ3つのデフロックを自動化しなかったのかということだ。ある意味、原稿のための言質でもあったわけだが、返ってきた答えはありがたいことに予想通りのものだった。
「Gはマニュアルを楽しむためのクルマなんだよ。オートマチックで楽に走りたいなら他のモデルを選んだほうがいい」
あえてクロスカントリー的な様式を楽しむという、その洒脱(しゃだつ)さが都会におけるGクラスの個性、そして人気の核心だ。ゆえにシンプル&ミニマルな道具感は失われてはならない。ダッシュボードの吹き出し口の間に強調するかのように並べられた3つのマニュアル操作ボタンは、それを使いこなす向きにもそうでない向きにも、譲れないディテールといえるだろう。
とはいえ、新型Gクラスの評価はきっと賛否が分かれるに違いない。特にヘビーデューティーユースを前提とする向きにおいて、前軸の独立懸架化はある種の日和見でもある。何より僕自身、Gクラスがそこを譲ることはないんじゃないの? と乗る前にはそう思っていた。
が、いざ新型に乗ってみると、だ。何もしょっちゅう山中をさまようわけでもない自分にとって、この頑なさは損だろうと思うに至る。そのくらい、新型への刷新は得るものが大きい。いま、Gクラスを愛好する向きの大半は、乗れば僕の意見に同意していただけるのではないかと思う。
ちなみに新型Gクラスの日本投入は年央の予定。ただし、ディーゼル搭載グレードは今も開発途中にあり、現行の「G350dブルーテック」は本国でも日本でも一定期間併売されるもようだ。エンジンの違いを気にしなければ新型と旧型を並べて悩める猶予があるという、何とも憎らしい話である。
(文=渡辺敏史/写真=ダイムラー/編集=鈴木真人)
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テスト車のデータ
メルセデス・ベンツG500
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4817×1931×1969mm
ホイールベース:2890mm
車重:2429kg
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:422ps(310kW)/5250-5500 rpm
最大トルク:610Nm(62.2kgm)/ 2250-4750 rpm
タイヤ:(前)265/60R18/(後)265/60R18
燃費:12.1-11.5リッター/100km(約8.3-8.7km/リッター、欧州複合モード)
価格:--万円/テスト車=-- 円
オプション装備:--
※数値は欧州仕様のもの。
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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メルセデスAMG G63
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4873×1984×1966mm
ホイールベース:2890mm
車重:2560kg
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:585ps(430kW)/6000 rpm
最大トルク:850Nm(86.7kgm)/2500-3500 rpm
タイヤ:(前)275/50R20/(後)275/50R20
燃費:13.1リッター/100km(約7.6km/リッター、欧州複合モード)
価格:--万円/テスト車=-- 円
オプション装備:--
※数値は欧州仕様のもの。
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。