フォルクスワーゲンup! GTI(FF/6MT)
ちょうどいいホットハッチ 2018.06.19 試乗記 シンプルでミニマムなフォルクスワーゲン(VW)のエントリーモデル「up!」に、伝統の高性能バージョン「GTI」が登場。初代「ゴルフGTI」に近い小柄なボディーを、1リッター直3ターボ&6段MTのパワープラントで引っ張る600台の限定モデルは、ホットハッチとしてあらゆる意味で“ちょうどいい”一台に仕上がっていた。日本仕様は2ドアボディー
初対面だったup! GTIは、トルネードレッドと呼ばれる鮮やかな赤色のボディーに、ブラックアウトされたフロントマスク、リップスポイラー、サイドミラー、ボディーに走る2本のストライプ、リアゲート、ルーフスポイラー、17インチホイールといったさまざまなコントラストのある要素を組み合わせて「GTI」であることを主張していた。もちろんフロントグリルとサイドミラーの下側にはGTIのロゴが備わっている。
1976年に初代ゴルフGTIが登場して以来、約40年のGTIの歴史において、「ゴルフ」「ポロ」そしてこの「up!」と、3つのモデルにGTIが同時に設定されるのは3度目のことだ。ちなみに前回は2000~2005年の「ゴルフ」「ポロ」「ルポ」の組み合わせだった。およそ13年ぶりに最小クラスのハッチバックを“GTI”に仕立てたというわけだ。かつてのルポへのこだわりの数々を知っている人ならば、VWがただならぬ思いで開発に取り組んできたことは想像に難くないだろう。
ボディー後端でキックアップしているサイドウィンドウグラフィックスは2ドアの証しだ。個人的にはup! は2ドアのデザインのほうが好ましいと思っているし、実際に義理の姉はボクの勧めでup! の2ドアを購入したほどだ。本国には4ドアのGTIも存在しているというが、日本仕様は潔く2ドアのみの設定という。
ボディーサイズは“元祖GTI”に近い
車内に乗り込み2ドアゆえの大きなドアを閉めると、「ドォム」とコンパクトカーらしからぬ重厚な音をたてる。シートはGTIではおなじみの“クラーク”柄と呼ばれる黒地に赤と白のストライプを配したタータンチェックのもの。このファブリックシートは見た目がかわいいだけでなく、座り心地も秀逸なものだ。
インテリアは外装とは逆でブラックを基調に、差し色に赤を配したものだ。ステアリングやシフトノブ、パーキングブレーキレバーなど直接手に触れる箇所はブラックのレザーに。ダッシュパッドには「ピクセルレッド」という光沢のあるパネルが装着されており、ルーフやピラーの内張をブラックにすることで全体をスポーティーなイメージに仕立てている。
ボディーサイズは全長×全幅×全高=3625×1650×1485 mmと、標準車と比べて全長は15mm長く、全高は10mm低い。VWの資料には、初代のゴルフGTIとかつて最小モデルだったルポGTIを比較対象としたデータが掲載されていたが、室内空間確保のためにup!の全高のみ少々高めになっていることがわかる。そして、それ以外は近い数字が並んでいたのが興味深い。ちなみに車両重量は初代ゴルフGTIが820kgととても軽いが、タイヤは13インチだし要件も違う。比較するのは酷というものだ。up! GTIは、車重こそ1tだが、それだって現代のクルマとしては十分に軽いしパワーもトルクも初代ゴルフGTI(110ps/140Nm)に勝っている。
クリーンでパワフル、しかも扱いやすい
エンジンは、標準車にも搭載されている1リッターの3気筒直噴ユニットをベースにターボ化したものだ。最高出力は116ps、最大トルクは200Nmで、その大きなトルクを2000rpmの低回転域から発生させる。特筆すべきはVWとして初めてガソリンエンジン用粒子フィルターを装着していることだ。これによって一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)、炭化水素(CmHm)の3つの有害物質を削減し、欧州で施行されているEuro6AG排ガス基準をクリアしているという。排気量の小さなガソリン車であっても、環境規制対応は待ったなしというわけだ。
組み合わされるトランスミッションは、専用の6段マニュアルのみ。カタログ性能では最高速が196km/h、0-100km/h加速は8.8秒となっている。0-100km/h加速2秒台とか3秒台とか、いまどきの恐ろしく速いスーパーカーのスペックに目が慣れている人にはもの足りない数値かもしれないが、実際に乗れば何ら問題はないし、十分に速い。
エンジンのフィーリングとしては、レスポンス鋭く回転数が上下するスポーツカーのそれといった感じではない。アクセルを緩めると少し遅れてゆっくりと回転計の針が落ちてくる。低回転域から十分なトルクを発生することもあって3速2000rpmくらいで街中をゆるゆると走るシーンでもギクシャクすることはなかった。up! GTIに俊敏なスポーツカー的キャラクターを求める向きにはちょっとものたりないかもしれないが、緩慢なシフト操作を許容してくれるという意味では日常使いしやすいものだと思った。ちなみにカタログ燃費(JC08モード)は21.0km/リッターだが、マニュアルを駆使すれば、それを大きく超えることも造作ないだろう。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
絶妙な走りとサイズ、そして値段
乗り心地は、硬いか柔らかいかといえば硬い。実は一瞥(いちべつ)しただけでup!に17インチの40偏平タイヤはやりすぎでしょと思っていた。しかし、それに合わせて専用にチューニングされた足まわりがきっちりと仕事をしているため、まったく不快じゃない。そもそも標準車のup!のボディー剛性の高さがあってのものだと思うが、路面からの小さな入力に対してもダンパーの減衰力が立ち上がり、首都高の目地段差のような、それなりの速度域における大きな入力もしっかり受け止めて、いやな揺れや振動を残すことなくびたっと走る。
ハンドリング特性は、ひらひらとして軽快というよりも、操舵に対して正確に動く安定志向だった。リアのサスペンション形式はトーションビームだが、それも言われなければ気にならないし、ネガな部分は感じられなかった。以前、標準車で東京から鹿児島まで走ったことがあり、その性能の高さに驚いたのだけど、これならもっと遠くまで快適に行けるかもしれない。
気になる価格は219万9000円。いい値付けだと思う。惜しむらくは限定車であること。日本への割り当ては600台という。ちなみに同タイミングで発表されたゴルフGTIの限定車(6段DSG)が445万9000円、ポロGTIが344万8000円。兄貴2人は、体躯(たいく)も価格も大きく成長して、コンパクトハッチバックと呼ぶのは少々はばかられるようになってきた感もある。
広報資料に、「初代ゴルフGTIを彷彿(ほうふつ)とさせるホットハッチ」という一文があったのだけれど、サイズも価格も刺激の量もちょうどいい。up! GTIは“今どきのホットハッチ”と言えるのかもしれない。
(文=藤野太一/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
フォルクスワーゲンup! GTI
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3625×1650×1485mm
ホイールベース:2420mm
車重:1000kg
駆動方式:FF
エンジン:1リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:116ps(85kW)/5000-5500rpm
最大トルク:200Nm(20.4kgm)/2000-3500rpm
タイヤ:(前)195/40R17 91V/(後)195/40R17 91V(グッドイヤー・エフィシエントグリップ パフォーマンス)
燃費:21.0km/リッター(JC08モード)
価格:219万9000円/テスト車=219万9000円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:1765km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(5)/高速道路(5)/山岳路(0)
テスト距離:143.3km
使用燃料:10.4リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:13.8km/リッター(満タン法)/14.4km/リッター(車載燃費計計測値)
拡大 |

藤野 太一
-
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】 2025.12.12 「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。
-
BYDシーライオン6(FF)【試乗記】 2025.12.10 中国のBYDが日本に向けて放つ第5の矢はプラグインハイブリッド車の「シーライオン6」だ。満タン・満充電からの航続距離は1200kmとされており、BYDは「スーパーハイブリッドSUV」と呼称する。もちろん既存の4モデルと同様に法外(!?)な値づけだ。果たしてその仕上がりやいかに?
-
フェラーリ12チリンドリ(FR/8AT)【試乗記】 2025.12.9 フェラーリのフラッグシップモデルが刷新。フロントに伝統のV12ユニットを積むニューマシンは、ずばり「12チリンドリ」、つまり12気筒を名乗る。最高出力830PSを生み出すその能力(のごく一部)を日本の公道で味わってみた。
-
アウディS6スポーツバックe-tron(4WD)【試乗記】 2025.12.8 アウディの最新電気自動車「A6 e-tron」シリーズのなかでも、サルーンボディーの高性能モデルである「S6スポーツバックe-tron」に試乗。ベーシックな「A6スポーツバックe-tron」とのちがいを、両車を試した佐野弘宗が報告する。
-
トヨタ・アクアZ(FF/CVT)【試乗記】 2025.12.6 マイナーチェンジした「トヨタ・アクア」はフロントデザインがガラリと変わり、“小さなプリウス風”に生まれ変わった。機能や装備面も強化され、まさにトヨタらしいかゆいところに手が届く進化を遂げている。最上級グレード「Z」の仕上がりをリポートする。
-
NEW
アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター(FR/8AT)【試乗記】
2025.12.13試乗記「アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター」はマイナーチェンジで4リッターV8エンジンのパワーとトルクが大幅に引き上げられた。これをリア2輪で操るある種の危うさこそが、人々を引き付けてやまないのだろう。初冬のワインディングロードでの印象を報告する。 -
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】
2025.12.12試乗記「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。 -
高齢者だって運転を続けたい! ボルボが語る「ヘルシーなモービルライフ」のすゝめ
2025.12.12デイリーコラム日本でもスウェーデンでも大きな問題となって久しい、シニアドライバーによる交通事故。高齢者の移動の権利を守り、誰もが安心して過ごせる交通社会を実現するにはどうすればよいのか? 長年、ボルボで安全技術の開発に携わってきた第一人者が語る。 -
第940回:宮川秀之氏を悼む ―在イタリア日本人の誇るべき先達―
2025.12.11マッキナ あらモーダ!イタリアを拠点に実業家として活躍し、かのイタルデザインの設立にも貢献した宮川秀之氏が逝去。日本とイタリアの架け橋となり、美しいイタリアンデザインを日本に広めた故人の功績を、イタリア在住の大矢アキオが懐かしい思い出とともに振り返る。 -
走るほどにCO2を減らす? マツダが発表した「モバイルカーボンキャプチャー」の可能性を探る
2025.12.11デイリーコラムマツダがジャパンモビリティショー2025で発表した「モバイルカーボンキャプチャー」は、走るほどにCO2を減らすという車両搭載用のCO2回収装置だ。この装置の仕組みと、低炭素社会の実現に向けたマツダの取り組みに迫る。 -
ホンダの株主優待「モビリティリゾートもてぎ体験会」(その2) ―聖地「ホンダコレクションホール」を探訪する―
2025.12.10画像・写真ホンダの株主優待で聖地「ホンダコレクションホール」を訪問。セナのF1マシンを拝み、懐かしの「ASIMO」に再会し、「ホンダジェット」の機内も見学してしまった。懐かしいだけじゃなく、新しい発見も刺激的だったコレクションホールの展示を、写真で紹介する。














































