第97回:新型ジムニーがチビGクラスでオッケーな理由
2018.07.03 カーマニア人間国宝への道日本人は四角いクルマが好き
新型「ジムニー」の画像が、発表に先駆けて公開され、カーマニアたちの絶賛を集めている。私のSNS上でも、「ヤバイ……カッコいい!」とか、「欲しい!」という声が多数踊っている。
私も一目見て「これはメチャいい!」と思った。なんのてらいもない真四角なボディーは、ジムニーの原点に回帰したどころか、オフロード4WDの原点回帰と言うべきか? なにせ、過去3代のジムニーと比べても、一番ただの真四角っぽい。
しみじみ思うが、日本人は四角いクルマが好きだ。そりゃもうケタはずれに好きだ。だいたい今、日本で売れてるクルマの過半数が「ただの箱型」。軽とミニバンはほぼ全部そうなので。
ところが、SUVには、ただの箱型はごく少なくなっている。昔を思い出すと、かなりただの箱型だらけだったんだけど。
SUVは、今や最も伸びしろが期待できる分野で、各メーカー、グローバル商品として開発している。グローバルを狙うと自然、クルマは丸くなる。乗用車は曲面ボディーを持つのが普通だから。じゃないと“働くクルマ”になっちゃうので。
あの「Gクラス」すら、40年目のフルチェンジで、微妙に丸みを帯びた。いや、「帯びてしまった」。基本は変えてないけれど、変えるとしたら丸くするしかなかったのだろう。なにせ真四角だったので。
そして、微妙に丸みを帯びたGクラスを見て、我々日本のカーマニアは、「堕落したなぁ」と感じる。武士が切腹を恐れてどうする! みたいな。つまり日本人の深層心理としては、四角い=潔いであり、丸い=卑怯(ひきょう)なのである。
新型ジムニーはGクラス似
しかし、誰が見ても感じることだと推測するが、新型ジムニーは、先代Gクラスにソックリだ。
ソックリに見える決め手は、外板がほぼ平面の組み合わせで、特にキャビン上部がほとんど絞られておらず、かつ、ルーフの接合部の処理がまるで同じに見えるからだ。
顔は「ハマーH2」により似てるとも言えるが、どっちにせよその起源は第2次大戦中に開発された米陸軍の「ジープ」なので、そこは触れなくていいでしょう。
とにもかくにも、新型ジムニーはGクラスにソックリ。しかしそれを批判する声は、少なくとも国内からはまったく聞こえない。海外では「ベビーGクラス」と報道されているが、それすら勲章のように感じる。
仮にこれが中国の自動車メーカー製だったら、「またコピー車か」とバカにしまくったはずだが、ジムニーが治外法権なのはなぜだろう?
ひとつは、サイズがうんと小さいという事実がある。
GクラスはW463型のショートボディー(2003年式『G320』)で、全長4040×全幅1860×全高1960mm。対するジムニーは、まだスペックは発表されてないけれど、なにせ軽自動車枠があるので、全長3400mm未満、全幅1480mm未満。全高はたぶん1700mmちょっとだろう。
あれ、意外と差が小さいな……。もっと大幅に小さいような気がしたんだけど。
しかしまぁ、実物を比べれば、大人と子供みたいに見えるのは間違いない。これだけ大きさが違えば、ソックリでも問題ない! だって見間違うことはないから! という心性が、我々日本人には確実に存在する。
チビGクラスはカッコイイ
「S660」に関しても、「ランボルギーニの縮小コピーだ」という批判はまったくない。逆に「よく見るとこれって、チビランボルギーニじゃんか!」とうれしくなり、つい買ってしまいました。ついに「サンバルギーニ・コカウンタック」を手に入れた! みたいな。もちろんサンバルギーニ・コカウンタックに対する批判は皆無だし、逆に絶賛の嵐である。
でも、カーマニアは、「ミラ ジーノ」は許さなかった。
なぜなら、元祖とサイズがあまり違わなかったからだ!
元祖「MINI」(BMC)は、全長3050×全幅1410×全高1350mm。初代ミラ ジーノは、それより若干大きかった。これはもう、我々日本人から見ても、堕落し切ったコピー商品である。
ミラ ジーノが登場した当時(1999年)、たまたまイタリアの自動車誌を見ていたら、「日本人はMINIが大好きなので、こんなコピー商品が登場した」とコラムに書いてあって、とても恥ずかしく思いました。
でもS660はまったくオッケーだし、ましてや新型ジムニーは誇りにすら感じる。「どうだ、ドイツ人にこんなちっこいGクラスが作れるか!」と言いたくなる。
日本人にとって、縮小コピーは美徳。しかもジムニーの場合、中身は完璧なホンモノであることが確定していて、むしろ本当の悪路では、軽量なジムニーが世界一だろうという予感もある。
それでいて、見た目はチビGクラス=カッコイイ。見る者のほほえみを誘う。誰からも愛される。スバラシイじゃないか!
ひょっとして欧米人は、ベビーGクラスを冷ややかな目で見ているのかもしれないが、我々はまったく気にしません! そこに関してはずぶといです! だって日本人はそうやって生き抜いてきたんですからネ!
(文=清水草一/写真=清水草一、池之平昌信/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
-
第320回:脳内デートカー 2025.10.6 清水草一の話題の連載。中高年カーマニアを中心になにかと話題の新型「ホンダ・プレリュード」に初試乗。ハイブリッドのスポーツクーペなんて、今どき誰が欲しがるのかと疑問であったが、令和に復活した元祖デートカーの印象やいかに。
-
第319回:かわいい奥さんを泣かせるな 2025.9.22 清水草一の話題の連載。夜の首都高で「BMW M235 xDriveグランクーペ」に試乗した。ビシッと安定したその走りは、いかにもな“BMWらしさ”に満ちていた。これはひょっとするとカーマニア憧れの「R32 GT-R」を超えている?
-
第318回:種の多様性 2025.9.8 清水草一の話題の連載。ステランティスが激推しするマイルドハイブリッドパワートレインが、フレンチクーペSUV「プジョー408」にも搭載された。夜の首都高で筋金入りのカーマニアは、イタフラ系MHEVの増殖に何を感じたのか。
-
第317回:「いつかはクラウン」はいつか 2025.8.25 清水草一の話題の連載。1955年に「トヨペット・クラウン」が誕生してから2025年で70周年を迎えた。16代目となる最新モデルはグローバルカーとなり、4タイプが出そろう。そんな日本を代表するモデルをカーマニアはどうみる?
-
第316回:本国より100万円安いんです 2025.8.11 清水草一の話題の連載。夜の首都高にマイルドハイブリッドシステムを搭載した「アルファ・ロメオ・ジュニア」で出撃した。かつて「155」と「147」を所有したカーマニアは、最新のイタリアンコンパクトSUVになにを感じた?
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。