アルファ・ロメオの秘法は“敵を知りロマンを説く”
本国イタリアにおける「ステルヴィオ」のセールス現場を垣間見る
2018.07.06
デイリーコラム
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いよいよ日本にも導入されるアルファ・ロメオ初のSUV「ステルヴィオ」。ひと足先に発売されている本国でのセールス状況や、同ブランドとしては近年にない高額商品を手がける販売現場の苦労などを、イタリア在住のコラムニスト、大矢アキオが調査した。
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1モデルでブランドを支えている
107年にわたるアルファ・ロメオ史上初のSUV、ステルヴィオ。イタリアでは2017年春の販売開始から1年が過ぎて、路上でたびたび目にするようになった。
台数の増加は数字が証明している。イタリアにおけるステルヴィオの2018年1~5月の登録台数は5529台。実際には2017年2月末の発売だから単純比較は難しい。それでも前年同期は2139台だったから、伸び率は2.5倍になる(UNRAE調べ)。車両カテゴリー別統計では、同じFCAの「ジープ・コンパス」に次ぐ2位にランキングされている。
ヨーロッパ全体におけるステルヴィオは、さらにめざましい。2018年1~4月の販売台数は1万0490台。こちらも2017年が立ち上がりであることを考慮しなければならないものの、単純計算すると前年同期比で4.15倍である。
気になるのは同時期に「ジュリエッタ」が1万3196台から1万0885台に、2年前の2016年に発売された「ジュリア」も8423台から6834台へと減少していることだ。
フルラインナップを誇るドイツ系プレミアムブランドと違い、アルファ・ロメオは新型が1台登場すると、他のモデルの存在が希薄になってしまう。“皿回し”に似た状態だ。だが、これは今日に始まったことではない。
それよりも、他モデルの台数が軒並み減少する中、ブランド全体の販売台数を12%増の2万8875台から3万2519台へと引き上げたステルヴィオに目を見張らざるを得ない(JATOダイナミクス調べ)。
最高額のクルマを扱うということ
ステルヴィオの人気は、最近わが家に舞い込んでくるカーリース業者の広告からもわかる。推奨車種のトップにステルヴィオが挙げられているのだ。それによると、2.2リッターディーゼルターボ(210ps)仕様のクルマが、年間2万5000km・2年リースで、頭金なしの月々690ユーロ(約8万8000円、税別)という。
それはともかく、販売現場の話を聞いてみることにした。
ボクが住むトスカーナ州におけるFCAディーラー、ウーゴ・スコッティのシエナ支店で、アルファ・ロメオを担当しているアレッシオ・カパンノーリさんを訪ねた。
ちなみに近年イタリアのFCAショールームでは、プレミアムラインとして、アルファ・ロメオはジープと同じコーナーに置かれている。アレッシオさん自身も両ブランドを掛け持ちする。
彼はステルヴィオの好調を認めると同時に、今までとは違う売り方が必要であることを指摘する。
特に「クアドリフォリオ」グレードは、フル装備にすると10万ユーロ(約1280万円、付加価値税22%を含む)を超えるクルマである。アルファ・ロメオとしては、7万9000ユーロ台の「ジュリア・クアドリフォリオ」や7万5000ユーロ台の「4Cスパイダー」を一気に飛び越える価格だ。いや、フィアット/アルファ・ロメオディーラーとして通常ラインナップされたクルマとしては、少なくともここ30年で最高額といってよい。今までフィアットの「パンダ」や「500」のお客が大半だったディーラーが、いきなりドイツ系プレミアムブランドと同じお客さんを迎え入れるわけだ。
イタリアで自動車は大きな馬力になればなるほど重課税が適用される。「クアドリフォリオの場合、自動車税だけでも年に約3000ユーロ(約38万円)払う余裕のあるお客さまです」。参考までに筆者が乗るコンパクトカーの場合、年間の自動車税はその10分の1以下の286.53ユーロ(約3万6000円)で済む。
「そうした余裕があるのは自営業の社長さんなどです。私たちもそうしたお客さまの嗜好(しこう)を知り、ターゲットを絞って販売する必要があります」。
では実際にステルヴィオを販売するにあたり、どういったセールストークで攻めるのだろうか?
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「エンツォ・フェラーリ」も話のタネ
「お客さまはおのずとBMWやメルセデスのSUVと比較なさいます」とアレッシオさんは語る。「まずは私たちセールス自身が、そうしたライバルのセリングポイントをよく理解する。そのうえで、50:50の前後重量配分や、カーボンファイバー製ドライブシャフトといった数々の特徴で、ステルヴィオの優位性をアピールします」
ボクが「敵を学ぶことは兵法の初歩ですね」と言うと、アレッシオさんは大きくうなずいた。彼によると下取り車は既存のSUVモデルに加え、「『アウディA4』や、メルセデスの『Cクラス」や『Bクラス』もありましたね」と証言する。
ヒストリーで攻めるのも作戦だ。「車名の由来となったステルヴィオ峠は、75ものコーナーを擁し、いわば操縦する人の勇気を試されるコースです」
加えて「エンツォ・フェラーリが長い自動車人生の一歩目を記したのは、アルファ・ロメオのレーシングチームでした」と話す。国土を愛し、歴史に崇拝の念を抱くイタリア人のツボを刺激するわけである。
「ザウバー・アルファ・ロメオ」として2018年からF1に復活したのも格好の話題だとアレッシオさんは認める。
イタリア人が次々とヴァカンツェ(ヴァカンス)へと旅立ち、ディーラーが閑散となる季節まであとわずか。敵を知り、歴史ロマンを説くアレッシオさんのステルヴィオ販売は、今がスパートの掛けどころだ。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/編集=藤沢 勝)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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