スバルWRX STIタイプRA-R(4WD/6MT)
まだピースが欠けている 2018.07.25 試乗記 スバルテクニカインターナショナル(STI)の創立30周年を記念したコンプリートカー「スバルWRX STIタイプRA-R」。“要らないものはそぎ落とす”という古式ゆかしき方法で調律された限定モデルの実力を、クローズドコースで試した。心がかき立てられる
「おぉぉ……、怖ぇぇ……!!!」
「こんなの……タニッ……グチ君じゃなきゃ、無理ッ!!」
「スバルWRX STI」の限定車「タイプRA-R」のアクセルを床までベカッと踏み込んで、思わず心の声がこぼれた。
「タニグチ君」とは、『webCG』の連載でもおなじみの谷口信輝選手のこと。なぜ彼の名が出てきたのかといえば、WRX STIタイプRA-R(以下RA-R)を走らせた場所が「群馬サイクルスポーツセンター」、通所“グンサイ”だったからだ。
グンサイは人気DVDマガジン『HOT Version』の「峠最強伝説」というコーナーで、彼らが有名チューナーの手がけたチューニングカーを走らせているコースでもあるのだ。
木々がうっそうと生い茂る、一方通行のサイクリングコース。路面は思ったよりもきちんと整備されているが、所々うねりが激しく、登り・下りのアップダウンと共にブラインドコーナーが次々と押し寄せる。そんな峠道をRA-Rは、筆者を急(せ)かす子犬のように、4輪でグイグイ、グイグイと引っ張っていく。
いくらクローズドコースとはいえ、誰も「全開で走れ!」なんて強要していない。それでも乗り手がそれを試したくなるのは、このRA-Rとグンサイの組み合わせが、オトコのプライドのようなものを、ザワザワさせるからだ。
RA-RはSTIが放つ、本家スバル公認のチューニングコンプリートカーだ。そのベースとなるのは現行型のスバルWRX STI。型式で言うと「VAB」型で、これをベースに今回は徹底した軽量化が図られたことがトピックである。
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競技車両を思わせる軽量化の手法
その手法を見ていくと、お約束のパーツとしてはホイールがSUPER GTでもパートナーとなったBBS製18インチ鍛造ホイールに変わっており、タイヤには245/40ZR18サイズの「ミシュラン・パイロットスポーツ4S」が組み合わされた。
このタイヤが選ばれたのは、さまざまな銘柄をテストした中でパイロットスポーツ4Sが、STIの求める“性能とバネ下重量のバランス”に優れていたため。開発陣がその性能にほれ込んだ結果、日本には設定のなかった18インチ仕様をわざわざ取り寄せたのだという。
このほかに目を引いたのは、ドライカーボン製のエアロドアミラーカバー。これはカバーというよりも「付け替え」と言った方が正しいパーツだ。なぜならいくらカーボン樹脂でカバーを作っても、ミラーの上にかぶせてしまえば重量増にしかならない。そこでSTIは純正ミラーの表側を外し、このカバーを取り付けるというひと手間を掛けたのである。ちなみにこのパーツは表面に整流フィンをあしらうことで、WRX STIのフロントリフトを4%も低減させたという。
このほかにもウィンドウウオッシャータンク容量を4リッターから2.5リッターへと縮小したり、ポップアップ式ヘッドランプウオッシャーをはじめとした細かなパーツを取り去ったり、揚げ句の果てにはスペアタイヤパン内のメルシート、いわゆるアンダーコートをはがしてしまったりと、実に地道な軽量化を積み重ねている。
その「走りに必要ないものは取ってしまえ」的手法は、競技車両である「タイプRA」をほうふつとさせるものであり、だからこそSTIはネーミングに「RA-R」を用いたのだろう。webCG読者には、「ポルシェ911」(タイプ964)の「カレラRS」風、と言ったほうがピンと来るかもしれない“昭和のオジサン”泣かせなやり方である。
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まずはエンジンに感動する
数々の軽量化により、RA-Rは車重を1480kgにまで抑えることができた。これは標準仕様のWRX STI(1490kg)に比べ10kgしか軽くなっていないのだが、必要な部分を強化しながらも標準車以下に車重を抑えたことはひとつの成果。ここに329psの最高出力を照らし合わせるとそのパワーウェイトレシオ(PWR)は4.498kg/psとなり、既出のSTIコンプリートカーでトップの数値を得ている。ちなみに、「S208」の車重は1510kgで、出力は同じ329psだからPWRは4.589kg/psとなる。
ただしこのRA-Rは、競技車両ではない。その目的は「純粋にWRXの走りを楽しむ」ために造られたコンプリートカーで、立ち位置としては、「かつての軽量バージョンである『スペックC』をさらに磨き上げたピュアスポーツ」なのだとSTIは説明してくれた。
そんなRA-Rでまず感動的なのは、水平対向4気筒ターボの高揚感だ。聞けばその内容はS208と全く同じ仕様なのだという。329ps/7200rpm、432Nm/3200-4800rpmという最高出力と最大トルクの数値も市販のスポーツセダンとしては大いに魅力的な数値だが、五感に響くのはそのスムーズな吹け上がり。
ピストン、コンロッド、クランクシャフトにまで及ぶフルバランス取り(!)が行われたエンジンの回転上昇感は、常用域においても上質で、等長排気になってからスムーズさを増した水平対向エンジンの静粛性をさらに高めている。走りについては、専用ECUの燃料調整が素晴らしいのだろう。そのスムーズさの上に、見事にパンチの効いたトルク感が上乗せされている。
さらに言うとクラッチカバーやフライホイールまでバランスが調整されているらしく、クラッチを切ったときの回転落ちが素早い。それでもアクセルをあおったときのレスポンスも素早いから、その落ち込みを瞬時にリカバーできてしまう。
これまで水平対向エンジンに感じていた低速域でのトルク不足が上手に補われ、329psのパワーを手中に収めることができる。急激にターボのブーストが跳ね上がるようなことがなくなり、思ったところで加速できる“純度”が上がったのだ。
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もう少し“フィット感”がほしい
長きにわたって使われる名機「EJ20」ユニットは、いくらなんでもそろそろ退役時期だろうと年々言われ続けてきたわけだが、今後のエミッション事情も含めていよいよ最終形に近づいている。S208が450台の限定で幕を閉じたいま、このボクサーエンジンを手に入れるためだけにでも、RA-Rを購入する価値はありそうだ。
動力性能は抜群に高く、車体も軽い。このRA-Rに足りない部分をあえて指摘するなら、それは操作系のフィット感だ。筆者にとっては、スポーツドライビングでの要となるヒール&トウがやりにくく、走りのリズムをつくりづらいのである。
フロントにはブレンボ製のモノブロック対向6ポット、リアにさえモノブロックの対向2ポットキャリパーをおごったブレーキの剛性感は非常に高い。しかしブレーキペダルの位置がアクセルに対して高く、ブレーキの踏力をかなり高めない限りカカトの位置がアクセルに届きにくいのだ。
これが何を意味するかといえば、本気でブレーキを目いっぱい踏み込むような領域以外では、ヒール&トウがやりにくいということになる。RA-Rという車両の性格上、限界領域での操作をスムーズにすることは重要だが、これでは普段の走りにおいて、マニュアルトランスミッションの醍醐味(だいごみ)であるヒール&トウがまず味わえない。
ブレーキ踏力を上げられないわれわれアマチュアドライバーにとっては、残念ながら運転のリズムがここで狂ってしまう。さらに言えば、シフトレバーの位置も遠めだから、シフト操作がコンパクトに決まらない。それらに筆者は、様子を探りながら走ったグンサイのワインディングロードで違和感を覚えた。
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サーキットでは楽しいかもしれないが……
その対策としては、ブレーキペダルの支持剛性を高めることが必要だと思う。ポルシェのように……とまでは言わないが、通常領域でもカッチリと遊びがなく、踏力に応じた制動力を発揮できるペダルがあれば、アクセルペダル位置との高さをもう少しそろえることができる。
また思い切りブレーキを踏み込んだときも、ペダルが奥に入り過ぎることがなくなるはずだ。実に細かいことかもしれないが、そういう部分にもこだわって手を入れることこそ、メーカー直系のワークスにしかできないことではないだろうか。
またその足まわりは、S208とのキャラクターを分けるためか、かなり固められている。これは俊敏なフットワークを実現し、高い荷重域に対しても車体をグッと支えてくれるのに役立つ。つまり普段使いには少々厳しくても、走ったときの頼もしさがグッと上がる味付けとなっている。
11:1にまで速められたステアリングギア比も、その足まわりの安定性ゆえにクイック過ぎると感じさせないのは見事だった。シンメトリーな縦置きエンジンの4WDとはいえ、基本はアンダーステア傾向のWRX STIが、見事にノーズをコーナーへ入れていく様子にはほれぼれした。しかし今回のように起伏の激しい路面では、このセッティングだとボクをはじめとしたアマチュアドライバーは少し怖いのではないか? と思う。
平たんな道では車体は極めて安定している。カーブで急にフロントのグリップがスッポ抜けたり、リアがズバッと滑り出したりするようなことは皆無だ。しかし起伏ある路面を越えたときにダンパーの伸び側が強く規制され車体が強く引き戻される様な動きや、着地で駆動が“ガツッ!”と掛かるような状況では、結果として挙動は安定していても、一瞬ヒヤッとする。
RA-Rは、サーキットのような路面ではとても“スイートな”荷重移動をして、安定したコーナリングフォームをつくってくれるだろう。しかしグンサイのようなシチュエーションでは、ちょっと怖い。
そんなことを言うと、「ユーザーはグンサイなんてぶっ飛ばして走らないよ」と読者の皆さんはあきれるかもしれない。けれど、スバルは長きにわたってレースでも車両開発でも、ニュルブルクリンクに挑戦し続けてきたじゃないか。
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辛口な味付けに見る、RA-Rが背負うハンディ
世界屈指の難コースでクルマを鍛える理由は、4つのサスペンションとタイヤを自在に伸び縮みさせて、どんな路面でも安定して走れるようにするためだろう。だとしたらこのグンサイを、レベルの違いこそあれ僕たちでも安心して攻められるだけの“何か”を感じさせてほしいと思うのだ。
ちなみに「メルセデスAMG C63」や「BMW M3」、そして「ホンダ・シビック タイプR」などは、すでにこの領域に入ってきている。可変ダンパーを用いることで普段のドライバビリティーを確保しながら、高次元の領域ではしっかりとしたスタビリティーを得ているのだ。
RA-Rがこうした方向性を採らなかった理由のひとつには、先に述べた通りS208とキャラクターの差別化を図りたかったことがあると思う。しかし根源には、2014年に登場したWRX STIのボディー剛性が、すでにライバルたちに追い越されてしまっていることが理由としてある。
だからこそSTIは、ライバルたちに速さにおいてまでも後れを取らないために、RA-Rにこの俊敏な足まわりを与えたのではないだろうか?
結論から言えばボクは、S208と同等かそれを少し引き下げたくらいの、ストローク量が確保されたサスペンションをこのRA-Rに与えればよかったのではないかと思う。さもなければ、グンサイではなくサーキットでお披露目して、その魅力を存分にアピールしてほしかった。
ボディー剛性の向上はメーカーの仕事であり、STIにしてみれば現状の剛性に対して入念にバランスを取って、その味付けを決定しているといえる。しかし世界では、例えばメルセデスのAMG C63などは、新型「Cクラス」をつくる会議の席にAMGスタッフが参加し、将来登場するC63に対しての性能要求を、初期の段階から話し合う。そうすることで恐ろしいほどのパワーを誇るV8ツインターボを搭載しても、われわれが安心して、いや喜々として、これを操れるクルマに仕上げているのだ。
STIがそんなふうになってくれたら、素晴らしいと思う。厳しいことも言ったけれど、WRXというクルマには、それを言うだけの価値がある。
……なんて書いているところに、このRA-Rが完売したというニュースが入ってきた。抽選ではなく先着順とした今回の限定500台は、あっという間に売れてしまったのだという。つまりまだまだSTIの人気は衰え知らずであり、ボクが心配する必要などまったくなかったということだ。
(文=山田弘樹/写真=田村 弥/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
スバルWRX STIタイプRA-R
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4595×1795×1465mm
ホイールベース:2650mm
車重:1480kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター水平対向4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:329ps(242kW)/7200rpm
最大トルク:432Nm(44.0kgm)/3200-4800rpm
タイヤ:(前)245/40R18 97Y/(後)245/40R18 97Y(ミシュラン・パイロットスポーツ4S)
燃費:--km/リッター
価格:499万8240円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(0)/高速道路(0)/山岳路(10)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
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