スバルWRX STI EJ20ファイナルエディション フルパッケージ(4WD/6MT)
30年の集大成 2020.04.15 試乗記 「スバルWRX STI」が、名機「EJ20」型エンジンともどもいよいよ生産終了に。最後の限定モデル「EJ20ファイナルエディション」の試乗を通し、熟成極まったWRX STIの走りに触れるとともに、古式ゆかしきハイパフォーマンス4WDの来歴に思いをはせた。一時代の終わりを告げる限定モデル
WRX STIといえば、1993年から2008年にかけて世界ラリー選手権(WRC)で活躍した「インプレッサWRX」の血脈をそのまま受け継いで、WRC撤退以後もスバルの“体育会系”イメージを引っ張ってきた。そんなスバルでは……というか、日本車全体を見渡しても最もマニアックで汗臭い(これはホメ言葉ですよ)WRX STIが、昨2019年末をもって受注を終了した。その生産も2019年度中(2020年3月まで)に終えたという。
今回のEJ20ファイナルエディションは、そんな歴史的生産終了に合わせて用意された記念限定車である。その販売台数は、スバリストには説明不要の由緒正しき(?)数字にちなんだ555台。プロトタイプが初公開された東京モーターショー2019の開催期間に購入優先権の申し込みを受け付け、応募過多となったことから抽選が行われた。一説には、その倍率は20倍を軽く超えたとか。
もっとも、同じWRXでも「S4」はひとまず継続生産となっているので、今回終了したのはあくまでSTIのみ。で、S4とSTIの最大のちがいは、エンジンを含めたパワートレインである。S4とSTIのそれはエンジンも駆動系も異なるのだが、中でもすでにSTI専用となっていたEJ20型エンジンの歴史に幕が下ろされるのが今回最大のトピック……なのは、限定車の車名を見れば理解できる。
EJ20は1989年の初代「レガシィRS」で初登場、以降はインプレッサWRXにも積まれて……みたいなお話は、マリオ高野さんのデイリーコラムに詳しいので、ぜひ参照いただきたい。
というわけで、そんな歴史的限定車であるEJ20ファイナルエディションは、WRX STIの「タイプS」をベースに、ゴールド塗装のBBS製鍛造アルミホイール(ブレーキのシルバー塗装も専用)、グリルやリアバンパーのチェリーレッドアクセント、一部をウルトラスエード巻きとしたステアリングなどが与えられているのが内外装における特徴である。
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これが最後のEJ20
ただ、このクルマ最大のキモは、車名にもあるように“EJ20ファイナル=最後のEJ20エンジン”である。「EJ20バランストエンジン」と銘打たれたその心臓部は、内部のピストンやコンロッド、クランクシャフト、およびエンジンに直結するフライホイール/クラッチカバーといった回転部品の重量公差・回転バランス公差を、通常の量産版より低減して組み立てられたファイナルエディション特製品なのだ。
カタログにはさらに、ピストン/コンロッドが重量公差50%低減、クランクシャフトの回転バランス公差85%低減、フライホイール/クラッチカバーは回転バランス公差50%低減……というマニアな数値が公開されている。
EJ20はこの最終進化型にいたっても、間接燃料噴射のままで、吸排気バルブタイミング以外に可変機構ももたない。2リッターで308PSという高出力も、大径ターボチャージャーと高回転化……という古典的な手法による。
すでに語り尽くされた感もあるが、このEJ20は4000rpm以下の領域だと、いまどきビックリするほどセンが細く、それはこのファイナルエディションでも変わらない。また、水平対向エンジンはもともと独特のビート感をもつが、特定の回転域で振動が高まるようなクセもなく、雑味の少ないフィーリングを売りとする。それはEJ20も例外ではないのだが、ファイナルエディションでは低速での“ズロロロー”な鼓動はそのままに、さらに細かいバリが磨かれて、振動が低減された感がある。
ただ、バランストEJ20最大のクライマックスはトップエンドの1000rpmに訪れる。
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7000rpmの先にある快感
8000rpm(!!)という回転リミット自体は量産版と変わりない。これまで何度となく味わったEJ20も、そのトップエンドまでよどみなく滑らかに回るし、その領域での絞り出すような金切りサウンドは絶品だ。
しかし、量産版EJ20の場合、最後まで引っかかりはないものの、7000rpm付近から吹け上がりがわずかに重くなるのも事実。パンチ力も7000rpm手前でアタマ打ち気味になる。もちろん、コーナー進入などでギリギリまでシフト操作を待てるなど、高い回転リミットのメリットは大きい。ただいっぽうで、しかるべきコースで攻めるようなときも、シフトアップポイントは無意識に7000rpmくらいで落ち着いてしまうことが多い。
その点、バランストEJ20は“最後の1000rpm”が圧倒的に軽い! 回転リミッターに当たる8000rpmまで喜々として回る。この領域では回すほどトルクは下降しているはずだが、体感的には7000rpmを超えてから、さらにカツが入るように感じられるのだ。これは素直に気持ちいい。こういう脳天を突き抜けるかのような快感はほかでは味わえない。
そんなEJ20のスロットル特性を、穏やかな「I」、ほぼリニアな「S」、過激な「S#」という3つのモードから手元のダイヤルで選べる「SIドライブ」は、ノーマルと変わりない。ハイグリップなサーキットなどで、このゴリゴリの体育会系シャシーにカツを入れるにはS#モードが好適なのは当然として、低ミューな山坂道でもシャシーがS#をもてあますことはない。
ただ、このバランストEJ20に関しては、体感的にはほぼ“即全開!?”のS#モードはあまりにあっけない。より滑らかに洗練された中低速、そこからタメをきかせて、いよいよさく裂するトップエンド……といった滋味あふれるドラマを楽しむヒマすらない。反対のIモードはスロットル反応をあえて抑えた燃費ドライブ用なので、ファイナルエディションではスキがあったらSモードを選び、バランストEJ20を堪能するのがお作法である。
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“アシ”とセンターデフに見る進化のあと
ファイナルエディションとはいっても、シャシーや駆動系はベースと変わりない。それにしても、油圧式のパワーステアリングはいまどき笑ってしまうほどに重く、シャシーは素直に、ゴリゴリに引き締まっている。
ただ、2017年5月(発売は6月)の大幅改良で熟成が極まったアシは、絶対的には硬くとも素晴らしく滑らかなストローク感である。日本車としてはめずらしく“絶品”と申し上げたいブレーキや、スロットルオフでの回転落ちも鋭いEJ20によって、荷重移動のカツを入れたときの所作は、改良以前より明らかにしなやかで高級感あるものになっている。
絶対的な乗り心地も、路面によってはズシズシと突き上げることもあるが、この種のクルマが好きな人なら“快適”と思うだろう。高速では意外なほどチョロつかず、スピードを出すほどに安定するのは、硬いけど滑らかなアシに加えて、マジモノの空力部品の効果も大きいと思われる。
前記の大幅改良でフル電子制御化された「ドライバーズコントロールセンターデフ(DCCD)」もまた、相変わらずの快感発生装置だ。ターンインでの回頭性が以前より鋭くなったのは、DCCDの電子制御化で初期にLSDがききすぎなくなったから……でもあるらしい。
現在は前:後ろ=41:59というフルタイムの駆動配分にDCCDの制御を組み合わせているWRX STIは、手元のトグルスイッチでセンターLSDのロック率を任意に可変できる。舗装路向きのオートモードにしても、あるいはマニュアルモードにしても、ロック率を低める「-」にするほどターンインが鋭く、良くも悪くもクルマの動きは全体に軽くなる。逆にロック率の高い「+」にするほど体感的なフロント駆動力が強まり、曲がりはマイルドになるが安定感も明らかに高まるのだ。
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センターデフ式フルタイム四駆よ永遠なれ
コーナーの曲率や路面コンディションに合わせてDCCDを切り替えながら走ると、運転が純粋に楽しいと同時に「センターデフが変わるとこうなるのか」といった知的好奇心もかきたてられる。スポーツと自動車工学という、体育会系と理系の両方の楽しみを同時に味わえるのだ。筆者のような典型的な文系クルマオタクにとって、DCCD最大のツボはそこである。
ちなみに、DCCDの初登場は初代インプレッサWRXの途中、1995年に発売された「STiバージョンII」だったから、すでに25年近い歴史をもつことになる。世の4WDはすでに電子制御クラッチやカップリングによるオンデマンド型が主流なので、この4WDシステムももはや“古典”というほかない。
……と、いろいろ書いたところでEJ20ファイナルエディションはおろか、もはやWRX STIすら中古車(か、わずかにあるかもしれない市中在庫)でしか手に入らない(涙目)。排ガスその他の世相を思えば、EJ20が30年の歴史をもって退場を余儀なくされるのはある意味でしかたない(落涙)。ただ、それと同時にDCCD付きフルタイム4WDまでもが姿を消すとすれば、個人的にはEJ20の退場と同等か、それ以上にさみしい(号泣)。
スバルみずから“ファイナル”と断言してしまったEJ20はともかく、次のWRXやあるいはSTI(があるかどうかも不明だが)には、せめてDCCDだけは残してほしい。……と、初代インプレッサWRXデビュー時はすでに駆け出しのクルマ雑誌編集者だった筆者は、最後の淡い(かなり淡いとは思うけど)希望をもっておこう。
(文=佐野弘宗/写真=郡大二郎/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
スバルWRX STI EJ20ファイナルエディション フルパッケージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4595×1795×1475mm
ホイールベース:2650mm
車重:1510kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター水平対向4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:308PS(227kW)/6400rpm
最大トルク:422N・m(43.0kgf・m)/4400rpm
タイヤ:(前)245/35R19 89W/(後)245/35R19 89W(ヨコハマ・アドバンスポーツV105)
燃費:9.4km/リッター(JC08モード)
価格:485万1000円/テスト車=569万6361円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション STIフロントアンダースポイラー(4万9500円)/STIサイドアンダースポイラー(6万9300円)/STIリアサイドアンダースポイラー(4万5100円)/STIリアアンダースポイラー(7700円)/Panasonicナビ 本体(27万8300円)/ナビ取り付けキット(7051円)/外部入力ユニットインパネ(9900円)/Snic Design フロント・リアスピーカーセット(12万1660円)/リアビューカメラ(4万2900円)/ETC 2.0車載器キット 本体(3万5200円)/ETC 2.0車載器キット ビルトインカバー(6600円)/ドライブレコーダー 本体(5万0600円)/ドライブレコーダー リアカメラケーブル(1100円)/SUBARUホーン(1万1000円)/STIスカートリップ<チェリーレッド>(1万8700円)/LEDアクセサリーライナー 本体(4万1800円)/LEDアクセサリーライナー フォグカバー(1万2100円)/フロアカーペット(3万6850円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:2392km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(7)/高速道路(1)/山岳路(2)
テスト距離:379.3km
使用燃料:56.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.8km/リッター(満タン法)/7.3km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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