トライアンフ・スピードトリプルRS(MR/6MT)
進化と伝統の妙味 2018.07.31 試乗記 “ストリートファイター”と呼ばれるジャンルを切り開いた、トライアンフのネイキッドバイク「スピードトリプル」。そのパフォーマンスを一段と高めた「スピードトリプルRS」は、幅広いライダーを楽しませる懐の深いモデルに仕上がっていた。驚くべき“大幅刷新”
イギリス人は気が長い。家でも庭でも鞄(かばん)でも靴でも、とにかく自分の身のまわりにあるモノとはじっくり腰を据えて付き合い、年月を掛けて愛(め)でる。飾ったり、収集するよりも徹底して使い込み、壊れれば直す。そうやって時間を積み重ねていくことに美徳を感じる国民性と言ってもいい。
それはバイクに関しても(もちろんクルマも)同様で、トライアンフのスポーツネイキッド、スピードトリプルRSにもその片りんを垣間見ることができる。
その最たる部分がエンジンだ。今回のRSは新しく設定されたグレードであり、フラッグシップの役割も担うため、ポテンシャルアップを果たしたことを大々的にうたう資格がある。事実、この水冷3気筒エンジンには新しい軽量クランクが投入されたほか、ニカジルメッキが施されたシリンダーライナーや形状が変更されたピストン、排気ポートが異なるシリンダーヘッド・・・・・・と、手が加えられたパーツは105カ所にのぼる。にもかかわらず、トライアンフはこれを完全新開発とは言わず、あくまでも「大幅な刷新」と控えめなのだ。
しかもそれだけではない。実はこのユニットは2016年モデルの時にも「大幅な刷新」が施され、その時点ですでに104項目にわたって見直されているのだ。つまり、わずか2年の間に計209もの改良を受けているのだが、トライアンフ的にはあくまでも熟成や最適化の一環らしい。
確かに変わらない部分も多い。1050ccの排気量、一見するとパイプに見えるアルミツインスパーフレーム、独特の2灯ヘッドライト、アップタイプの2本出しマフラーなどはこのモデルのアイデンティティーとして定着している。
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高性能でも扱い切れる
シートにまたがった時の印象も従来モデルから大きく変わらず、つまりリラックスしたポジションと快適なシートがそこにある。ライディング時に見える風景で新しくなったのはメーターとスイッチの意匠だ。アナログとデジタルパネルの組み合わせに代わって、先進的な5インチのフルカラーTFTディスプレイを採用。そのグラフィックは美しく、表示の切り替えをハンドル左側に備えられたジョイスティックタイプのスイッチで操作する方法も目新しい。
そのスイッチでできることはいくつもあるが、最も頻度が高いのはライディングモードの切り替えだろう。ロード/レイン/スポーツ/トラック/ライダーの5種のパターンが用意され、それぞれに応じてスロットルレスポンス、コーナリングABS、トラクションコントロールがデフォルト設定されたレベルに変化。ライダーを選べば、それを自分好みにカスタマイズすることが可能になる。
もともとトルクバンドが広く、フレキシビリティーに富んだエンジンゆえ、たとえレインモードを選んだとしてもなんの不足もなくよく走る。ビート感にあふれる3気筒特有の高回転サウンドを楽しむのも、ディーゼルのように粘る力強さに任せて低回転で流すのも自由自在。最高出力は150psに達しているが、それを扱い切れているという満足感に浸らせてくれる懐の深さが魅力だ。
今回採用された電子デバイスの中で、車体の安定性に大きく貢献しているのがIMU(慣性測定ユニット)の搭載である。これはロール・ピッチ・ヨーの3軸の動きとその加速度を検出する装置のことをいい、トラクションコントロールとコーナリングABSに連動。例えばコーナリング中にブレーキを強く握ってもロックしないことはもちろん、その時のバンク角や車体姿勢に応じて制動力をコントロールしてくれるため、不用意に車体が起き上がったりすることもない
そこまでやっておきながら、不思議と採用が見送られたデバイスもある。それがオートシフターだ。シフトダウン側はまだしも、このクラスのモデルならアップ側は必須アイテムになりつつある。それゆえ、オプションではなく早々に標準装備を望みたいところだ。
それ以外はライダーファーストなアイテムが随所に光る。メーターの角度が無段階に調整できる機能は極めて珍しく、クラッチレバーのストロークレシオ(レバーの位置ではなく、ストローク量自体が変化する)が3段階の中から選べるのも同様だ。さまざまな体格のライダーが乗ることを想定したおもてなしの世界がそこにはあった。
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まさに接地感のかたまり
バイクの本質ともいえるハンドリングの限界域は明確に引き上げられている。オーリンズのφ43mmNIX30フォークとTTX36リアショックの組み合わせがもたらす路面追従性は素晴らしく、ギャップを拾った後の衝撃を瞬時に減衰。ピレリ謹製のハイグリップタイヤ「ディアブロ スーパーコルサSP」が装着されていることも手伝って、フルバンク時もそこから立ち上がる時もパワーが逃げず、それがトラクションへと変換されていく。ひとことで言えば、スピードトリプルRSは接地感のかたまりである。だからこそ、安心してコーナーへ飛び込んでいけるのだ。
唯一望むとすれば、リアシート下の2本出しマフラーが車体下部に移設されるとハンドリングがなお素晴らしいものになるに違いない。アロー製の軽量チタンマフラーが与えられているとはいえ、重量物が重心を高くしていることに変わりはなく、それが運動性に有利に働くことはない。
2013年、ひとクラス下の「ストリートトリプル」がモデルチェンジを受けた際、実際にマフラーの位置が下げられ、しかも1本出しに変更されたことによってハンドリングが劇的に軽やかなものになった。ほかでもなく、トライアンフ自身がそのメリットを熟知しているだけに今後の展開に期待したいところだ。
そうなるといよいよ「大幅な刷新」では済まされなくなり、「フルモデルチェンジ」を宣言しなければならなくなるだろうが、それも含めてスピードトリプルRSの行く末を見守りたい。
(文=伊丹孝裕/写真=三浦孝明/編集=関 顕也)
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【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2075×775×1070mm
ホイールベース:1445mm
シート高:825mm
重量:189kg(乾燥重量)
エンジン:1050cc 水冷4ストローク直列3気筒 DOHC 4バルブ
最高出力:150ps(110kW)/1万0500rpm
最大トルク:117Nm(11.9kgm)/7150rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:--km/リッター
価格:185万7000円

伊丹 孝裕
モーターサイクルジャーナリスト。二輪専門誌の編集長を務めた後、フリーランスとして独立。マン島TTレースや鈴鹿8時間耐久レース、パイクスピークヒルクライムなど、世界各地の名だたるレースやモータスポーツに参戦。その経験を生かしたバイクの批評を得意とする。
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