デビューから1年でカムリに“新顔”を追加
セダンに対するトヨタの本気度を測る
2018.09.12
デイリーコラム
満を持して追加されたニュー(?)フェイス
トヨタのミドルクラスセダン「カムリ」に、新グレードの「WS」が追加された。名前は“Worldwide&Sporty”の略らしいが、正直言って意味不明だし、浸透しそうな気が全然しない。テレビCMのうたい文句を思うに、今もこれからも「カムリスポーツ」と言った方が通りがいいかもしれない。
トヨタの東京本社にていち早く実車を見る機会に恵まれたのだが、やっぱり既存の「G」や「X」とは雰囲気がずいぶん違う。フロントマスクはもちろん、サイドシルもリアバンパーもホイールもデザインが違うし、おしりには専用のスポイラーまで付いているのだからさもありなん。インテリアを見ても、シート表皮やダッシュボードの装飾パネルなどがやはり変えられていた。
また、これはまだ試せていないが、実はダンパーも違う。プレスリリースには「より応答性の高い操舵フィーリングとフラットな走りを追求したサスペンションチューニングを行っています」とあるが、その実は内部のしゅう動部品、ロッドガイドブッシュとピストンバンド、オイルを改良。“ライントレース性”と“カーペットライド感”を同時に向上させ、乗り心地を損なうことなく操安性を高めたのだとか。標準車とは見た目がずいぶん違うWSだが、「違うのは見た目だけじゃあらへんで」ということ……らしい。確証をもって言えないのは、まだ乗れていないからである。毎度のことで恐縮だが、気になる人は後日公開予定の試乗記をお楽しみに。
今回の取材ではチーフエンジニアの勝又正人氏にお話をうかがう機会もあったのだが、氏いわく、普通こうした大幅な仕様違いを後から設定するとしたら「最速でもマイナーチェンジのタイミング」となるらしい。それがカムリの場合はわずか1年。対応の早さに驚かされるが、これには実はウラがある。読者諸兄姉におかれてはすでにご存じのことだろうが、新たに投入されたこの“新顔”、実はアメリカなどではデビュー当初から設定のあったデザインなのだ。
導入時期のズレに見るセダン市場の厳しさ
現行型カムリを日本に導入するにあたり、勝又氏はじめ開発陣は大いに悩んでいた。なにせ今日びの日本では、4ドアセダンはまさにジリ貧。先代カムリも、モデル末期には月販100台を切ることもあったとか。個性の異なる2つのキャラクターがウリの新型だが、あの「クラウン」ですら車種を整理するご時勢である。「本当にそんなに売れるの?」「ムチャはやめよう」という意見もあり、“スポーティー顔”については「マーケットの反応を見て……」という結論に至ったのだとか。で、実際に新型カムリを投入すると評判がよかったことから、晴れて今回、WSを日本に導入することと相成ったわけだ。
要するに、天下のトヨタですら下手な冒険はできないほどに、日本でセダンを売るという行為は難しいものになっているのだ。それはもう、自販連(日本自動車販売協会連合会)の統計や、他社ラインナップの現状を見れば嫌というほど分かる。だからこそ今回のWS導入はなかなかの英断だと思うし、「導入を決断できるほどには新型カムリが受け入れられた」という事実を、記者は素直にめでたいと感じた。日本導入時期がずれたことを指して「国内軽視だ!」なんていう気にはなれない。まあ、これをもって「『セダンの復権』が成る」というほどノーテンキにもなれませんが。
……と、ここまで書いてふと思った。そもそもセダンって復権する必要あんの?
はっきり申し上げまして、記者はセダンの現状に興味がないし、この期に及んでセダンだワゴンだってジャンルでくくってクルマを語る感覚がイマイチ分からない。いみじくも自由と資本主義の国ニッポンである。好きな人が好きなクルマを選べればそれでいいじゃん。車型なんかどうでもよく、ただオーナーをハッピーにできるクルマがいいクルマだ。仮にセダンが滅んだとしたら、それは21世紀の御世(みよ)において、3ボックス型のクルマは望まれていなかったというだけのお話でしょう。
一方で、減ったとはいえ、そんな3ボックス型のクルマが好きな人はまだ日本にもいる。上述の理屈に沿って言えば、今この国に生き残っているセダンの使命は、べつに復権をもくろむことではなく、そうしたユーザーをちゃんと満足させることでしょう。
たとえマイナーなジャンルであろうと……
今回行われたカムリWSの説明会では、新たにオプション設定されたJBLプレミアムサウンドシステム(9スピーカー)の音を体験することもできた。「アッパーボディーの開発初期からハーマン(JBLブランドを持つオーディオメーカー)に入ってもらい、開発を進めていた」(勝又氏談)というシロモノで、しかも日本仕様には専用のチューニングを施したという、気合の入った一品である。記者はこの分野については……この分野についても、門外漢なので話半分で聞いてほしいが、それでも「迫力があって明瞭で、こりゃあ素晴らしいな」と感じた。
かつて「日産ティアナ」の試乗記にて、高山正寛氏が「セダンに乗るような成熟した年齢のオーナーは、オーディオにもこだわる」と述べていたのを思い出す。JBLといえば記者のような疎い者ですらその名を知る老舗のオーディオメーカーだし、特にオジサン世代のなかには、今回のオプション追加が心に響いた人がきっといるはずだ。
またWSにはデザイナーこだわりのツートンカラーも用意されている。横から見るとオープントップにも見えるブラックルーフ仕様は、部品単位ではなく、同一のパネル上で色を塗り分けるこだわりの“色見切り”が特徴(Cピラーに注目)。ちなみに特許出願中だそうな。
別段「セダンが好き!」というわけではない記者ゆえ、カムリにおけるこうした取り組みが本当にセダンユーザーの心に刺さるものかは分からないし、当のユーザーからしてみれば、ひょっとしたらお門違いなことなのかもしれない。ただ、バリエーションの拡充に高級オーディオの追加設定と、トヨタがカムリというクルマの商品価値向上にきちんと心を砕いているのは事実だろう。今どき、数のはけない4ドアセダンにこんなにマメに取り組んでいるのは、日本ではもはやトヨタとマツダだけだと思う。
(webCGほった)

堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。