日産ティアナXV(FF/CVT)
大人のセダンに必要なもの 2014.03.05 試乗記 日産の世界戦略車のひとつである「ティアナ」が3代目にバトンタッチ。初代から続く、上質感や快適性はどのように継承されたのかをチェックした。初代は日本でも大ヒット!
「クルマにモダンリビングの考え方。」
このキャッチコピーを覚えている人も多いのではないだろうか。2003年2月に登場したアッパーミドルセダン「日産ティアナ」のものだ。CMなどの斬新な演出はもちろんだが、それまで販売していた「セフィーロ」などに代わるモデルとして、室内の広さや快適性、そしてこの頃から使われる機会が増えた“上質感”という言葉をうま~く絡めることに成功。まさに「所有する喜び」を体現させたクルマとして大ヒットしたことに今更説明は不要だろう。
少々前振りが長くなるが、やはり新型を語るには初代の“成功体験”を知っておく必要がある。この初代、クルマ自体の仕上がりの良さも評価されたが、インパクトが大きかったのは実は車両価格。というのも、販売の主力となった2.3リッターエンジンに、このクラスでは珍しいV型6気筒を採用していたのだ。1990年代にマツダや三菱が1.6~2リッタークラスのV6エンジンを採用して以来の試みとなるが、多くのメーカーがこのクラスに直4エンジンを選んでいたため、V型=高級というイメージ(それ自体はちょっと安易かもしれないが)を低価格で、しかもやや小型の排気量で味わうことができたのもヒットの一因だろう。ちなみに人気だった「230JK M-コレクション」の車両価格は発売当時で240万円(税抜き)。駆動方式の違いや同じ排気量のモデルが事実上存在しなかったことを考慮すると、一概に比較はできないが、ライバルより30万円前後安い、絶妙ともいえる値付けであった。
その初代、そして初代ほどのインパクトはなかったが、コンセプトに流行語大賞の先取り(?)ともいえる「おもてなし」を掲げた2代目のいいとこ取りをうたい、しかも今回走行性能を向上させたのが3代目となる新型とのこと。それを “額面通り”に捉えていいのだろうか。いろいろな期待と不安を持ちながら試乗することにした。
悪くないけど魅力不足のインテリア
3代目のグレード設定は非常にシンプル。試乗した最上位の「XV」を含めて3つ。パワートレインはV6エンジンを廃止し、2.5リッター直4のQR25DE型とエクストロニックCVTの組み合わせ1本で勝負してきた。すでにいろいろなニュースで報道されているが、もともと世界戦略車であるティアナゆえに販売エリアごとに“お色直し”をすることでコストを削減しようという狙いは当然ある。この3代目も、2012年から北米で販売されている5代目「アルティマ」と実質的な兄弟車の関係であることや、日本国内におけるセダンマーケットがシュリンクし続けていることを考えると、それほど多くのバリエーションを持つわけにもいかない。国内の月販目標も520台ととても控えめだ。
デザインに関しては前述したようにアルティマと大部分が共通するものの、うまくまとめている。旧型まではキャッチ通りのモダン路線だったが、このモデルは動的な強さ、というか、よく言われる「止まっていても走りだしそうなダイナミックさ」が旧型より強い。専用加飾のフロントグリルも日本人の好みに合っていると思うし、何よりもフロントフェンダーからリアへと流れ、後端部で独特の広がり感を演出したキャラクターラインは、単調になりがちなセダンのデザインに一石を投じていると言ってもオーバーではないだろう。
室内に乗り込むと、一瞬ではあるが「ん?」と思ってしまう。過去2代のコンセプトは確かに継承されているのだろうが「これがティアナである」という味付けが正直薄い。厳しい言い方をさせてもらうと「他の日産車とどこが違うのか」というくらい“日産車”なのである。ただ「これだけ言っておいて擁護するとは何事だ」という声が聞こえてきそうだが、やはりここは世界戦略車。言い換えればコスト意識が形に表れている。何も知らなければ「いいデザインだね」と言う人も多いだろう。しかし、後述する(これが重要なのでぜひ後半もお読みいただきたい)ターゲットカスタマーがこれをすんなりOKしてくれるか、というと若干ひっかかる部分もある。
フツーに快適ではありますが……
このクラスのクルマに何を求めるかで試乗時の視点には変化が生じるものだが、新型ティアナがそもそも持つ快適性などに関しは、まずはうまくまとめているといえるだろう。
メカニズム的には、QR25DE型エンジンは中低速のトルクを向上。CVTは約80%のパーツを新規開発および改良した(ってもうほとんど新型)ことにより摩擦抵抗を40%低減。燃費性能を旧型比で26%も向上させているという。また新型は走りの部分にもこだわりを持っているそうで、リアマルチリンクサスペンションの採用や、コーナリング時に内側2輪のブレーキを“つまむ”ことでアンダーステアを抑えながらスムーズなコーナリングを可能にする「アクティブトレースコントロール」も採用している。
で、これらのハードウエアが結果としてどのような走りを生み出すのか、というと「静粛性が高く、誰もが文句を言わない普通の走り」ということになる。
確かに静粛性は高い。エンジンからの透過音も不快感を増す250~400Hzレベルの音をうまく遮断できている。また全体の音圧も抑えられており、車内での会話明瞭度も高い。新しいコーナリング制御も、言われなければ普通に「いいね」というレベルである。
ただ、装着しているミシュランの「プライマシーLC」とのマッチングがどうしても気になる。試乗した最上位グレードのXVのみ17インチタイヤを装着するが、ロードノイズの入り方、前後のピッチングなど、このタイヤが本当にベストなのかどうかは正直微妙。ミシュランに文句を言っているのではなく、このアジア向けに販売されているタイヤをコスト重視で採用しているのであれば再考を促したい。普段、この辺の部分にはあまり文句を付けない筆者がめずらしく疑問を感じた。
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ターゲットは“波平さん”ではない!?
ここまでのやや辛口の評価は別にして、個人的には日産のプレス試乗会は非常に勉強になる。それはクルマのコンセプトやハードウエアだけでなく、マーケティング部門の担当者が解説をしてくれるからだ。
今回の新型ティアナで特に面白かったのが、よくいわれるターゲットカスタマーについてである。簡単に言えば「子育てが終了した50代以上の夫婦」だそうだが、この層も激的に変化しており、アクティブな生活を送ろうとしている“新しい大人”が急増しているというのだ。「成熟した中高年から若々しくセンスのある大人」へ、「余生を送る、から人生の花を咲かせたい」へ。そこで、今までのシニア・中高年を『サザエさん』の波平さん、フネさん夫婦に例えていたのが面白い。
余談で恐縮だが、波平さんといえば先日、声を担当されている日本声優界の重鎮である永井一郎さんがご逝去されたが(ご冥福をお祈りします)、まさに「ニッポンの父親」である波平さんの年齢が54歳(ちなみにフネさんは52歳)、さらにふたりはお見合い結婚と、実は筆者と共通項が多い。すなわち筆者は古いタイプの中高年なのか、とガッカリしてしまったが、子育てが終わり、経済的な負担が減った今、人生の経験を重ねた大人の新しい価値観や行動原理が注目されているのだろう。
さて、この新しい層が確かに増えていることは自分の周りでも感じ取ることができるし、実際可処分所得も多い。しかし、最近はこういう大人は輸入車に移行するケースが増えてきている。その中でティアナがどれだけこの層を取り込むことができるかは、少々ハードルが高いのではないか。事実として月販目標も低めだが、世界戦略車であるがゆえに、もう少しティアナ独自の世界観を見た目でもアピールしてほしいと感じる。
大人を満足させる装備が足りない
補足的な話だが、ティアナは全グレード、オーディオレスの設定になっている。日産が誇る「アラウンドビューモニター」などの運転サポート装備を使うためにも、メーカーオプションの「NissanConnectカーナビゲーションシステム」の選択をぜひオススメするが、このナビのモニター、実は今更ながら7インチと決して大きなものではない。今やカーナビのモニターのトレンドは“大画面”である。ましてやカスタマーターゲットとなる50代以上といえば、老眼や視線移動によるピント合わせも難しくなってくる年齢である。ナビゲーションに関しては各メーカーがHUD(ヘッドアップディスプレイ)などを積極的に開発しているが、何もそこまで求めているわけではない。中高年でも地図が見やすいようにするうえで手っ取り早いのは、モニターの大型化である。
また、成熟した年齢ゆえに音楽を楽しむ余裕があるはずなのに、設定されるオーディオシステムがあまりにも「普通」すぎる。せっかく座り心地がより向上したシート(これはよくできています)やティアナ自慢のオットマンも改良が加えられているのに、重要な五感のうちの聴覚にあたるオーディオがこれでは、正直成熟した大人は納得してくれません。思わず「バカモーン」と言ってしまいたくなります(波平さん風ということで)。ましてや旧型まではBOSEのようなプレミアム系オーディオが設定されていたわけだから、1年くらいたった時に、特別仕様車でもいいので取り組んでほしい部分である。
それでも新型ティアナの魅力は装備内容や所有する喜びという点では初代からのDNAをうまく取り込んでいる。一番のオススメは「真ん中のグレードである『XL』に、前述したナビゲーションシステムを装着することで車両価格300万円チョイ超え」という組み合わせ。これが、コストとバリューのバランスが良い。
最後に、先進安全技術(特に追突軽減ブレーキ)や電気式パーキングブレーキなど、日本の市場でこそ優先順位の高い装備類を、今後は積極的に搭載してほしい。世界戦略車だからこそ、地域ごとに最適化することで成功するチャンスを含んでいるはずだ。
(文=高山正寛/写真=向後一宏)
テスト車のデータ
日産ティアナXV
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4880×1830×1470mm
ホイールベース:2775mm
車重:1470kg
駆動方式:FF
エンジン:2.5リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:173ps(127kW)/6000rpm
最大トルク:23.9kgm(234Nm)/4000rpm
タイヤ:(前)215/55R17 94V/(後)215/55R17 94V(ミシュラン・プライマシーLC)
燃費:14.4km/リッター(JC08モード)
価格:304万5000円/テスト車=339万4650円
オプション装備:ボディーカラー<ブリリアントホワイトパール>(4万2000円)/NissanConnectナビゲーションシステム+アラウンドビューモニター+ステアリングスイッチ+LDW<車線逸脱警報>+BSW<後側方車両検知警報>+クルーズコントロール(30万7650円)
テスト車の年式:2014年型
テスト車の走行距離:2657km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
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高山 正寛
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