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メルセデスAMG E53 4MATIC+(4WD/9AT)

新しいファン・トゥ・ドライブ 2018.10.10 試乗記 サトータケシ 2種類の過給機とマイルドハイブリッドシステムを搭載する、メルセデスの新型セダン「AMG E53」。その走りは極めてスポーティーでありながら、昔ながらのやんちゃな高性能モデルとは違った楽しさに満ちたものだった。

なんともニッチな新提案

試乗前にメルセデスAMG E53 4MATIC+のスペック表を眺めながら、感心することしきり。そのスペックが高度であることはもちろん、豊富な品ぞろえに驚いた。

新しいメルセデスAMG、「53」シリーズのエンジンは3リッターの直列6気筒ターボで最高出力435ps。弟分にあたる「43」シリーズのエンジンは3リッターのV型6気筒ツインターボで最高出力は401ps。兄貴分にあたる「63」シリーズの4リッターV型8気筒ツインターボは571psで、これをチューンした「63 S」は612ps。靴のメーカーが27cmと27.5cmの間に27.2cmを設定するというか、緻密に細分化された商品構成に、「水も漏らさぬ」という言葉が脳裏に浮かぶ。もちろん、お客さんにとっては選択肢が増えるのは好ましいことである。

というわけで、興味はおのずと新しい直6ターボエンジンに向かう。「M256型」と呼ばれるこのエンジンはすでに「S450」に積まれていて、メルセデスAMG E53 4MATIC+に搭載するにあたって、ターボチャージャーを大型化することで最高出力は68psも上積みされている。

12.3インチの液晶画面2つを1枚のガラスで覆うメーターパネルや、カーナビなどをパソコンのマウスのように操作するインターフェイスなど、インテリアは最新のメルセデス・ベンツの流儀にのっとった物。新しいんだけれどヤリすぎない、ほどよいモダンさの加減がうまい。というわけで、エンジンスタートボタンを押して、シフトセレクターで「D」を選択、ブレーキペダルをリリースしてアイドル回転でするする前に出たところで軽くアクセルペダルに力を込める、という一連の流れで「ほぉ」と感心した。

まず、エンジン始動時の振動がなく、音もほとんど聞こえない。そこからの極低回転域での加速もシルクの上を走るようにスムーズだ。このシルキーなフィーリングをもたらすのが、直6エンジンと9段ATとの間に位置するISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)、つまりモーター兼発電機だ。では、ISGはどんな役割を果たすのか。

メルセデスの「AMG 53」は、「Eクラスセダン/ステーションワゴン/クーペ/カブリオレ」および「CLS」に設定された新シリーズ。2018年9月に注文受け付けがスタートした。
メルセデスの「AMG 53」は、「Eクラスセダン/ステーションワゴン/クーペ/カブリオレ」および「CLS」に設定された新シリーズ。2018年9月に注文受け付けがスタートした。拡大
インテリアカラーは、試乗車のマキアートベージュのほか、ナッツブラウンやブラックがラインナップされる。
インテリアカラーは、試乗車のマキアートベージュのほか、ナッツブラウンやブラックがラインナップされる。拡大
ひとつながりであるかのように見えるメーターパネル(写真右奥)とインフォテインメントシステム用モニター(左手前)。サイズはそれぞれ12.3インチ。
ひとつながりであるかのように見えるメーターパネル(写真右奥)とインフォテインメントシステム用モニター(左手前)。サイズはそれぞれ12.3インチ。拡大
ピアノラッカー調のパネルが採用されたセンターコンソール。写真中央はふた付きの小物入れスペースになっている。
ピアノラッカー調のパネルが採用されたセンターコンソール。写真中央はふた付きの小物入れスペースになっている。拡大
駆動方式は4WD。フロントフェンダー部には、連続可変トルク配分の4WDシステム「4MATIC+」とTURBOのロゴが象徴的に添えられる。
駆動方式は4WD。フロントフェンダー部には、連続可変トルク配分の4WDシステム「4MATIC+」とTURBOのロゴが象徴的に添えられる。拡大
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経験のないパワーフィール

ISGの仕事を簡単に説明すれば、エンジン始動時はスターターとして働き、振動をほとんど感じさせずに電光石火のエンジンスタートを行う。加速時にはモーターとしてエンジンをアシストすることで、エンジンだけでは不可能な鋭いレスポンスを提供する。

だったらハイブリッドじゃないか、という声もあるでしょう。メルセデス・ベンツはハイブリッドとは呼ばないけれど、この仕組みを採用した車種に「HYBRID」のステッカーを貼る自動車メーカーもある。ちなみにISGとエンジンの間にはクラッチがないから、エンジンを切り離してモーターだけで走行する、いわゆるEV走行はできない。

とにかくエンジン始動から発進までのスムーズさ、力強さは感動するレベル。ちなみに1200rpm以下の低回転域では、電動スーパーチャージャーが加速を手助けしている。この領域を超える回転数に突入すると、スーパーチャージャーはその役目をターボチャージャーに譲る。

ただし、昔懐かしのスーパーチャージャーのように「ミーンミーン」いったりしないので、スーパーチャージャーが作動していることも、ターボチャージャーに切り替わることも、実感することはできない。体感できるのはシームレスかつパワフルな、あまり経験したことのない加速フィールだ。

当初は、メルセデス・ベンツ久しぶりの直6エンジン、というところに食いついた。あとは、事前の説明で「自然吸気の大排気量エンジンのような加速フィール」というあたりにも興味を持った。でも、直6だろうが大排気量自然吸気だろうが、こんなに振動のない、洗練された回転フィールは経験したことがない。エンジンを評価するのに適した言葉ではないかもしれないけれど、高貴な雰囲気さえ感じたのだった。

「メルセデスAMG E53 4MATIC+」の直6エンジンは、オルタネーターとスターターを兼ねる電気モーターや電動スーパーチャージャー、ターボなどを組み合わせることでエネルギー効率が追求されている。
「メルセデスAMG E53 4MATIC+」の直6エンジンは、オルタネーターとスターターを兼ねる電気モーターや電動スーパーチャージャー、ターボなどを組み合わせることでエネルギー効率が追求されている。拡大
ESPは、標準モードのほかに一定のドリフトアングルを許容する「ESPスポーツハンドリング」モードが用意される。「ESP OFF」も選択可能。
ESPは、標準モードのほかに一定のドリフトアングルを許容する「ESPスポーツハンドリング」モードが用意される。「ESP OFF」も選択可能。拡大
メーターパネルは液晶タイプ。表示デザインは3パターン用意されており、スイッチ操作で変更できる。
メーターパネルは液晶タイプ。表示デザインは3パターン用意されており、スイッチ操作で変更できる。拡大
フロントまわりは「E53」専用のスポイラーでドレスアップされている。パワードームが設けられたボンネットも特徴的なディテールのひとつ。
フロントまわりは「E53」専用のスポイラーでドレスアップされている。パワードームが設けられたボンネットも特徴的なディテールのひとつ。拡大

バーチャルの世界を思わせる

おもしろいのは、走行モードを切り替える「AMGダイナミックセレクト」で「Sport+」を選んだ時だった。ステアリングホイールの手応えとサスペンションがぐっと硬派になり、トランスミッションの変速も、素早さを増すのと引き替えに若干のショックを許すようになる。

同時にエキゾーストノートも変化し、アクセルペダルを戻すと、昔の“族車”のように「ぱぱん、ぱん」というアフターファイアのような音を轟(とどろ)かせるのだ。なぜおもしろいかといえば、後ろでぱんぱんいっているのに、エンジンの回転フィール自体はあくまでスムーズであり続けるからだ。

ワルそうな爆音が鼓膜を震わせるのにエンジンからまったく振動が伝わらない、しかも窓の景色はスゴい勢いで後方にふっ飛んでいくというこの感じは、どこかで経験したことがあると思った。えーっとなんだっけな、と記憶をたどると、すぐに思い出すことができた。

シートやステアリングホイールがフレームに完璧にセットアップされた状態でプレイする、グランツーリスモにそっくりなのだ。あまりにエンジンの手触りがスムーズすぎて現実感がないというか。エンジンにばかり目が行っていたけれど、しばらくドライブを続けると、現実感が希薄になるほどの滑らかさは、足まわりによるところも大きいことがわかってきた。

下端がフラットな形状のステアリングホイール。スポーク部には、親指の先でタッチ&スワイプが可能なセンサー式の操作デバイスが備わる。
下端がフラットな形状のステアリングホイール。スポーク部には、親指の先でタッチ&スワイプが可能なセンサー式の操作デバイスが備わる。拡大
センターコンソールには、走行モードのセレクターやサスペンションの調節スイッチなどが並ぶ。
センターコンソールには、走行モードのセレクターやサスペンションの調節スイッチなどが並ぶ。拡大
リアは4本のマフラーエンドが顔をのぞかせる。バンパーの下方には、3つのフィンからなるディフューザーも備わる。
リアは4本のマフラーエンドが顔をのぞかせる。バンパーの下方には、3つのフィンからなるディフューザーも備わる。拡大

峠道ではオン・ザ・レール

街中ではややコツコツするかなと感じた足まわりは、ちょっと速度を上げたほうが本領を発揮する。路面の凸凹に遭遇すると、足がきれいに伸びたり縮んだりしてショックを和らげ、凸凹を通過すると伸び縮みしていた足が今度は引き締まり、揺れを収める。「AMGライドコントロールスポーツサスペンション」と呼ばれるエアサスが、しなやかな乗り心地に貢献している。

ワインディングロードではオン・ザ・レールのハンドリングを堪能できる。クルマの内側では、このエアサスや、駆動力を前後50:50から0:100にまで自動で配分する四駆システムが忙しく働いているのだろうけれど、ドライバーはそんなことをまったく感じない。こう書くと、クルマに乗せられている感じでつまらないのではないか、と思われるかもしれない。けれどもまったくそんなことはない。

理由はいくつかあるけれど、大きいのはステアリングホイールからの手応えがいいことだ。ステアリングホイールの動きが正確にタイヤに伝わり、タイヤがどういう仕事をしているのか(どっちを向いていて、どれくらいの力がかかっているのか)がまさに手に取るようにわかるから、運転しているという実感が得られる。もうひとつ、ステアリングホイールを切った時のロール(横方向の傾き)の量とスピードが適切だから、ドライバーは気持ちよくコーナーを攻めている気分になれる。

パワートレインにしろ足まわりにしろ現代的に洗練されていて、昔のクルマのヒリヒリするようなファン・トゥ・ドライブとは別種の楽しさがあるというのが結論だ。お尻を滑らせたり、エンジンをぶん回したりしなくても、運転は楽しい。このクルマに乗ると、もしかすると電動化と自動化が進んだ先にも、新しいクルマの楽しみ方があるのではないか、と思えてくる。

(文=サトータケシ/写真=郡大二郎/編集=関 顕也)

前後のトルク配分は、50:50から0:100の範囲で変化する。「0:100の状態ではFRモデルのような走りが味わえる」という。
前後のトルク配分は、50:50から0:100の範囲で変化する。「0:100の状態ではFRモデルのような走りが味わえる」という。拡大
後席(写真)には、標準でシートヒーターが備わる。
後席(写真)には、標準でシートヒーターが備わる。拡大
大きな開口部を特徴とするトランクルーム。容量は490リッターで、ベーシックな「E200アバンギャルド」をはじめとするほかの「Eクラス セダン」(同540リッター)に比べ、1割ほど少ない。
大きな開口部を特徴とするトランクルーム。容量は490リッターで、ベーシックな「E200アバンギャルド」をはじめとするほかの「Eクラス セダン」(同540リッター)に比べ、1割ほど少ない。拡大
今回は高速道路を中心に約200kmの道のりを試乗。燃費は満タン法で8.4km/リッター、車載の燃費計で8.2km/リッターを記録した。
今回は高速道路を中心に約200kmの道のりを試乗。燃費は満タン法で8.4km/リッター、車載の燃費計で8.2km/リッターを記録した。拡大

テスト車のデータ

メルセデスAMG E53 4MATIC+

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4950×1850×1450mm
ホイールベース:2940mm
車重:2020kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ターボ+スーパーチャージャー
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:9段AT
エンジン最高出力:435ps(320kW)/6100rpm
エンジン最大トルク:520Nm(53.0kgm)/1800-5800rpm
モーター最高出力:22ps(16kW)
モーター最大トルク:250Nm(25.5kgm)
システム総合出力:--ps(--kW)
タイヤ:(前)245/35ZR20 95Y/(後)275/30ZR20 97Y(ヨコハマ・アドバンスポーツV10S)
燃費:10.0km/リッター(JC08モード)
価格:1202万円/テスト車=1252万6000円
オプション装備:エクスクルーシブパッケージ(50万6000円)

テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:481km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:202.0km
使用燃料:24.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:8.4km/リッター(満タン法)/8.2km/リッター(車載燃費計計測値)

メルセデスAMG E53 4MATIC+
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20インチの「AMG 5ツインスポークアルミホイール」。タイヤはヨコハマの「アドバンスポーツV10S」が組み合わされていた。
20インチの「AMG 5ツインスポークアルミホイール」。タイヤはヨコハマの「アドバンスポーツV10S」が組み合わされていた。拡大
荷室の容量は、3分割可倒式の後席を写真のように倒すことで拡大できる。
荷室の容量は、3分割可倒式の後席を写真のように倒すことで拡大できる。拡大
ボディーカラーは、試乗車の「カバンサイトブルー」を含む全7色が用意される。
ボディーカラーは、試乗車の「カバンサイトブルー」を含む全7色が用意される。拡大
サトータケシ

サトータケシ

ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。

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