“クロカン三傑”のモデルチェンジに寄せる
ある「ランドローバー・ディフェンダー」乗りの独白
2018.11.05
デイリーコラム
大きなお世話でございます
「メルセデス・ベンツGクラス」「スズキ・ジムニー」、そして「ジープ・ラングラー」。それら歴史的クロカンがくしくもここ一年でフルモデルチェンジを果たしたことは、あるいは2018年の自動車業界ニュースのトップテンにランクインする出来事かもしれない。いや、多少の気まぐれを含み、確実にトップテンに押し込もうともくろんでいる男が一人いる。例によってwebCG編集部のホッタ青年だ。
「だから『ディフェンダー』は新型が出なくていいんですか? アナタ乗ってるのに」
そういうのはたいがい大きなお世話だ。確かに、長いブランクを経ても同じ名前の新型が造られることは、各モデルのオーナーをやきもきさせつつも、クルマ好きにとってはよろこばしいトピックスになるだろう。
しかし、それとディフェンダーの新型は関係ないだろ? 僕にすれば、クロカン的ムダにデカいクルマを好む癖があるとしても、新車で購入して以来、23年目に突入した自分のオンボロが好きなだけだ。もしメルセデスやスズキやジープに触発されて新しいディフェンダーが登場しても、だからといってどうなんだ? どうなんだろう……。
そんなこんなでネットを探ってみたら、新型と目されるディフェンダーのニュースがこの夏あたりからちらほらするようになっていた。その姿を見て、ふ~むとうなってしまった。と同時に、ホッタ青年の策略にハマった実感を覚えた。結局いいようにされたんだな。
クロカンの存在価値とは何ぞや?
クロカンの定義とは何ぞや? 逆説的に、今年モデルチェンジを実施した3モデルの共通項を探ってみると、まず目を引くのは、強靱(きょうじん)だがズンドコ重いラダーフレームを使い続けていること。その鋼鉄の骨組みの上に、時流に合わせた最新のメカニズムを載せて新しさを強調しているのも同様だ。
エクステリアデザインでは、Gクラスとラングラーは先代からほとんど変わっていない。その点については両車の開発責任者が明言している。「新しくなっても“らしさ”を残した」と。対してジムニーは、前作の丸っぽさを捨て、「ペヤング ソースやきそば」みたいな四角い形に生まれ変わったが、それが「軽自動車のクロカン枠を守れば何だってアリ」という確信犯的手法であることは明らかだった。なんてのは嫌みだ。実際、カッコよかった。ゆえに発売直後から猛烈なバックオーダーを抱えたのは皆さん周知の事実。
おそらくクロカンは、年号も変わるこの現代において時代錯誤の産物だ。もはや四輪駆動はクロカンだけの特許ではないし、アプローチアングルを改良したところでその恩恵にあずかれる場所を走るオーナーはほとんどいない。本物感や道具感を楽しめるものではあるが、およそオーバースペック。つまり無用の長物。
それでもクロカンがなくならないのは、むしろ時代錯誤を好むファンが相対的少数とはいえ“確実”に存在する事実をメーカーサイドが無視できないから。というより、古い時代につくったものを守り続けるCSR的価値を大事にするメーカーがまだいくつかあるからだ。裏を返せば、変えてはならない要素に満ちた縛りの多いクルマだが、だからこそ歴史や伝統を託すことのできる秘宝になり得るのだと思う。
いつか新型と街ですれ違ったときには……
翻ってディフェンダーはどうだ? ネットのスクープ写真を見ても、それが最終型でないにせよ、悲しいくらい何も響いてこない。なぜなら、僕が好きなクロカンの定義に外れているように思えるからだ。
素直に受け入れられない要因があるとすれば、2016年で生産を終えたという歴史の分断だ。その時点でディフェンダーは終わったのだ。そこに特別な思いはない。あの形状を維持するには無理が多いと理解しているし、何より僕のオンボロが取り上げられたわけでもなかったから。
ただ、2020年発売と報じられている新型ディフェンダーと街ですれ違ったときには、少なからず胸がチクチクするかもしれない。そんな感傷は、その時点でも現行または過去モデルが元気だろうGクラスやジムニーやラングラーのオーナーには分からないものだろう。なんてことを今から予感させるなんて、まったくもって大きなお世話だよ、ホッタ青年!
(文=田村十七男/編集=堀田剛資)

田村 十七男
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