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ボルボS60 T6 AWD R-DESIGN(4WD/8AT)/S60 T8ポールスターエンジニアード(4WD/8AT)

輝けるイケメン 2018.11.14 試乗記 河村 康彦 日本にやって来るのはまだまだ先。とはいえ、快進撃をみせる新世代ボルボのミッドサイズセダンには要注目だ。アメリカ西海岸で試乗した新型「S60」の走りは果たして、あらためてこのブランドの勢いを感じさせるものだった。

ヒット続きの新世代ボルボ

前年比の世界販売台数は7%増。前年実績を上回るのは4年連続。今やアメリカをしのぐトップマーケットである中国では、25.8%の前年比増……。ボルボ・カーズの2017年度の決算報告では、そんな威勢のいい数字が次々と飛び出してきた。

とはいえ、かくも勢いに乗るこのメーカーの、昨年の世界新車販売台数はわずか57万台余り。“日本の小メーカー”と紹介されることの多いスバルでも年間の生産台数は100万台超なのだ。サーブなき後、スウェーデン唯一の乗用車メーカーとなったこのブランドに対しては、やはり「わずか」というフレーズを使いたくなってしまう。

しかし、特にこのところ、そうした規模のことなど忘れさせるほどボルボが強い存在感を放っているのは、そのプロダクトが輝いているからだと思う。2015年に現在の「XC90」がデビューした後のいわゆる“新世代ボルボ車”たちは、そのどれもが登場から早々に世界の市場でヒットを飛ばすことになった。

いずれも、SPA(スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャー)、もしくはCMA(コンパクト・モジュラー・アーキテクチャー)と称される完全新開発の骨格に、1気筒あたりの排気量は500cc、シリンダー数は最大4気筒までという、こちらも完全新開発のエンジンが搭載される。

さらに、生産設備の刷新までを含めて「小回りの利くメーカーである強みを生かして、ライバルとは一線を画した個性豊かで魅力的な商品ラインナップを素早く構築した」という点においては、一括企画によってボディーの骨格からパワーパック、デザインまで、何もかもスピーディーに刷新させたわれらがマツダの手法と、大いに似通っている部分があるようにも感じられる。

2018年6月にデビューした、新型「ボルボS60」。今回はアメリカでプリプロダクションモデルに試乗した。
2018年6月にデビューした、新型「ボルボS60」。今回はアメリカでプリプロダクションモデルに試乗した。拡大
キャビンの形状こそ異なるものの、インテリアデザインは先行して発売されたワゴン「V60」と変わらない。天然素材を意識したスカンジナビアンデザインでまとめられている。
キャビンの形状こそ異なるものの、インテリアデザインは先行して発売されたワゴン「V60」と変わらない。天然素材を意識したスカンジナビアンデザインでまとめられている。拡大
メーターパネルは液晶タイプ。写真のように、カーナビの地図を表示することもできる。
メーターパネルは液晶タイプ。写真のように、カーナビの地図を表示することもできる。拡大
「T8」と名付けられたプラグインハイブリッドモデルのベアシャシー。ターボとスーパーチャージャーで過給されるエンジンは、さらにモーターでアシストされる。
「T8」と名付けられたプラグインハイブリッドモデルのベアシャシー。ターボとスーパーチャージャーで過給されるエンジンは、さらにモーターでアシストされる。拡大
ボルボ S60 の中古車

アメリカがキーになる

今回のお題となるS60は、2010年に登場した2代目から「8年ぶりのフルチェンジ」となる新型。そんな最新モデルには、クルマそのものを紹介する以前に、2つの大きな話題がついて回る。

そのひとつは、生産拠点がアメリカ工場だけになるということ。なお完成したばかりの同施設では次期「XC90」の生産も行われると発表されている。もうひとつは、現在のラインナップの中で唯一、ディーゼルエンジン仕様が設定されないということだ。

2018年6月にサウスカロライナ州チャールストンに開設されたばかりの、ボルボブランド初となる米国工場は、「販売する場所で製造を行う」という、ボルボ・カーズのグローバル戦略に基づいて計画されたもの。すなわちそれは、S60というモデルの主たるマーケットがアメリカにあることを物語ってもいるわけだ。

となれば、今度は前述“その2”である「ディーゼルエンジンが設定されない唯一のボルボ車」というポイントにも合点がいく。

周知の通り、大型SUVの一大マーケットであるアメリカは同時に、「トヨタ・カムリ」や「ホンダ・アコード」が主にこの地域を狙って開発されていることからも明らかなように、今でもまだ世界のセダンのメインマーケットなのである。一方でこの地には、巨大なSUVを除けばディーゼルエンジンを搭載した乗用車を求める層は存在していない……となれば、アメリカ工場で生産される新型S60にディーゼルバージョンが存在しないのは、自明のことといっていい。

プラグインハイブリッドモデル「T8」の給電口は、左フロントフェンダー部に設けられている。
プラグインハイブリッドモデル「T8」の給電口は、左フロントフェンダー部に設けられている。拡大
「T8ポールスターエンジニアード」のコックピット周辺部。モニターのあるインストゥルメントパネル中央部は、ドライバー側に傾けられている。
「T8ポールスターエンジニアード」のコックピット周辺部。モニターのあるインストゥルメントパネル中央部は、ドライバー側に傾けられている。拡大
後席のニークリアランスは、先代よりも拡大された。写真は、今回試乗していない「インスクリプション」グレードのもの。
後席のニークリアランスは、先代よりも拡大された。写真は、今回試乗していない「インスクリプション」グレードのもの。拡大
トランクルームの容量は、床下の予備スペースを含め442リッター。開口部の広さもセリングポイントとなっている。
トランクルームの容量は、床下の予備スペースを含め442リッター。開口部の広さもセリングポイントとなっている。拡大

“見た目”で売れるセダン

かくして、アメリカはロサンゼルスにほど近い太平洋沿いのサンタモニカビーチを基点に開催された国際試乗会には、2種類の北米仕様車が用意された。共にメカニカルスーパーチャージャーとターボチャージャーという2種類の過給機を備えた、2リッターの4気筒ガソリンエンジンを搭載するモデルだ。

ひとつは、最高出力316hpを発生する「T6」の「AWD R-DESIGN」。もうひとつは、そんなT6用ユニットを基本とするプラグインハイブリッド「T8」の、「ポールスターエンジニアード」というスペシャルなモデルだった。同車は、「2019年以降に発売するすべての新型車を電動化する」というボルボの戦略発表に先駆けてローンチされている。

ボルボのハイパフォーマンスカー部門であったポールスターが「高性能なエレクトリックカーの専業ブランドになる」と発表されたのは、2017年の6月。新型S60のこのポールスターバージョンは、オーリンズ製のダンパーやブレンボ製のフロントブレーキ、軽量の専用ホイール、通常のT8用ユニットに対して15hpパワーアップしたエンジンなどからなるトリムパッケージを採用したモデルという扱いだった。

そんな特別なS60のルックスは、何ともスタイリッシュで魅力的。「Bピラーから前方はV60と同様で、そこから後方はオリジナル」とデザイナー氏が語る、S60ならではの端正なプロポーションに、黒い衣装やリアフェンダー幅一杯にまで張り出した20インチのシューズなどが、パフォーマンスセダンとしての精悍(せいかん)なイメージを巧みに上乗せする。昨今、時代の空気が明らかにSUVに味方しているのは承知の上で言っても、このモデルは“見た目で売れるセダン”であると、一見してそう感じられる。

「T6 AWD R-DESIGN」のサイドビュー。新型「S60」では、キャビンが後方に寄せられたFR車のようなデザインが採用されている。


	「T6 AWD R-DESIGN」のサイドビュー。新型「S60」では、キャビンが後方に寄せられたFR車のようなデザインが採用されている。
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新世代ボルボの特徴的な装備のひとつである、タッチパネル式の縦型9インチディスプレイ。
新世代ボルボの特徴的な装備のひとつである、タッチパネル式の縦型9インチディスプレイ。拡大
5本のY字型スポークが特徴的な「T8ポールスターエンジニアード」の鍛造軽量20インチホイール。
5本のY字型スポークが特徴的な「T8ポールスターエンジニアード」の鍛造軽量20インチホイール。拡大
今回試乗した米国仕様の「T8ポールスターエンジニアード」は、最高出力が「T8」よりも15hp高められている。
今回試乗した米国仕様の「T8ポールスターエンジニアード」は、最高出力が「T8」よりも15hp高められている。拡大

走行モードで走りは一変

そんなポールスターエンジニアードのT8で、まずはサンタモニカの街に向けてスタートすると、センターコンソールの内部に巧みに格納された10.4kWh容量のリチウムイオン電池の充電状況に余裕があるうちは、「日常シーンはすべてEVとして走行できる」という印象を強く抱いた。

リアアクスルに接続されたモーターの最高出力は65kW≒88ps相当。それゆえ、特に急ぎのシーンでない限りは、エンジンの助けを必要とする場面は少ないのだ。

スタートの瞬間からモーターが発する最大トルクは240Nmだから、EV状態でもそれなりの力感が味わえる。通常のハイブリッドモードを選択した場合、エンジンは70km/h弱で始動するが、可能な限り幅広い領域でEV走行を行う「ピュア」のモードを選択すると、“エンジンなし”で走れる車速の上限は120km/h強にまで拡大される。

一方、最初からエンジンを作動させる「ダイナミック」モードでは、加速の場面で、どこかV8サウンドすらをほうふつとさせる重低音を強調した音の演出が行われるのがユニークだ。システムトータルでの最高出力は415hp。同じくトータルでの最大トルクは670Nmと発表されているように、この仕様では2t超と目される重量であっても、絶対的な加速力に不満を抱く場面は皆無だった。

一方で、結局クルマを降りるまで慣れることができなかったのがブレーキで、こちらは絶対的な制動力うんぬんよりもペダルの踏み込みに対するコントロール性が優れず、思い通りの減速Gコントロールがどうにもできないことに困惑させられた。

恐らく、停止寸前まで運動エネルギーを回収したい回生ブレーキと、最終的にそこからバトンタッチされる油圧ブレーキの連携がうまくいっていないのではないかという印象。減速力がレスポンスよくビルトアップする6ピストンのブレンボ製フロントブレーキを採用したことも、むしろ悪さをしているという印象につながってしまう。

「T8ポールスターエンジニアード」が0-100km/h加速に要する時間は4.7秒。ノーマルの「T8」よりも0.2秒速い値である。
「T8ポールスターエンジニアード」が0-100km/h加速に要する時間は4.7秒。ノーマルの「T8」よりも0.2秒速い値である。拡大
シフトレバー周辺部。写真は「T8ポールスターエンジニアード」のもので、エンジンのオンオフスイッチや走行モードのセレクターが並ぶ。
シフトレバー周辺部。写真は「T8ポールスターエンジニアード」のもので、エンジンのオンオフスイッチや走行モードのセレクターが並ぶ。拡大
「T8ポールスターエンジニアード」のフロントサスペンション取り付け部には、アルミ製のストラットタワーバーが装着される。
「T8ポールスターエンジニアード」のフロントサスペンション取り付け部には、アルミ製のストラットタワーバーが装着される。拡大
ブラッククローム仕上げが施された「T8ポールスターエンジニアード」のマフラーエンド。「Polestar Engineered」ロゴも添えられる。
ブラッククローム仕上げが施された「T8ポールスターエンジニアード」のマフラーエンド。「Polestar Engineered」ロゴも添えられる。拡大
「T8ポールスターエンジニアード」のブレーキキャリパーは、鮮やかなオリジナルカラーで塗られる。
「T8ポールスターエンジニアード」のブレーキキャリパーは、鮮やかなオリジナルカラーで塗られる。拡大

本命はツインチャージの「T6」

そんなポールスターエンジニアードから乗り換えて、正直、大いにホッとさせられたのが、赤いボディーが若々しさを演出するT6 AWD R-DESIGNだった。

スタータージェネレーターを用いるプラグインハイブリッド仕様のポールスターエンジニアードに比べると、アイドリングストップ状態からのエンジンリスタート時に振動が目立つことだけは残念だ。しかしそれを除けば、前述のようにポールスター版では「問題アリ」と言わざるを得なかったブレーキング時のコントロール性はもちろん、アクセル操作に対する加速力の自然さ、ステアリング操作に対するハンドリングのナチュラルな感じ、さらには、よりしなやかでフラット感に富んだ乗り味に至るまで、ほとんどすべての点でとてもこなれて爽やかなダイナミクス性能を満喫することができたのだ。「こちらがS60の、本来の狙いどころだろうな」と思えるほどだ。

リアモーターを含むプラグインハイブリッドシステムが備わらないことによる重量差は、「ドライブシャフト分を除いて約70kg」。その軽快感の違いはやはり明白である。当然、モーター出力の上乗せはなくなるが、それでも最高で300hp超の出力と2200rpmから得られる400Nmという最大トルクは、同じタイミングで開発されながらもデビューは早かったV60と変わらない全長・全幅のセダンを、軽々と加速させるには十分なのだ。

実際、4WDシステムがもたらすトラクション能力の高さもあって、0-100km/hの加速タイムは5.6秒と発表されている。ポールスターエンジニアードの4.7秒に対しては小さくないビハインドだが、「あちらが速過ぎる」ことは言うまでもないだろう。

今回テストドライブを行ったのはまだプリプロダクションモデルで、「実際、日本に導入されるのは1年ほど先になる」ともアナウンスされている。そんな長いリードタイムの間には、ポールスターエンジニアードのいくつか気になるポイントなども、きっとブラッシュアップをされてくるはずだ。

もはや「セダンが主流」などと言えない時代であるのは否定のしようがない。それでも「待つ価値はアリ」と言いたくなる最新セダンの誕生である。

(文=河村康彦/写真=ボルボ・カーズ/編集=関 顕也)

内外装にスポーティーなドレスアップが施される「T6 AWD R-DESIGN」。写真のモデルのボディーカラーは「フュージョンレッド」。
内外装にスポーティーなドレスアップが施される「T6 AWD R-DESIGN」。写真のモデルのボディーカラーは「フュージョンレッド」。拡大
「T6 AWD R-DESIGN」のシートは、上質なナッパレザーとテキスタイルで仕立てられている。
「T6 AWD R-DESIGN」のシートは、上質なナッパレザーとテキスタイルで仕立てられている。拡大
前後席の頭上を覆う、大きなガラスルーフも用意される。
前後席の頭上を覆う、大きなガラスルーフも用意される。拡大
コの字を描く、リアのコンビランプ。後端が跳ね上がったトランクリッドの形状も個性的だ。
コの字を描く、リアのコンビランプ。後端が跳ね上がったトランクリッドの形状も個性的だ。拡大
ボルボの歴史の中で、初めてアメリカ国内で生産される新型「S60」。特に同国と中国でのセールスが期待されている。
ボルボの歴史の中で、初めてアメリカ国内で生産される新型「S60」。特に同国と中国でのセールスが期待されている。拡大
「ボルボS60 T6 AWD R-DESIGN」
「ボルボS60 T6 AWD R-DESIGN」拡大

テスト車のデータ

ボルボS60 T6 AWD R-DESIGN

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4761×1850×1431mm
ホイールベース:2872mm
車重:--kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ+スーパーチャージャー
トランスミッション:8段AT
最高出力:310ps(228kW)/5700rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/2200-5100rpm
タイヤ:(前)235/40R19/(後)235/40R19(コンチネンタル・プレミアムコンタクト6)
燃費:8.0-8.9km/100リッター(11.2-12.5km/リッター WLTP複合モード値)
価格:--万円/テスト車=-- 円
オプション装備:--
※数値はすべて欧州仕様車の参考値

テスト車の年式:--年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

「ボルボS60 T8ポールスターエンジニアード」
「ボルボS60 T8ポールスターエンジニアード」拡大

ボルボS60 T8ポールスターエンジニアード

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4761×1850×1431mm
ホイールベース:2872mm
車重:--kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ+スーパーチャージャー
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:317ps(233kW)/5800-6100rpm
エンジン最大トルク:43.8kgm(430Nm)/2200-5400rpm
モーター最高出力:87ps(65kW)
モーター最大トルク:24.5kgm(240Nm)
タイヤ:(前)245/35R20/(後)245/35R20(ピレリPゼロ)
燃費:2.1-2.5km/100リッター(40.0-47.6km/リッター WLTP複合モード値)
価格:--万円/テスト車=-- 円
オプション装備:--
※数値はすべて欧州仕様車の参考値

テスト車の年式:--年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

河村 康彦

河村 康彦

フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。

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